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UPDATE:2016.8.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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半透明と光でロボット表現の先端に挑戦
――CGにしたのは、ロボットが透明で光で形成されているからですか?
下田
もちろん作画だと大変ということもありますが、いずれロボットは全部CGになると読んでいたことも大きいです。「だったらその先鞭をつけよう」と原作者の伊東が2002年ぐらいに言い出し、サンライズとしてもロボットもので技術を蓄えたいという動機もあったと思いますし、もともとゲーム企画だった関係もあるかもしれません。光装甲という設定で「宇宙一美しいトランスルーセント(半透明)のロボットをやりましょう」というコンセプトでしたが、なかなか発光具合がうまく出なくて(笑)。
――単に透明なだけではなく、内部も光っているからですか?
下田
そうなんです。素体だけではなく内側も光っているし、しかも外の装甲も光らせようということですから。CGと撮(影)処理と両方組み合わせて発光させていますが、16レイヤーぐらい重なっているんです。今だと3、4レイヤーで済むので、レンダリング時間も大幅に減りました。原作者は「機体番号やチームのマークも入れたい」と言ってましたが、当時はどうしても技術的な制約や撮影時間の関係で、これが精一杯でした。
――特技監督と演出で参加されている、わたなべぢゅんいちさんは、この作品の直後に亡くなられて残念でした。
下田
彼も専門学校の同期で、北爪さんの卒業制作チームに入っていました。倒れる前の日までいっしょに仕事していたので、夭逝は残念ですね。おそらく彼が一番最初に同期では監督というポジションに就いたと思います(※初監督はOVA『学園便利屋シリーズ アンティークハート』)。モンスターデザインでも名前が売れていましたが、卒業後はしばらく会っていなかったんです、それが伊東の原作でプロモーションビデオをつくるとき、僕が絵コンテ描いて、なべさんが撮影するということで、ひさしぶりに会ったんです。その時、すでにスタジオの自分の周囲にパソコンをズラリと置いて、デジタルに関しては相当先に進んでいる状態だったので、『ゼーガペイン』に入るときに「いっしょにやろうよ」となったんです。僕が脚本をまとめて絵コンテまで完成させたら、「なべさん、画づくりよろしく!」と渡すと3Dと2Dのマッチングを考えてくれて、「こういう画にしていこう」と演出打ちをする。それを僕が編集するという進め方でしたね。「なべさん次の仕事もいっしょにやろう」と言ってた矢先だったので、残念です。
――画づくり全般の中でも、ロボットバトルもすごい経験値のある方ですよね。
下田
発進シーンなどは、なべさんのコンテですしね。演出も1話からやっていただいて、後は最終回もやってほしかったんだけど、特技監督、つまり2Dと3Dのマッチングに特化したいということで、1話だけになってしまいました。存命なら『ADP』も画的な内容は変わっていたでしょうし、作りたい作品もあっただろうし、見てみたかったですね。
10年間愛される理由は惜しみないサービス精神
――物語的にも、サーバー内にデータとして存在しているという仕掛けは、まだ世間が追いついていない時期ですよね。
下田
だと思います。なのでなるべくバレないように気をつけたんですが、いろんなところから漏れてしまい(笑)。原作者が海外のSFも勉強していて、量子コンピュータを突きつめたとき、こういう形ならロボットに落とし込めると。
――つい先ごろ「量子テレポート」が記事になり、時代が追いついたなと。
下田
そういえば「10年たっても古くならないものを作りたい」とよく言ってました。
――バンダイチャンネルの配信は、光ディスクではなくサーバーにアップロードされている『ゼーガペイン』のデータを鑑賞するわけですよね。作品とメタな形で響き合ってて、グッとくるなと個人的に思ってて。
下田
言われてみれば、それは感慨深いですね(笑)。当時はそこまでは予想してなかったです。当然、DVDを売るというのが前提でしたから。
――監督から見て、10年間愛されてる理由は?
下田
気持ちの部分までは分かりませんが、やはりスタッフ一同のサービス精神の賜物だと思いたいです。ライターさんもお客さんを楽しませようと惜しみなく考えぬいて脚本を書いてくれましたし、作画もがんばってくれたし、ロボットも当時の技術でギリギリ粘って動かしてくれたと思います。散りばめた要素の中から、誰でも何かしら引っかかるところが2~3ヶ所はあるのかなと。
――そうしたサービス精神の中には「予想を裏切る」ということも入っていますか?
下田
みんなが考えそうなことは出しても仕方がないので、みんなが考える以上のことをやらないと。そういうことは考えましたね。足元をすくうのは意地悪ではなく、何かしらビックリさせたいからです。ホン読みって通常は担当話数の人とシリーズ構成と数名だけなんですが、他の話数のライターさんも参加してくださるんです。「次の話数が自分だから、ここはこういう風にしたら」みたいにアイデアいただいたり、みんな楽しんでましたね。この間も関島さんに「ホン読みは楽しかった」と心から言ってもらいましたし。だいたい音頭とって場を暖めるのは関島さんで、とにかく人の心をつかむのがうまいんです。周りがそれに乗り、僕を神輿に担いでくれる。そんな感じのお祭りでしたね。
――監督にとっても一番意外な展開になったのは、どの辺でしょうか。
下田
それは第25話(舞浜の空は青いか)ですね。量子サーバーの中にゼーガペイン・アルティールを登場させて、これまで知られていなかった戦いが、他のみんなも知るところになる。ロボットものとしては王道の展開ですが、現実とサーバーが分かれているから無理だと思っていたんです。でも、村井(さだゆき)さんがこのアイデアを出してきたとき、原作者も「エイリアスという形で登場させられる」とSF考証的にも問題ない形にしてくれたので、完成したシナリオを読んだときには泣いてしまいました。だって、それまで主人公たち数人かしか知らなかった秘密の戦いに、日常生活を送っていると思ってた人たちが気づいてしまう、そんな展開ですから。
和気あいあいとしたアフレコ現場
――主演のお二人も「原点」になって良かったですよね。当時はどんな感じでしたか。
下田
浅沼晋太郎さんも花澤香菜ちゃんもここまで成長するとは、ビックリですよね。浅沼さんはアフレコが初だったようですが、「本当か?」と疑うぐらい最初からうまくて、ベテランの役者さんたちと並んでも全然遜色なかったです。人懐っこく、皆さんに可愛がられてました。キャスティングマネージャーをお願いした方に出してもらった候補の中で、一番初々しいというか、新鮮味があったんですよね。みんなが初めて聞く声として悪くないなという印象で選ばせていただきました。
――花澤香菜さんは?
下田
周囲をきちんとしたベテラン声優で固めたかったので、むしろ「リアルな高校生」が欲しかったんです。それでキャスティングマネージャーは、一度会った人のことを絶対忘れないという特殊能力を持っているので、何年か前に14歳だった香菜ちゃんのことを思い出して呼んでくれました。子役だったので演技はできるんですが、声優はほぼ初に近いし、ヒロインも初めてです。どうなるか分からないところが面白そうだなと。
――賭けてみた感じですか?
下田
才能を見抜くというより、単に好みだっただけなんです(笑)。「癒やされる声だなあ」と思って、これが毎週聞けるなら自分は嬉しいという理由でした。香菜ちゃんの感情を乗っける芝居は、すごく良かったです。むしろ最初は口に合わせて喋ろうとしすぎていたようで、棒読みと思われてしまったんですが、後半は画が間に合わなくなってボールドが出なくなったら普通に芝居ができたので、最初からこれでやれば良かったなと。
――段々キャラが切なく成長する感じもあって、良かったと思います。
下田
そう言っていただけると。役者さんに関しては、キャスティングマネージャーと音響監督の明田川仁さんに安心してお任せすることができました。アフレコ現場は新人もベテランもみんな和気あいあいで、アフレコ後はみんなで飲みに行き、僕も何回かつきあいました。話題の中心は「この先を知りたい」と(笑)。全部話すわけにはいかないので、徐々に説明していきましたね。実は主人公たちをどうするかは全然決まってなかったんです。関島さんなので絶対ハッピーエンドではあるし、僕もハッピーエンドであって欲しいと思ってました。でも、最後の最後までギリギリ決まらないまま進んでいて、2パターンしかないなとは思っていたんです。主人公だけ肉体を持って終わるのと、その逆パターンで、主人公だけ肉体を持てずにサーバーの中に残って終わるのと。どちらにしても主人公とヒロインが手を触れることができない状態にして終わろうと。見続けてきたお客さんが、「その先絶対どこかで復活して2人が手を取りあえるだろう」と想像していただける作りにしたかったんです。そうした「切なさ」をどう描くかは、僕も原作者もライターさんも、ずっと考え続けていましたね。
――題名に入っているペイン、痛みというキーワードはどう考えていましたか?
下田
単なる肉体の痛み、心の痛みだけではないんです。結局は戦争ものですよね。戦争を経験していない世代に戦争を描けるかと言えば、いや描けるんだと。なぜなら日常生活でも戦争は起こっていて、生きるために戦っているようなものなんです。戦えば痛みは絶対生まれる。その人間の原初の感情に近い痛みを打ち出していきたいと。そんなことを一番最初に話し合った気がしますし、だからタイトルにも残ってると思うんです。キーワードも、「忘れるな、我が痛み」ですし。
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