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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2013.11.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
行く先々が「聖地」になってしまう
不可思議な体験とは?

「聖地巡礼」という用語が定着して久しいですね。アニメのキャラクターが活躍するその現実の地に出向き、アニメ世界と現実世界との接点を楽しむファン発のムーブメントです。普通は「聖地へ出向くもの」ですよね?
ところが私は原因不明で「聖地が向こうからやってくる男」になってしまったのです。

発端は2012年の2月、スペインのバルセロナで開催された展覧会「Proto Anime Cut」に企画協力者として招かれたときでした。スケジュールの関係で準備が悪く、ろくに下調べしないで出かけました。唯一気に留めていたのは神山健治監督の短編映画『Xi AVANT(クロッシイ・アバン)』です(2011年4月、『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』と同時公開。YouTubeで公開中)これは『東のエデン』に通じる携帯サービスのプロモーションアニメで、主人公が乏しい手がかりをもとにケータイを駆使してバルセロナへ飛ぶ展開です。メインのロケ地はサグラダ・ファミリア教会。まあこれは絶対に現地で見られると思っていましたが、問題はターゲットの女子が入っていくマーケットです。こりゃ探しても分からないだろうな……と思いながら、現地に到着。荷物をホテルに置いてすぐ現地のコーディネーターから「散歩しましょう」と呼びかけられ、出かけました。2~3分歩きつつメインの大通りからふと右側の脇道を見ると……。
「おい! そこにあるじゃん、見覚えのある建物が!」

さっそく写真を撮ってFaceBookに上げてみたら、神山監督が反応して「ビンゴ!」でありました。中に入ってみると、まさに舞台となった生ハムなどが置いてあるマーケットで、なんともラッキー。もちろんその後は、サグラダ・ファミリア教会にも行きましたよ。


次は同じ2012年の11月。今度は文化庁からの依頼で英国ロンドンに出向き、Production I.Gの石川光久社長と文化庁メディア芸術祭の紹介を行う趣旨の出張です。ロンドンと言えば大ヒットした『映画 けいおん!』の舞台ですね。でも、「行って帰るだけ」に近い強行軍だったので、観光は望めないかなとやはりロクに下調べしないで行ったのです。
宿泊したホテルはイビス(Ibis)。映画では一行が間違えたホテルが同じ名前で、「聖地ニアミスだな、残念。時間があれば回ったのにな」みたいな感じでいたわけです。ところがTwitterで「アールズコートだったら、あなたの泊まってるのが本命のホテルですよ」と指摘があったわけです(教えてくださった方、その節はありがとうございました)。
「えっ?」と慌てて検証サイトを調べたら、本当にそうでした。さらにビックリしたのは、知らずにその朝撮っていたホテルの全景が、構図から画角まで検証サイトにあった写真とまるで同じだったことです。


つまり「そう撮るしかない」ってコトなんでしょうね。しかもイベント会場前の地下鉄駅も一行の利用していたまさにその駅だそうで、短時間の観光タイムもその同じ駅を利用させてもらいました。

3番目は2013年の4月、大河原邦男展のために神戸に宿泊したときでした。神戸港は『ガメラ対バルゴン』や『ウルトラセブン』のキングジョーの聖地だなと特撮中心で考え、ホテルも予約サイトの上から適当に選んだのです。チェックアウトが近くなり、その夜に会う予定の友人に「ホテル神戸モントレにいます」と告げたら、「そこは『Fate/Zero』の聖地ですよ」という返信が。 またしても「えっ!」で、サイトを検索したらそのとおりな上に、また似たような現象が発生するわけです。実は前日チェックインの時、門からカウンターまでの道すがらに、きれいな中庭、シックなソファのある待合室、結婚式に使うとおぼしき荘厳な教会などを見かけ、「へえ、ずいぶんいい空間だな」と写真を撮ってたわけです。それが検証サイトを観ると、すべてロケハン場所だったという。




どうしても同じようなところが気になって、同じようなアングルで撮ってしまうってわけですよね。もちろん『けいおん!』も『Fate/Zero』も観てはいるから潜在意識のしわざかもしれませんし、普段から「なんとなくロケハン資料写真風」という感じで撮るクセがついているだけかもしれません。

ともあれ、行った先々が聖地に変わってしまうというオカルト的怪現象の話でした。調査に苦労されてる方からすると腹立たしいかもしれませんし、「あらかじめ検索しとけば?」と突っ込まれれば返す言葉もありませんが、世の中には「無自覚に現実とアニメのチャンネルをつないでしまう体質の人間」もいるんだってことでご容赦を。

では、また次回。
PROFILE
アニメ評論家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。