TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。 業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。 アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
1980年代から人気を継続してきた
「聖闘士星矢」。 CG化に至る、その魅力に迫る!
6月21日から新作CGアニメーション映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』が公開中です。これはホントに「楽しい映画」でして、わずか93分に凝縮された「星矢のエッセンス」を心ゆくまで味わいました。
星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)以外にも、最高位である黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちが12人フル登場。この尺でどうやってストーリーを終わらせるのか、物語内の緊張感とは別の意味でドキドキしましたが、それはもう見事な疾走感で駆けぬけていきます。しかも「星矢としての定番の数々」をきっちり見せて、「待ってました」の気分に酔った上でのことです。なかなか類をみない爽快感に、まず拍手でした。 CGキャラがキュートでチャーミング、かつエネルギッシュに感じられたのも新しい感覚です。女神アテナの生命をかけたタイムサスペンス、人が吹き飛んで石の壁にめりこむハードなアクションなど、おなじみ展開や映像も健在。TVアニメ『TIGER & BUNNY』(11)の、さとうけいいち監督らしいユーモアとギャグ満載なのもドライブをかけています。 車田正美氏の原作漫画は1980年代を代表する作品。直前のボクシング漫画『リングにかけろ!』では、毎週のクライマックスで炸裂する必殺技を見開きいっぱいの大ゴマで表現して、一世を風靡しました。この発展形としての必殺技バトルに加え、「夜空を彩る星座にちなむ聖衣(クロス)」という一種の強化服を装備した聖闘士(セイント)という設定を採用。バトルものにギリシア神話のファンタジックな要素と美意識をもたらした点が、大人気となった秘密でした。 以前から何度かアニメ化されている作品ですが、ことに最初にTVアニメとなった1986年のシリーズは原点として忘れがたいです。ロボットアニメをあわや絶滅の危機に追いこんだほどの人気となりました。語るべきことはいくつもありますが、ことに荒木伸吾・姫野美智コンビの作画パワーは、ケレン味あふれる演出と相まって、星矢の映像としての様式をつくりあげていったのです。 荒木伸吾さんはスポーツ根性ものの草分けである『巨人の星』や『あしたのジョー』のTVアニメでも活躍したアニメーターです。前者では花形満が大リーグボール1号を打倒するシーンで、バットに当たったボールを渾身の力で打ち飛ばすシーンが、すさまじい迫力の作画で伝説となっています。また『UFOロボ グレンダイザー』や『ベルサイユのばら』など「美形キャラ」でも知られています。 パワフルなアクションと繊細な美意識、その点で『聖闘士星矢』はまさに荒木伸吾さんにうってつけの題材。特にフランスやイタリアへ輸出された『グレンダイザー』や『星矢』のアニメは大人気となり、荒木さん自身も何度となく欧州へ招かれるようになります。ファンに歓待された写真や映像は日本にも伝わり、ファンの胸を熱くさせました。2011年、動画協会からの功労賞を受賞した直後に急逝されたのが、残念でならないです。 新作映画のCGキャラにも、どことなく荒木伸吾さんの描かれてきた「星矢の魂」が継承されている感じがして、それも嬉しかったことのひとつです。表情はお茶目で柔らかに変わるし、バトルシーンでのポーズのつけ方、キメ方など、いい感じでアニメ的な誇張が効いていて、何度も「おっ!」と思わせられました。 絶対に不可能と思われる苦難に挑み、何度倒れても仲間同士支えあって強敵に立ち向かう星矢たちの姿。そこには日本のアニメがスポーツものからロボットもの、アクションものを経て積みかさねてきたものが宿っているのです。バンダイチャンネルでは原点のTVシリーズ『聖闘士星矢』も配信中。魂を爆発させて描きぬいた荒木伸吾作画のパワーも、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。では、また来月(一部継承略)。
PROFILE
アニメ特撮研究家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。 アニメ・特撮を中心とした文筆業。明治大学 大学院客員教授。 |