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UPDATE:2016.7.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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アニメ用オリジナルを立ち上げた初監督作品『陰陽大戦記』
――その『陰陽大戦記』は、玩具メーカーさんからの企画ですよね。
菱田
そうですね。もともと神操機(ドライブ)という玩具の元になった丸い形の携帯型ゲーム機があって、それをアニメ化したいという企画です。集英社さんの原作とコラボしてゲームを出す、いわゆるメディアミックス的な展開でやる中でアニメ化の企画が上がってきました。『Vジャンプ』のマンガに出てくる(吉川)ヤクモというキャラクターがいて、彼の何年か後を描くとか、そのままアニメ化するとか、いろんな案がありました。でもサンライズ側から「アニメ用に主役を新しく作りたい」という話が出て、その流れに乗って新たに作りました。TV化の前に「ジャンプフェスタ」用に3分ぐらいのPVをお手伝いしましたが、そのつながりもあって監督を依頼されたという経緯ですね。まだフリーの演出になって2年しか経ってないぐらいの時期でした。
――かなり早いですね。初監督としていろんなことをやらなければいけなかったと思うんですが、そうするとキャラやアニメ版の設定の立ち上げからでしたか。
菱田
そうです。式神というモンスター的なキャラ原案だけは、全部いただいていました。おそらくゲームの時点で作られた設定で、それを活かしつつ人間のキャラとストーリーは全部こちらから用意する進め方で。シナリオ打ちや企画会議では、ゲームのバンダイさん、WiZさん、マンガ版の集英社さん、それぞれの立場からいろんな意見が出ますから、それをどうまとめるかが大変で。それって監督の仕事なのかなと思いつつ、「じゃあ、こうしてはどうでしょう」とすり合わせながら進めて行きました。初監督からキツイな、とは思いましたが、今にして思えばあれを経験して仕分けや交通整理のやり方を覚えたので、後の仕事が楽になりましたね。
――経験値がだいぶ上がったみたいな?
菱田
そうですね。どの作品でもそうですが、『プリリズ(プリティーリズム』)のときも大変で、みんな監督を通して言いたいことを言うわけです。片や「小さい子に売りたい」、片や「声優ファンに売りたい」。「これだと成立しませんけど、どうします?」と、わざと橋渡ししたりするんです。結局どちらも譲らないから、「どっちもやれるようがんばります」って言うしか答えはないんですけど(笑)。
――『陰陽』は監督にとっても、大きな意気込みがあったと思いますが。
菱田
新主人公(リク)については、もうどんな難問でもクリアしてやろうと言う気分で、そこは自分から買って出た苦労だから、気にしてませんでした。でも実は僕の中では「もっとうまくできたんじゃないか」という反省しか残ってなくて、今回のサンフェスと配信のことを言われるまで、ずっと封印していたんですね。それで見直してみると、「よくもまあ、こんな無謀なことばかりやってるな」と。
――全話見返されたんですか?
菱田
さすがにポイントポイントの話数だけですが、よくできてるなと思いました。特に作画がものすごくがんばっている。僕の方はストーリーを考えてコンテ描くことで精一杯だったので、作画は現場にお任せしてて、映像のクオリティについて深く考えていなかったんです。でも、スタッフにもっと感謝しなければいけなかったなって、実感しています。やはり反省ばかり出ますが、結局ここでやりきれなかったこと、うまくできなかったことを、『プリティーリズム』でも『キンプリ』でもやろうとしてたんだと実感しました。原点でありトラウマでもあり、「千年をタイムリープする」なんて、『キンプリ』でも似たようなこと言ってて、無意識のうちに縛られてるんだなと思っています。
――サンフェスのセレクションはどういう観点で選ばれたんですか。
菱田
1話、26話、40話、52話にしました。ホントは12話も入れたかったんですけど。クール毎に「ここまでストーリーを展開させる」と考えていたからですね。第1話はいろんな意気込みを持って作ってたなという想いがあり、第26話はそこで一回燃えつきた回だからです。後に番外編みたいな話や総集編を入れてもらい、スタジオに来て仕事はしているものの、3週ぐらい死んだようになってしまいました。そこで自分を奮い立たせて第40話まで作ったんですけど、またそこで燃えつきてしまう。結局、ヘロヘロになりながら最終回第52話で話をまとめたという感じでした。明らかにペース配分の間違いで、トライアスロンなら水泳の時点で全力を使い果たして、その後グダグダみたいな感じ。そんな当時の記憶が生々しく甦る話数を選んでいます。作画陣ががんばっていて、すごいですし。
――そういう熱気ってフィルムに焼きつきますよね。セレクトされた話数の中でも、みどころをご紹介いただけると。
菱田
割と戦闘シーンがメインになる話ばかりなので、ユニークな必殺技の応酬が最大のみどころですね。必殺技の種類がムチャクチャ多く、毎回7~8個は出していました。その分あまり他ではやらないこともやっています。WiZさんの設定には必殺技の文字だけ書いてあるので、そこからあらゆる想像力を膨らませて作っていました。その辺は、ぜひ注目していただきたいです。最終話は、前話数まででまとめきれず、後半パートがエンディングも含めて後日談になっています。これ以来、監督を担当した作品では「最終話はフルに後日談」って決めるようになりました。『プリティーリズム』や『キンプリ』も、ラストに後日談がついてますけど、「実はこれが原点なんだぞ」って、知らしめたいです。
――後日談にするのには、何か理由があるんですか。
菱田
だって、見たくないですか?(笑)。だいたい男子のバトルものは、でっかいボスを倒せば終わりですが、彼がその後どういう人生を歩むのか、スタート部分だけでも見せられたら面白いだろうと。もちろん、何かしらトラブルが起きて1本放送が飛んだりしたときの保険という意味もあるんですけど。
子どもたちの想像力を大事にしている作品づくり
――初監督で1年間やれたことは、大きかったのではないでしょうか。
菱田
大きいですよ。僕のキャリアは珍しくて、シリーズ演出で関わった『恐竜キング』や3D演出で関わった作品も、だいたい1年以上続く作品ばかりなんです。だから1クールものの作り方が、逆に分からなかったりします。
――90年代まではロボットアニメ等、4クールやる作品が多かったのが良かったという話は、よく聞きます。
菱田
ええ。それによって新人演出家もいっぱい育ちましたしね。でも、最近の1クールものだと、すべての演出判断が監督に来てしまうので、新人が育ちにくいんです。サンライズはその点、近年でも1年ものが多いから、すごいと思いますね。
――ジャンル的にはキッズものになりますが、心がけていることはありますか。
菱田
ガンダムにしても、出始めたときはキッズものだったわけですよ。自分もガンプラでイマジネーションを膨らませながら盛り上がった。そういう気持ちを提供するのが玩具ものの使命だと思います。玩具からコゲンタは出てこないけど、画面の中にはいてくれますし、「本当にいるんじゃないか?」って思わせてくれるグッズなので、そうしたワクワク感を出せるようにと思っていました。
――想像力の触媒というのは、アニメの大きな役割ですよね。
菱田
ミニカーやプラモなど、そこから膨らむイマジネーションを大切にしてあげたいと、今でも思ってますね。『恐竜キング』も『プリティーリズム』も、やはりそういう想像力を膨らませられたらと。いかにもオモチャという演出にならないよう、実際にあるものとして扱うよう心がけてます。
――『陰陽』は世界観がわりと和風ですが、そのあたりはどうですか。
菱田
二十四節気や陰陽道を扱ったりしているので、思いきり特徴づけて「和」に振ろうと思ってました。ただ、「和物はヒットしない」というジンクスもあるんですよ。たぶん『妖怪ウォッチ』の前は何十年と和物はヒットしてないんですが、でも、そんなことは当時知らなくて(笑)、やはり人の目に引っかかるように特徴づけたモノが必要だと、筆文字を書いてもらったりしました。
――主人公については、いかがでしょうか。
菱田
僕が監督として作る主人公って、いつもポーッとしていて主人公らしくない子だなって、改めて思いました。キンプリの(一条)シンちゃんも、この(太刀花)リクにそっくりで。結局、僕はこれしか作れないんですね。普通の主役なら明るくて明朗で快活で、迷いなく答えに行きつけると思うんです。でも、僕の主人公はそうじゃないんだと。自分自身はあんなに穏やかではないので、そういう性格の子に憧れているんでしょうね。
――みんなキャラ立ってますよね。
菱田
もちろんみんなに思い入れはあります。(飛鳥)ユーマは眼から炎を出すのが大好きで、熱いですし。そのケンカっぱやいユーマを常に支えている(白虎の)ランゲツという式神も、すごくいいキャラです。(大神)マサオミさんもね、馬の代わりにスクーターに乗っててカッコイイ(笑)。正体は平安時代から来た人なのに妙に現代社会に根づいていて、ガンプラ作ったり牛丼食いに行ったり、面白すぎます。ラスボスの空(ウツホ)も、途中から降ってきた設定でしたが、ただ僕のラスボスは、いつもこんなヤツなんですよ(笑)。結局、ここでやりきれなかったものを後の作品でやろうとしてるんでしょうね。
文字の出る必殺技の展開を工夫した式神バトル
――式神のバトルはロボットアニメとは違うと思いますが、その辺はどんな工夫を。
菱田
元になる必殺技の文字設定って、2行程度しかないんですよ。単純に竜巻でアタックする、炎でアタックするだけでは絵にならない。変化に富み過ぎている要素を、どう使ってどうダメージを与えるかみたいな工夫が必要なんです。しかも、技は式神によって決まっている。お互い技を出しつくした後に主役の(白虎の)コゲンタが勝つ、という展開を作る必要がある。でも、それはシナリオでは構成できないんです。なので、そこが毎回の苦労でしたね。戦闘シーンは毎話数毎話数、ほとんどコンテ描き直し。しかも自分で描いたコンテが52本中31本あって、他の人でほぼ描き直しもあって。これは富野さんの影響なんですよ(笑)。監督が全部コンテでコントロールするのが当たり前という環境で育ったので、全話に僕の苦労が詰まっています。
――必殺技の量も、すごく多いですね。
菱田
二十四節気の式神がいて、それぞれ天流、地流、神流と3種類ある。その72体に、各3つぐらい必殺技がついている。律儀に全部出そうとしてて、毎週、大喜利大会みたいに「これを出すぞ」って考えて考えて、鍛えられました。3D演出をやった『恐竜キング』でも毎回毎回3D必殺技を作らされ、『プリティーリズム』ではプリズムジャンプという必殺技を毎回作らされ、『プリパラ』でもメイキングドラマっていう必殺技を作らされ、必殺技の呪縛から逃れられないまま、今に至る感じですね。『陰陽大戦記』の必殺技を見てもらえると、後のルーツが分かるはずです。
――日本一の必殺技メーカーですね(笑)
菱田
「でっかい剣を呼び出して相手を斬る」なんて大元はここで、実はセルフオマージュです(笑)。必殺技をうまく使いながら自分のやりたいストーリーを展開するか。苦労したけど、すごく楽しい仕事でしたね。
――物語は、第49話の「夢の終わり」が夢と現実の対比を描いていて良かったです。
菱田
この作品は10歳ぐらいがターゲットだったんです。少し上をねらってみましょうと言われていたので、背伸びしたようなストーリーを考えていたんですね。でも、今にして思えば7歳ぐらい、小学校低学年向けに徹しなければいけなかったなと。そういう意味では、子ども向けアニメでやるべき話じゃなかったかもしれませんね。
――背伸びというのは、ちょっと大人っぽいということですか?
菱田
それは『プリティーリズム』以後でも、変わらずやり続けていることで、結局は「ガンダムが目指した場所を目指そう」ということなんです。この最後の1クールにしても、玩具は気にせず話を畳むだけだったので、しっかりとした話を作ろうとがんばっていたのは確かですね。2つの戦いを多元中継で同時並行する見せ方も、『キンプリ』で高架下で戦うバトルの同時進行のまんまですよ。
――今回、改めて大勢の方が作品をご覧になるわけですが、どう感じられていますか。
菱田
いまだに作品を愛してくれてる人がいるのは嬉しいです。(陰陽)闘神機(※携帯ゲーム)を買ってくれた子もいると思いますが、単に見てて面白かったということを覚えててくれてる人が意外といるのはありがたいです。そういうファンに感謝を伝えたり、裏話的なことを言える機会も少なかったので、今回いろんなところで取り上げてもらってすごく嬉しいです。また、みんなと思い出しながら話をしてみたいですね。
――心に残るタイプの作品ですよね。
菱田
僕はガンダムに強烈なトラウマを植えつけられたので、強烈なトラウマをいつも植えつけたいという想いがあるんです(笑)。玩具ものは商品の発売が終わったとたん一気に萎んだりするので、とにかく記憶に残るものをと。大人になってからまた見たいって思われるようなものを作りたい。そんな人たちに、もう1回改めて第1話から見直したいなと思ってもらえたら最高ですね。
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