――會川さんの関わった作品は非常に多く配信されているので、それらについてもいくつか聞いておきたいです。
- 會川
- たくさん配信していただいているのは、ものすごくありがたいと同時に、複雑な想いもあります。リストにある『大魔獣激闘 鋼の鬼』(87)も『冥王計画ゼオライマー』(88)も、そろそろ30年前の作品なんですよ。自分は16:9の画角が主流になった時点で、4:3の作品は古くさくて観られなくなるだろうと勝手に予測していました。でも、そういう違いを超えて今でも観られている。自分が20歳のときに約30年前というと、初代の『ゴジラ』(54)でTVそのものが普及していない時代になってしまうんですよ。『機動戦艦ナデシコ』(96)でさえ20年前ですから。それがバンダイチャンネルでは最新作と並ぶ。『疾風!アイアンリーガー』(93)も、今の若い人に「面白いですね」と言ってもらえたりしますし、選ぶときに、制作年は気にされなくなっているのかもしれませんね。それが良いことか悪いことか、自分では判断できません。その一方で、わずか5年前、10年前なのに全然観られなくなってる作品も多くなってきていて……。
――21世紀になってタイトルが増えた分だけ、作品が短命になって顧みられる機会が減った感はあります。
- 會川
- 入れ替わりも激しいですしね。いまだに『十二国記』(02)や『鋼の錬金術師』(03)に絡めて自分のことを語ってもらえるのは嬉しいし、ありがたいです。せっかくそういう時代に生きていて、30年前の作品でも最新作でも全部並列で観られる可能性があるなら、古い作品に対して自分の中で諦めるのはやめよう。そんな想いもありますね。もちろん、手がけている最新作がいちばん面白くなくてはならない。そうあり続けることってものすごく難しいんですが、そこも含めてこの状況を楽しんでいくしかないかなと。
――その他、語っておきたい作品があれば、ぜひお願いします。
- 會川
-
『ガドガード』(03)は「オンエアでは最終回まで放送しなかったから観てない」という感想がいまだに多いんですよ(笑)。これはこの機会に、配信で最後まで観ていただければと。『大江戸ロケット』(07)や『屍姫』(08)など、オンエア当時話題にならなかった作品を観ていただけるのは、嬉しいですね。特に『屍姫』は『ワンパンマン』の作画で受賞して(TAAF2016 アニメ オブ ザ イヤー部門 アニメーター賞)話題になった久保田誓さんと、ぴえろの『双星の陰陽師』(16)のキャラクターデザインに起用されている貞方希久子さん、この2人が当時ガイナックスの生えぬきとしてオーディションで選ばれた作品なんです。作画アニメ的なことも、きちっとやりぬいた作品ですし、そんな風に現在活躍中のスタッフの原点が分かったりもします。そうやって観ていただけると、『コンレボ』につながる系譜も見えるかもしれませんね。
――初期作品では『
冥王計画ゼオライマー』が印象的でした。主人公がヒーローだと思いきや、実は……という部分に、批評的なものも感じます。
- 會川
- 僕は原作ものの場合、面白くするために要素を分解したり掘りさげたりして、「原作論」的に脚色する傾向があるんです。当時のOVAには、古典的なロボットアニメを今風にアレンジしてつくってみようという流れがありました。敵の大組織があって幹部がいて、敵ロボとの戦闘にも名乗りがある。そうしたことを最新の作画レベルで見せてみようと。ゼオライマーの主人公像に関しては、当時の『うる星やつら』以降、漫画の主人公で男の子の存在感が薄くなっていたことに対する反発ですね。ヒロインを立たせるために、主人公のキャラを薄くして下げるのとは違う方法論を試してみたかったんです。あと、主人公たちを13歳から16歳ぐらいにする定番にも、疑問がありました。そうしたことが、あの主人公設定につながっているのかもしれません。それと作画的には、『ゼオライマー』も『THE八犬伝』(93)も、今では再現が難しい大変なことをしていますね。
――そこも含めて、今の作り手からすると一種の憧れがあるようです。
- 會川
- バンダイチャンネルさんでは「見放題課金」もあるのが、良いことだと思います。興味がなかったものにも偶然出会ってしまって、つい最後まで観てしまう。それが、本来の形だと思うので。
――水島精二監督とのコンビ作品も、いくつか配信されています。
- 會川
- 『UN-GO』(11)は気軽に全部観ていただけると、ありがたいですね。『UN-GO episode:0 因果論』も、可能なら全部観ていただきたいなと。
――『
UN-GO』は「昭和世界の読みかえ」みたいな点が共通しています。
- 會川
-
もともと『コンレボ』的な企画書は何回か書いているので、その中のひとつだったと思います。『UN-GO』ではボンズの大薮(芳広)プロデューサーから、「もう1回ぐらい同じメンバーでやってみたい」という話があって、次は何かオリジナルをということで考えて出したのが『コンレボ』です。
――今回、中島かずきさんに依頼したのは『
大江戸ロケット』も関係していますか?
- 會川
- そうですね。あのとき初めてお会いしました。マッドハウスで『大江戸ロケット』やるとき、ずっと劇団☆新感線に通っていた水島監督が指名され、それで僕が呼ばれたわけです。『コンレボ』の試みに対して中島さんが理解を示すことは分かっていたし、辻さんだけお招きするのも違う気がしたので。
――水島精二監督と何作もやられて、いかがですか?
- 會川
- 『鋼の錬金術師』は別として、水島さんとの仕事だと、どうしても与えられた枠やジャンルそのものに対するメタ化的な要素が入ってきますね。『大江戸ロケット』も時代劇、ギャグアニメに対して、ある種批評的に処していました。監督がそれを許すから、僕の方が甘えて悪ノリしているのかもしれませんが。それと一応は、完全につながっている連続ものではなく、1話完結の体裁をとることにしています。
- 會川
- それは自分では、チームものがフォーマットの基本だと思っている、ということでしょうね。そのチームが巨大ロボットを持っているか、各自が魔法的な力を持っているのか、その差でしかない。「何か事件が起きてそれを解決していく話」というのは、自然とそういうフォーマットになる気がします。海外のTVドラマもそのほうが長続きする印象があるし、自分はどうしてもフォーマットから入りがちですね。小説を書くときは、むしろ主人公をひとりにしたくて、登場人物がどんどん減っていきます。でも、今となってはチームものは案外王道ではないのかもしれない。そろそろ賞味期限切れなのかもしれないから、そこは難しいところです。
――最後に全体を振り返っての、まとめをいただけますか?
- 會川
- 今やっている『コンレボ』にしても、1週間に何度でも観返していただけるのが配信の良いところだと思います。気が向いたときに、以前の回も含めて、ぜひ自由に観ていただきたいですね。そういう配信ならではの見方に向いている作品ではあると思うので、ぜひ。
――『
コンレボ』2期の場合でも、「あれ、これって何話の続きじゃないの?」と思いついたら、すぐ確認しやすいですよね。
- 會川
- 本来TVアニメを観る行為って、かなり自由だったと思います。ある時期から「最初から最後まで通して観ないといけない」みたいな意識が拡がりましたが、僕は今でも「別に全部観なくていいじゃん」とも思っている方です。どうか好きな回だけ観てくださいと。それはかつて自分がアニメ誌などで作品紹介するとき、全体を紹介するのではなくて、どれか1エピソードで切ることが多かったからですね。
――それって、昔は平均値がそれほど高くなかったからじゃないですか(笑)。
- 會川
- あはは(笑)。それは特撮ものでも、ありましたね。もちろん『コンレボ』はそれを目指したわけではありませんが。好きな回だけ何度でも観てもらって構わないし、あるいは「あっ、この回観逃してるかも」というとき、ひょいと拾って観たりもしてほしい。自分たちの子どもの頃は、TVの前にいなくて観逃したら一生観られない、みたいな意識でした。だからと言って、別にそれを悲しみには感じていなかったわけです。一生観られないほうが当たり前だから。でも環境が変わったのなら、活用してほしいと思います。とは言え、自分としてはこの状況下で新作を出すということに対し、たまに悩むときもあります。バンダイチャンネルって、おそらく一生かけても観きれないぐらいの量のアニメが配信されていますよね。だったら新作がなくても、旧作だけで充分なんじゃないかと。それでも新作を選んで観てくれる方がいる。であれば、むしろがんばらないで、好きな回だけ観ていただけたらと。それが今なりの楽しみ方だと思いますし、『コンレボ』はそういう視聴方法に最適な作品だと思います。ぜひお気に入りの回を見つけていただけたら。
――最後に『
コンレボ』の今後ですが、ストーリー的には全体のラストへ向かっていく感じでしょうか。
- 會川
- 第21話から最終回(第24話)まで、一気呵成に行く感じです。こういうオリジナル作品だと、「最終回ってどうなるのかな?」と不安になるかもしれませんが、与えられた話数をできるだけフルに使い、カッチリと終わらせようとしています。水島監督とも最終回について話し合い、いろいろ悩んだ結果、今のかたちになっていますので。
――楽しみですね。どうもありがとうございました。
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