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UPDATE:2017.5.2

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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豊かな映像空間にあこがれた少年時代
――そうした組み立てができるのも、CGの利点でしょうか?
瀬下
長所だと思います。CGと付き合って長いので、CGの長所も短所も分かっていますから、なるべく長所を活かして、特徴的な個性につなげようとしています。ただ、僕自身としてはむしろ映画少年だったことが大きいかもですね。
――業界に入る前のご経験も、うかがってみたいです。
瀬下
池袋育ちなので、文芸座(都内で高名な名画座)など名画座に行きまくって年100本以上観てた時期があるんです。同時にアニメも良く観ていました。小学校ぐらいのときには『母をたずねて三千里』(76)が大好きでした。好きな部分が他の人とちょっと違うかもしれませんが、高畑勲さん、宮崎駿さん、の描く生活空間の豊かさに惹かれたんですね。最初の何回かは舞台がイタリアのジェノバの街ですが、「なんなんだろう、このアニメは」と、何やら不思議な感覚に襲われるというか、街のどこに坂があってどこに階段があり、どこを主人公のマルコが歩いて、どれくらいの距離で下のほうに行くか、アルバイトで瓶を洗いに行く場所とかまで、街のどこだかを感じれるというか。マルコが家に帰ってきて、台所などの部屋割りの空間も全て感じ取れるんですね。あと、マルコがスパゲッティを用意するシーンになると、「絶対こうつくるんだろうな」って手順もすごく伝わってくるんです。とにかく小さいころからそういう部分に影響を受けています。あと夢中になったのは宮崎さんの『未来少年コナン』(78)で、特に三角塔のシーン(第23話)ですね。レプカが塔からラナを突き出して「怖いか?」ってちょっと変態的に脅すシーンで(笑)、グラッと来そうな怖さを感じた瞬間、コナンが「ラナ!」って下から助けに来る。あの空間の豊かさから生まれる感動は、一生忘れられないです。
――あれは見事なクライマックスですね。風や高さがホンモノみたいで。
瀬下
個々の画面も当然、宮崎監督のすばらしいレイアウトで描かれていますが、小さいころの記憶を思い出すと、「フチ」がなくなっているんです。あの映画のフレームがなくなる力は、すごい。カッティングで切り取っている空間に、都合で多少はごまかしはあるかもしれませんが、コンセプトとして絶対にウソがない。またはウソがあったとしても、絶対に不自然だと感じさせない。だから、ものすごく豊かに見えたんです。そういう影響から、3DCGは「空間が武器でいいんじゃないか」って思うんです。ただし宮崎さんの作品を観ていると、ああいう大天才は3DCGでシミュレーションやらなくても手描きで可能なのは証明されていると(笑)。
――たしかに人間の頭から完全な空間を生みだしてますね(笑)。大友克洋さんにも似た素養を感じます。
瀬下
大友さんとCG監督として仕事されていた安藤(裕章)さんとも一緒に仕事していますが、大友さんは写真見ただけで裏側が描けるらしいんですよ(笑)
――ちょうどブリューゲルの「バベルの塔」の画の内部構造を大友さんが描かれてて、話題になっています。
瀬下
そういう天才たちはちょっと置いておいてですね(笑)。僕たち天才じゃなくても、なんとかCGシミュレーションのおかげで、ちょっとだけ天才に近づけるようになったんじゃないかと。そういう意味で、僕はCGにすごく感謝しています。
――『三千里』は旅ものなので、次の地点に行ったときの風景の変化自体がドラマなのも良かったですね。
瀬下
ホントにすごかったです。オープニング映像もすごいですよね。
――あらかじめ描かれてることが全部起きるんで、ゾクゾクしました。
瀬下
そうなんですよ。オープニングで物語の未来を予言しているわけです。実は『亜人』でそのエッセンスをちょっと入れさせてもらいました(笑)
――『亜人』のときは、ライティングの威力をすごく実感しました。劇場で一本通して観たときの、照明と色彩設計との力ですね。
瀬下
それは嬉しいですね。「カラー&ライティング」はとても大事にしていて、場面設計のときも照明を同時に設計するんです。むしろ照明のために場面を構成するぐらいで、言葉や表層の見た目では感じとりにくいムード、裏側にある感情を、照明のもつ力ですごく表現したいと思っていて。会話をしていて途中でウソをつくシーンがあるとすると、ちょうどウソをつくところで街灯の暗がりにはいったりしたりとか。
――スタンリー・キューブリックが得意なやつですか。裁判のとき、まだらな照明の人がいるみたいな(映画『突撃』(57))。
瀬下
キューブリックは僕の神様の一人です(笑)。『バリー・リンドン』(75)とか、全カットを順番に止めて観てるくらい大好きです(笑)。
――18世紀の蝋燭しかなかった時代のライティングのために、もっとも明るいレンズを採用したという作品ですね。
瀬下
ええ、世界に数本しかないレンズで映画を撮ったとか、すごいですよね。僕が子供の頃はアニメもハリウッド映画もものすごく盛り上がった時期でして、小学生のときに『ジョーズ』や『スター・ウォーズ』(日本公開78年)、中学のときに『シャイニング』(80)や『レイダース』『エイリアン』という世代なので、ジョージ・ルーカス、リドリー・スコット、スティーブン・スピルバーグにキューブリックと、あの人たちに完全に人生を狂わされた感じですね(笑)
新たなジャンルをつくれる3DCGの可能性
――場面設計とライティングですが、簡易なCGモデルで検討されたりしますか?
瀬下
最初はイメージをラフに手描きして、そこからCADに起こします。その時点でキーカラーやキーライティングを意識して、あと地図もなるべく作ります。とにかく「物語は地図から始まる」というくらい、舞台づくりも地図から始めます。
――その地図は登場人物が歩く道のりであり、運命だということですか?
瀬下
ええ。ストーリーはヒストリーですし、ロードマップですから。地図と年表は、ものすごく作りますね。
――空間と時間で押さえるということでしょうか?
瀬下
そうです。物語の時空間を押さえていくというか、基本どおりの手法ですけれど。スタッフ全員が共有してコラボレーションできるよう、ラフからCADで徹底的に作り込むという手順が多いですね。『BLAME!』のときも、とんでもなく広大にしたいなと(笑)、まずそんなスケッチを描き始めていました。
――工場や廃墟みたいな構造物ですが、何かイメージソースがあるのでしょうか?
瀬下
やはり弐瓶先生の漫画に描いてあるエッセンスが原点ですね。先生には「弐瓶ワールドにおけるパイプ」の授業をやってもらいました(笑)。「僕の作品ではパイプや構造物はこういうルールです」と、パイプ描きたくて漫画を描いたんじゃないかというぐらい、いやもう、すごいこだわりなんです。
――アニメ関係者に取材すると、パイプの話は時々出るから分かりますよ。
瀬下
やはりそうですか。パイプとかチューブってメタファーに満ちあふれてるんです。機械でありながら、生き物だと血管や神経に相当するんですよね。
――英語の血管は単に「パイプ」で、同じですしね。
瀬下
ええ。SFというモチーフを扱えば扱うほど、パイプが大好きになります(笑)。
――建造物全体が生き物って感じに見えますよね。『AKIRA』(88)のころ、森本晃司さんたちスタッフは廃工場の写真集を見て楽しんでたそうです。
瀬下
まさに僕が高校生の頃『AKIRA』が連載していましたので、影響は強いです。いまでも設定集をたまに見返して、「ああ、いいパイプだなあ」なんて。日本人としてあの時代に生まれ育ち、大友さんに影響を受けてこられて、「楽しい、ありがとう」としか言いようのない日々でした。弐瓶さんも「とにかくパイプ」って良くおっしゃっています(笑)
――そうした価値観の正統な後継者たる『BLAME!』に注目が集まってほしいですね。
瀬下
マニアックだけど楽しめる、こういうタイプの映画で盛り上がってもらえると、日本のアニメにもっと豊かな選択肢ができると思うんです。「いろんなのがあって面白いね」って言われる、その一翼に加われたらなと。
――3DCGアニメは、まだまだ伸びしろがあると思いますし、選択肢が増えるのはいいことですよね。
瀬下
どんどん拡がってほしいと思います。僕がいまリスペクトしている作品って、去年は『おそ松さん』で今年は『けものフレンズ』なんですよ。それは、あらゆるものを武器に変換する力を感じるからです。従来の作品と違ってはいても、その違いでひとつのノリを形成できれば、僕はそれがジャンルになると思っているんです。まさにジャンルそのものを作り出したと思えるくらい、それらの作品には衝撃があります。
――3DCGも全体で次第にそういう領域に達しつつあるのではないでしょうか。特にポリゴン作品は、どうやって2Dを擬態するかという部分から離れてますよね。
瀬下
たまたま『シドニア』のころ「セルルック3DCG」が盛り上がってきたので、同じカテゴリーで語られる事が多いんですが、僕らは日本のアニメを3DCGで再現しようとは思っていないんです。むしろグラフィックノベルやバンド・デシネを動かしてみたいと『シドニア』の頃から一貫しています。今回の『BLAME!』もその思想の延長で、ステップアップを目指した作品なんです。
――陰影の濃いモノトーンのカラーの世界で話が推移していく、みたいな?
瀬下
そうですね。「瀬下とポリゴン・ピクチュアズのつくるアニメは、どちらかと言えばバンド・デシネやグラフィックノベルって方向だよね」って評価されて、ひとつのジャンルを築きあげられる方向で進化できたらいいなと。
――そういうルック、テイストのほうが国際化にも向いているでしょう。
瀬下
もちろんまずは日本国内で楽しんでいただきたいんですけど、どこかで僕らは「日本のアニメの本流ではないな」という自覚も持っているんです。ですから、日本のストーリーを世界に紹介するためのひとつのスタイル、選択肢として、かつピクサー系とも全く違う個性として認知される事が目標です。
――アメリカなら『ダークナイト』のフランク・ミラー、『ヘルボーイ』のマイク・ミニョーラみたいな手触りですか。
瀬下
フランク・ミラーも大好きです。いまアメコミはものすごい勢いで進化していて、去年もサンディエゴのコミコン(コミック・コンベンション)に行ってきましたが、世界観やライティングとかもすごくいいんです。それを動かせるようになりたいですね。もちろん日本の文化も流れこんでいて、それがアメリカで独自進化をしていますし、クリエイター同士がお互いを刺激しあって交流して、どんどん新しいものが生まれてくる場所は大好きです。だからCGスタジオにいるのだと思います。
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