――では、最新作の『言の葉の庭』についてお聞かせください。独特の色使いや光の微妙な表現など、まさに集大成だと思いました。
- 新海
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自分自身でも今までで一番いい作品にできたと思っています。技術的な環境が大きく変わり、スマートフォンやタブレットがクラウドとワイヤレスで全部つながって、ビデオコンテを今まで以上にきっちりつくりこめたことは特に大きいですね。ビデオコンテの制作方法もこれまでとは違い、声もSEも自分でiPhoneで録音してワイヤレスでパソコンに飛ばし、ロケハンで撮った写真もWi-Fi経由でパソコンへ自動的に入る。すべてがひとつにつながっている感覚で、スキャニングの必要がない手軽さを楽しみました。映像の緻密な作業を重ねていくにしても、コンピュータが高速になったことで以前よりもコンポジット(撮影作業)が好きになりましたし、そんな楽しさもあって、やりたいことが存分にできた作品なんです。
本作品では、僕個人の課題として、言い訳の必要のない物語をつくり、より多くの人に楽しんでもらいたいという想いがありました。「『言の葉の庭』っていいよ」と人に勧めた時に、「すてきなものが好きなんだな」と思ってもらえるような作品にしたいと。それに近いものはできたんじゃないかと、監督として自信をもって素直にお勧めできる作品です。
――これまでと違うものをめざした理由は、何だったのでしょうか。
- 新海
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以前の作品には、すべていまひとつやりきれなかった反省が残ったんです。お客さんの反応が必ず極端に分かれてしまい、「大好きです」と一部の人には熱狂的に深く届くと同時に酷評も受ける。万人受けかというと、決してそうじゃなかったかもしれない。ですので言い訳をせずに堂々と「観てください」と言えるものをずっとつくりたかったんです。
テーマには、“孤独という状態を否定しない”ということを中心にすえています。世の中には“絆が大事だ”とか“孤独は乗り越えるべきだ”と、団結して何か苦難を乗り越えるタイプの作品が多いと思います。でも僕自身は“そんなこと言われてもキツイなー”と思ってしまう。他人にコミットしたり仲間を増やすことは、そんなに簡単なことではないので。孤独のまま立ちすくんでいる大勢の人に向けて、ひとりで誰かを求めている状態をむしろ肯定し、励ますような作品にしたかったんです。「“愛”よりも昔、“孤悲〈こい〉” のものがたり。」というキャッチコピーにも、そんな願いをこめています。孤独を否定せず、支えるようなメッセージをパッケージングするものとして、美しい風景、音楽、声優さんのお芝居と、心地よい要素を可能なかぎりきれいに組み立てることを目指しました。
――梅雨という季節設定にしたのは?
- 新海
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雨と緑はビジュアル表現のカナメですね。短い作品ですから、いくつか背骨のようなポイント、軸がないと成立しづらいので、物語も“雨の日にだけ出会うことができるふたり”としました。公開時期が梅雨どきだったのも狙いでしたね。