新たな展開『ゼーガペインADP』
――若い方が自分を投影して見られる作品かなと思ったんですが、今後の展開はいかがでしょうか。
- 下田
- 『ゼーガペインADP』と言う総集編ベースに新規カットを加えた作品を作らせていただいていますが、その反響次第ですね。うまくいけば僕としてもそろそろ完全新作を作りたいと公言しています。『ADP』は、完全なる総集編でもないし新作でもない。また大変な想いをしてすべてをパズルのように組み合わせていますから、またビックリするような何か違うものができると思います。楽しみにしていただければ幸いです。
――その作業で改めてご覧になったと思いますが、どんな感想をお持ちですか。
- 下田
- 当時作っていたときは何度も何度もチェックしましたが、実は終わってしまったら本編を通して観たりはしないんです。今回も当時の記憶で部分部分だけ見ていて、作りきったら、もう心の中にあるゼーガペインがゼーガペインなんですね。うまい言い方がちょっと思いつかないんですけど。
――10年間愛してくださった方々に何かメッセージがあれば。
- 下田
- 今まで応援してくださってありがとうございます。ありきたりな言葉ですけど、それしかないですね。ただ『ADP』も、あるいは完全新作が可能になっても、10年間愛してくださった方々の気持ちは絶対に裏切るつもりはありません。ぜひ、これからも応援してください。10周年はひとつの区切りとして大事ですが、「まだ終わってないんじゃないか」と、最近ふと思うようになりました。
――お話がそうだからかもしれませんね。ずっと続いてる感じがします。8月31日という、夏休みの終わりの日に設定してあるのも関係しているかも。
- 下田
- あれもどうして設定したのか、よく覚えていないんです。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』的なことがあったかもしれませんが。
――もちろん「ループもの」なんですが、その中でも独特に感じるのは裏づけのがしっかりしているからでしょうね。
- 下田
- SF設定は絶対にスキを作らないと、それは原作サイドにあったようです。
――だからこそ、まだまだ続いていく感があるという?
- 下田
- ええ、ぜひとも続けたいですね。
人気作『藍より青し』と『魔法遣いに大切なこと』
――他の監督作品も、ぜひご紹介いただければと思います。
- 下田
-
実は終わったものって、あまりよく覚えてないんですよね。そう言えば川澄綾子さんがこの前のイベントで、『藍より青し』(02)がアメリカで大人気だとおっしゃってました。和服がポイントなのか、日本文化の機微が伝っているのか、詳しいところまでは僕にはよく分からないですけど。
――あの作品は、当時から独特な雰囲気がありました。
- 下田
- 原作(文月晃)がまったく揺るぎなく、ブレない作品だったからでしょうね。あの時流行り始めた「ハーレムもの」は、だいたいひとりの男の子のところにかわいい女の子がいっぱい集まるスタイルでした。でも『藍より青し』では、主人公の(花菱)薫くんが絶対に(桜庭)葵ちゃんにしか目線が行かない。他の女の子がどう言い寄ってきても、結局は葵ちゃんへの愛情が一途でブレなかったので、ものすごく作りやすかったです。言い寄られて一瞬たなびくような画を作ったりしなければならなくなると、「それってどうなんだろう?」と思うので(笑)。それなのに、最後は「やっぱり君しかいない」って言われてもって。『藍より青し』はそうではなかったし、周りの女の子キャラクターたちもはっちゃけて、純情や純粋さを描きつつ、安心して楽しく作ることができました。
――他はいかがでしょうか。オリジナルは『 ゼーガペイン』ぐらいですか。
- 下田
-
原作があっても割と自由にやらせてもらったものが、『魔法遣いに大切なこと』(03)です。原作者の山田(典枝)さんが劇場映画用に2時間の脚本を書かれていて、それを13本のTVシリーズにする企画でした。最初は山田さん自身がその脚本を伸ばしていくということでしたが、毎回の盛り上がりも必要なんですよね。なるべく2時間の要素を壊さないよう、「13本に分けるならこうかな」と話し合いながら作ったんです。
――監督の方から「この話だったらこうした方が」みたいな提案をされたと。
- 下田
- もちろんアニメーションに向く題材ではあるんです。ある出来事の2時間を切り取ったのが原作ですから、前後や枝葉など省略された部分を映像化、マンガ化、小説化していくと面白いなと。ただ、毎回魔法を見せ場にするとなるとネタが尽きたりして、いろいろと大変でした。毎回毎回30分、いろいろと見せてお客さんにサービスしていくのって、結局は感覚のものなので、説明しても難しくて。その後も実写ふくめて何パターンかつくられましたし、同じプロデューサーさんで結実はしつつあるのかなと。
――いい作品だと思います。監督は地に足のついてて、しかもハートウォームというか、じんわり染みる作品が多いんじゃないかと思います。
- 下田
- それは嬉しい言葉です。ありがとうございます。
要素が総合的にハマって生まれる面白さ
――ところで監督が演出を学ぶにあたり、目標とされた方はいますか?
- 下田
- 一度もお会いしたことがないんですが、出崎統監督が心の師匠ですね。
――このインタビュー連載でも、出崎統監督と『ガンバの冒険』の登場回数はものすごく多いんです。
- 下田
- 僕はどちらかと言えば、『エースをねらえ!』ですね。TV版(73)も劇場版(79)も両方です。「TVの26本を劇場にするとこうなるのか」という驚きがあって、劇場版はビデオを見ながら全部コマを起こして、絵コンテ化しました。それで「こういう画の次にこんな画が来るんだ」って分かったのが、僕の絵コンテの始まりだったと思います。
――分析すると、かなり意外な画が入っているんですよね。いきなり口のアップからつなぐとか。
- 下田
- そうなんですよ。何で読んだか忘れましたけど、出崎さんとしては「この画の次に誰もがこの画が来る」って予想どおりのものを見せるつもりはないと。「この画の次にこれが来たらみんなビックリするぞ」っていうのを見せたいとおっしゃっていたそうですね。それは心に残っています。現場的な師匠は、先の鴫野さんになります。
――最後に今までの監督経験を通じて何かまとめ的なコメントをいただければ。
- 下田
- 僕は基本的に、自分が作っていることが楽しいんです。せっかくなので、この楽しさをみんなに分けたいなと思ってサービスしてるところがあります。そんなお仕事をいただけて、毎回感謝しております。
――その作る中でも、一番面白い瞬間はどんなところになりますか?
- 下田
- フィルムが完成した瞬間、音と演出がぴったりハマったところですね。先ほどの『セイバー』のクライマックスも、本当にみんな喜んでくれるか泣いてくれるか全然想像つかない状態で進めていましたが、ただ音楽とあの芝居と脚本とで三つのピースが絶対にそろうはずだと、確信はあるんです。それがダビングで実際にハマると、「よしっ!」という喜びがあるわけです。ホッとした想いとともに。
――それぞれ単体では出ない味が生まれるのは、アニメのいいところですよね。
- 下田
- 化学反応は絶対ありますね。画とストーリーと音楽と色と、他のすべてが集まってひとつのものになる。「アニメは総合芸術だ」と聞いたことがあって、それはいつも漠然と意識しています。
――その中で監督のポジションとは、どういうところになるのでしょうか?
- 下田
- 「第一番目の観客」って感じですね。「自分も楽しいからみんなも楽しんでよ」ってつくってはいるんですが。それでも完成したフィルムを1番最初に見られるのは自分なので、「これは特権だな」と思っています。毎回うまくいけば、こんなに楽しいことはないんですけど、思ったとおりでない場合も当然あり(笑)。ただし予想以上のもの、予想もつかないものが出てくる場合の方が、むしろ多いですね。
――そういう話は、できるだけ伝えていきたいと常々思っています。クリエイターは、綿密な設計で全部を支配してコントロールしていると思われがちですけど、そんなことはないんですよね。
- 下田
- そうですね。この取材者リストにお名前が上がってる監督さんたち、みなさん謙虚に思われてると思いますけど、アニメーションは自分ひとりでは絶対どうしようもないものなんです。特に監督というポジションについていると、本当にみなさんの力を借りて作るしかないと痛感します。
――今後について何かアピールしたいことがあれば
- 下田
- 個人的にはやはり「ゼーガペインを今後ともよろしく」ですね。僕自身は特に特に何もなく、今は『ADP』を作るのに精一杯です。そんなに器用な人間ではないので、いま目の前にあることしかできないんです。
――その集中力があるから、忘れられない人が出てくるのでしょう。本日は、ありがとうございました。
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