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UPDATE:2015.2.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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現在進行形で新たな源流をめざして
――キャスティングについてもうかがいたいです。シャアの少年時代の声が田中真弓さんで、『巨神ゴーグ』を思い出した部分もあります。
安彦
キャスティングは壮大なオーディションをやったんですが、僕から希望を言ったのは「田中さんにお願いしたい」ということくらいです。あとはこれも藤野(貞義)音響監督におまかせで、ともに選ばせていただいて。田中さんだけは個人的にせよ妥当だと思ってるんですけどね。自分がまさかもう一度アニメやると思わなかったから、田中さんにオーディションに来ていただき、また声をいただける機会があるとまったく思ってなかった。ものすごく嬉しくて、もう一回やっていただけるんだったら、これはぜひと。
――田中さんの声の、どのあたりに惹かれるのでしょうか。
安彦
少年ボイスといったら、僕の中では田中さんなんです(笑)。それとこれがきっかけと言えるかわからないけど、『巨神ゴーグ』のムック(「巨神ゴーグ メモリアルアートワークス」新紀元社)で田中真弓さんと池田(秀一)さんが対談をされてて、「あれ? これって面白い取りあわせだな」と思った。最終的に「これは田中さんにお願いするしかないな」と思った決め手はそれかもしれない。これって絶妙じゃないかと思って。
――ちゃんと接点があったということですね。田中さんの声が入ることで、少年シャアの冒険譚っぽいテイストが上乗せされて良かったです。
安彦
ただ田中さんに申し訳ないことをしたのは、意外と台詞が少なかったんですよね。要するに言葉を発しないセリフがけっこう多くて。主役で出ずっぱりだから、もうちょっとしゃべっている気がしてたのに、アフレコの現場で田中さんの声がさっぱり聞こえてこない(笑)。お昼ご飯食べながら「ごめんなさい、せっかく出ていただいたのに、セリフ少なすぎたね」と謝った。もちろん芝居はしてるんですけど、息の芝居が多くて。せっかく快諾いただいたんだから、もっとセリフつくっとけばよかったかなと(笑)。
――存在感もありましたし、少ないだけに印象的なセリフも決まってました。クライマックスで発砲するところとか。
安彦
そう思います。キャスバルをおしゃべりにしても、違うでしょって気がするし。
――それと今回映像になってみると、この30何年間に国際紛争のニュースがダイレクトに飛びこんで来るようになって、世界情勢的な実情にすごく近づいた感じがしました。
安彦
冷戦時代もいろんな様相を見せつけられてきたわけだけど、ただ冷戦時代は大きなくくりで「イデオロギー対立があるからしょうがない」という見方に、どうしてもなったんですよね。それが冷戦という時代が終わる。終わってもユーゴに始まり、今でもウクライナやパレスチナ、いろんな対立がある。そうすると、これはイデオロギーという問題ではないなと。もっと人間の深く根ざしたところに、悲しい性(サガ)みたいなものがあるんじゃないか。だからと言って、サガですませたくないね。そう思うんです。世の中ってつらいものをいっぱい見せてくれるんだけど、冷戦が終わって以降は、より本質なものを見せつけられてるんじゃないかと。ごく最近の情勢にしてもね。そういう意味では、ガンダム世界に色んなものが投影されているということが、昔より見えやすくなったんだと思います。
――放送当時はロボットアニメとして観ていたので、「戦争」というのが若干大それた感じもしていましたが、案外そうでもないぞと。かえって今の方が、現在進行形の物語として見直せる感じがしました。
安彦
あの設定が、むしろ活きてきている時代だと思います。そのあたりで「ジオニズム」というような問題も出てくる。これも「イズムの問題」と、当時つい訳知り顔で語ってしまった人がいて、それが本質だと誤解された部分がけっこうある。「イズムじゃないんだよ」ということを、今ならもっと強く言える。それはたまたまそのような装いをまとっているだけで、イズムというよりも、もっと深い人間のサガですよと。
――第1話を観て、新しいオリジン、源流となった感じもありました。
安彦
そのように見えていれば、嬉しいですね。繰り返し「これは『THE ORIGIN』という漫画の映像化である」と言ってて、決してファーストガンダムのリライトやリメイクではないんです。「リメイク」なら富野由悠季の仕事以外考えられない。でも富野由悠季は決して素直にリメイクする作家でもない。そこに非常に難しい問題があるんですが、それも含めて、ある種の緊張感が出ればいいと思うんですね。オリジナルに対するリスペクトがあった上での緊張感をもった仕事にしていこうと。
――今後の展開で、何か「お楽しみに」的なことがあれば、ぜひお願いします。
安彦
何とか良い滑り出しができたと思っているので、これをベースに長丁場に挑んでいきたいということに尽きますね。ガンダムファンはメカニカルなビジュアルに対するファンだとも思うので、そのあたり当初はちょっと我慢していただければ。今回はガンタンクのアクションとか限られたところしか出てこないけど、次第にふんだんに描かれるようになってきます。メカ好きな人は、しばしのご辛抱を。
――各話にメカの見せ場もあるということですよね。漫画でも、モビルスーツ開発秘話ふくめて描かれていましたし。
安彦
一応そこもオフィシャルの設定をふまえて、工作機械と称するモビルワーカーがモビルスーツになっていく、という風にね。それが連邦に移植されるか盗み出されるかわからないけど、ガンダムというプロトタイプにつながっていく。そういうところをいじるのは野暮だから、流れは素直に押さえてあります。大河原(邦男)さんの新規設定を含めてそのまま画にしていくし、ルウム戦役も今回はアバンだけでしたが、しっかり描かないといけないなと思っています。
――全体を貫くものとしては「キャスバルがシャアになるまで」でしょうか。
安彦
「シャアに始まりシャアに終わった」というのが、ファーストガンダムの世界ですから。ただ、それは「ガンダム世界」というしっかりしたベースをステージとして展開しているもので。そこが並みのつくりものと違っていたということですね。だから「シャアの一代記」ではもちろんないし、アムロという対極の主人公がしっかり描かれている。本筋の展開はアムロ中心ですしね。二人の対比がどういう意味をもっていたのか、これも非常に大きい。本当にシャアに始まりシャアに終わるだけだったら、結局ニヒルなだけのネガティブな話で、観るたびに暗くなる(笑)。でも、そんな風にはなってないでしょ?
――そこへのもっていき方も含め、期待しています。
安彦
ちゃんと支持していただけるようにしたいですね。幸い『THE ORIGIN』というコミックは版元にも喜ばれたし、いろんな読者に喜んでいただけたんだけど、その縮小再生産になって細くならないよう、プラスアルファを足していきたいです。そうでないとガンダムという拡がりに届かないので。できるだけ『THE ORIGIN』を知らない人にも観てほしいですね。それで漫画の『THE ORIGIN』がもっと売れると、さらに嬉しい(笑)。
――漫画家としての最近のお仕事は、いかがですか。
安彦
今ふたつ連載していて、大事な仕事ですから、ちゃんと終わらせたいです。幸いにして漫画家の仕事も、何が自分の大事な柱なのか、早めに見つけられたので、満足しています。かなりの数も描けたし……。
――柱というのは?
安彦
歴史を描いてきたこと。それで「なぜ歴史を描くのか?」ということも、自分なりに理由があるので。
――前にうかがったとき、そこはすごく印象的な話で。安彦さんの中では、描かれてきた歴史の事件が連綿とつながってるんですよね。日本の古代史でも西欧の偉人でも。
安彦
趣味というか「描きたいから」という動機だけじゃなくて、「こういうことを考えていたのか」とか「意見として発信したい」というのを「描いて残さなきゃ」という想いがあるわけです。若いころに「社会的に生きたい」ということを選択したわけで、それはしくじったけど、それでも「社会的に生きる」ということは大前提みたいなものですね。アニメや漫画の仕事と社会はなかなかシンクロしなかったんだけど、次第にシンクロし始めてきて。ことに漫画家になってから、よりはっきり自分の個人的な営みと同調させられたので、ものすごく幸せでした。だからこそ、ちゃんと完結させたいんです。
――そういう一連の営みの中に、ガンダムや『THE ORIGIN』も組みこまれて、すごく良かったです。
安彦
なんだかんだ言っても、ガンダムがアニメ時代の自分のいちばん大きな足跡ですからね。一時は「ガンダムはもういいよ、忘れよう。もう関係ないんだし」と無理矢理切り離そうとしたけど、また一代経ってガンダムもシンクロしてきてくれたなと。それはすごくありがたいというか、人がどう思っているかはわからないけど、自分の中で「シンクロしてきたぞ」というのがあって、すごく嬉しいですね。
――今回のアニメ化には、その喜びをすごくそれを感じます。
安彦
社会性をあまり出してしまうと重たくなるし、理屈っぽくなってしまうけど、ガンダムはまぎれもなく社会性をもった作品ですから。そこはおそらく他の追随を許さないところだと僕は思っている。あれ以降も近いものはたくさんつくられたけど、絶対に頭ひとつもふたつも抜けてると思うので、そこをダメ押ししたいなということです。
――良い感じでエンタメにもなっていますね。漫画チックなとこもあり、おとぎ話的なファンタジックなところもある。
安彦
それって、なかなかやろうと思ってもできないんですよ。どっちかが勝っちゃうと鼻についたり。「なにを偉そうに」と思われたり。
――政治劇に行き過ぎないバランスもよかったです。アニメの持つ力でしょうか。
安彦
ええ、期せずしてそういうことになったのだろうと。
――そこも結果オーライということなら、ますます先が楽しみですね。今日はどうもありがとうございました。(一部敬称略)


PROFILE
安彦良和(やすひこ・よしかず)
1947年生まれ。北海道出身。1970年に虫プロに入社し、アニメーターとして活躍した後に独立。原画マン、作画監督、演出家として数々の作品に参加。特にロボットアニメではオリジナルの絵柄によるキャラクター・デザイナーとして人気を獲得し、「安彦キャラ」として愛されるようになった。アニメの代表作『機動戦士ガンダム』(79)では富野由悠季総監督のイメージをもとに総合的な画づくりをするアニメーション・ディレクターとして参加。特に劇場版用新作では、ほぼ全カットにわたりラフ原画とレイアウトを単独で手がけ、クオリティを高めた。ガンダム放送中に長編漫画『アリオン』を連載開始し、漫画家として活動開始。同作は1985年に自ら監督としてアニメ映画化したが、1989年からは専業漫画家となる。『ナムジ』(第19回日本漫画家協会賞優秀賞)、『王道の狗』(第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞)など、主として歴史に材をとった数々の漫画作品を描き、2001年から「ガンダムエース」誌で漫画『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』を10年間にわたり連載。ファーストガンダムの物語と世界に新たな視点を提示して大人気となった。今回の映像化では総監督を手がけ、これが20数年ぶりのアニメ作品参加となる。


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