「家族」というキーワードにこめた想い
――男性キャラだけでなく、ヒロインについてもうかがいたいです。
- 岡田
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クーデリアについては、「理想に燃える、世間知らずなお嬢様」というタイプのキャラが欲しいのかなと、最初は思っていたんです。ところが監督からは「『花咲くいろは』(11)みたいにして」と言われてしまい、「うーん、これってどういう意味だろう……」と悩みました。そこで改めて『花咲くいろは』の主人公・緒花のことを考えてみたんです。彼女って必死こいて努力していると、必ず痛い目にあってるんですね(笑)。でも、そうして鼻息荒く行動し続ける彼女の姿を見ていくうちに、周囲の人間は次第に感化されていく。だとすれば、クーデリアも緒花同様、しっかりと痛い目にあってもらおうと。それとポイントは「成長するヒロイン」ということですね。並み外れたカリスマ性など優れた才能を持ってはいるけれど、その使い方が分からない。だから七転八倒し続ける。結果として、ポンコツ感が若干増してしまった気もしますけれど(笑)。
――火星から地球までの旅を描く、ロードムービー的な側面もあります。
- 岡田
- 「火星から地球を目指す。その途中でドルトコロニーに寄る」というザックリとした構成は、長井監督が当初から決めていたことです。ただしストーリー上の細かい部分は、どんどん変わっていきました。アインとクランク二尉も、後から要素を付け加えたキャラですし。それと鉄華団に対する「明確な敵」という存在は、あえて置かないようにしようと。これは気をつけましたね。鉄華団が進む先々で、利用しようと近づいてくるものに翻弄される。旅を通じて周囲の世界や関係性は、めまぐるしく変化していく。だけど、その中心にいる鉄華団は決してブレない。そんな構造にしています。
――鉄華団の描き方としては、擬似家族的な要素も大きいですよね。
- 岡田
- その要素は、監督によれば私が入れたらしいんですけど、実は「そうだっけ?」なんて、あまり自覚はありません。「いつもいっしょ」「全員で幸せになろう」というオルガの考え方って、もちろん理想的に見えるんですが、一方で窮屈にも感じます。「自由になりたい」というより、むしろ自分たちを縛りつける枷(かせ)を欲しているのではないか。個人として認められず使い捨てのような扱いを受けてきた子たちだから、きっと足りないものが多過ぎるということなんでしょうね。だから、あえて何か重荷を背負いたくて、戦いを求めているのではないか。
――その重荷によって自分の価値を探るのって、人間性の本質をえぐってますよね。ちょっと倒錯しているような感じでもあり。
- 岡田
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「家族」というものは、決してプラスの面だけじゃない。そうした考えもあって、私が参加した作品ではマイナスな家族がたくさん出てきますけど(笑)、それって決して悪い意味だけではないんです。逃げられないような結びつきを欲する気持ちって、人間にはあるんだろうなと。今回の鉄華団の子たちは、特にそうした欲求が強いですね。たとえば第8話(「寄り添うかたち」)で、オルガは名瀬から「そういうのは仲間って言うんじゃねぇぜ。家族だ」と言われて、「そっか、家族か……」なんて浮かれてしまう。単に暖かいだけでなく、どうしようもない結びつきを欲するものとして、「家族」というワードをとらえています。描き方としては多少いびつなところもあり、感情移入してもらう方向には振っていないです。なので「家族もの」としては、決して王道ではないんです。
キャラの実在感に惹かれた「ガンダムシリーズ」
――岡田さんはガンダムシリーズと、どのように接してこられましたか?
- 岡田
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最初の『機動戦士ガンダム』(79)は、子どものころ再放送されているのをチラチラ観ていたぐらいで、通して観たのは大人になってからです。『(機動戦士)Zガンダム』(85)、『(機動戦士)ZZガンダム』(86)といった富野(由悠季)監督の一連の作品を追いかけ……。あっ、『(機動武闘伝)Gガンダム』(94)だけはリアルタイムで観ていました。オープニングからして「スゴいものがはじまったぞ」と、ものすごく衝撃を受けました(笑)。
――なにしろ「地球がリング」ですから。
- 岡田
- しかもカッコいい。でもやっぱり『ファーストガンダム』のイメージが強いです。自分でも物語をつくるようになってから観返してみると、「こんなことが描けるんだ!」と改めてスゴさが分かります。戦闘シーンもカッコいいんですが、キャラクターの描き方にむしろグッときちゃいますね。やはり「キャラクターが本当に生きている感じがする」。さんざん言われてることですが、それにつきます。
――実在感みたいなことですか?
- 岡田
- そうですね。予定調和なセリフがなく、思わぬ発言が飛び出したりするんです。それって現実世界ではごくごく普通のことなんですが、それが当たり前のように描かれてて、時には生理的嫌悪感まで呼び起こせるようなつくりになっている。「こんなにスゴいものだったんだ!」と。
- 岡田
- はい。でも、長井監督のほうがより意識しているのかも。いつも心の底から『ガンダム』や富野さんの話を嬉しそうにしているぐらい、愛しているんです。それで“ガンダム成分”が自然と入ってしまってるんでしょうね。「ここってガンダムだ!」と思える瞬間がたくさんある。それは設定や世界観などの上辺ではなく、作品の味わいや印象としての「ガンダムっぽさ」ですが。
――それでいて、ガンダムシリーズの可能性を拡げている感じもします。
- 岡田
- ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。
『DTエイトロン』でアニメ界デビュー
――さて残り時間の許す限り、過去作についてもうかがっていきたいです。何か印象深い作品はあるでしょうか?
- 岡田
- やはりアニメデビュー作の『DTエイトロン』(84)は想い出深いです。監督のアミノテツローさんにも、ものすごくお世話になりましたし。
――アミノ監督は、どんなところが印象的でしたか?
- 岡田
- 「行間」をすごく大切にされる監督なんです。当時の私って「行間しかない」みたいなライターでしたから、自分が好きでこだわっているポイントがあまり評価されないことが多くて、「私の考え方って間違ってるんだろうか」と悩んでいた時期が続いていました。そんなときにアミノ監督と出会ったことで、「あっ、これって大切にしていいんだ」と思わせてくれました。もちろん、行間だけじゃだめなんですけど(笑)。
――その『DTエイトロン』でデビューされた経緯は?
- 岡田
- 当時は他のジャンルのライターをやっていましたが、シリーズ構成の柿沼秀樹さんの代わりに「ワープロを打ってほしい」と。つまり手書き文字の清書係として呼ばれたんですね。それで現場でアミノ監督から「君ってシナリオライターになりたいの? これはオリジナルアニメでロードムービーだけど、細かい部分はまだ決まってないから、アイデア出してよ」と言われ、それでバカみたいにたくさんアイデアを出したら、「よし、じゃあこれ書いて」なんて調子で、2クール中で5本も書かせてもらいました。
動物が美少女に転生『おとぎストーリー 天使のしっぽ』
――他に想い出深い作品は?
- 岡田
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順番は選べないですけど、最近、自分で過去の作品を観直してみて「今ならこうできるな」と思っているのが『おとぎストーリー 天使のしっぽ』(91)ですね。越智一裕監督は作品づくりにとても熱心で、私のどうでもいいようなこだわりをすごく大事にしてくれました。原作はありますが、途中からオリジナル展開になるんです。
――注目のポイントはどこでしょうか?
- 岡田
- スゴいストーリーなんですよ。主人公の睦悟郎が過去に12匹の動物たちを飼っていて、みんな死んでしまうんですけど、感謝の念を抱いて恩返しをするために転生してくる。しかも、美少女の姿で(笑)。私は作品ごとに「このシーン好き」というのがあるんですが、犬のナナという子とキツネのアカネという子がいて、アカネは前世で猟犬に追われていたので、ナナが苦手なんです。そこに「ナナは良い子のワンコだよ」というセリフがありまして、それがとても気に入っているんです。
――ものすごくリズミカルで、耳に残りますね(笑)。
- 岡田
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貧乏なのでおかずにするため野草を取りに行くんですけど、食べられない草なのに一生懸命取りに行く。そんなたいしたことないエピソードですけど、小さい子が一生懸命、無意味なものを大切にしている……。そこに「ナナは良い子のワンコだよ」というセリフが(笑)。思い出すと、なぜか泣けるんですよ。この説明でみなさんに興味を持っていただけるか疑問ですけど(笑)。
――いえいえ、知る人ぞ知る名作として認識してますから。
- 岡田
- 越智監督にはすごくお世話になりました。絵もすごく綺麗なので、ぜひ観ていただきたいです。
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