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クリエイターズ・セレクション

UPDATE:2015.10.26

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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クリエイターの個性を全解放した『スペース☆ダンディ』
――アニメーター時代や演出になられた経緯をもっと掘り下げたいところですが、ここで一気に飛ばしてTVシリーズ初監督の代表作『スペース☆ダンディ』(14)についてうかがいたいです。ご経験の集大成という感じもしますが、監督されたきっかけは?
夏目
同じボンズで制作した劇場映画『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』(11)に演出として関わり、その仕事が評価されたみたいです。社長でプロデューサーの南(雅彦)さんから声をかけていただき、監督として参加することになりました。
――総監督は『COWBOY BEBOP』の渡辺信一郎さんで、2人体制でしたね。どんな感じで進められましたか?
夏目
渡辺さんは最初は調子良く「何をやってもいいよ」とたきつけるんです。それで進めて具体的な提案段階になると、「それはダメ」とチェックが入る。そんな感じです。
――各話のクリエイターが自由にやれるような雰囲気もあり、バラエティ感覚をすごく覚えました。その自由さとはどう折り合いをつけていたのでしょうか。
夏目
きっと渡辺さんなりのルールがあるんでしょう。僕の解釈だと、「自由にやっていいけど、一本通して観たときにちゃんと面白くしなければいけない」ということではと。1話完結なだけに、お話として見終えたときに「面白い!」と納得さえるには技術が必要になってくる。その辺を気にされていたんだと思います。シナリオ打ち(会議)でも、「起承転結をはっきりさせよう」など、基本を大事にする姿勢のご意見が多かったです。それと「ゾンビもの」「レースもの」などネタもの、ジャンルものが多いように見えて、安易にガワ(外側・入れ物)だけ借りることはやめようとしていました。つまり「なぜゾンビは人々に長年受け入れられているのか?」とか「ここまで大きなジャンルに成長したのはなぜか?」とか、面白さのエッセンスを分析し、意識的に取りこもうと。
――なるほど。ヒットの裏づけにまで踏みこむのは、かなり高度ですね。
夏目
ただし分析が目的ではなく、そうやった方が初見の人にも伝わりやすい。エッセンスのおもしろさを知っている人にはより深く楽しめるだろう。そういう意図です。これに限らず渡辺さんの意識の持ちようは、非常に勉強になりました。自分は作画畑で育ってきたので、演出家として真っ正面から作品に向きあったのは初に近かったんです。なにかと経験不足を思い知らされ、「これはいちから勉強し直そう」と思い、いろいろな作品や渡辺さんに勧められた映画はひと通り観て吸収しました。ですから“監督”というよりも、渡辺さんの“弟子”に近い感じでした。僕が勝手に言ってるだけなので、怒られないか心配ですが(笑)。
――参加されたクリエイターの豪華さも本作の特徴です。監督クラスの方も多数参加されていました。
夏目
本当に、日本を代表するものすごいメンバーなんです。脚本では信本(敬子)さんに佐藤大さん、演出では谷口悟朗さんに山本沙代さんなどなど。あと、三原(三千雄)さんや湯浅(政明)さんのような作家性の強い方も多数参加されていて。
――湯浅さんの回(第16話「急がば回るのがオレじゃんよ」)など、作家性が強い場合は脚本にも同時にクレジットされています。アイデア出しから画づくりまで、全部やられていたという意味でしょうか?
夏目
そうです。渡辺さんがシナリオ、コンテなど途中経過をチェックしてはいましたが、「もう少しだけ分かりやすく」程度で、ほとんど手を入れていないと思います。
――名倉(靖博)さんの回(第21話「悲しみのない世界じゃんよ」)が衝撃で、30分枠なのに、まるで長編映画一本観たかのような充実感がありました。
夏目
名倉さんや湯浅さんは自分の世界を突き詰めている方ですから、アニメーターや演出家で名高い方というより、「いち作家」としてつくっているという印象ですね。一方、サンライズでヒット作を出している谷口悟朗さんは“職人気質”というか、複合的な技を駆使しつつ、コンテで詰めてきっちり仕上げていくタイプ。クリエイターごとにつくり方や重視しているポイントがそれぞれ違っていて、その辺も面白かったです。
――全体をふりかえってみて、いかがでしょうか?
夏目
とても豪華で充実した作品ですね。制作中も「後世にのこる作品をつくっていこう」という意識が強かったです。最近のTVシリーズでは、開発したシナリオを映像化するだけで精一杯みたいなことも多々起きますが、毎話違ったテーマをきちんと設定しながら取り組むことができて、そうした部分に手づくり感もあって良かったと思います。
――一品ずつ誠意をこめたのなら、手応えも大きかったのでは?
夏目
うーん……。個人的にはむしろ悔しいという気持ちが強かったんです。特に自分の回は「もっと面白くできたかもしれない」と。でもそんな悔しさも含めて、クリエイターとして大きな栄養となったし、視野も拡がって良かったです。監督を続けていく上では、渡辺さんのふるまいがとても参考になりました。音響にものすごくこだわり、音のつけ方やBGMの選曲まで、全部自分でやってしまう。監督のもつ価値観や趣味趣向がダイレクトに作品に反映される。その瞬間に立ち会えて、興味深かったです。
――では、監督という仕事についてより深く考えるきっかけになったと。
夏目
ええ。それまでは誰かに言われるがままにつくっていたところもあったんですが、その先に行かなければならないなと感じました。
原作漫画の熱量を全部乗せでアニメ映像化に挑戦
――さて、現在放送中で大人気の最新作『ワンパンマン』(15)ですが、監督になられたきっかけは?
夏目
スペース☆ダンディ』が終わったとき、バンダイビジュアルの向井地(基起)プロデューサーから「次もまた夏目さんで何かお願いします」と言われたので、待っていたらマッドハウスさんからお話が来ました。もともとマッドハウスは演出デビュー(『四畳半神話大系』第6話)で、制作ともつながりもありましたから。
――原作マンガの印象は?
夏目
オファーがあってから読みましたが、純粋に面白いなと。それと熱量の大きな作品なので、「これはイケるぞ」と感じました。アクションもできるし、最強の男・サイタマがワンパン(ワンパンチ)で敵を倒すカタルシスも気持ちいい。普通とは毛色が違っているように見えても、やっていることは王道ヒーロー。そのギャップも面白いです。
――もともと「ヒーローもの」に興味はあったのでしょうか?
夏目
正直に言えばそれほどではなく、アメコミヒーローも決して詳しくはなかったです。人気の『アイアンマン』もOVA『アイアンマン ライズ・オブ・テクノヴォア』(13)をやったときに初めて観たぐらいで、日本の特撮ヒーローにもほとんど接してこなかったです。今回、ひと通り観て研究してまして、『キャプテン・アメリカ』などは、ものすごく面白かったですね。
――派手なアクションも多く密度感のある原作ですから、アニメ化は大変なのでは?
夏目
まさに、そこなんですよね。当初はエピソードを取捨選択しつつ、きれいにまとめればいいというプランもあったんです。ところがバンダイビジュアルの松井(千夏)さんに、「これは全部やりましょう」と熱弁されてしまい(笑)。『スペース☆ダンディ』はオムニバス形式ですから、一本ずつうまくまとめることを優先しましたが、『ワンパンマン』はそういうタイプではないんだと、そこで気づかされました。いろんなネタがゴチャゴチャになりながら、ギュッと詰まっている。だから楽しい作品ということなんですね。
――ボリューム感で勝負、ラーメンでいえば「全部乗せ」みたいですよね。
夏目
それでシリーズ構成の鈴木(智尋)さんともよく話し合って、原作のボリュームをいかにして濃縮させて入れこむか、具体案を練っていきました。
――原作マンガの魅力のひとつに、大ゴマのインパクトがあると思います。あれをアニメの映像に置き換えるのも、難しそうですね。
夏目
ええ、アニメはフレームが決まってますから。大ゴマの絵をそのまま使ったとしても、迫力は出せないんです。そこは演出面の工夫です。スローになった後に「バン!」と決め絵を見せるとか、そういうメリハリのつけ方で大きさを強調しています。作画面でも、ひと昔前に流行った「タメツメ」を強調した動きを意識してもらい、パンチを打つ前にはググッとタメを入れたりしています。最近ではリアル系の作画が主流ですから、それだとスッと流れてしまって、大きさが出ないんですね。カット割りにしも、切り返し切り返しで見せたり、どちらかと言えば古典的な手法を使っています。
――画づくりも、王道ヒーローものに近いテイストを感じます。
夏目
スペース☆ダンディ』はベテランアニメーターがそろってましたが、今回は若手中心です。なおかつアクの強いメンバーがそろったので、その個性を活かすためにも、ベタなカット割りが一番だと。ことにアクションシーンだと、演出がコンテでいろんな小細工をするよりも、アニメーターに丸投げして個性を発揮してもらったほうが、絶対に仕上がりは面白くなる。僕もアニメーター出身なのでよく分かりますが、こうるさく指示されると萎縮した画になりがちなので、好き勝手に描いてもらった方が、絶対に作品にプラスになるだろうと。
――託されるアニメーターの側も、やりがいがありそうですね。
夏目
アクションシーンもバラエティに富んでいますから、「肉弾戦主体の熱いアクションなら亀田(祥倫)君にまかせよう」とか「空間やスケール感を意識したカットなら久貝(典史)君か小田(剛生)さんにお願いしよう」など、得意分野を活かす方向で割り振りを意識しています。たまに「やり過ぎかも……」と思うような部分も出てきますが、それも『ワンパンマン』なら、きっと許されるだろうと(笑)。
――1,2話を拝見して、熱量の高いアクションの連続に圧倒されました。
夏目
あれもコンテは割と普通に描いていて、アニメーターたちが膨らませてくれた結果なんですね。どんなことをやって暴れてくれるのか、僕も毎回楽しみにしています。
――ディテールでは、カニ怪人の目がズルズル引っぱり出されるカットのリアリティがすごかったです。特撮番組ではありえないですし、不意をつかれてビックリしました。
夏目
カニの解剖図を参考に描いてもらいましたが、アニメならではの表現になりましたね。カニミソもリアルに考えればチョロチョロ出るだけなのに、意識の高いアニメーターが描くとあれだけの大噴出となる(笑)。巨人が街を襲うシーンは小田(剛生)さんの担当ですが、あれも異常な巨大感や不気味さが醸し出されて良かったです。
――ありえない妙な引っかかりがあちこち散りばめられてて、すごく新鮮です。きれいに仕上げようとする時代の中で目立っているなと。
夏目
たまに「大丈夫かな?」と心配になるところもありますけど、そこもご愛嬌ということで。
――絵にしていくのは大変そうですが、ぜひこのままの勢いで駆けぬけてほしいです。
夏目
カロリーと物量がすごい作品ですから、はたして無事につくり終えられるか(笑)。現場は悲鳴混じりで鋭意制作中ですが、なんとかがんばりたいなと。第1話、第2話を意識して「もっと作りこもう」という方向だと手が遅くなるので、なんとかうまくまとめる方向にシフトしようとしています。
――ぜひ、今後のみどころを教えてください。
夏目
無免ライダーを筆頭に、多彩なヒーローと怪人が続々と登場するので楽しみにしてください。この作品ではキャラクターひとりひとりに深いバックボーンが用意されているので、それはアニメでもていねいに描いていきたい部分です。それと宮崎誠さんのロックテイストな楽曲。とてもカッコ良く、ヒーローや怪人ごとにテーマ曲が用意されているので、そこもお楽しみに。クライマックスに向け、大きなアクションシーンも用意していますので、ぜひご期待ください。ともかくずっと観続けていただければと。
――全方位的に驚きがあって楽しめそうですね。夏目監督の新たな代表作になるのではと感じました。
夏目
そうですね。これまでいろんなクリエイターの方と一緒に仕事をして、そこで吸収してきたものを、この『ワンパンマン』では全力て発揮できたらなと思っています。
――期待しています。本日はありがとうございました。


PROFILE
夏目真悟(なつめ しんご)
1980年生、青森県出身。アニメーター、演出家、監督。専門学校卒業後、ゲーム会社を経てJ.C.STAFFにアニメーターとして入社。GONZO、シンエイ動画を経て、現在はフリーランスで活躍中。アニメーターとしての代表作は『N・H・Kにようこそ!』(06)、『ぼくらの』(07)など。『うみものがたり ~あなたがいてくれたコト~』(09)、『四畳半神話大系』(10)、劇場アニメ『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』(11)などで演出を担当後、OVA『堀さんと宮村くん』(12)で監督デビュー。2014年には渡辺信一郎総監督と『スペース☆ダンディ』に監督として参加。現在放送中の監督最新作『ワンパンマン』(15)は、熱量の高いアクションシーンと驚きのある演出で大きな注目が集まっている。


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