――もうひとつ、岸監督には『Angel Beats!』という重要な作品があります。P.A.WORKSも注目を集めました。
- 岸
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麻枝准さん(原作・脚本・音楽プロデュース)のアイデアと企画が大前提でしたから、こちらとしてはどこまでそれを映像として再現できるのかに注力しました。基本は「麻枝さんがやりたいことは、全部やるよ」ってことなんですが、ところがそれは基本的にアニメの現場的には無茶なんですよ(笑)。私自身「この質量マジか!?」というところからスタートするわけです(笑)。一方で、今回は麻枝さんの味方をするぞと心に決めてスタートしたわけですから、そこを何とか現場にお願いする役割でしたね。P.A.WORKSの堀川(憲司/プロデューサー)さんには、ずいぶんフォローしていただきました。「監督は止める立場でしょ」と怒られつつも(笑)。でも、まず麻枝さんの発想を絶対につぶさないことが、成立論として一番のものだと信じてましたから。妥協し始めたら、あえて麻枝さんの作品をやる意味がないと、腹をくくりました。
――どんなところがアニメ的に無茶なのでしょうか。
- 岸
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第1話を観ていただければ分かるんですが、アクションとライブと、他にも個別に大変なものが、いっせいに「ガチャッ!」と合体している部分です。全話数にわたってそう。ギャグありシリアスあり、もうなにもかも好きなもの、いま欲しいものがすべて中にギュッと入っている。ところがその質量たるや(笑)。
――ああ、その質量は誰かが描かなければならない。
- 岸
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そういうことです。「ライブシーンが売りです」って作品でも、大抵は1クールに1~2回くらいですよ。 「アクションがすごい」でも同じです。これに「ギャグがすごい」「泣ける作品です」とドラマとしての構築をどんどん重ねつつ、「一斉にやれ!」という作品なんですよ(笑)。
――(笑)。4倍の質量になると。
- 岸
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まさに私が最初に現場に言ったのは、「これは1クール作品だと思わないでください。最低でも26本つくるつもりでこの現場は挑んでいただきたい」という覚悟の話をしました。
――でも、P.A.WORKSの名前も前面に出たわけですし。
- 岸
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結果的には商業的に大きく成功してくれましたし、オリジナル作品としての話題性も申し分ないところに突入してくれて、放送中は何がなんだかわからないくらいに盛り上がっていたようですね。私自身、麻枝さんのセンスを栄養としてたっぷり吸収させていただきました。プロデュース的にも勉強になって、その先を考えると非常に良かった作品です。
――オススメのエピソードはありますか。
- 岸
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オリジナル作品なので、初期の話数は観てる方も「?」がいっぱい出たと思うんです。それをパワーでねじ伏せて、何かわからないけど観てしまうところに持っていきましたが、そこでコメディやギャグシーンが非常に生きてくれた作品なんです。なので4話(「Day Game」)、5話(「Favorite Flavor」)、7話(「Alive」)、10話(「Goodby Days」)あたりが印象深いです。重いエピソードがよく挟まる作品ですが、その中でもこれらの話数が笑いが緩和的に働いてくれたおかげで、お客さんもついてこれたし、結果いいバランスになってくれたと思ってます。