――その人気作『
夏目友人帳』では、3、4期とシリーズ構成を担当されています。
- 村井
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お話をいただいて原作を読んだら思わず泣いてしまったので、「ぜひやらせてください」とお願いしました。この作品は「妖怪もの」ですが、それよりもあの世界観を大事にしようと。妖怪は心をもっていて、主人公・夏目と心を通わせることができる。そんな世界観を描くために、原作者の緑川ゆきさんの出身地の熊本にロケハンに行き、人吉や阿蘇の森や神社など風景をよく見てきました。
――現地では、どんなことを感じられましたか?
- 村井
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熊本を「九州」というイメージでとらえてはいけないな、ということです。夏の終わり頃でしたがすごく寒かったですし、風景もあまり本州と変わらない。そして舞台を限定しないという決まりごともあったので、日本のどこでもおかしくないような風景にしています。ただし人吉で印象的だったのは、霧が深かったことですね。妖怪と人間の境界がちょっと薄らぐような雰囲気で、あの世界観には霧が影響しているのかなと。
――そんなロケハンでつかんだ雰囲気を、脚本に反映させるポイントとは?
- 村井
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これはなかなか難しい質問ですね。ロケハンに行く目的とは、その土地に住んでいる人の感覚をつかむことだと、僕は常々思っています。夏目や田沼、西村、北本らは現代の高校生とは少し違います。ロケーションを頭の中に組み立てると、「ここに住んでいる子たちはゲーセンに行ったりしないだろうな」と、自然に浮かびます。そうやって書かないと、あの世界観で暮らす高校生が発するリアルな言葉にならないんですね。彼らとその周辺に住む人たちが、なぜあれほど優しいのかというと、あの自然に包まれて生きているたちからでしょう。それを理解するために、ロケハンにみんなで行けたのは良かったです。そんな意識をスタッフが共有することで、独特の世界観がつくりあげられるんです。
――人気キャラのニャンコ先生に関しては?
- 村井
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井上和彦さんがすでに確立されたイメージがあったので、それほど困りませんでしたが、気をつけたことは「ニャンコ先生はいずれ(人間である)夏目が妖である自分より先に死ぬことが分かっている」という点。なので夏目の相棒だけど、過保護にならないよう気をつけました。
――やはりキャラの心の動きが大事ということですね。
- 村井
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ともかく緑川ゆきさんの素敵な世界観を壊さずに、いかに心情を表現するのかを一番に考えていました。なのでオリジナル回が難しくなるんですよ。でも、迷ったときは「気持ちを大切にしよう」という原点に戻って書いてきました。