――さて、バンダイチャンネルで配信中の作品リストで言及したいタイトルがあれば、ぜひお願いします。
- アミノ
- さっき言った「悪」で困ったのは『イ・リ・ア ZEIЯAM THE ANIMATION』です。ゼイラムは善悪関係ない単なる破壊者で、やたら強い存在で。あれと戦って倒すのをどう描いたらいいのか、かなり悩みました。破壊をひたすら見せるという手もあるけど、ただのモンスターものと違う部分を見せたいしと。だから主人公のイリア中心にカメラを振りましたが、けっこう面白い試みになりました。雨宮(慶太)さんが「こんなの」って描いてくる小物や背景など、ちょっとした絵が上手すぎて困ったし(笑)。アニメーターが再現できないんですよ。しかも全部筆ペンで。僕も真似して、一時期コンテも筆ペンを使って描いてました。
――何年か前に見ましたが、アクションも見応えがありました。
- アミノ
- アクションには、こだわりました。それと当時、ノンフィクションを読んでまして、ブラジルのストリートチルドレンがかわいそうだなと思って、孤児っぽい子を出しています。ただし現実はもっとシビアなのでなかなか活かせませんでしたが。
――そういうリアルな本は、かなりお読みになる方ですか?
- アミノ
- ズシッときちゃうので、たまにです。ベトナム戦争ものや人身売買の話とか、平和な日本にいると、なかなか実感わかないですが、これが事実なんだなと思いつつ、でも何かできるかというと、なかなかできないんですよね。そんな屈折を抱えながらアニメーションを作ってるんです(笑)。
――そういう話って先ほどの「本当の本物」にもつながってますね。
- アミノ
- いわゆる「ヒーローもの」をやるときも、「娯楽だからセオリーだけでいいじゃん」という部分と「それだけだと残らないんじゃないの」という部分と、いつもそれで葛藤してますね。残らない以前に「誰も見ない」という選択肢もあったりするので、難しい。いまだに悩んでます。
――監督の代表作『
マクロス7』(93)も、先日バンダイチャンネルで「みんなでいっしょに見よう※」という企画がありまして……。(※パソコン向け企画)
- アミノ
- どんな企画ですかそれは(笑)。
――チャットしながら4話まで鑑賞したんですが、すごく面白かったです。やはり長年の熱心なファンがいる印象です。
- アミノ
- そうですか。マクロスは今でも次から次へと続けてますよね。そういう中で『マクロス7』はもはやクラシックの世界に入ってますけど。ただ、その後のマクロスに何らか影響を与えている部分もあるかもしれませんね。
――河森正治さんも『マクロスF』の時に取材したら「『
7』やっててよかった」とおっしゃってましたし、確実に幅は拡がったでしょう。
- アミノ
- それはそれで、良かったなあと。河森さんは並行して『マクロスプラス』をやっていたので、そっちに野望を注ぎ込んでいたかもしれませんしね(笑)。
――河森さんからは、どんな注文があったのでしょうか。
- アミノ
- 大まかなストーリーと登場人物の配置は、わりとガッチリしたものが出てきました。展開というか演出上のものはこちらでやって、個々の設定も僕が微妙に変えてしまったようです。むしろそこは自由にやってくれと、河森さんはそういうスタンスでしたね。一番違ったのは敵側でしょうね。ガビルという若い男の子がいて、当初は「美しい!」が口癖のキャラでしたが、そういう美形キャラ的なのは古今東西あるから、やめようよと。その結果、単語に「美」をつけて叫ぶという、わけのわからないことに(笑)。
――あれはよく覚えてます(笑)。
- アミノ
- たったそれだけでガラッとキャラクター変わるんですよ。「美しい!」っていうのと「破壊美!」では、まるで違いますから。どうしてもそういうことがやりたくて。あとはシビルですね。悪女の親玉的な存在というかクイーンで、これもお決まりのスタイルがあったんですが、ネコ系のキャラだなと思って「言葉がわからない」という感覚でいきました。助監督の藤本(義孝)くんが言ってましたが、「絵になって声が入って動いてみるまでは、何をやりたいか分からなかった」と。だけど、その分からないキャラに付きあってくれたスタッフってすごいなと思います。今では説明して相手が理解しなかったら、「そんなキャラやめて」でしょうし。
――キャンセルになっちゃうんですか。
- アミノ
- やはり、みなさん常識の中で生きてますからね。でも、常識の中で理解できるキャラって限られてしまう。常識からハミ出したものをすべて排除してしまったら、新しいキャラは絶対生まれない。新しいというか、むしろ「違うキャラ」ですかね。それを見つけ出したいというのが僕の気持ちなので。じゃあ僕自身、自信があるかっていうと、決してそうではない。でも一度やったら、最後までやろう。そんなお試し的な考え方が許されてたのが、一番大きいですね。
――これも4クールものです。近年は長くても2クールですから。
- アミノ
- マクロスなら本当は三角関係がなくちゃいけなかったんだけど、『7』はあまりなかったですね(笑)。何かと掟破りなシリーズではあったかもしれませんが、マクロスシリーズのお仲間に入れさせてもらってるのは大変ありがたいです。
――第1話から、戦わずに歌ったのにはビックリです。
- アミノ
- あれは決まってたことで、僕が引き受けた理由もそこなんです。「戦闘のときに歌います」と言われた瞬間、「それって面白いなあ」と(笑)。途中で1回か2回はミサイル撃ってますが、「あまりやりたくないなあ」なんて。
――それでもバサラはブレずに1年走りぬけた印象があります。
- アミノ
- あれはさすがに王道とは言えないなあと。邪道だとは思いますよ。さっき言った主人公の成長物語とかも……。
――バサラも成長しませんよね。
- アミノ
- 成長物語的なものを入れる話もあったんです。幼いころのバサラを深く掘り下げようとか。でも、それはやりたくなかった。今ここにいる主人公を見ようよと。
――主人公がブレないことにより、まわりが変わっていくのは『
アイアンリーガー』と共通しています。
- アミノ
- やっぱり引っぱっていくというか、引きずっていくというか。「しょうがない、こいつと行くしかない」っていう(笑)。もう、こいつが暴れ始めたら黙ってるしかないと、そういう感じになれば成功かなと。
――放送中、すでにパソコン通信がありましたが、「毎週毎週同じように見えて、ちょっとずつ変わっている。ハッと気づくとものすごく変わっている。そこが現実っぽい」という意見があって、その感覚が新鮮でした。
- アミノ
- それはシリーズ構成(富田祐弘氏)のがんばりでしょうね。もちろん『7』も大勢で長い時間をかけてホン読みした作品で、あえて反対意見を出す人がいたりする中で練っていった作品です。キャラクター原案は美樹本(晴彦)さんですが、桂(憲一郎)くんの独特な絵柄がマッチしていました。そんな中、あまり恋愛やっててもしょうがないかなって部分もあったし。『アイアンリーガー』が男臭かったので、自分の中に影響が残っていたのかもしれません。
――あと印象的なのは音楽です。いわゆる劇伴、BGMを使わず「現実音」だけにするという方針は、どのあたりから?
- アミノ
- あれはもう、真っ先に思ったことです。主人公が歌を歌ってバンドであるというときに、BGMの必要な理由が僕にはどうしても分からなかった。音響打ち合わせを何度か重ねていた時に、「BGMなしで行きたいんだけど」って言ったら、みんなハッとするんです。でもみなさんすごいんですが、「そういうやり方もあるかもね」みたいに半信半疑ながらも受け入れてくれた。佐々木史郎さんという、今もフライングドッグでマクロスをがんばっている方が、なんとOKしてくれたわけです。あの踏ん切りはすごかった。だってセールスを抱えてるわけだから、売れなかったら全責任引き受けるわけですよ。後で聞いたら、さすがに緊張してたそうですけどね。
――やはり新しいことって、そういう緊張感から出てくるんですね。
- アミノ
- 今思うと、何なんだったんでしょうね、あの協力性は。みんなが冒険家だったのかもしれません。そういう部分が功を奏しました。時間もかかりましたけどね、あの音楽セッティングには。
――そうか、Mライン(どこからどこまで音楽を流すかという設計)も、まったく普通じゃないわけですね。
- アミノ
- そうなんです、全部違いますから。あの当時はヨンパチという、48トラックあるテープを回してましたが、全トラック使いきって足りなくなっちゃうんです(笑)。壮絶でした。カッティングで徹夜した後、ダビングで徹夜ですからね。よくやったなあと。
――不思議な現実感があります。BGMのないアニメ世界ってこうなんだと。
- アミノ
- わざわざ変なフィルターかけて、どこか遠くのスタジアムからかすかな歌声が聞こえるようにしたりとかね(笑)。今のいいスピーカーで出してみると、もっとよく分かるかもしれません。
――作画も全部合わせるのが大変だったんじゃないですか?
- アミノ
- ただ、当時の音楽合わせと今の音楽合わせはレベルが違いますけどね。
――ビヒーダのドラムスティックもちゃんと合ってますし。
- アミノ
- あれは効果さんが画を見ながらパチパチパチパチって入れてました。STOMPというスティックでドラム缶とか非常階段の手すりとか叩くグループを参考にして、セリフの代わりにスティック叩くという。あれも「お試し」ですよね。
――「花束の少女」もすごく心に残りました。監督のアイデアですか?
- アミノ
- ええ。あれは本当に初期のころ、「花束をいつも持ってくるんだけど、あげられない少女がいたりして」って話していたら、美樹本さんがキャラ原案を描いてくれたんです。それでいきなりレギュラーですよ(笑)。
――途中から、「今週はどんな理由で渡せないのかな」って楽しみにしてました。
- アミノ
- 渡しちゃうプロットにした河森さんが、真っ先に「ごめんなさい、渡しちゃいました」って謝りに来ました(笑)。しょうがないですよ、原作者ですから。