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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2014.2.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
韓国のアニメ映画祭で行われた
河森正治氏デザイン講座!

引き続き2013年11月、韓国で開催された第15回プチョン国際学生アニメーションフェスティバル(PISAF 2013)で河森正治監督とごいっしょしたときの話題です。

河森さんは以前から『アクエリオンシリーズ』や『マクロスシリーズ』などでお世話になっている同世代のクリエイターです。その大きなステップアップは1984年に映画『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を24歳の若さで監督されたとき(石黒昇監督と共同)。メカデザイナーとしての注目から一変した大事件だったと思います。

以後、SFアニメの分野ではメカデザイナーを原点とする監督の活躍が目立ちます。出渕裕、荒牧伸志、カトキハジメ各氏をはじめ、演出も担当するデザイナーは数多いです。それはSFやファンタジーなど茫漠たる大きな世界観をもつ作品を構築する上で必要とされるスキルが、理詰めに積み上げていくメカのデザインパワーに通じるものがあるからだと思います。役割分担が明確になり過ぎている諸外国では類似例がなさそうな傾向で、その突破口を開いたのが河森正治さんでした。


レセプションでの河森正治監督

ブロック玩具で作ったバルキリー

キネマ旬報社から出たムックのタイトルも「河森正治 ビジョンクリエイターの視点」となっています。ほとんどすべてが架空のもので構築されている「アニメをつくる」とき、個別のデザインや造形も重要ですが、「架空の世界が実感できる」というリアリティを支えるものは「ビジョン」というわけです。そうした思考の筋道には親近感ともども興味があって、ステージ以外の韓国版ニュータイプやテレビ局などの取材対応でも、なるべく河森さんの話を聞く機会を多くもつようにしました。


メディア取材対応する河森正治監督

サイン会に殺到した韓国のファン

ステージの方では外川康弘さん(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭東京事務局長)とともに河森さんと対談したほか、河森さん単独での「メカデザイン講座」も開催。40分という短い時間でしたが、やはりデザインに至るまでの発想パワーとプロセス論は非常に興味深いものでした。

可変戦闘機バルキリーのデザインにブロック玩具を使うこと自体は、よく知られています。とはいえ河森さんご自身の実演は、さすがにナマで見るのは初めてのこと。実はこのブロック玩具と同じものがCGモデルとして用意されていて、そのCGから出力されたものに対して、さらに外形をスタイリングデザインしていくという段階を追った説明は、本などよりも説得力あふれるもの。韓国のファンの方々はお得だったと思います。


メカデザイン講座をする河森正治監督

バルキリーのブロック玩具とスタイリングデザイン

ところで河森正治さん側の韓国訪問には、もうひとつ大きな役割がありました。それはアニメ『あにゃまる探偵キルミンずぅ』の原作者としてのプロモーションです。日本と韓国の共同出資による製作で、日本ではTVシリーズ全50話(韓国53話)で放送された児童向けのオリジナルアニメです。そして韓国では2014年に劇場版としてオリジナル新作が公開されるという展開になり、その周知のために「キルミン」と河森さんのステージも用意されたのでした。


サイン会での河森正治監督

キルミンと河森正治監督

「人間が動物に変身する」というアニメならではの題材をあつかっていますが、人間からいきなり動物に変身するのではなく、中間形態キグルミモードが存在します。マクロスシリーズのバルキリーにおけるファイター(戦闘機形態)とバトロイド(人型形態)の中間形態ガウォークが存在するのと同じですね。この「三段変身(変形)」というあたりが、マクロス定番の「三角関係」にも通じるもので、ステージ上のトークでは「3」という数字へのこだわりも話題にさせていただきました。

「二元論」に対する懐疑もあるのでしょう。善か悪か、1か0かではとらえきれないもので、この世は構築されています。対立する2者に対して第3のものがあり、それでこそ発展するという考え方は、非常に興味深いもの。通訳を介しての対談では掘り下げられなかったので、またいつか機会があればと思っています。

今回の映画祭ではガイナックス30周年記念もひとつの目玉で『王立宇宙軍』と『天元突破グレンラガン』の上映、展示の他、日本からも山賀博之監督、赤井孝美、武田康廣、貞本義行各氏がトークステージに出られました。こちらは日程が合わず、入れ替わりになって残念。次のチャンスに期待します。

では、また次回。

PROFILE
アニメ評論家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。