TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。 業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。 アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
TVから劇場へ進出!
ガンダム人気が拡大していくプロセスとは?
この5月28日に『機動戦士ガンダム』劇場版三部作が、ついにBlu-ray化されます。劇場でも公開されましたが、非常に美麗になっていて驚くと同時に嬉しくて感無量でした。
氷川はバンダイチャンネルでも先行配信されたオーディオコメンタリーを担当。さまざまなゲスト(最後に一覧を添付)をお呼びして、4ストリーム(『めぐりあい宇宙編』のみ2ストリーム収録)合計9時間強の収録を行いました。 いわゆるファーストガンダムが、新聞に載るような本格的ブームとなったのは、1981年から1982年にかけての劇場版三部作の時期です。そしてTVシリーズ終盤から劇場版完結まで、氷川はキングレコードと講談社でアルバムやムックの構成を担当していたので、その人気が加熱していく様子を当事者として目撃していて、格別の思い入れがあります。 「ガンダムはTV放送時には人気がなかったので打ち切られた」と書かれることについては、正確にはちょっと違うなと常々感じています。「玩具が売れなくて視聴率も良くないので番組は打ち切られたが、放送中から中高生以上に人気があることが実証されていた」というのが事実です。最終回間際には内々で劇場版の検討も進み、16ミリフィルムから劇場用35ミリへのブローアップの作業も始まっていたはずです。 「人気」の裏付けは、雑誌とレコードの売上げでした。ことにアニメーションディレクターの安彦良和さんが病気で倒れる直前、セカンドアルバム「戦場で」(1979年11月21日)用にジャケットイラストを描きおろし、これが爆発的に売れたことは大きかったと思います。人気漫画家ではなくアニメクリエイターの絵が人気を呼ぶこと自体、当時としてはまだ新鮮だったのです。氷川がアルバム制作に参加したのもこのアルバムからでした。年内にはサードアルバムをTVの音声トラック中心の「ドラマ編」で制作することも決まり、筆者と中島紳介氏で構成の検討を始めていました。 TV放送終了は1980年1月26日。そして全43話から名場面集をピックアップしたアルバム「アムロよ…」のリリースは3月20日で、なんと2ヶ月を切る超特急で出したことが分かります。最終回分はシナリオで想定したものの、オンエアを見て「全然違う!」と構成をやり直した記憶も残っています。2枚組アルバムの総尺が2時間弱だったこともあり、劇場映画が作られるなら、こうした場面が入ってほしいという意識もありました。 ビデオデッキはまだまだ普及途上の時代ですから、音声だけの「ドラマ編」は現在のビデオソフトの先がけとしての役割でした。ファーストガンダムが「放送中から売れる人気コンテンツとして認知されていた」という証拠は、このように高額商品のレコードビジネスにあったと思うのです。そして劇場映画化には、児童向け合金玩具ビジネスだったTV版を、中高生向けコンテンツとして仕切り直すという目的意識があったはずです。 そして後に「ガンプラ」と呼ばれるプラモデルがバンダイから発売されたことが、劇場に小学生も呼びこみ、ヒットの決定的な牽引役になるわけです。プラモデルの中でも最大ヒットとなった当時300円の「1/144ガンダム」の発売は1980年7月。これが百万個を突破するのが1980年1月で、そして劇場版第1作目の公開は1981年3月14日です。この間に全国各地で行われた再放送やイベントとプラモデル販売との相乗効果でガンダムブームが過熱し、満を持しての公開となったわけです。 同時期に発売された「月刊アニメージュ1981年4月号」(徳間書店)では「いまホビーの王様はアニメプラモだ!!」という大特集を組んでいます。記事の書き出しは「『機動戦士ガンダム』の爆発的人気は、雑誌・レコードからついにプラモデルにまでおよんだ」と明記されています。さらに同記事には「都市のデパートでは、プラモに無縁と思われるような女子学生が、ひとりで何個も購入していくという話を聞いた」ともあり、非常に微笑ましい時代の記録となっています。 プラモデル人気は三部作中に加熱。1982年3月公開の『めぐりあい宇宙編』ではガンキャノンが2機に増えて機体ナンバーが描かれ、アニメーター板野一郎氏によってマーキングやパネルラインなどがディテールアップされるなどファンサービスも登場するようにまで発展していきました。 ガンダムのプラモデル人気によって、やがて1980年代のアニメビジネスも大きく変わっていきます。その発展の過程にあったアイテムや世情も、今回のBlu-ray発売のような機会があれば、ぜひ後世に伝えていきたいですね。では、また来月。 【オーディオコメンタリー出演者】(敬称略) 第1作目:藤田純二(音楽ディレクター)、指田英司(サンライズ音楽出版) 第2作目:福井晴敏(作家、『機動戦士ガンダムUC』ストーリー) 第3作目(その1):松崎健一(脚本)、植田益朗(プロデューサー) 第3作目(その2):板野一郎(アニメーター)、関田 修(フロアーディレクター)
PROFILE
アニメ特撮研究家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。 アニメ・特撮を中心とした文筆業。明治大学 大学院客員教授。 |