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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2013.10.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
魔法少女を題材に、コンテンツ文化史を考える
「コンテンツ文化史学会」という学会があります。アニメ・マンガ・ゲームを中心に、複数分野にまたがるコンテンツを統合的に研究・考察していくことが目的です。「文化史」として歴史的観点を重視するということで、この数年間の活動に注目しています。
(参考:http://www.contentshistory.org/

学会を立ち上げた東北芸術工科大学の吉田正高先生とは、日本動画協会の「アニメレポート」を共同執筆しているご縁があり、去る9月7日の2013年第2回例会にゲストコメンテイターとして行ってきました。お題は「テレビ文化の歴史と表象としての少女-『魔法少女』をめぐって-」。動機は「クリィミーマミ30周年」ということが大きかったようですが、内容は学会らしく非常に深く掘り下げたもので、「歴史性・社会性」を立てた発表者の論考は実に刺激的で充実していました。

筆者は昨年度、文化庁の仕事として「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」という報告書を作成しました
(無料ダウンロード可:http://mediag.jp/project/project/robotanimation.html

日本独自に発展したアニメーションのジャンルの中で、双璧は「ロボットアニメ」と「魔法少女もの」でしょう。特に玩具スポンサーによって成立する児童向けのテレビ作品では、アニメ・特撮という表現形式の差を超えて長年作り続けてこられたわけで、研究のしがいがあるわけです。発表の中にも両者を照応させたものが、やはりありました。

参加にあたり、「こういうタイトルは出るかな?」と予想した作品がいくつかありました。米国テレビドラマ『奥さまは魔女』は出るだろうけど、その後番組でもある『かわいい魔女ジニー』はどうかな? とか。ツボの中からアラビア風の魔女が出てくる作品で、『ハクション大魔王』や『うる星やつら』にも影響がありましたが、意外に言及はなかったす。その最たるものが「文化史」という観点では最重要作品『コメットさん』です。1967年に九重佑三子主演で国際放映が制作したテレビドラマですが、残念ながらDVD化に恵まれなかったせいで、幻の作品みたいになっています(2代目の大場久美子版や3代目のアニメ版はあるんですけど)。

冒頭が東京ムービー制作のアニメになっていて、セルで描かれたコメットさんが実写キャラに変身するという趣向があります。魔法の表現には特撮も使っていますし、14話からベータンというマスコットキャラ、後に「魔法少女もの」で定番化するもののルーツも人形アニメで登場しています。特に注目したいのは、「特撮・セルアニメ・人形アニメ」という点で、児童向け作品のクロスオーバー的な作品だということですね。

それは不思議なお手伝いさんがやってくるディズニー映画『メリーポピンズ』(日本公開1965年)の影響だと思います。これは実写の人間とアニメの動物が共演するミュージカルシーンが話題になった映画でした。もうひとつ重要なのは『コメットさん』の原作漫画が『魔法使いサリー』(当初はサニー)と同じく横山光輝先生の手によるものだということです。横山先生と言えば『鉄人28号』の原作者ではありませんか。

二大ジャンル「魔法少女もの」と「巨大ロボもの」のルーツをたどっていくと、同じ漫画家に突き当たる。こういうあたり、実に研究のしがいがあると思うんですね。

こういうとき、文化とは決してスタンドアローンなものではないと思い知ります。かならず影響を受け、影響を与えるという相互の関係性で培われていく。歴史から過去のラインを追っていくと、こんな風にクロスオーバーする交点が見つかることがある。しかも国内の作品年表、アニメ作品年表だけでは気づけないことが多々あったりする。そこを掘り下げると自分だけの発見もあったりで、そんなあたりが醍醐味だと思います。

そうそう、コメント時に言い忘れたことを思い出しました。「魔法少女もの」で定番となっている「変身バンク」ですが、あのルーツはたぶん手塚治虫先生原作の『ふしぎなメルモ』ではないかと思います。

こうした考察を触発する文化的ストリームもまた、ひとつの「チャンネル」と言えるでしょう。配信作品群の中からも、きっとそれは見つかると思います。

では、また次回。
PROFILE
アニメ評論家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。