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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2013.12.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
韓国プチョン市に優秀なアニメ作品が集結!
旅の話が続きます。今年(2013年)11月7日から10日まで、韓国・プチョン(富川)市に行ってきました。第15回プチョン国際学生アニメーションフェスティバル(PISAF 2013)に参加するためです。


PISAF 2013外観

PISAF 2013内部

プチョンはソウル市から約20km、インチョン市から約7kmとベッドタウン化すると同時に、映画・アニメーションの拠点となっている都市です。1997年にプチョン国際ファンタスティック映画祭をスタートさせたことで日本の映画人も多数訪れていますし、アニメーションの活性化には日本から行った永井豪先生の進言も大きかったと聞きます。 目的は河森正治監督によるトークの聞き手としてでした。その話はまた次回として、たまたま氷川は近年、賞の審査委員など公的活動を担当することも多いため、非常に刺激となりました。今回はそうした映画祭の意味や最先端の受賞作を語っていきましょう。

すでに報道のとおり、今年度(2014年3月)から東京国際アニメフェアが大きく変わることになりました。アニメコンテンツエキスポ(ACE)と合流することで、Anime Japanとして開催されることになったのです。同時に賞関係も「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)」という映画祭に大きく生まれ変わったのです。

氷川も実行委員として参加していますが、日本橋にオープンするTOHOシネマズの大型スクリーンを使っての国内外からの作品上映は、応募作品だけでなく過去の名作なども予定されていると聞き、非常に価値が高く見応えある映画祭として期待しています。

PISAF 2013はアニメーション教育の拠点で行われ、学生中心の若い客層が非常に多いものでした。印象的だったのが、オープニングセレモニーに続いて招待作品として上映された長編映画です。これが実は帰国後の12月5日、第17回文化庁メディア芸術祭の発表を見ると、アニメーション部門大賞作に選ばれた作品と同じでした。去年まで3年間、同賞の審査委員をつとめていたので奇縁を感じてしまいます。


PISAF 2013オープニング

作品の日本題名は『はちみつ色のユン』。第36回アヌシー国際アニメーションフェスティバルで長編部門観客賞とユニセフ賞も受賞しています。監督のユン 、ローラン・ボワローの自伝的セミドキュメンタリーです。朝鮮戦争の影響で戦災孤児となった主人公は、すでに4人の子どもがいるベルギーの一家に養子として迎えられる。そこで起きるさまざまな事件を通して、人種の差を超えた「家族」とは何なのかに迫っていく体裁です。

非常に淡々としながらも時に重くリアリティあふれる描写はCGアニメ、そこにご本人、家族の写真や当時撮影した8ミリ映画、あるいは記録映像などが入っていくことで、逆にアニメーション部分の醸し出す感情表現が際だつ構成です。まさに大賞にふさわしい表現と内容でした。メディア芸術祭の受賞作は上映もされるはずなので、公式サイトは要チェックです。

コンペティション部門は数回にわたって上映があったのですが、時間の都合で一部分と、アヌシー映画祭のベスト集成だけを見ました。その中で内容・表現とも明らかに突出していたのが、ハンガリーの作品「Rabbit and Deer」です。サイトにある予告(trailer)のとおり、仲良く暮らしていたウサギとシカが……という短編で、2Dと3Dとは何なのか、かわいいアニメーションを駆使して真剣にも考えられる哲学的な問題をユーモラスに描きぬいています。

どうしても日本にいると伝統的な手描き2Dアニメ中心に考えてしまいますが、世界中のアニメーション作家はさまざまな手法、素材、表現を駆使して観客を楽しませようと、あの手この手だということが、つよく実感されます。

韓国は距離も気候風土も非常に近しい国ですが、文字ばかりのカンバンの街中で世界のアニメ作品に触れると、まだまだ知らないことが多いことを実感させられつつ、アニメーション表現の幅広さに大きな刺激を受けます。

では、また次回。


韓国のキャラクター

韓国のロボット

韓国のキャラクター


会場のエレベーターアート

会場のエレベーターアート

プチョン市内

PROFILE
アニメ評論家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。