――そんな実験精神的なところは、初監督作品の『天空のエスカフローネ』(96)にも通じているなと思いました。
- 赤根
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そうですね。TVシリーズで毎回CGを使った映像を入れたのは初めてでしょう。
――監督に就任されたきっかけは?
- 赤根
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南雅彦プロデューサーに、その前の『疾風!アイアンリーガー』(93)のオープニングで呼ばれ、あまり時間のないところでやったその映像を気に入ってもらったようです。各話の演出も担当しているうちに、「監督やらない?」と当時ペーペーの自分に声かけてくれたんです。ビックリしたし、嬉しかったですね。
――河森正治さんの原作で、異世界ファンタジーという企画の印象はいかがですか?
- 赤根
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あれは『美少女戦士セーラームーン』(92)がヒットした影響で、「少女漫画っぽいものにロボットものを足す」という「受けたものと受けたものを合体させる」という企画意図なんです(笑)。だから「占いロボットもの」的な言葉が企画書にあって驚いたんですが、南さんには「赤根ちゃんの好きにしていいから」と言われ、「ホント?」と思いつつ入りました。企画時は男の子のバァンが主人公で、ヒロインのひとみが占いでサポートしつつ戦う物語だったはずですが、「いっそ少女漫画でやればどうですか?」 と再提案したんです。キャラクターデザインの結城信輝さんとも、昔読んだ少女漫画の話をして盛り上がったり。
――イントロは初恋告白で、ものすごいインパクトでした。
- 赤根
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当時さんざん罵詈雑言浴びましたよ(笑)。でも、原作者である河森さんのシナリオですから、変えられない。河森さんともだいぶやり合いましたが、面白かったです。シナリオまでは河森さんが見てるんですが、富野さんの仕事を見て育ったせいもあって、コンテ以後は僕が変えてしまうんです(笑)。富野さんは「シナリオまではプロットがあり、ライターが一生懸命アイデアを入れてシナリオにしててくれている。だったらコンテマンはさらにアイデアを詰めて、完成度をより高めたコンテを出さないといけない、アイデアを入れろ!」という感じでしたから。それが自分の中に残ってしまって。
――変えたりしてる風には見えないです。
- 赤根
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完全にビギナーズラックで。シナリオから逸脱して自由にやると、ストーリーもキャラクターも当然いろいろ合わなくなってくるんですよ(笑)。それを必死につなぎ合わせて、ようやく完成できた感じです。よく最後まで持っていけたなと。河森さんとライターが投げつけてきた球をどう打ち返すか、そういうやり取りも良かったです。
――その経験が後にシリーズ構成をご自身でやられるとき、活きているのでは?
- 赤根
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訓練になったかもしれません。そんなことを許してくれたプロデューサーの南さんに感謝です。やはり常々妄想してたのが良かったです。「監督になったらこんなのや、あんなの入れるぞ!」というアイデアが山のようにあり、次々に入れました。当時の若くて上手いアニメーターたちが入ってくれたし、アニメーションディレクターの逢坂(浩司)さんも絵をまとめてくれたし。彼とは『サムライトルーパー』からの付き合いで、いろんな相談にも乗ってもらいましたね。楽しかったです。
――改めて見どころは?
- 赤根
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ラブストーリー中心と思われてますが、実は壮絶なアクションものなんです。絵柄から女性ファンが多く、男の子があんまり観てくれなかった。ところが最近、ようやく男の子から「『エスカフローネ』って面白いですね!」と言ってもらえるようになった。今なら先入観なしにロボットアクションものと観てほしいです。僕もアクション好きで、徹底的にやってますから。剣劇もので、手描きの限界にも挑んでますし。
――オープニングの1コマ打ちでチャンバラしているところが衝撃でした。
- 赤根
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「1コマで」というアイデアは作監の佐野浩敏さんで、マントなびかせながら戦うロボットが良かったですね。菅野よう子さんのデモ曲では間奏だったメロディラインがものすごくカッコよく聴こえたので、「ぜひTVサイズの中にも入れてほしい」とお願いしたら、ちょうどその1コマの戦い部分に来て、最高の感じになりました。(坂本)真綾の透明感のある歌声も印象的だし。
――坂本真綾さんは当時まだ学生、デビュー作ですよね。
- 赤根
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高校生なので、アフレコには制服で来ていました。当時から彼女の芝居は独特の存在感があってよかったです。可愛らしかったし(笑)。2クール目頭ぐらいに中野サンプラザで開催されたイベントが、たぶん坂本真綾が人前で歌った最初だと思います。ファンの反応がダイレクトに分かって良かったですね。客席が女の子ばかりで、まずビックリ(笑)。「今日来られなかったスタッフにも、ファンレター送ってくれると嬉しいな」なんて言ったら、翌週からドカッ!と届いたり。手紙は中学3年生ぐらいの女子が一番多く、そのあたりなんだと分かって喜びましたね。来年20周年と聞いて衝撃です。
――『エスカフローネ』ではデジタル処理についてもうかがいたいです。
- 赤根
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今はD.I.D.スタジオの古橋宏くんがメインのCGディレクターでした。主にMacintosh上での処理で、いろいろ実験的なことも試しましたね。透明マントも普通なら消えるときにヒラヒラさせるところを、水みたいな波紋が空間に広がるようにしたら、すごく面白い効果になって。後にハリウッドでもやり始めましたけど(笑)。向こうは計算速度の速いコンピュータを使いますが、こちらはパソコンですから、波紋みたいな分かりやすい記号を浮かべる知恵で勝負です。それが案外アニメに馴染みがよかったんです。
――第1話でセルのベタ塗りの部分にテクスチャ貼りつけたのも斬新でした。
- 赤根
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「龍の鱗の質感を出したい」というのがリクエストで。アメリカは『ジュラシックパーク』でCGの恐竜を出してますが、これも知恵で勝負して「テクスチャを貼るのはどう?」と。これもやってみたら案外良かった。とにかくモーフィングなど、分かりやすい効果を多く見せるようにしました。映像のプロは「素人に分かったら終わりだ」と自然に見せたがるんですが、デジタルだと予算も手間もかかるので、はっきり分からせないとデジタルをアニメに使うという方法論自体がなくるかもしれないと思い。結果的に『エスカフローネ』というフィルムの特徴になったので良かったです。
――少し後に、劇場版『エスカフローネ』(00)も監督されています。
- 赤根
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あれは自分的にはいろんなアイデアを入れたつもりなんですけど、反省もある作品ですね……。今から考えると、燃えつき症候群になっていたのかな。TVシリーズは自分の120パーセントでやりきり、終わった直後は物足りなささえありました。だから、南さんから劇場のオファーがあったとき、「やり残したことがいっぱいあったからやる!」と即答でしたが、きっと1年間走り切った直後で頭がランナーズハイみたいな状態だったんですね。なかなか組み立てが上手くまとめきれなかったです。
――表現やテーマを深く掘り下げた感じもありました。
- 赤根
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自分がやりたいと思ってたこと自体は、嘘ではないんです。キャラクターの関係性だけをそのまま使い、まったく逆の別世界をつくろうと考えました。後の『ノエイン』の発想に近いところもあり、要するにもうひとりのひとみ、そしてバァンを描く並行世界です。ただ当時はうまく消化しきれず、分かりづらくなってしまいました。『ノエイン』で「いろんな並行世界が混ざりあっていく」というのができるようになったので、決して無駄ではないものの、いろいろとご迷惑をおかけしてしまいました。それとエンディングテーマ曲の『指輪』は大好きな曲で、今でもこれを聴くと目頭が熱くなる名曲。これを聴けただけでも『劇版エスカ』はやった価値があります。
――みどころも、ぜひ紹介してもらえれば。
- 赤根
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TVシリーズは学園の女の子から入りますが、劇場版では生きるか死ぬか男たちが常に考えつつ戦っている……そんなハードな世界設定なんですね。その男たちの話の中に、何もできない女の子が入ってくる。当時の僕の方法論では、映画一本にまとめるのは難しかったですが、ハードファンタジーにしています。
――ガイメレフの描き方も変わりましたよね。もっと生物的になって。
- 赤根
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その辺は、いろいろ詰めこんだアイデアのひとつですね。エッセンスはすごく良いので、懐かしい想い出の作品として見ていただければと。