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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2014.3.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014で開催されたシンポジウムをご紹介!
去る2月28日~3月2日、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に参加してきました。雪原で凍てつく外に対して内部は実にホッと。筆者はVFX-JAPAN関連のシンポジウム4件で主に司会を担当しました。いずれも興味深い内容だったので、ここでレポートしましょう。


映画祭会場

外部は一面の雪

●開田裕治を囲む会

映画祭会場内の展示イベントとして「ART OF KAIJYU 怪獣絵師 開田裕治 原画展」が開催されました。ウルトラシリーズゴジラガメラ仮面ライダーなど特撮を代表する作品の原画が多数展示され、圧巻かつ濃厚なる特撮空間がイマジネーションをかきたてます。


ART OF KAIJYU 怪獣絵師 開田裕治 原画展

原画展・会場内

そしてシンポジウムとして「開田裕治を囲む会」が開催されました。登壇者は開田裕治さんの他、「ゴジラ」と「ガメラ」の両方を撮った金子修介監督、「ウルトラゾーン」「ネオウルトラQ」そして「THE NEXT GENERATION パトレイバー」を担当する田口清隆監督という豪華メンバーに私の合計5人。

生粋の怪獣ファン同士、説明ヌキで話題は縦横無尽に展開します。『ガメラ2』のときの北海道(札幌)ロケの話や、怪獣が壊すべきランドマークとしての建造物はどういう状況にあるかなどなど、60分の座談会はあっという間に時間が過ぎました。


「開田裕治を囲む会」
右から田口監督、開田氏、金子監督、氷川

●日本が世界に誇る映像技術“TOKUSATSU”

続いて「日本が世界に誇る映像技術“TOKUSATSU”VFXの伝統 特撮の旗手が語る伝統と革新」という趣旨のシンポジウムが開催。登壇者は尾上克郎氏(特撮監督)、樋口真嗣氏(映画監督・特撮監督)、大屋哲男氏(VFX Producer)、佐藤敦紀氏(VFX Supervisor)という日本の特撮・VFXを代表する4名に、氷川が司会で参加。

アナログ時代の「特撮」は『スター・ウォーズ』の登場で「SFX(スペシャル・エフェクツ)」という別名ができます。「FX(エフエックス)」という発音が「特殊効果」の「効果=エフェクツ」と引っかけたものでした。模型を固定してカメラをコンピュータ制御で動かし、疑似的な移動感を撮影する新技術モーションコントロールカメラが登場します。「特撮」はステージの現場で背景も移動するものも実物を撮るのに対し、「合成の前提で素材を撮影する」という発想の転換が起きます。

さらにデジタル技術が進展し、合成が光学からデジタルに変わり、CGも急速に発達します。この時期に「視覚効果」の意味で「VFX」という言葉が出現。現在では特殊な映像をデジタルで処理する作業全般を指すに至っています。

ところが「CGでは何でもできる」という誤解からVFXが圧迫されるような状況も発生し、米国ではCG会社が続々と潰れるという実情があります。そんな時、日本ではもう一度「特撮=TOKUSATSU」の精神に戻り、大勢のスタッフがひとつの映像を追うような場に集まるべきではないのか。そのために「バーチャル・カメラ」という技術に可能性がある……というポイントが、座談会の中で浮かんでいきます。

映像の最先端で何が起きているか、熱い映画議論が展開しました。


日本が世界に誇る映像技術“TOKUSATSU”シンポジウム

右から佐藤氏、樋口監督、大屋氏、尾上氏、氷川

●【余談】メロン熊の恐怖

この地の名物と言えば「ゆうばりメロンと熊」。ということで、あちこちに「メロン熊」が出没していました。地方と言えば「ゆるキャラ」という昨今ですが、正反対の凶暴なるキメラ(笑)。実は2匹いるという事実は現地でないと分からないことです。リュウグウノツカイを2匹そろって襲撃していました。


会場を襲撃するメロン熊

2匹で襲いかかるメロン熊

●【スタジオカラー】が巻き込む、特撮・VFXの今

続いては『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の大ヒットも記憶に新しいスタジオカラーのシンポジウムです。瓶子修一氏(CGIプロデューサー)と小林浩康氏(CGIディレクター)の対談に、『新劇場版シリーズ』で取材を重ねていた氷川が急遽飛び入り参加することに。

これは前の「特撮談義」とも話がつながっている話になりました。スタジオカラーでは「庵野秀明監督」という特撮に造詣の深いクリエイターがトップにいます。セル画時代から「特撮感覚」で独特のアニメづくりをしてきた庵野監督が、自社内に「デジタル部」というCGチームをつくった挑戦のひとつには、「ミニチュア特撮感覚をCGに持ち込みたい」ということがあったのです。

これまでの『序』『破』『Q』と3作品で特撮感覚も確実に一歩ずつ進歩しています。

『序』では「使徒をワイヤーで吊ったような動きに」「ミニカーに見たてたCGを配置し、軽く落下させてリアリティを出す」という試行からスタート。

『破』では特撮用のビルや民家のミニチュアを見学。図面も入手してアニメ映像内に特撮セットを組み上げます。地面が決して平らではないこと、道に対してビルは出したり引っ込めたりしないとリアルに見えないことなど、特撮美術のノウハウもレクチャーされたそうです。

『Q』ではさらに先へと向かいます。登場する空中戦艦「AAAヴンダー」はCGモニタ上では思うような構図がとれない上に、やり直しも時間が必要です。そこで使われたのが「バーチャル・カメラ」という技術。カメラの方にモーションキャプチャと同様のマーカーをつけ、実写経験のあるカメラマンがカメラを構えることで、アングルを見つけるもの。庵野秀明総監督のOKが出た上に、大きな成果が出たと言います。

特撮シンポジウムでも話題に出た「そこにある実物をカメラが切り取って記録する」という感覚が重要ということで、実りの多いシンポジウムでした。


左からスタジオカラーの瓶子氏、小林氏、氷川

●VFX-JAPANアワード2014表彰式


『キャプテンハーロック』で
大賞を受賞した荒牧伸志監督。
VFX担当は東映アニメーション、
マーザ・アニメーションプラネット

第2回となったアワード。ここでは簡単に掲載します。

劇場公開実写映画部門最優秀賞『少年H』、劇場公開アニメーション映画部門最優秀賞『キャプテンハーロック』、テレビ番組部門最優秀賞『八重の桜』、ゲーム映像部門最優秀賞『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』、CM・プロモーションビデオ部門最優秀賞『Silicon;BootDrive』、イベント・LIVE映像部門最優秀賞『TOKYO CITY SYMPHONY』。

なおアニメーション部門の優秀賞作品は『サカサマのパテマ』、『ベルセルク 黄金時代篇 III 降臨』、『SHORT PEACE』の3作品でした。


●時代を築いた偉人たち:なかむらたかし監督

最後は「クリエイターズ・シンポジウム」として短編映画『寫眞館』(18分)を上映し、その後に制作資料などを使って、なかむらたかし監督に氷川がインタビューするという形式でシンポジウムを進めました。

なかむらたかし氏はアニメーターとしては『幻魔大戦』(83)や『未来警察ウラシマン』(83)で卓越した動きを見せ、『AKIRA』(88)でキャラクターデザイン、作画監督を担当。さらにオリジナル長編『パルムの樹』(02)やTVシリーズ『ファンタジックチルドレン』(04)など独特の世界観とストーリーで知られる才人です。

「写真館」を中心に「明治・大正・昭和」と日本の激動期における東京の変化をとらえたこの最新作では、その「時間の流れ」の描写が秀逸です。建造物が次第に増えていく中、交通機関が人力車、馬車から路面電車、高架電車から新幹線へと移り変わる。そして母から娘へと受け継がれる生命。娘が成長するにしたがって経験すること、その全体に覆い被さる「日露戦争」「太平洋戦争」のカゲ。

百年前に厳然とあった戦争が現在まで大きな影響をあたえているのは言うまでもありませんが、それを一人の女性の半生と写真館主人との心情の交わりで、ユーモア交えてまとめた秀逸な作品です。なかむらたかし監督が全部の原画を描き、さらに動画もその流れるような手描きタッチを活かすことで、心情豊かな映像となっています。

シンポジウムでは、この物語を生み出すに至った発想や、年齢なりの表現、あるいは東京の街並み、看板など風景の変遷をどう描いていったのかをお聞きしました。『スチームボーイ』や『青の祓魔師(エクソシスト) 劇場版』などで重厚な世界観を見せた美術監督・木村真二さんとの連携など、表現面でも興味深いお話をうかがいました。

なお本作は『フミコの告白』の石田祐康監督による短編『陽なたのアオシグレ』ともどもスタジオコロリドの制作で、2作品セットで全国を巡回興行中。当面ソフトにはならないそうです。北海道では初の上映で、興行の予定も検討中とのことです。


シンポジウムは作品上映後に行われた

作品について語る、なかむらたかし監督


なかむらたかし監督

絵コンテなど制作資料を交えての作品解説

以上、かいつまんでの紹介となりました。映画祭全体では他にも学生アニメーション短編の上映の他、ディズニーの『アナと雪の女王』、インディーズ作品から著名監督の大作まで、幅広く上映されていました。筆者は初参加でしたが、すでに25回も続いている、その熱気に触れてリフレッシュさせていただきました。

では、また来月。


会場前での記念撮影
PROFILE
アニメ特撮研究家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。