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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2014.4.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
最近なぜか目立つアニメの中の
「不良」についての考察!

常識破りの規格外アニメ『キルラキル』が、3月末で終わってしまいましたね。気が抜ける間もなく始まったのが『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』です。スタンドが登場するこの第三部からが、一般によく知られた『ジョジョ』のイメージとなっていくので実に楽しみです。第1話では投獄された息子に母親が面会に行き、幼いころからの「いい子のイメージ」がフラッシュバックした果てに、空条承太郎の学ラン姿が登場するところであまりのギャップに衝撃を受け、不覚にも爆笑してしまいました。

同時に脳内では、いきなり「デジャブ警報ランプ」が点灯したわけです。「なんだか最近、こういうのをよく見かけるぞ」と。そうそう、この『ジョジョ』の設定年代は1987年でした。そして『キルラキル』の第1エンディングがオマージュを捧げていたのが斉藤由貴主演のTVドラマ『スケバン刑事』で、スーパーヒロイン特撮と言っていいそのテイストは影響大なんですが、その放送年も1985年。ランプには「80年代共通警報」と、別の色がついていきます。

そして次に脳に浮かんだのが、やはり3月まで第1シーズンを放送していた『スペース☆ダンディ』。あのリーゼントのヘアスタイルやスカジャンで連想されるのは、もはや死語となりかけた「ツッパリ」です。そうそう、ファーストガンダムの仕事でキングレコードに通った1980年代初頭は、ツッパリを代表するロックバンド「横浜銀蠅」のポスターがよく貼ってあったよな……と。やはり妙に結びつくものが多い。直感がもたらしたデジャブは間違ってなかったわけです。

そう思ってみると、最近の新書でも「ヤンキー化する日本」(斎藤環著)や「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」(原田曜平著)というタイトルが目立つではありませんか。「ヤンキー」という言葉にはブレがあるようなので定義には深入りしませんが、自分の記憶をたどってみても、漫画・アニメのエンタメ世界には欠かせないものということに思い至りました。呼び方は「不良」「非行少年」「バンカラ」「番長」「スケバン」「ツッパリ」「ヤンキー」などなど、時代性や役周りで変遷があり、「暴走族」などモータースポーツとの関連もあったり。実に研究材料として興味深いです。

おそらく物語の役どころとしては、学校のように「規則」「ルール」で正規化されたコミュニティに、必ず現れる“トリックスター”なのでしょう。権威にしたがうことを嫌い、強きをくじき弱きを助け、閉塞を打破して思いこみを引っくりかえし、大きな風穴をあける存在。現実の不良少年少女がとる行為の是非はさておき、物語で求められているのは、やはりカタルシスだと思います。

そして注目すべき問題は、世情の側にもあると思います。なぜなら、こうした「ツッパリ」「ヤンキー」は勝手に出てくるものではなく、求める観客に向けて登場させるものだからです。実際、『キルラキル』『ジョジョ』『スペース☆ダンディ』で描かれる常識を破るアクションには、「そんなバカな!」と思いつつスッキリするもの、活力を触発するものが感じられるではありませんか。……ということは、しばらく続いてきた共通の価値観の何か堅苦しい部分に亀裂がはいり、この先の変革に向けて何か爆発的なパワーで窮屈さ吹き飛ばしてほしいと、大勢に願われ始めた時流があるのかもしれませんね。

自由な表現が許されるアニメで描かれる、そうした破天荒なアクションやパワーには、現実や実写とも違う妙味がある。しばし存分に味わってみたいと思います。では、また来月。

PROFILE
アニメ特撮研究家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。