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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2013.9.25

月一コラム「氷川竜介の“チャンネルをまわせ!”」公開中!

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TVのチャンネルを回すように、予想しない雑多なネタと出会ってみたい。
業界の旬なトレンド、深いウンチク、体験談などを満載。
アニメ評論家の第一人者ならではの、ユニークな視点でつづる月一コラム。
世界へ開かれたチャンネル
第2回目は、海外の話題です。BSフジのジャパコンTVのアドヴァイザーで海外へのアニメ文化展開で積極的に動いているワンビリング社・藤田健次さんの企画により、2013年8月23日から25日までアメリカ・カリフォルニア州サンタクララで開催された「Japan Expo USA」というイベントに出かけてきました。これはフランスで有名な「Japan Expo」のアメリカ進出バージョンでして、その記念すべき第1回目ということです。

去年の11月も、イギリスのロンドンで「Hyper Japan」というイベントに文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の紹介で出向きましたが、だいたい同種の趣旨だなと思いました。広く一般層を意識して日本文化全体を紹介する大型イベントで、アニメ、漫画、ゲームにゆるキャラなどなど近年のポップカルチャーに加えて、着物や工芸品、書道や日本画、日本食といった伝統文化を含めた総合的な展示があり、なおかつ日本にまつわるショップ、ブースが出ている形式です。今回は特にファン出展ブロックも用意され、同人誌やファンイラストも売られていて、アメリカのファンが日本文化をどう見てるかが見えて楽しめました。



こうした総覧性は、実は現地に行かないと肌で感じられない部分が多く、日本の中にいてWebや雑誌を見ているだけではなかなか分からなかったりします。普段われわれは何をどう楽しんでいるのか、外からの視点が得られるということは実に貴重な機会なので、行って良かったと思いました。

総覧的と言いつつも、やはり目立つのはアニメやゲームを中心としたものです。特にアニメソングやゲームミュージックについてはライブ演奏がありましたし、コスプレに関しては衣装やカツラなどを販売するブースもあって、もともとアメリカで盛んなコンベンション(ファン大会)と同様に、いくつかコスプレグループがまとまって来訪していました。会場内では『進撃の巨人』『.hack//』『魔法少女まどか☆マギカ』『美少女戦士セーラームーン』『サマーウォーズ』『らんま1/2』などなど、新旧・硬軟取り混ぜて何人ものコスプレイヤーが練り歩いていて壮観で、特に「進撃のまどか」みたいなショッキングなコスプレには驚きました。



ファンエリアではショーアップで盛り上げる常設ステージがあって、『エヴァンゲリオン』の寸劇をやっているのでビックリです。カヲルくんとシンジくんがうずくまっていると、エヴァのコスプレをした人たちが取り囲んで「おめでとう!」を言う趣向だけでもすごいのですが、メンバーの中には『トップをねらえ!』1、2のキャラや、新劇場版のマリまでいて、奥深いところまで楽しんでいるなと感心しきりでした。



他にもボンズ代表取締役の南雅彦プロデューサーによる新作アニメ『スペースダンディー』の紹介(PVリリースは日本より先行)があるなど、パネルも盛りだくさん。氷川は「日本のアニメを作画で楽しもう SAKUGA Fun」という濃い目のお題で、先述の藤田さんの司会により、アメリカのアニメ評論家・ベンジャミン・ライトさんと語り合うコーナーを担当しました。

故・金田伊功さんを中心に、80年代早々にアニメ雑誌でアニメーターが取りあげられたことで「作画」に個性があるとが知られたこと、多くのクリエイターが金田さんの作画技法に興味を覚えて作画が進化していったことなどなど、歴史的な発展についてです。ベンジャミンさんからもアメリカンコミックでクリエイターのエフェクト画風が拡がっていった事例があるなど、表現の進化について非常に興味深いクロスオーバー的な話ができて、実に有意義な1時間半でした。

日本のアニメが、文化としては確実に各国に拡がってファンを増やし、それぞれの国で根づいていることは知識や情報ではなく、現実なんです。そしてこうした現地の方と会話をしたりすることで腑に落ちるものなんですね。ビジネススキームとかマネタイズとか、お金が先にたつ浮ついた言葉よりも「何を感じて何を楽しいと思っているか」という共感を、まず交流することで培っていくことが大事かなと改めて思いました。

そのための物理的なチャンネルは、すでにインターネットによって開かれているので、むしろ心のチャンネルをどうつなぐことがネクストステップかなと。そんな想いも噛みしめた今回の渡米でした。

では、また次回。


《参考》ジャパンエキスポ http://www.japan-expo.org/
PROFILE
アニメ評論家 氷川竜介
1958年、兵庫県姫路市生まれ。東京工業大学卒。
サラリーマン経験を経て、現在はアニメ・特撮を中心とした文筆業。