――まずはご自身にとっての特撮についてお聞かせください。
福井:うーん。
――「うーん」て。
福井:いや、小学校2~3年生くらいまでは、いつも何かしらの特撮番組がTVで放送されていたからね。いろいろ覚えてますよ。当時は再放送も多かったですからね。
――印象に残っている当時の作品はありますか?
福井:ウルトラマンと仮面ライダーならウルトラマン派でした。
――はい。
福井:……「はい」とは?
――え? いや、先をどうぞ。
福井:先って言われても。オレ、もう見てないし。
――(あまりのテンションの低さに呆然としつつ)ちょっと待ってください。今日は何のインタビューだかわかってます? 特撮のことを聞きにきたんですよ。バンダイチャンネル「特撮モード」のスタートを記念して、識者に特撮のことを語ってもらう第一回のゲストがアナタなんですよ。それを「もう見てないし」ってなんですか。ちゃんと答えてください!
福井:うーん。
――「うーん」じゃない!
福井:いや、あの、何て言うか、何でオレに聞きにきたの?
――!?
福井:ほら、今でも特撮方面でがんばってる人はいるわけだし、過去に活躍した人だって大勢いるわけじゃない? そういう人たちの話を聞けばいいのに、何でわざわざウスいオレのところに聞きにきたんだろうって。
――あんたウスいんかい!?
福井:ウスいですよ。オレ、『ウルトラマンレオ』と『仮面ライダーストロンガー』が終わって、ウルトラマンと仮面ライダーの二大シリーズがそろって休眠期間に入った頃の世代だもん。で、その前後に『マジンガーZ』が始まって、それからはロボットアニメ一色で、少し物を考えられるようになったときに『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』でしょ。まぁ『ゴジラ』とか好きだし、リバイバルブームの時にウルトラマンの怪獣消しゴムとか集めたけどさ。趣味の領域に特撮が入ってくることってあんまり……。
――で、でも、邦画で好きなベスト3は『日本沈没』(旧作)、『新幹線大爆破』、『太陽を盗んだ男』で、『ローレライ』で組んだ樋口真嗣監督ともばっちり共鳴してたわけでしょ? 最後のはともかく、前の2本は特撮大作ですよ。
福井:『日本沈没』はともかく、『新幹線大爆破』は特撮物かねぇ?
――大がかりな特撮使ってるんだから、そうですよ。「特撮モード」でも扱ってるんですから。
福井:でもさ、あれって公開中に「どこが特撮カットか当てようクイズ」みたいなキャンペーンやってたことからも明らかな通り、「特撮を意識させない特撮」が売りだったわけよ。まぁいまモニターで見ちゃうとバレちゃうけど、暗がりでスクリーンで見ると本当にわからないだけの精度はあった。映画における特撮って、それが本流だと思うのよ。対していわゆる「特撮物」って、特撮であることそのものを売りにした感じがするじゃない? 着ぐるみの怪獣とミニチュアの町がポンと映った時に、「それが劇空間内におけるリアルである」って作り手と受け手のお約束があって初めて成立するみたいな。
――でもライダーとウルトラマンなら、ウルトラマン派だったんですよね?
福井:うん。
――じゃあそのお約束を享受する回路がアナタの中にもあるってことじゃないですか。なんかの雑誌のインタビューで読みましたよ、「ウルトラマンの新作を作れるものなら作りたい」って。だから我々も「特撮に造詣のある人に違いない」と思ってここに……。
福井:ああ、あれね……。いや、少し前まで息子が激ハマりだったの、ウルトラマンに。それでオレも、昔見てた『レオ』までのシリーズの他に、『ティガ』以降の平成シリーズを一緒に見るようになって、盛り上がって。「ガンダム作っててもイマイチ尊敬されないけど、ウルトラマンを作ったらすごい尊敬されそうだ、父親としての地位は生涯安泰だぞ」と思って、そんな夢を見たこともあったわけですが。残念ながら、幼稚園を卒業すると同時に息子はすっぱりウルトラマンを卒業してしまいまして……。
――で、アナタは?
福井:一緒に卒業しました。人生、二度目の「さらばウルトラマン」。
――アホかアンタは! とっかかり残らずなくなってるじゃねーか。なんでこのインタビュー受けたんだ!
福井:いや、それはその、バンダイチャンネルの担当者が飲み友達だったんで。なんか気がついたら断れない雰囲気に……。
――(怒りを堪え)……わかりました。もう結構。インタビューは他を当たらせていただきます。今日は貴重な時間をいただき……いや、貴重な時間を奪われたのはこっちの方だな。とにかくありがとうございました!
福井:まぁ待ちなさいよ。このままじゃオレ、特撮ファンの方々に対してなんか心証悪いじゃないの。
――当たり前だよ! こんだけ言っといていまさら何言ってんだ!?
福井:いやいや、言われて気づいたけど、きっとオレの中にも特撮を享受する回路はあるんだよ。オレみたいなライトユーザーを取り込んだ方が、「特撮モード」としてもいいんじゃないの?
――そりゃ、まぁ……。
福井:ほら、この企画書にも書いてあるよ。「コアユーザーのみならず、20代の特撮ロストジェネレーションに対しても特撮の魅力を伝え、会員数を増やすべく」――。
――部外秘の企画書を音読するな!
福井:うーむ。今の若い人たちが昔の特撮を観る意味って何だろうね?
――人の話を聞けよ! てか、それをアンタに聞こうと思ってたんだよ!
福井:難しいよね。昔は、非日常を表現する方法としてそれしかなかったから、お約束の上に成り立つ特撮物をみんなで見ていたわけだけど。ライダーやスーパー戦隊シリーズでもCGが使われている昨今、あえて昭和時代の特撮を見るきっかけは何か? やっぱり今も続いているシリーズ作品の歴史を辿る……とかかな。
――昔の特撮にはCGにはない迫力がありますし、観てもらえれば、その魅力は伝わると思いますが。
福井:でも、それはさっきも言った通り、お約束の上に成り立っていた部分が多分にあるわけだし。もっともあれか、今のCGも、レンダリング不足のいかにもなCGを、TVシリーズならこんなもんかと受け入れているところもあるんだろうから、基本精神は同じっちゃ同じか。
――まぁ……。CGのクオリティは日進月歩で進化していますけどね。
福井:そういえばうちの息子、最初のウルトラマンから順にシリーズを見ていったんだけど、『ティガ』に進んで以降はオリジナルの(ウルトラ)兄弟をないがしろにするようになってね。アニメは新旧の区別なく見られるのに、特撮はダメらしい。フィルムの古い感じと言うか、時代的な空気感に違和感があるのかもしれない。
――はぁ……。
福井:よし、これ次回の宿題にしようか?
――ええっ!?
福井:今の若い子たちに昭和特撮の魅力をいかに伝えるか? 自身、特撮にはウスい福井晴敏が、各界の識者を呼んだり呼ばなかったりしてお送りする特撮伝道コーナー。題して「福井晴敏のオレに聞くなよ!」
――なんだそりゃ!? だからもう聞かないって言ってるのに、なんで新連載予告!?
福井:乗りかかった舟です。ここで退いたら男が廃る。さぁ、とりあえず次回は「オレがどんな特撮作品を見て育ってきたか」を振り返り、覚えてる範囲でその魅力を語っていこう。必要なら君たちの手配で豪華ゲストもお呼びして。
――うわぁ、丸投げだぁ。
福井:あ、それから昔のことなんでよく覚えてないから、オレが十歳くらいまでに放送してた特撮作品のリストも用意しといて。それ見て思い出すから。
――やる気があるのかないのか。てか、本当にこれつづくの!?
【つづく】
(註・このインタビューは半分フィクションです)