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UPDATE:2014.8.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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原点となったアニメ体験の思い出を交えつつ、クリエイターが自身と自作を振り返る連載インタビュー。今回は新作『グラスリップ』が話題で、同じP.A.WORKSの制作第1作目『true tears』のピュアでハートフルな映像世界で知られるベテラン西村純二監督に、1980年代からの作品歴と演出体験について、お話をうかがいます。
大学時代の6年間、TVがなかったという西村さんがどのようにしてアニメ監督になっていったのか。『六神合体ゴッドマーズ』や『うる星やつら』など、転機となった名作群に演出として参加し、ちょっとスリリングで笑えるエピソードの中から何をつかんだのか。アニメづくりと演出の奥深さにせまっていきます。北陸という独特の空気感がある土地で展開する、透明感あふれる新作『グラスリップ』を楽しむ上で、参考になる話も多いでしょう。では今月も、作品のツボを探っていきましょう!
映画漬けだった大学時代からアニメ業界へ
――この連載ではクリエイターの方々に、アニメ原体験や業界に入るきっかけと、自作についてのお話をうかがっています。ベテランの西村監督の場合、いかがですか?
西村
業界に入ったのは1980年ですね。ちょうど24歳のときで、翌年に『機動戦士ガンダム』の劇場版1本目が始まるかどうかです。18歳のときに佐賀から上京して、大学生活を6年間おくった後です。実は大学時代はTVがなくて、アニメどころか何にも観ていない空白期間なんですよ。もちろんその前に『あしたのジョー』(70)、『巨人の星』(68)、『アタックNo.1』(69)などは観ていましたが。
――スポ根ブームの時代までで、ロボットアニメ初期が未経験というわけですか。
西村
富野監督にしても『無敵超人ザンボット3』(77)や『無敵鋼人ダイターン3』(78)などガンダム直前は抜けているので、スタッフと話をしてもよく分からなかったりします(笑)。業界にはいってからの仕事は高校までに観ていたアニメとそんなに違わない感じがしたんですが、『ガンダム』にはビックリしました。特に経緯を知らなかった分、ショッキングでしたね。富野さんの作品って、「この作品で何を学習して何を反省したのか。それが次の作品にどうつながってるか」みたいな歴史の積みかさねが分かりやすいですよね(笑)。『ガンダム』に至るロボットアニメの系譜にしても、後からさかのぼって学びましたし、以降の富野監督作品も大好きです。その系統の仕事はしていませんが、影響はあると思います。
――もともと絵にはご興味があったのでしょうか。
西村
中高生のころは拙いながら漫画を描いていて、肉筆回覧誌という形式の同人誌づくりも経験しています。映画も好きでしたが、フィルムは大都市から順に回ってくるから、佐賀に到着するまで1~2年かかってしまう。たとえば『赤い鳥逃げた?』(73)年という映画に期待していましたが、ついに佐賀には来なかったり(笑)。東京の大学に行くことにしたのも、映画をたくさん観たいという想いがあったからで、映画づけの毎日でした。それこそまだ一色刷の小冊子だった『ぴあ』(東京のタウン情報誌)を片手に名画座を回り、通いつめました。
――TVがないのに、なぜアニメの世界に入ろうと思われたのでしょうか?
西村
演出がやりたくて映画の制作会社を受けたら見事に落ちてしまいまして、困って新聞広告を見たら、「にしこプロダクション」の演出・制作募集を発見したわけです。行ってみたら、「さっそく今日からやるか?」みたいな話になりまして(笑)。「グロス請け」(話数単位で丸ごと受注すること)が可能な10人ぐらいの規模の会社だったので、演出や作画、色指定のスタッフがそろっていました。スタートは制作進行からですが、その日から1カ月くらい休みがない過酷な仕事が続いて、それでも嫌ではなかったですね。
――それで、待望の演出デビューはいつごろですか?
西村
廣川(和之)さんが監督の『宇宙戦士バルディオス』(80)ですね。「いつか演出にしてやる」と言われて一生懸命働いていたある日、ある演出さんが急に降板されたんです。それで「仕方がない、今日からお前が演出だ」と社長に言われたのがきっかけです(笑)。そんな無茶苦茶が通用していた時代でした。ただ一応エクスキューズを言っておくと、演出になるための努力やアピールは日々していました。たとえば編集作業のとき、特に用も無いのに演出の後ろで、3時間くらいずっと立って観ていました。逆に言えばそれだけ(笑)。つまり、演出のノウハウを誰かについて、きっちり教わったわけではないんです。
――でも映画をたくさんご覧になられたことが、役だったわけですよね。
西村
もちろんです。「こういう画を見せたい」「こんな風につなぎたい」というアイデアだけはたくさんありました。とは言え、具体的にアニメの作業としてどうしたらいいか分からない。たとえば……オール作画で回りこむ「背動(背景動画)」ってありますよね。あれは自分が発明したものなんですよ。
――えっ? 意味が分かりません。
西村
誰も教えてくれないから、演出技法は自分で思いつかないといけない。そんな状態だったということです。「カメラをぐるっと回したい。でも、背景が水彩画だからできないよな……そうだ! 背景もセルで描けば回せるぞ! これは大発明だ!」って(笑)。既存の技術を知らないから、自分の中では「背動は俺が発明したもの」と言う事になってます(笑)。他には「手前にセルを2枚置いて引くと、回っているように見えるぞ!」というのも発明しました。
――密着マルチですね(笑)
西村
当時そういう発明!をした演出は、きっと、他にもたくさんいると思いますよ(笑)。
――マニュアルのない時代、それが思いつけるのは才能だと思います。
ロボットアニメと藤子アニメで演出家として鍛えられる
――『宇宙戦士バルディオス』の廣川集一監督(※『バルディオス』では広川和之名義。故人)は、西村さんにとってどんな方でしたか。
西村
まさに師匠のような存在です。ただしとてつもなく厳しい人で、かなり鍛えられました。自分はゆるみがちな性格ですが、その後も「ヘタなものつくって廣川さんに『なんだこれは』と呼び出されたら恐いな」と思うと、気が引きしまりました。何か言われたら、リアクションできるよう、きちんと作っておこう。いまだにそういう気持ちです。廣川さんは「コンテを見てやるよ。ただし金を払え。その代わりしっかり見るから」と言われるんです。でも、飲みに誘っていただいくと必ずおごってくれて、結局チェック代は自分のところに帰ってくる。厳しくも優しい気持ちが嬉しくて、お世話になりました。
――続く『六神合体ゴッドマーズ』(81)は、どんな経緯だったのでしょうか?
西村
先に演出で入っていた廣川さんから誘われた作品ですが、実に面白かったし勉強になりました。ロボットアニメだから当然戦闘シーンが多いわけですが、シナリオ上はアクションシーンがあまり明確に書かれていないので、内容もセリフも、演出がかなり自由にできたんです。ドラマがあるから頭とお尻は決まっていて、真ん中は好きにできる。たとえば「ビルに爆弾が仕掛けられている。そのタイムサスペンスの間に、ロボット同士の戦いを入れなければならない」という場合、事件の要素をどうやって戦闘に絡めるか、演出が一生懸命考えて、シーンやセリフをつくっていくんです。それを監督の今沢さんに提出すると、「この描写は面白いね。でも、使えないなあ……」と、シリーズとしての流れがあるのでボツになることもある。監督が作品全体を見てコントロールするということも、よく分かりましたし、演出として頭を使ったことが、後々ものすごく役にたちました。
――その後はスタジオディーンで『忍者ハットリくん』(81)や『パーマン』(83)など、シンエイ動画の藤子不二雄(前者はA、後者はF)作品に関わられます。
西村
ディーンではプロフェッショナルの仕事を目の当たりにできて良かったですね。岡安プロモーションの岡安(肇)さんご自身が編集を担当していたんです。イマヘイ(今村昌平)の映画を切ってきた大御所ですよ。納得しないと演出の言うことはきいてくれないし、そもそもお願いする勇気が必要なんです。「ここは切らないで下さい」とお願いすると「じゃあ、どこ切るんだよ?」と必ず聞かれる。「代わりにこことここをつまんでいただいて……」と言って、「そうか」と納得して初めて切ってくれるんです。
――演出上、編集はものすごく大事なポイントですよね。
西村
フィルムを手動で回すんですが、岡安さんはとてつもなく速く回す。ともかくガーッと通しで観る。それによって全体のリズムを見ている。そのうち自分でも「あっ、ここはリズムが悪いぞ」という感覚が分かるようになり、それで「ここは諦めよう」と計算して提案できるようになりました。おかげさまで全体を見ることの大切さや、シーンの優先順位を考えられるようになりました。演出家は全部のカットを一生懸命つくっているから、みんな大事になってしまうんです。それを「切れ」と言われても、最初は判断がつかなかない。それが修羅場の中で教えられました。ディーンに紹介してくれたのも廣川さんで、本当に感謝しています。
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