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UPDATE:2016.4.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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中学生にして脚本への興味をいだく
――そんな會川さんに、大きな変化が訪れたのは中学生からになるのでしょうか。
會川
中学受験の終わりごろですね。昭和53年(1978年)の頭に、いきなり「ファンタスティックコレクション 空想特撮映像のすばらしき世界 ウルトラマン/ウルトラセブン/ウルトラQ」(朝日ソノラマ/通称ファンコレ)というムックが現れ、衝撃を受けるわけです。
――私も所属していた「怪獣倶楽部」という同人メンバーが編集したムックですね。それで、特撮やアニメに戻ってしまったわけですか。
會川
中学に行くという時期に、いきなり『ウルトラマン』とか『ヤマト』とか言い出したから、親は幼児退行ととらえてしまい、ものすごく嘆きましたね(笑)。3年間のブランクの反動もあるし、「ウルトラマンは大人も観る価値がある」みたいな方針を打ちだしていた編集方針も大きかったです。ルビも振っていないし、写真もスチルじゃなくてコマ焼き(フィルムからの直接焼き)中心。あらゆるコンセプトが、子ども用の怪獣図鑑とはまるで違う。編集を担当された竹内博さんや安井尚志さんの視線は、氷川さんたち当時の大学生以上に向いていたと思いますが、実は僕らの世代に一番届いたんだと思っています。中学生ぐらいで少し背伸びしたい時期に、「あっ、これって小学生のころ読んでいた怪獣図鑑と違うぞ」とはっきり意識させることができた。僕もそこにハマりました。
――それが結局、今に至る原点になっているわけですか。
會川
そうなんですね。よく言われていることですが、中学生ぐらいのときにハマり直してしまったものって、どこかしら抜けきれないところがあるという。
――「中学2年生の出逢いが一生を左右する」みたいなことは、自分にもすごく実感があります。なにしろその『帰ってきたウルトラマン』が、中2のときの作品ですから。その中でも、脚本に格別の興味をいだいたのは理由があるのでしょうか?
會川
ファンコレが台本の表紙を多く載せていたので、誘導されたのかもしれません。大きかったのは、作品リスト中の脚本家の名前です。ちょうど昭和53年はNHK大河ドラマが『黄金の日日』で、初めて架空の人間を主人公にして歴史から逸脱した点に、今までとは違うなという印象を受けていました。その脚本を担当された市川森一さんのお名前を意識していたところに、『ウルトラセブン』のリストでも同じ名前を見て、描かれていることを互いに照らし合わせると、「ものすごく一貫してるな」と思ったわけです。
――大河ドラマとウルトラシリーズに、リンクができてしまったと……。
會川
それは想像力を羽ばたかせて現実から翔ぼうとする、不可思議でファンタジックな要素が入った点です。作家の仕事として統一感があるのがいいなと思いました。それと家にはまったく映像的な要素がなかったんですね。8ミリ(フィルム)を回したこともなかったし、自分用の(スチル)カメラさえなかった。画を撮ること自体に興味がいかないし、方法も思いつかない。入学した早稲田の中学校には映研(映画研究会)もなかったくらいで、中1、中2のときにできることは、文字を書くことだけだったんです。
――脚本の教科書みたいなものは、読まれたのでしょうか?
會川
実はその手の本って、今に至るまで読んだことがなくて……。とにかく脚本の実物を読む。そこにこそ興味がありました。
――でも、シナリオ集はまだ出版されていない時期ですよね。
會川
再放送もなくなっていたから、ウルトラシリーズを観るなら上映会に行くしかない時代でした。若い方たちには分かりにくいと思いますけど、日曜日ごとにいろんな大学のサークルが特撮のプロダクションから借りてきた16ミリフィルムを上映して、人を集めていたんです。そこに行くと自分より少し年上、高校生か大学生のマニアの方々と出逢うんです。そのころやたら「トレード」という言葉が流行ってまして、「僕のソフビ人形と君の脚本をトレードしましょう」みたいな感じで、円谷プロ作品の印刷台本も取引されていました。だから脚本は手の届かないものではなく、頼めば見せてもらえるものになりました。たまに喫茶店で見せてもらった機会には、脚本を頭の中に焼きつけたりして。さすがに譲ってはくれないし、表紙が折れて痛むからコピーも禁止という(笑)。
――その分、熱心に読みこんだのが、今につながってるのかもしれませんね。
會川
どうしても欲しい『帰ってきたウルトラマン』の脚本だけは、仕方がないので家に残っていたソフビなど玩具をトレードに出して入手しました。そうやって知り合った中に、ものすごく有名な脚本コレクターがいて、その方は貸してくれるしコピーもOKだったので、ガンガン読みまくるようになっていきます。それと、神田の神保町にある古書街です。当時は埼玉の草加から早稲田へ通学してましたが、九段下で降りれば神保町は通過点になるんです。それが分かったきっかけは、兄から「今度『宇宙船』(朝日ソノラマ)という特撮雑誌が出るぞ」と教えられたからですね。
――私もアニメの記事で参加したその創刊は、1980年でした。
會川
以来、学校の帰りは神田に寄る。場合によっては御茶ノ水、秋葉原、上野まで歩く。そんな毎日を、高校卒業まで続けるようになり。売っていた台本は、役者さんやスタッフの放出品だと思いますが、時代劇や大河ドラマ、刑事ものなど、お金はなかったけど何とか買うようになって。つまり、あまりに台本がいっぱい積んであるので目的がズレてしまい、台本そのものが欲しくなるようになっていくわけです(笑)。やがて倉本聰さんの『北の国から』がきっかけで脚本ブームが起きて、市川森一さんの脚本も書籍として読めるようになっていきます。他にも早坂暁さん、山田太一さん、向田邦子さんの脚本が活字で出版されて、その時期が自分の高校生時代と重なるはずです。だから実物を読んで学ぶというやり方ですし、しかも書き方自体を真似することもやらなかったですね。
超人総登場、『コンレボ』企画時の発想
――非常に興味深い経緯です。この辺で原作も担当されている最新作『コンクリート・レボルティオ』の具体的な話題に移っていきたいです。
會川
最初に企画を思いついたのは、もう20年近く前になります。アメコミ(アメリカンコミック)におけるクロスオーバーイベント(単独タイトルをもつヒーロー複数が絡む作品)みたいなものを日本でもやってみたい……それが出発点でした。なぜなら特撮・アニメなど日本のヒーローものは、ひとつひとつ似ている要素が少ないからです。その異質なものが全部ぶつかると、かなり面白くなるのではないかと。とりわけ特撮ヒーローは有名シリーズ以外、新作がほとんどつくられなくなっているので、その状況にも対抗したかった。そうしているうちにアメリカ映画の『アベンジャーズ』がヒットし、日本に根づかないと言われていたアメコミにも、多少は読者が増えていきます。それと複数ヒーローもののオリジナル作品『TIGER & BUNNY』もヒットしましたし、今では『聖闘士星矢』や『キン肉マン』も同じ文脈で読まれるようになっていますよね。
――たしかに「ジャンプアニメ」というよりは、近年そっち方向ですね。
會川
そんな状況で前々から考えていた企画のままだと、意図が不明瞭になるだろうと。それに自分もある程度歳を重ねたこともあって、ある種の批評的な視点が必要だと考えました。まさにヒーローが生み出されたその時期……昭和40年代のTVの状況そのものをフィクション化する。そういう試みはできないかと。自分でも「仮面ライダーって何だろう?」「戦隊とは?」みたいな本質を、おぼろげに考え始めた時期でもあったし。それで年表的に作品を割りつけてみると、いろいろ気になることが改めて見つかるんです。たとえば『ゴレンジャー』の第1話を確認してみると、明らかに軍事組織として設定されている。
――ギャグっぽい集団ヒーローものという印象ですが、確かにそうでしたね。
會川
ただし作り手側は、あまり深く考えていなかったと思うんです。でも結果的に『ゴレンジャー』が大ヒットするのと同時に、『仮面ライダー』や『ウルトラマン』など他の特撮シリーズは息の根を一度止められてしまう。ゴレンジャー以前の特撮・アニメのヒーローものって、ほとんどの主人公が反体制でアウトローでした。『仮面ライダー』は会社的な大組織が敵で、そこから離脱した人間がヒーロー。『ウルトラマンシリーズ』は、体制内に正体不明のヒーロー宇宙人がいる物語。でも『ゴレンジャー』は、敵も味方も一応は軍隊だから体制なんです。これはビル爆破やハイジャックなど一般市民に迷惑をかけるテロ活動が続いていたから、すでに反体制はカッコよくないという、時代の空気が子ども番組に反映したのかもしれない。ゴレンジャー登場が昭和50年(1975年)で、以後中断をはさんで40年も続く盤石のスーパー戦隊シリーズを築いていく。まさに大転換です。でも、これを評論にしてもあまり面白くならないであろう。であれば、自分の考えたヒーローものに対する批評的な考え方を、フィクション化してしてみようと。他の部分も含めて、そんな風に意識的に入れています。
――「元ネタ」というのとは少し違うと感じていたのは、そうした批評的な考察が組み込まれているからなんですね。先ほどのお話だと、小学生の3年ほどのブランクをおいてヒーローを並列化して見られたようですから、そんな気分も反映していませんか?。
會川
ほとんどの男の子は「これが一番好き」とか考えてなかったから、もともと並列でもありますね。もちろん、自分なりに偏愛している作品はあります。ピー・プロダクション作品や『ライオン丸』をモチーフにするときは、「これだけは自分がやらないと」という妙な使命感がわいて、異様に気合いが入ってますし(笑)。若いときにピー・プロの引っ越しを手伝い、鷺巣(富雄)さんというつくり手に直接出逢ったから、多少なりとも気持ちが近いんでしょうね。その点では『コンレボ』は「どれぐらい並列にできるか」という実験でもあります。音楽もGS(グループサウンズ)とコミックバンドを並列化しましたし、野球選手もそうしたかった。でも、敵味方、打者もピッチャーも全員超人能力を持っているとなると、『アストロ球団』になってしまうわけで(笑)。やらなくて良かったです。
――現在、第2期「THE LAST SONG」が放送中です。第1期との違いはありますか。
會川
2期はフォーマットが確立していて、ゲスト超人の特徴を立てた回が多いです。超人課が何か事件を追って行った先に、必ず爾朗がいて邪魔をする。敵対する両者の綱引きの対象となるのが、毎回のゲスト超人。そういう構造です。中島かずきさん(16話)、辻真先さん(17話)、虚淵玄さん(20話)と他のライターさんには、そういう分かりやすいフォーマットを提示してお願いしました。そこさえつかんでもらえれば、見やすいかと思います。先の『帰ってきたウルトラマン』にしても、単に毎回違う怪獣が出ればいいわけではなく、MATが事件を追っていたら怪獣が出て、それをウルトラマンが倒す……という安定したフォーマットがあります。その上で怪獣の特徴が変わるから、毎週毎週観ていられる。一種の安心感ですね。『コンレボ』でも「今回はどんな超人が何をするのかな」というところに焦点を絞って、1話完結の面白さをぜひ楽しんでほしいですね。
――6月末には、全体の最終回を迎えます。伏線の多いストーリーは、どこへ向かうのでしょうか。
會川
最後の数話はゲスト超人も出ないし、フォーマットも適用できませんが、「これまで登場した超人をどこまで拾って描けるか」に挑戦しています。ゲスト超人たちは、本来全員が単独の主人公番組が持てるような存在で、むしろ爾朗と超人課は狂言回しでしかない。ゲストたちが主人公格であるというところ含めて、「なるほど、こういうことだったのか」という仕掛けを最終回に向けて散りばめていますから、存分に楽しんでもらえればと思っています。
『コンレボ』の手応えと情報量の多さ
――ここまで放送された分で、手応え的なものは感じてますか?
會川
こちらが「これは分からないかも」と思って書いている部分も、実は届いていることが多いので、ものすごくありがたいなと。水島監督には脚本として完成させた状態で投げていて、特に画と音に関しては水島さんの側でつくってもらっていて、そこは自分でも「こうなるのか」と楽しみな部分です。オリジナルのアニメ企画は、本当に何もないところからひとつの世界を提示できるのが、最大の魅力だと思うんです。実写だと、どこか現実と地続きの世界観だったり、未来SFや時代劇など別の世界を借りるしかない。『コンレボ』の場合は、昭和の時代を借りているようでありながら、そこに別のレイヤーをかぶせることで、独自の世界をつくることができたと思っています。それは僕や制作スタッフの世界というよりも、お客さんたちにとって居心地の良い世界になっていればいい。いつでも入っていけるような世界に見えていたらいいな、と思っています。
――配信でオンエアからすぐ観られることについては、どうでしょうか。
會川
視聴環境の多様化は痛感していますね。アニメ配信が普及した結果、作り手の思惑とは無関係にさまざまな環境で観られていくわけです。ハイビジョン化が進んだ時期のように、どんどんクリアになって細かい部分も見せられるぞ、となったのとは逆に、条件が悪くなった部分もあります。大型テレビだけでなく、ノートパソコンやスマートフォンの小さな画面で観られたりする。今後は情報量の多い作品を送り出すリスクも、高まっていくでしょう。ただ、バンダイチャンネルでもたくさん配信していただいている80年代OVA、自分のデビューした時代のテイストは、高密度化に乗ったものでした。当時の若いクリエイターたちはTVのスケジュールを守るための手法に縛られず、コンテまで深く関わって画面の密度を上げていった。それがお客さんに喜ばれたのは、レーザーディスクの高画質と大画面TVが流行したおかげでもあったんですよね。
――昨今、『戦え!! イクサー1』(85)を筆頭に、80年代OVAにあった熱さや勢いが若いアニメスタッフやファンにも見直されています。
會川
自分はその時代から今まで、画面密度も脚本の情報量もどんどん上げていくのが当然だと思ってずっとやってきました。いわゆる「日常系」がブームになったときにも、画面の情報を抜いたり落としたりする方法に馴染めなかったくらいです。それが配信の時代を迎え、さらなる変化を始めた気がします。単純に情報を上げたりすることが、無意味になっていくのか、逆に副次的な情報を求められるのか。ここ数年で答えが出るでしょう。かと言って、「副読本」「データ放送」「ネット連動」とか、そうした方向のサービスはいずれも成功していませんし……。
――付加価値を高めるので成功したのは、オーディオコメンタリーぐらいでしょうね。
會川
今回もお客さんが、サブテキストを欲しがっていることは実感しますね。案外、地上波放送でリアルタイムのオーディオコメンタリーをやるのが、正解かもしれない。そうした点でも、『コンレボ』は自分が関わってきたOVA以来、進化し続けてきたアニメのひとつの頂点になったと感じられる作品です。
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