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UPDATE:2015.7.27

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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原点となった『創聖のアクエリオン』
――その『創聖のアクエリオン』について、原点としてお聞きしたいです。ちょうど10年経って『マクロス』に続く大きな柱になった感じです。
河森
10周年の『ロゴス』で3作品となり、ようやく本当の意味でシリーズになったと思いました。2から3になることで平面から立体に変わり、空間が広がった感があるんですね。『ひと夏の』も入れれば、4次元とも言えるかなと(笑)。
――2005年のスタートまで、準備期間も長かったそうです。
河森
もともと『アルジュナ』の終わりごろに思いついた企画で、最初はレスキューものでした。ところが合体して巨大ロボになっても「手で柱を支えて助けて終わり」みたいに、緊張感が出ない(笑)。先に進めていた『マクロスゼロ』も、最初は戦記もので考えていましたが、ラオス取材の帰りにバンコクの空港で「9.11」のニュースを見て、ミリタリー色を薄めることになりました。それでたまたま取材で行ったピピ島の洞窟に描かれていた、「鳥の人」みたいな壁画を使うことにしたんです。1万年ぐらい前、平均身長が1.5メートルより低めの時期に、1.9メートルを超える巨人の人骨が出た洞窟だという話がすごく印象に残って、それで『マクロスゼロ』を神話ネタにしたんです。
――巨人はマクロスの基本設定にもつながりますね。
河森
正直、巨大ロボットは現実の兵器としては、ただのデカイ的になるだけで役に立たないんです。一方で、神話には巨人伝説が多い。エジプトの巨大石像など、大きい人型のものに対する畏敬の念や憧れ、「巨人願望」がすごくあったはずです。であれば、「巨大ロボット」の存在理由として神話は最適ではないかと。もうひとつ、『アルジュナ』のころに自分も含めて「現代人は頭と心と身体がバラバラ」と考えたことも関係しています。社会的な縛りが多く、頭で考えることがすぐ実行に移せない。だから心因性のストレスや病気が増えている。原初的な人間にはそうした縛りがない分、感覚が圧倒的に優れていたはずです。だったら野生動物に近い感覚を残したメンバーたちが集まり、それぞれの感覚が合体すると、自分にはない感覚が流入して……みたいなことを思いつきました。だから『アクエリオン』は「合体ロボットもの」ではなく「合体もの」。ロボットは増幅装置として使っているだけなので、ロボットなしでも舞台が成立できるというわけですね。
――「合体」にポイントを絞ったことで、いろんな発想も生まれたわけですね。
河森
最初は「合体ロボットアニメって、もうやるネタないだろう」なんて思いでスタートしましたが、「仲間が力を合わせて勝つ」とは違うコンセプトを思いついた瞬間、大きく拡がりました。実際のものづくりでも、仲の悪い同士でつくったものが最高の出来だったりすることもあるでしょうし、逆に仲が良すぎることで発展性がなくなり、ダメになる場合もあるでしょう。何が起きるか分からない掛け算、化学反応みたいな関係性を「合体」だと考えたら、実はそんな「合体もの」なんて今までなかった。だったら、違う個性を活かしながら新しいものを生み出すことができるのではと。
――そこにも「神話」の要素は大きかったと。
河森
神話というと、神々しく、気高く、神秘的なファンタジーの方向を連想しますが、実際にはものすごくバカバカしい話も多いですよね。ギリシア神話なんて「嫉妬して殺した」とか、色恋沙汰ばかりですし(笑)。
――あれは人間臭いですよね。
河森
しかもいろんな物語と“強制合体”して伝わっているから非合理的で、ほころびもたくさんある。それなのに2000年、3000年の時を越えて語り継がれる力が宿っている。これが、ものすごく面白いんですよね。白か黒か、イエスかノーか、二進法化されつつある現代でもまだ残っているのは、人間が無意識のうちに神話の不合理性を求めているのではないかと。だって、インドに行けば、日本の常識なんてまったく通用しないですからね(笑)。それなのに、日本の何倍もの人口が成り立っている。あの常識破りのカオスで作品をつくったらどうなるんだろう? というのも『アクエリオン』の発想のひとつでした。
常識をはるかに越えた発想と「合体」
――常識破りと言えば、まず「無限拳(ムゲンパンチ)」のインパクトを思い出します。
河森
神話世界のバカバカしさに通じるものですよね。でも、アクエリオンの変形機構などには合理性を積み上げています。全部が嘘ではダメで、合理性を積み重ねた後に突然飛躍するから面白い。つくっている自分としても楽しくて、シナリオ会議でもアフレコ現場や編集室でもいつも大爆笑でした。とにかく高揚感がある作品です。
――スタッフにも「合体」の良さが出ていると。
河森
必殺技も企画時点で40種類ぐらい思いついてしまい、まるで入りきらなかったという(笑)。さらにその場その場で思いついたのも使っていますし。OVAと劇場版で使った「壱発逆転拳(いっぱつぎゃくてんパンチ)」の大技版で、重力から何まで反転させる技は使えなかったですが、そのアイデアも『EVOL』でカグラが使う「サカサマの能力」に活かされていますし。
――当時のTVシリーズとしては、ロボットを3DCGで描くことも先駆的だったかと。
河森
最初は無謀だと言われました。『マクロスプラス』(94)と『マクロス7』(94)でも一部CGを使っていますし、サテライトがCGパートで参加した『イーハトーブ幻想~KENjIの春』(96)ぐらいから本格的に使い出し、次の『アルジュナ』でいろいろ試した感じです。それでも当時は「人型の動きは非常にハードルが高い」という理由で、『マクロスゼロ』では「まず飛行機からやろう」と。当時は人型ロボットにリアルな動きをつけると、デジタル特有の堅さ、ぬるさがあって説得力がなくなってしまう。だったらアクエリオンでは逆に振りきろうと考えました。オーバーデフォルメの発想で、ケレン味があって、タイミングにもメリハリを効かせたアクションで、スーパーロボットを表現しています。そうすれば、次の『マクロスF』でもきっとうまくいくと。
――実際にやってみて、手応えはどうでしたか?
河森
すごく良かったですね。デジタルの3班ぐらいがみんな競いあった結果、26本かけて到達しようとした目標を13話ぐらいで突破できてしまったんです。巨大化も構図の取り方やタイミングで上手く表現できるとわかりましたし、モデルの干渉による「めり込み」も気にせずに人間っぽく動かすことで、むしろ味になる。それを歪めて解決する班もありましたし、タイミングのとり方だけで解決する班もあった。それがすごく面白かったんです。
――基本となる合体・変形機構はブロック玩具で検証されたデザインですか?
河森
そうです。また、それまででいちばん時間をかけました。バルキリーは3段変形ですが、アクエリオンは3種類の人型のため、ベクターマシン1個から4種類に変形するわけです。また同じ機構のベクターマシンにガワだけ着せ替えて3機そろえるだけなら、あまり時間をかけずに作れたのですが、合体後のプロポーションを変えたかったので、関節や分割をすべて変えなければならなくて。
――その多彩なメカに、メンバーチェンジするのも変化があって面白かったですね。
河森
パイロット固定の専用マシンがある。あえてその基本を外そうと。天邪鬼ですから、どうしても今までやってないことにチャレンジしたくなるんです。
一万二千年後を描いた『アクエリオンEVOL』
――続編『アクエリオンEVOL』は、『マクロスF』をはさんだ7年後の作品です。
河森
創聖のアクエリオン』の放送直後から「続編をやってほしい」と言われ続けてきましたが、「一万二千年後にまた会おうぜ」と言って終わったのに、すぐ帰ってきたらマズイなと。それと前作と変えるために「メンバーは女の子だけ」という企画も提案しましたが、これは却下されてしまい。そうこうしてるうちに『創聖のアクエリオン』のキャラクターデザインの藤川太さんが「新作やるなら、昔のキャラも大事にしてほしい」とおっしゃっていたという話を聞きまして、「だったらまさに一万二千年後の話にすればいいんだ」と思いついたわけです。
――『EVOL』は「LOVE」の逆さ読みということでしたが。
河森
あのタイトルは後から決めたもので、「今回は恋愛もので」というオーダーありきの作品でした。でも、「恋愛ものなら恋愛禁止だよね」と(笑)。そして「河森さんと気が合うタイプのシナリオライターがいます」と岡田麿里さんを紹介され、「男女を壁で隔てる」みたいなアイデアも次々に出てきて……。
――アイデアは、岡田さんはじめライターチームといっしょに膨らませていったのでしょうか。
河森
とにかくシナリオ打ちはバカ話から始まって、「誰がいちばんおバカな案を出せるか」と競い合い、そういう世界です(笑)。エレメント能力の基本アイデアも、ある程度はこちらで考えていましたが、岡田さんが次々に肉づけしていきましたし。前作は五感ベースにしましたが、そんなもんじゃなくなってしまい(笑)。
――「穴を掘る」とか「存在を消す」とか、明らかに五感じゃないですね(笑)。
河森
「存在を消す」は良いのを思いついたなと。時代性にも合ってるし。
――根本の設定としての「敵が女性を奪いに来る」というのは?
河森
「女がいなくなった世界から、さらいに来る」なんて敵側は他にいないだろうと(笑)。それと、神話では大地や地球が女性にたとえられていますが、それが弱っているという意識も、自分の中にあって。やはり、過去の人類に比べて現代人の生命力は確実に落ちているんです。医療が発達したことで寿命が伸びたかのように見えますが、昔の人だって長寿な人は長寿ですからね。平均年齢ってトリックではないかと。
――手応えはいかがでしたか?
河森
ハジけた作品になり、つくっていてバツグンに楽しかったです。
――声優さんも楽しみながら演じられていると感じました。
河森
アフレコ現場は爆笑の連続でした。とにかくブースから出てきてゲラゲラ大笑い。中では笑いをこらえるのに必死必死だったんでしょうね(笑)。
――合体メカに関して、『EVOL』では何か変化はつけましたか?
河森
前作は「赤と青と緑」と色分けしましたが、同じにはしたくないなと。それでスーパーヒーロータイプとミリタリーの強攻型タイプとファンタジー的騎士タイプと、世界観の違う3タイプにしています。表面処理やディティールでテイストを変えて。
――『アクエリオン』ならではの温泉回(第17話「湧きあがれ、いのち」)もあったりで、盛りだくさんですし毎回何が飛び出すか分からない感じでした。
河森
この次何が起こるか分からないビックリ箱感は、インドの裏道を歩いたときの経験からなんです。次の路地に行くと、まるで世界が変わる。あのカオス感はたまらないですよね。僕は「答えが先に分かってることをやって、何が面白いんだろう?」と思ってしまう方なので、やはり予定調和が嫌いなんです。だから、原作ものはなかなかできないですね。
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