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UPDATE:2014.9.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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『鋼の錬金術師』で大ヒットを経験
――そしていよいよ大ヒットとなった『鋼の錬金術師』(03)です。参加のきっかけは?
水島
『シャーマンキング』のTVシリーズを1年以上やったことが評価され、ボンズの南(雅彦)さんから「少年マンガの演出ができる」ということでお話が来ました。原作を読んで骨太な物語がつくれそうだと予感しましたし、ズシリと心に残るキメラのような重いエピソードが印象的だったので、ストーリーエディターとして會川(昇)さんに参加してもらいました。
――水島さんと會川さんは、リアリティを求める姿勢が響きあっている感じがします。
水島
実は會川氏とやってていちばん楽しいのは、そこなんです。彼は現実味をもちこむ絶妙な視点を持っていて、僕ではやりきれない部分まで突っこんで提示してくる。『鋼』のテンションを維持できたのは、あの脚本のおかげですし、これ以降もタッグを組むきっかけになりました。原作に追いついた後半部からはアニメオリジナル展開となりましたが、結果的に野心的なフィルムにできたと思います。
――「土6」(毎週土曜夕方6時の毎日放送枠)で期待も大きかった作品です。
水島
局の竹田菁滋さんからは、「人の生死を扱うからには、ごまかさずに“痛み”が伝わるように」と始めるときに言われました。1話では主人公たちが罪を背負う人体錬成の失敗で母親の無残な姿が描かれますが、「監督はこれでええの?」と関西弁のメールがコンテチェックで返されて、奮起して描き直しました。なぜ禁忌か、一発で伝わるようにしっかり描く。そうなると引き下がれなくなって、「これは大変だぞ」と覚悟もしました。結果的にスタッフみんな腹が据わりましたし、その姿勢も貫けたと思います。
――竹田さんに取材したとき、「20世紀は戦争の時代、21世紀はバイオの時代」と明言されました。11年経ち、そう実感できるニュースが多い昨今です。
水島
キメラの回(第7話「合成獣(キメラ)が哭く夜」)も遺伝子操作的な話で、そういう先読み的な原作の要素とドキュメンタリー出身の竹田青滋さんの想いが、響きあったということでしょう。われわれスタッフもそうした意図を汲んで活かしていった結果として、時代を先取ることができたと思います。さまざまな点で、本当に恵まれた作品だったなと実感しますね。大ヒットと言っても自分の力でという実感はないし、人生の目標も『鋼』を超えることになったぐらいです(笑)。
――放映終了後には『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』(05)に入りますが、初の劇場映画です。
水島
南さんからは「番外篇などTVシリーズの単なる延長にするのはつまらない」と言われました。その一方で、死んだキャラも登場できるような「お祭りムービー」にしたいなとも思ったんですね。 過去の時間軸を切り取った番外編にできなくて悩んでいたときに、會川氏がパラレルワールドにして現実世界(第一世界大戦後のドイツ)と接点をもたせるアイデアを言い出したんです。すでにTVシリーズ終盤のアイデアとして現実世界とのリンクを考えていたらしく、そのアイデアの採用からTVの最終回もあのような形になったんですね。スタッフ全員が高い熱量を維持したたまま、劇場に行けたのはすごく良かったですね。
會川昇とのコンビ作『大江戸ロケット』と『UN-GO』
――會川さんとのタッグでは『大江戸ロケット』(07)もあります。
水島
もともと僕が吉松(孝博)くんと仕事をしたいと言っていたところに、マッドハウスの丸山正雄さん(現MAPPA)がもってきてくれた話です。原作者の中島かずきさんに構成メニューを出したら「内容が足りるか不安です」と言われたところに、それを會川氏に話していたら、当時手がけていた『天保異聞 妖奇士』(06)と時代が同じだということで、「ネタがカブったら嫌だから両方やる」なんて言い出して(笑)。
――自分が書けばカブらないと(笑)。
水島
結果的に會川氏のシリーズ構成は、アレンジが絶妙でしたね。赤井西之介や青い獣、宇宙人など、キャラクターをうまく掘りさげ膨らませていました。彼も同時代2作同時にやることはエポックだし、僕の方は吉松くんと組んで表現に関して工夫をする。イラスト的な絵柄を多用してポップな時代劇にするなど、面白いフィルムになりました。
――本間勇輔さんのビッグ・バンドジャズの音楽も、作風と見事に合っていました。
水島
本間さんは「音楽メニュー」を嫌い、みんなで集まってジャズやサントラを聴きまくる鑑賞会が開かれて、そこでイメージを共有しました。あがってきた曲は本当に良くて、僕の側でも映像ともピタリとマッチさせるための工夫をたくさん積みかさねて、隅々まで活かすようにしました。
――『UN-GO』(11)も、會川さんと組まれたノイタミナ枠の作品です。
水島
「ノイタミナやりたいな」とTwitterでつぶやいたら、プロデューサーの山本幸治さんから反応があったのが出発点です。
まさかと思いました(笑)。
「社会派のハードさがあり、バディものの刑事ドラマがいい」と言われて、會川氏と詰めていきました。
――原作は坂口安吾の探偵小説ですが、近未来へのアレンジが斬新でした。
水島
「原作もの」に大胆にアレンジを加え、新鮮な驚きのある作品にしたかったわけです。それには古典でかつ純文学の坂口安吾がいいのではないかと會川氏が提案して。書かれた以前の時代を描きながら、同時代の社会構造やシステムに疑問を投げかける。われわれがまさにやりたいことを、戦前すでにやっていたのはすごいと思いました。とはいえ若い観客も意識して、キャラクターデザインはpakoさんと高河ゆんさんにお願いしました。主役の勝地(涼)さんと豊崎(愛生)さんも、他とはひと味違うお芝居をしてくれて、思い出深い作品です。
――會川さんと組んだ一連の作品を振り返ってみていかがでしょうか。
水島
ストーリーはいっしょにつくるけど、それ以外はお互い深く干渉しないようにしてきました。テーマ性は脚本という形で明確にしてくれるので、僕はそれを視聴者にうまく伝えられるよう、演出家としてタッチやトーンなど全体をコントロールしていく。分業制のようなところもあり、それがうまく噛みあっていると思います。
『機動戦士ガンダム00』で現実との接点を
――『機動戦士ガンダム00』(07)はガンダムシリーズへの参加ですが、感慨はありましたか?
水島
たしかにビッグタイトルですが、性格的にもプレッシャーはあまりなくて、むしろ「土6枠」でまたつくれるチャンスが嬉しかったです。『鋼』が運に恵まれた作品なら、『00』をヒットさせたら自分の実力だと胸を張れるにちがいないと。それでより能動的に動き、いろんな人を巻き込んで面白いものをつくろうと目標をたてました。
――西暦を採用して国際紛争やエネルギー問題を扱うなど、現実世界との接点がやはり印象的です。
水島
これに関しては、MBSの竹田さんから「9.11以降の戦争」キーワードを頂き、「今の時代に描くべき戦争と、ガンダムとは何か?」を突きつめていきました。やはりスタッフに恵まれた作品なんですね。スタッフみんなが最後までテンションを維持して良かったし、熱い人が集まってました。高河(ゆん)さんなども交えつつ、ひとりで悩まずみんなでワイワイ楽しく進められたことが多いです。社内・社外のベテランに引っ張られ、若者が奮起するという構造も早い段階から生まれましたし、いろんな点でいい感じで進められたフィルムですね。
――キャラクターがそれぞれ明確化してから、一気に面白くなった印象があります。
水島
黒田(洋介)くんのキャラクター描写が、実にうまいからだと思います。つい先日劇場版(『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』(10))を観返してたら、ドラマの進行やテーマを優先してセリフを直したり削ったりしたはずなのに、キャラクターがメチャクチャ濃くて驚くわけですよ(笑)。これは黒田くんのホン(脚本)の個性が強いからなんですね。
――やはり組むシナリオライターによって、作風はだいぶ変わるものでしょうか。
水島
黒田くんとはお互いに「このキャラは自分が決める」とルールをつくり、棲み分けをしました。たとえば刹那は僕の担当で、セリフは少ないけど確固たる信念がある。うまくコミュニケーションがとれないのは、幼少期に少年兵だったからだ。だから仲良くなったからといって、会話が弾むようにはならない。そんなことを言いました。逆に黒田くん担当のグラハムは、自分を奮起させるために独特の言葉を語る。それがカッコよさにつながっていき、名台詞をたくさん生む。最初に「まさしく愛だ!」と聞いたときは、僕もどうしようかと思いましたけど(笑)。こうやって思い出しても楽しく、ワクワクしながら進めてましたね。役者さんたちも含め、キャラクターをみんなで深く考えていっしょにつくっていくことで現場のグルーヴ感が出て、熱気につながった作品だと思います。
――『劇場版』も、熱気のある濃密なフィルムだと思いました。
水島
映画化で特に心がけたことは、TVシリーズの熱を維持させることです。スタッフをそのままシフトして映画化できたので、それを考えられたのが大きかったです。映画が初体験のスタッフも多かったですが、劇場版『鋼』の経験をふまえてなんとか映画にできました。すべてにおいて「みんなでつくる」ということが実践できて嬉しかったです。
――トータルで、ぜひここをという注目ポイントなどありましたら。
水島
やはりファーストシーズン終盤でしょう。「ガンダムが負けていく」という驚くべき展開は最初からの予定ですが、誰も予想できなかったはずです。逆にファースト最終回で完璧にお話が終わるようにも見えたので、誰も2期を観てくれないと困ると不安になり、いっぱいヒキをつくったほどです。セカンドシーズンですでに確実に出てくると分かっていたキャラを、あちこち登場させているんですね。それがうまく響いて期待された分、セカンドシーズン1話のコンテのハードルがメチャクチャ上がってしまい(笑)。何かにつけ、お客さんの熱を感じながらやれたので、そこも恵まれていましたね。冒頭以外は、全部自分でコンテを切って自分自身できちんと考えぬき、「やっと『00』のアクションシーンを自分なりに切れた!」という実感もありましたね。ファーストシーズンでは、スタッフの考えたコンテを修正することが多かったので。だから少し遅れて参加したような想いもあったんですよ。
――監督なのに(笑)。
水島
ええ(笑)。他の作品もそうですが、「俺の色を出す!」ということではなく、まとめることを優先で考えがちなんです。
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