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UPDATE:2016.11.11

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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物語構造は「アニメーション映画の王道」
――これは最初からTVシリーズではなく映画でという企画ですよね?
片渕
TVの再放送がほとんど行われなくなったので、流れていってしまいますよね。インターネットで盛り上がっても、その後はみんなそれぞれの自分のモニターで観る。となると、それぞれ別々の体験になってしまうんです。映画はそうではなくて、いろんな人がいっせいに見られる。しかも一定期間続くし、半永久的にそういう状態が再現されて残るものになり得る。この題材はそういうものとして作らなければいけない、と思いました。独立した映画館の館主さんにも興味を持っていただけたので、『マイマイ新子』も1年間上映が続きましたから、少ない館数でも長い期間かけ続けられたらいいなと。
――バンダイチャンネルは、ガンダムなどを観るアニメファン向けでもありますが、そういった方たちに向けてアピールするポイントはありますか?。
片渕
基本的には、18歳のホワーンとした女の子がお嫁に行き、自分が知らなかった土地で出会うのも大人ばっかりで、唯一友達になるのが5歳の女の子というお話です。その5歳の女の子に軍艦の名前を教えてもらう。「戦争中」という肩肘はったイメージを取り除けば、ものすごく分かりやすい話です。ガンダムも戦争中のイメージをSF的なところへ翻訳して展開してたわけですよね。それと同じことです。モンペを履いていることでクラシカルに見えるんだったら、「モンペはいつどのように出現したか」みたいな部分まで掘り下げる考証の姿勢に興味をもっていただければと。とにかく固定観念的に見ないでもらえると、ものすごく伝わりやすい話だと思っています。
――確かに物語構造的にはアニメーションの王道に思えます。
片渕
そうなんです。その物語が可能なかぎり「本当はこうだった」と思える世界のなかで展開されることで、「本当にいそうな主人公」が実現できたのではないかと。そこを見てもらえると嬉しいですね。ここまで「本当にいそうな」ヒロインってあまり他にないかなと思うくらいで。
――実在感ですよね。絵を使って構築していく。
片渕
実在感は声についてもありますね。細谷(佳正)くんや小野(大輔)さんたち、他のアニメーションに多く出ている方たちも、それぞれ見せ場を持った演技をしてます。
――出番が多くなくても、映っていないところで何をしてきたか、感じさせるように演じられてますね。
片渕
特に潘めぐみさんのすずさんの妹(浦野すみ役)は、すごいと言うしかないです。登場回数は少ないのに、出てきたときの印象はすごく強いし。年子の妹だから、ほとんどすずさんとは双子のような妹なんです。その分身といた世界から引き離されて、誰も見知った人がいないところに行って、初めてたどり着いた先で唯一心が通わせられるのが5歳の女の子だけ。その5歳の女の子が大の軍艦マニア(笑)。そして、自分につらく当たる年上の女性といかに人間関係を築いていくか。そんな話だったりしますし。
――やはり異世界ものに近い構造をもってますね(笑)。
片渕
はっきりそうだと思うんです。
――すずさんが絵をスケッチしてるという、絵を描く人を絵で描くみたいなメタな構造にもなっていますね。そこには何か意味があるのでしょうか。
片渕
『アリーテ姫』で「この主人公はどんな人?」という話をプロデューサーとした時に、普段はお化粧する機会もなく、ものすごく地味な格好で口下手だったりするけど、絵を描いているときにはものすごい表現力で世界を展開できる人、つまり自分たちがいつも一緒に仕事しているアニメーターたちかもしれない、そう答えました。今回もそんなことを「絵を描く力」に託しています。本人が普段うわべで見せているよりもすごい表現力があって、心の中に世界を持っている人。それを絵を描くことで伝えています。世界を外へ向かって発信するその手立てを封じられたとき、どうやって自分の力でそこから脱出するか。そんな話だとも思っています。
観客に届いた時の化学反応で初めて映画になる
――その重要な場面でシネカリ(フィルムに直接傷をつけて動きを描くアニメーション技法)にした理由は何でしょうか?
片渕
自分たちのアプローチとして、『マイマイ新子』でも高樹のぶ子さんの他の小説の自伝的な部分をかなり読みこみ、いろんなものを引っぱり出しています。今回も同じで、こうのさんの『夕凪の街 桜の国』という作品から結びつけています。こうのさんは、表現者としてマンガ表現のいろんな手段を試している。だったらアニメーションの側でもいろいろ試すべきではと。そこでノーマン・マクラレン(カナダの映像作家)のフィルムスクラッチ、シネカリグラフィーみたいなアニメーション技法を応用してみたわけです。
――制作も上映もデジタルですから、あえてフィルム独自の表現を持ちこむことにも過去との「つながり」が感じられます。
片渕
教えている日芸(日本大学芸術学部)の映画学科ではまだ現像場が稼働しているので、フィルムが手に入らなくなったわけではないですが、映画って、映像ってこういうことなんだな、という感触をあえて残したかったんですね。
――本当にこだわりのレベルが深いと感じます。ただ基本は「すずさんから見た世界」ということですよね。
片渕
基本はね。でも、時々ちょっとした神の目線から見たときの、すずさんの存在の小ささみたいなものもあります。神って決しておおらかなものではないんじゃないかなと思ってて、どこか酷薄さみたいなものがある。だからこそ、小さなものが愛おしいというふうでありたいなと。
――そういう観点では、白鷺の存在感がすごく映画的だなと思いました。
片渕
一番肝心なところに出てきた白鷺が実在か幻か、原作でも映画でもはっきりさせていません。こうのさんは「最初から伏線を練っているわけではなく、出したものをどう応用して使っていくか、どうそれぞれ結末をつけていくか考えながらやっている」といっていました。こちらも出てきたものに関してできるだけシーンを関連づけてます。すずさんが裁縫することみたいに、原作以上に意味を持ったところもあると思います。裁縫は、すずさんのおばあさんから伝授されたことですから、今度すずさんがどうしていくのかということ含め、いろんな解釈の可能性があると思っています。
――そういう意味の再発見のためにも、片渕さんご自身が脚本から手がけられたいうことでしょうか。
片渕
マンガ原作の脚本は、丸写しにすればいいとよく思われがちですけど、そこは違いますよね。映画として再構成しなければいけない。そういう意味では原作は構成から1回バラして、出てくるものや使い方が同じであっても、また別のものと関連していくような部分で組み立て直しています。
――その再構成の結果、かなり凝縮感も出ていると思います。
片渕
カットした部分もありますが、なかったことにはしていないんですね。「その間に何かあったはずだ」という要素を画面の隅々に残していますので、機会があればまとめて30分ぐらい作り足し、長尺バージョンにしてみたいという気持ちはあります。
――何度も語られていると思いますが、今回の注目ポイントである主演についても、うかがえますか。
片渕
やはり主役がのんちゃんで正解です。あまりにもすずさんにぴったりというだけではなく、彼女はこの映画をよく知ろうとしているからです。2人で記者会見するときも、「映画はお客さんに届いたときの化学反応で初めて映画になる。我々がつくっているのは映画の部品なんだ」みたいな僕の話を檀上にいるのにものすごく真剣に聞いてくれて、「わかりました」って言ってくれる。『あまちゃん』の舞台の岩手の久慈に行ったときも、こっちの映画のポスター貼ってもらうなどものすごく活動してくれて、ちゃんと自分の胸に刻んだ言葉でコメントしてるんですね。なんだかすごくいい仕事仲間? 教え子?を持った気もして、あんなに働き者の女優さんはいないですよ(笑)。そこも含め、口コミが上映前にうまく作れてるということがすごく大きいです。
――最後にまとめのメッセージをいただけますか。自分としては、『アリーテ姫』から続く3作とも女性主人公で、そこに空想力や想像力みたいなキーワードが重なります。
片渕
マイマイ新子と千年の魔法』の「千年の魔法」は映画化するとき、原作の中にあった言葉をタイトルに入れたわけですが、どういうわけか前に作った『アリーテ姫』ではすでに「千年の魔法」という言葉が自分が書いたセリフとして登場しているんです。そして両方とも想像力に関わる物語です。想像力をどう扱うか。まったく存在しないものを想像するのではなく、自分の目の前にいる人の心を推し量ったり思いやることだったり、自分の目の前の風景にしても「ここにはかつてこんな人たちがいて、こんな経過をたどって目の前にあるんだな」ということを想像することだと思うんです。その想像力自体、アニメーションにとって非常に大事な原点だと思うわけです。今回、戦時中の普通の日常生活という題材ですが、この「想像力のあり方」がものすごく大事なポイントになっています。それが主人公の人となりや運命を定めているところでもある。その点では、自分が今まで何本も作ってきた作品の中で、一貫してると思っています。
――アニメの根源を考えるためにも大事なことだと思います。ありがとうございました。


PROFILE
片渕須直(かたぶち・すなお)
1960年、大阪生まれ。日本大学芸術学部に在学中、テレコム・アニメーションフィルムで宮崎駿監督『名探偵ホームズ』(84)の脚本と演出助手を担当する。映画『リトル・ニモ』ではパイロット版の演出助手、スタジオジブリで映画『魔女の宅急便』(89)では準備班を統括した後、宮崎駿監督の演出補を担当。大友克洋監督の『MEMORIES 大砲の街』(95)では演出・技術設計としてワンシーンワンカットを実現した。TVシリーズの監督作は『名犬ラッシー』(96)、『BLACK LAGOON』(06)があり、後者はシリーズ構成と脚本を兼任。映画の監督作は『アリーテ姫』(01)、『マイマイ新子と千年の魔法』(09)で、後者はSNSで大きな話題を呼んだ。ゲーム用ムービー『ACE COMBATシリーズ』を手がけ、戦闘機を中心とした航空史の研究家としても知られる。こうの史代とのコラボレーションとしてはNHK復興支援ソングの短編アニメーション『花は咲く』を監督。同じ布陣の最新作『この世界の片隅に』(16)には大きな注目が集まっている。


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