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UPDATE:2017.8.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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感情表現を工夫した『ぼくの地球を守って』
――残念ながらバンダイチャンネルでは『ジリオン』を配信していないんですよ。90年代で後藤さんのお名前のある『ぼくの地球を守って』(93/通称「ぼく地球=ぼくたま」)などについてうかがっていきたいです。
後藤
ちょうどあのころ、OVAのバブルだったと思うんです。ビデオ作品なら新人も入れられるし、通常のラインとは別スタッフを組めるので、スタジオが増えました。自分の中では最初からずっと「人を育てる」ということをイメージしてたので、石川にも「劇場じゃないので人を育てられる作品はないの」って言ってて。
――常に育成の観点を持ってるんですね。OVAだとクオリティはテレビより上で、でも劇場未満な感じです。
後藤
そのつもりで描いてたし、でも他のスタジオで劇場をつくってると負けたくないという想いも出てくるんです。もちろん勝てはしないにせよ、劣るものをつくったらいけないっていう意識です。自分の中でもクリエイターとして納得できるようなもの、自分がいま出せる全力でやっていきたいという想いがありますしね。これは何であろうと全部同じですけれど。
――『ぼく地球』ではどの辺に力を入れてましたか。感情表現が濃い印象があります。
後藤
自分にとっても、一番印象深い作品です。アニメーターになったころはギャグ作品が多くて、とにかくアクションを面白くつけようと、それが第一目標でした。でも、望月智充さんの作品(『光の伝説』)をやったとき、心情芝居や細かい日常芝居が大好きになって「面白いな」と思ったんです。『ぼく地球』も日常芝居をリアルにしっかり描かないと薄いものになりかねないということがあり、キャラクターも大好きだったから、ちょうど自分がやりたいことと一致しました。人気作品なので、恐々とやってた部分もありますが。当時は原作ものをアニメにすると、「あれは私の作品じゃない」とか……。
――「お任せします」みたいな言い方はよくありましたね。
後藤
ファンの人から「イメージが違う」と言われるのはなくしたいなと思いました。いまだに原作の日渡(早紀)さんとはよくメールする仲なんですけど、話もキチッと聞いたし、キャラ表ができたときには日渡さんから注意点を書いてもらいました。絵柄の問題ではなく、一番大事にしてる部分についてですね。それに加えて、僕なりにファンが大事にしてる部分を噛み砕きながら表現していくよう心掛けています。日渡さんの絵も巻を追うごとに、すごくいい絵になっていましたしね。そこに僕じゃないと描けないもの、自分のフィルターを通して「この絵がアニメではこうなる」というのも、クリエイターですから入れたくなって、ニュアンスとして加味しつつでした。僕だけではなく、演出のほうもそうでしたし、なかなか上手く原作とマッチできた作品だと思います。音楽(溝口肇)もすごく良かったですし。
――ものすごく雰囲気のある作品でした。反響も大きかったんじゃないですか。
後藤
そこはあまり自分ではわからないんですよ(笑)。売れているとは聞きましたが、認められてるということだと思うので嬉しいですね。上手くはないにせよ、自分が持っている技術を精一杯入れて、「もう見たくない」って言われないような作品をつくっていかないと自分自身も嫌だし、まわりも認めてくれない。そこはいつも自分の中では一生懸命なんです。
――現場の雰囲気は、いかがでしたか。
後藤
あのときは自分も演出さんも、みんなでいろいろ試しましたね。たとえば特効(仕上げの特殊効果)の方と演出の人といろいろ話して、糊みたいな素材をセルに塗ってボカすことでスピード感を出すとか、普通できないような表現を実験していました。キャラクターの芝居も、どこまで自分で納得できるようにつけられるか試してます。見てる人には気づかないようなちょっとした表情とか……このキャラクターは絶対こんな気持ちでいる、みたいな表情を意識しながら描いたりとか。
――すごく感情移入しやすい作品でした。ただ5話まで見て来て「このペースだと終わらないぞ」と思ったりしましたが。
後藤
構成は、やまざきかずお監督が計算したことだと思います。原作が完結してなかったので、途中で終わるしかないですよね。いまならセカンドシーズンに続く、かもしれませんが(笑)。でももしエピソードを詰めて先のほうまでやってたら、キャラクターひとりひとりを描き分けるような芝居はできなかったでしょう。僕としては、あそこまでできたので満足しています。
――転生というか、生まれ変わりものの代表作です。
後藤
一時期のブームは落ちついてきた時期だったと思います。でもビデオにしたことで、新しい方たちも見るようになって、良かったですね。アニメで一気に火がつくのって、最近では『黒子のバスケ』(12)もそのパターンですね。
90年代の作品群
――90年代の作品だと、『BLUE SEED(ブルーシード)』(94)が配信されています。
後藤
キャラクターデザインで名前が出てますが、僕が少し描いてから黄瀬くん中心で動くことになったんです。あとアイジーと葦プロダクションの共同制作なので、終わってからジーベックができるきっかけになった作品ですね。なのでアイジーにとっては転機かもしれません。僕自体はあまり作品に関わったということはなかったです。
――この作品はキングレコードが「製作・著作」なので、OVAみたいな企画をテレビでやるようになった成功例という印象があります。
後藤
それは大月さんの動きが一番大きかったと思います。
――『ポポロクロイス物語』(98)はどうでしょうか。
後藤
ちょうど真下(耕一)さんがアイジーの兄弟会社にあたるビートレインをつくったときの作品で、石川から「真下さんがこういうのをつくるんで、ごっちゃんやって」と言われました。僕が頭身の低いキャラ好きなのを、石川も真下さんも知ってますからね。この作品は線も少ないし、社内の原画マンを育成するためにもいいなと。僕も「こういうキャラ描きたかったんだよね」みたいな感じで、福島(敦子)さんのキャラ原案がすごく良かったです。かわいさの中にキチッとデッサンが入ってて、でも骨格がキチッとしてるわけではなく、フォルムでしっかり見せる。もともと絵の上手い人はこうなんだなと、そう思わせるような絵なんです。線が少ないので動かしやすいし。原画をやる時間がなくて作監ばかりやってましたが、それでも楽しかったですね。
――参加されて、どんな感想を抱かれましたか。
後藤
ゲームのキャラ以外に、自分のオリジナルキャラクターもデザインできたし、そういう面では楽しかったし、光栄でした。真下作品も初めてだったし、いまいっしょにやってる多田さんもビートレインで制作進行だったし、『黒子』のキャラやってる菊池(洋子)さんも『ポポロ』で作監でしたから。
――後へのつながりの多い作品ですね。
後藤
そうですね、いま思えば。
神山健治監督と組んだ『攻殻機動隊S.A.C.』
――21世紀に入ると、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02)や『精霊の守り人』(07)など、神山健治監督の作品を多く手がけられています。
後藤
僕は『パラッパラッパー』(01)というやはり頭身低いキャラをやった直後なんです。終わる間際に石川に呼ばれまして、だいぶ前からつくってたはずだから、もうできてるもんだと思ってたんです。でも、詳しくは知らないですけど、「原画はあるんだ。レイアウトもある」「……わかりました、はい」みたいな。
――コメントしづらいですね(笑)。
後藤
当時41か42歳だったんで、これを描くのは厳しいぞと。こういう作品、そんなにやったことないし。
――いわゆる「リアル系作画」ということですよね。
後藤
そうなんですよ。話もイマイチ難しくて、「ゴーストって何?」みたいな(笑)。でも話はわからなくても描くのはできるし、素子もあまり表情を変えないし。
――そうですね。ポーカーフェイスでクールビューティですから。
後藤
神山さんとは前に一度、最初に演出された『グランストリーム伝紀』というゲームで一緒にやってました。『攻殻』ということで、みんなものすごく力入れてるんで、「できるかな」と思ったものの、スタッフを育てるという点では、こういう作品もやっておくと勉強になると思って、当時の1スタで一本みたいな形で取るようにしてます。
――アイジー全体では『イノセンス』と並行だったから、ご苦労もされたのでは。
後藤
会社としてはそうなんですが、他のことは考えられなくて、自分のことで精一杯でしたね。監督が求めてるものをどう描いてくか、それはよく分かったんで、それ以下のものだとダメだろうし。ただ神山さんはいつもそういうスタンスが多いんですが、描く人の色を出しちゃっていいですよと。そういう方向性なので、中村悟さん含めていろんな作監、各話数ごとの個性でやれたのは楽でした。それでセカンド(『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(04))を続けることになり。
――セカンドはキャラクターデザインからやられてますね。
後藤
そうですね。下村(一)くんが別の作品に行ったので、ひとりだと難しいから西尾くんとふたりでということになりました。それぞれ得意分野みたいなところを神山さんに分けてもらって、描いています。
――神山さんの求めてるものというは、具体的にはどんなことでしたか。
後藤
神山さんの「つくりたいもの」はそれ自体に力があるので、たぶん誰が作画しても世界観は出ると思うんです。でもアイジーにとっての『攻殻』ってサンライズさんの『ガンダム』みたいなものですから、ヒットするというのが大事です。ある程度のクオリティのものをつくらなければダメってことですね。枚数も「こんなに使うの?」っていうぐらい使ってましたし。
――予算は大きかったんですか?
後藤
はい。大きかったです。特に時間ですね。1話あたり作画だけでも2ヶ月以上、全体だと3ヶ月かかった回もあると思います。やはりお金が出てないと、そこまではできないと思います。動きもリアルだし緻密な世界観だし、何もかもが大変なんですよ(笑)。もちろん神山さんは「ここまでやってくれ」みたいに言いません。でも、「ここまでやらなきゃいけないのか」って思わせる絵コンテなので、結局、神山さんが目指しているものをいかに具現化していくか、そんな仕事になりましたね。
――とは言え、劇場レベルのクオリティまではやれないですよね。
後藤
基本はテレビシリーズの考え方なんです。それは神山監督自体がそのつもりでしたから。でも、これってテレビシリーズじゃないよなと。
――(笑)。その辺どうやって折り合いをつけたんだろうと思いまして。
後藤
たぶん、神山さんも「自分の作品」と呼べる、プロモーションビデオ的なものをつくりたかったのかなって思うんです。だからこそ、シナリオ打ち合わせも八ヶ岳の別荘で合宿しましたよね。神山イズムみたいに「自分の考えはこうだ」って話をしてたでしょうし、いろんな人のアイデアをうまくまとめてひとつにしただろうし。その合宿時点で、普通のテレビシリーズとは違うぞということになったと思います。
――実は放送開始直前、神山監督に取材しているんです。そのとき「お茶の間の攻殻」みたいなことを語っておられました。それで始まってみると最初の映画や『イノセンス』ほど重くはなく、割とすんなり見られる。でも『攻殻』としての密度感やシリアスさはあるという、不思議なバランスになっていて……。
後藤
きっとそこが良かったんでしょうね。僕たちもフィルムになったとき、これは押井さんの『攻殻』ではないぞと。それは当然ですが、テレビシリーズだからというわけでもないんですね。話はよく分かるし見やすいなと。最初、素子のキャラ見たときに目の下まぶたの線が色トレスになってて、目の形が崩れて見えなければいいな、と思ったんです。でも、それによってあまりリアルじゃなく、ソフトな感じに見えるんでしょうね。キャラクター面でも柔らかさをイメージして組み立てているようですし、線もなるべく少なくってことだったし。
――繰り返し繰り返し廉価版もリリースされて。そんな作品なかなかないですよ。
後藤
人気ありますよね。やるのは大変でしたが、結局、僕にとっては40代の代表作品になりましたね。
――『精霊の守り人』は、その流れで「神山組」みたいに参加された感じですか。
後藤
僕はやりたくなかったんです(笑)。別の知り合いから、絵コンテから作画まで一本全部やるという興味深いお話があったんですが、「今度『精霊の守り人』をやるんで、やはり取締役なら自分の会社の仕事を」と言われてしまい。
――それは残念でしたね。
後藤
いつも「こんなの描けない」ってのばかり来るんだけど(笑)。神山さんとしては、僕が『攻殻』をやってたから、特に心配してなかったのかもしれませんね。
――『精霊』はまた違う難しさがありそうですよね。完全なファンタジーですし。
後藤
それでもやはり、神山さんの世界だなと思いました。『攻殻』の流れで参加されたみなさんも、神山さんが求めてるものはそんなに変わらないみたいな感じで、やりやすかったんじゃないでしょうか。それは何かと聞かれると困るけど、各キャラクターをちゃんと見せて、それでストーリーもちゃんと追っていきつつ世界観を出すみたいな感じ。もちろん原作があるので、小説の世界観を神山流にうまく表現したということですよね。結局、『攻殻』とそんなに変わらない世界観だなとは思うので、やりやすかったと思います。ただし、絵は描けない。
――(笑)。
後藤
リアルな作品ばっかりやってたから、だんだん描けるようになってきた。そんな感じです。
――この30年の歩みをざっと振り返ってみて。どうでしょうか。もちろん会社が大きくなったのは大きいと思うんですけど。
後藤
自分としては、いつも一生懸命やるしかないということを続けてきただけです。アイジーにいると、自分の技量のなさがすごくよくわかるんですよ。うまい人がいっぱい来るし。
――クオリティをめざすならアイジー、みたいなイメージはできたかもしれないですね。
後藤
技量がないなりに、自分の持ってるものをフルに出していきたい。それはずっとスタンスとして変わらないです。いつも朝ちゃんと出てきて、今日の自分のノルマをこなしていく。それを淡々とずっと30年間やってきたんです。いまはだいぶ人も増えたので、人を育てる部分も手分けして任せられるようになっていますが、毎年求人とって、どうやって育てていくのか。僕の作画以外のメインは、そこなんですよね。アニメーターを育てていかないと業界も良くならないし、アイジー自体もダメになっていくと思うので。育成の仕方にしても、大きい会社になった分、お金の面もふくめてどうしたらいいか、ちょっとずつちょっとずつマイナーチェンジして、30年間ずっとやり続けてきました。
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