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UPDATE:2017.1.30

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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「デジタル作画」で新しい表現を獲得
――神山監督は、アニメーション制作においても、常に新しいことにチャレンジしている印象があります。
神山
今回のチャレンジは、紙をやめてタブレットで手描きの作画をする「デジタル作画」です。3DCGのモーションデータに直接手で上書きしていて、なじみも良くなっています。初期段階から完全デジタル化のためのワークフローを考えつつ、劇場作品をつくっていくことに挑戦しています。演出的には絵コンテを縦に5コマの用紙に鉛筆で描くのをやめて、最初からデジタルで描くということが、大きな変化でした。ストーリーボードプロというアプリケーションを使って、描いた瞬間から尺どおりのムービーにしていきます。それに自分たちで声をアテて軽く編集していく。できた作画で次々に差し替えるので、常に全体像をムービーにして把握できます。スタッフ全員が完成形を想像しやすくなり、合議制で意見を反映することもできて、現場が大きく変わりましたね。デジタル化の進んだこの20年間、デジタルの恩恵に一番遠かったのが作画と演出でしたが、ようやくフルデジタル化できました。
――作画の部分は『鉄腕アトム』(63)のころと半世紀以上変わってないですからね。
神山
そうなんです。進化とまで行かないにせよ、少しだけ新しくできた。フルデジタルで面白いのは、今ではやらなくなっていた昔のテクノロジーが復活したりすることですね。ひとつは実写をタブレットで引き写すロトスコープ。リアルさがほしいけれど、時間的にそれほどこだわれない部分、たとえば料理をつくる描写に使っています。デジタルで実写をなぞるのは、わりと簡単に早くできて効果的だと分かったからです。もうひとつは録音と編集ですね。最初は自分の声を入れて、もうすこし演技できる人に換え、最終的には役者さんという順番でアフレコしました。演じる方も、迷いがなくていい部分があるようです。作業としてはプレスコに近い形です。音声が先にあるので、編集後に作画しているので、作画陣もセリフの尺で迷いがなくなりました。デジタル化が進むと、必然的にいろんなやり方が見直されるなと実感しました。
――ロトスコープも、岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』(16)など、実写の監督が使っていて効果をあげています。長濱博史監督のTVシリーズ『惡の華』(13)も先に実写ドラマを撮ったと聞きますし。
神山
いろんな使い方ができると思うんです。人間でなく3Dモデリングでやればどうなるかとか、今後試してみたいですね。アニメーションは本来「描いた絵を動かすことそのものが面白いからアニメをつくる」ということでしたが、今や「絵を描く作業から苦行を取り除かないとアニメをつくれなくなっている」という禅問答のような状況に陥っているので、それを打破する意味でもデジタル化を進めていきたいと思います。
――手応えはいかがでしょうか?
神山
予告編用に数カットが色つきで上がってきたとき、「やっぱり手描きっていいな」といろんな人の反応が全然違っていて、改めて魅力を感じました。作業的にも3DCGを紙に出力して修正原画を乗せて描いて、それをトレスして動画にして、さらにスキャンしてデジタルにする、あの不毛な作業のストレスがない。特に動画の線がきれいなことの喜びは、3DCGがきれいに動くのともまた違う良さがあります。3Dとの境界も均一化されますし、動画の描き手によって線が変わることも少ない。劇場作品はスタジオに負担をかけるので、デジタルのインフラを整備することで作りやすい環境、次も作り続けられる環境を残したいという想いもあります。
――タブレットで直接フィルムを触ってる感覚からも、いろんな可能性の広がりがありそうですね。
神山
あると思います。僕も早い段階でモブや車だけ3DCGにするなど手描きとのハイブリットでやってきましたが、一回紙に持ってくる作業で時間をロスする部分が本当にストレスで、その辺りは改善されてきています。原画マンもトライアル&エラーをしやすくなりましたね。紙だと途中までいって一部ダメだと「失敗した!」と全部ダメになってメゲるのですが、コピー&ペースットすれば「一部分は使える」と救済できる。そういうことで省力化できるんですね。
 ただ、一番いい線を引く感覚については紙から遠い部分があるので、その点では苦労していました。そこは今後の課題ですね。絵コンテのデジタル化はメリットばかりで、全カットのシート(タイムシート)チェックも最大一日50カットできた。圧倒的に速くなりましたね。これは紙とストップウォッチでやってたら無理な分量です。そうやって稼いだ時間を他の作業に回すこともできました。
瀬戸大橋と日本の原風景との対比
――制作現場のシグナル・エムディでは、監督の席の周りに海外の方がたくさんいらして、国際色豊かなスタッフ編成です。
神山
フランス人スタッフが多く入っているのは、今回の特徴ですね。かつてフランスでは日本のアニメのブームがあったそうで(編注:「水曜日のアニメが待ち遠しい:フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす」トリスタン・ブルネ著、誠文堂新光社に詳しい)、その世代の人たちが多く参加しています。アニメを作りたいと思ってもフランスでは難しいので、来日してスタジオに入った方もいるし、スカイプで向こうのスタジオと打ち合わせをしてデジタル作画で送ってもらったりもしています。
 そうすると日本のスタッフが忘れかけていた「とにかく絵を動かしたい」という純粋な情熱を彼らが見せてくれるので、感じいる部分があります。日本のアニメで育っているため、日本っぽい絵を描く人もいて、やはり観てきたもの次第なんだなと思いました。もちろん文化の違いも感じます。彼らはレイアウトに執着があまりないんです。ただ最近は日本でも「レイアウトをきっちり描きたい」みたいな僕らの世代のこだわりは薄れてきてます。
――手描き作品でも3DCGでレイアウト取る作品が増えてますね。
神山
昨今のアニメを見ると、「写真をそのままレイアウトにする」立体を意識するものや、反対に「平面チックな昔風の背景でもいい」みたいな方向性も出てきていますね。「動画を海外に出して崩れるくらいなら、振り向きしない方がいい」とか、おそらく演出段階で失敗を避けるプランになっていっている感じがします。
――そうした風景へのこだわりが変化していく世情の中で、『ひるね姫』では舞台設定を岡山県の倉敷にしています。
神山
異世界ファンタジーの『精霊の守り人』は例外ですが、僕の作品はスタッフが取材できる身近な場所が舞台になるケースが多く、都会が選ばれがちでした。でも、今回は「癒されたいな」みたいな理由で地方がいいという想いがあり、地方の舞台を探していました。それで具体的な根拠もなく、「尾道あたりまで行って足を延ばしてみるか」と車を走らせ、その途中で、瀬戸大橋が見えたので「この辺っていいなあ」と高速を降りてみたんです。瀬戸大橋の本州側のたもとの下津井というところに行こうと、橋が見える方へ見える方へと走っていったら、山の中からパッと視界が開けたときに、すごくいいところだなと。
 瓦屋根の家が山あいのほうにズラリと建っていて、すぐ目の前は港町で、そこにあの巨大な橋のスタート地点がある。高さ自体は上部構造物まで入れると200メートル近くあるんですが、「特撮の怪獣って、こう見えるのかな」みたいな感じで、思わず車を降りて寄り道したんです。町と言っても小さめで、「お好み焼き」って手書きの看板があるけど、民家なんですよね(笑)。店のひとがおしゃべりをしてて、時間がすごくゆっくり流れてる感じがする。だけど瀬戸大橋みたいな人工物もドカンとある。この対比がすごく良くて、ここなら舞台にできるかもしれないっていう想いがきっかけでした。勝手知ったる自分の故郷でも良かったんですが、逆に自分自身も知らない町でのんびりしたいなあということで、下津井になったんです。
――ロケハンは、その後ですか。
神山
そうですね。自分もその後2回ぐらいスタッフを連れて行きました。美術スタッフだけでも何度か行ってます。
――地元との連携は?
神山
具体化するまで特に話はしてませんでしたが、地元の倉敷の方で主人公と同じ制服を作ってくださり、試作品があがってきました。普通、アニメの再現性を高くするとコスプレっぽさが出てしまいますが、生地からあんな柄に織るとしたらこうなりますよと、本物の学生服を作ってる方がそこまでやってるので、出来はいいです。制服貸し出して聖地巡礼とか企画してくれているみたいですが(笑)。作品は聖地巡礼メインではないので、先に盛り上がり過ぎると、こちらとしては申し訳ない感じですけど。
――アニメの舞台に瀬戸内海周辺は多いですよね。何か理由はあるのでしょうか。
神山
たまたまだと思いますが、異様にフィーチャーされますよね。行ってみて分かったんですが、日本の地中海と言われるだけのことはあって、ものすごくおだやかですし、海育ちじゃないのに、日本の原風景を見る感じがした。海からすぐ山になって、畑がある。すごく穏やかな海にはお椀をひっくり返した『まんが日本昔ばなし』に出てくるような島がある。海もキラキラしてて。みんなが使いたくなるのは、そういう理由なのかもしれないなと。
――神山監督がそこにたどりついたのも運命的ですね。
神山
寄り道しなかったら他の土地になってたかもしれないし、たまたまですが。あと我々の世代は大林宣彦監督の影響もあります(編注:尾道三部作と呼ばれる『時をかける少女』などの青春映画)。そこで育ってなくても、「故郷だったらいいのにな」みたいな気になる土地柄なんでしょうね。今回「橋」が「世代をつなぐ」っていう点で多少はキーワードになった部分もあります。
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