――最新作の『モーレツ宇宙海賊』についても、
お願いします。
- 佐藤
-
きっかけは何度か語ってますが、年末にいきなり大月さんが中野駅のホームで声を掛けてきて、「アニメやるよ! これはアナタがやるしかないよ! じゃあ!」と反対方向の電車で去って行ったのが始まりです。「年越し前に不安にさせるなよ!」とモヤモヤしながら家路についたという(笑)。本当に振ってわいた話で、しかも原作はまだ文庫1冊分しか出ていない時期です。2巻はゲラ刷りで読みましたが、文芸作業に入るときには3巻出るか出ないかぐらいのスケジュール感だったので、後半はオリジナルにするしかなかったんです。
――そのオリジナルに持っていく流れも、独特でした。
- 佐藤
-
スペースオペラを初めて観る方もいるとすると、後半は中途半端に原作寄りにするよりキャラクターメインで推し出して、物量を投入したドンパチにしようと。その分、序盤は電子戦メインにする。始まりは原作どおりに、「今は海賊の船長として活躍しているけど、何でこんなことになっちゃったんだろう?」としてしまうと、絵もキャストもこなれた感じは絶対出ないから、これは時系列順に再構成するしかないなと。こうすると展開がトロくなるんで「1話切り」されるので冒険だったんですが、一度火がつけば最後まで観てくれると信じて、5話一挙上映イベントをしたりニコニコ動画で上映したり、クチコミで粘ろうと。結果的にその5話あたりが大好きな方と中盤以降が好きな方と、はっきり分かれてしまいましたね。今回の劇場版では、その間をとれないかと考えながら進めています。
――画的にも、小説のイラストとは違っています。
- 佐藤
-
シリーズ構成上、キャラクターのバランスが変わるのは明確だったので、絵柄もアニメはアニメとしてやらせてもらおうと。これは原作の笹本さんも了解してくれました。小説のタイトルは『ミニスカ宇宙海賊』ですが、むしろミニスカから見えるふとももメインの作品だろうと思ったので、あきまんさんに「骨盤広く描ける人として選びました」と後で告白したら喜んでくれました(笑)。今回、劇場版のキャラデザを担当する堀内修さんも脚部にこだわりのある方なので、ふともも乱舞ですね(笑)。頭身もあがって目鼻のバランスは変わりましたが、TVのイメージを残しつつ密度の高い絵を描いているのは、すごいなと。堀内さんやメカデザインの鈴木雅久さんたちは
劇場版『ナデシコ』に関わっていて、僕はチームを組むということをあまりしない方ですが、またいっしょにやれるんだなと感慨深いです。人のつながりは何年経っても感じますし、あのとき真面目にやっていてよかったと感じますから、今も目の前の仕事はちゃんとやらないといけない。
――竜雄さんその姿勢は、TV版の物語や主人公像に通じるように思います。
- 佐藤
-
船長としてどうあるべきというよりは、あの子の生き方、考え方ですよね。30代、40代以上のファン層も多い一方、10代の女の子も共感できると支持していると聞いています。きっと進学や就職に際して思うことに響くんでしょう。『宇宙のステルヴィア』(03)もそうでしたが、僕の作品には意外に女性ファンがいるんです。『モーパイ』も僕の中学時代の友だちの女子が「娘といっしょに観ています」と(笑)。
――その親子二代という構図も作品とシンクロしてて面白いですね(笑)。
- 佐藤
-
娘を通じてお母さんの近況も知りつつ、どうやら娘は進学で悩んでるらしいぞ、なんてアニメを通じて体験できました。若い子は茉莉香の決断していく痛快さに共感しているでしょうね。他には会社経営している方に「人の育て方をものすごく考えていますね」と言われたのが嬉しかったです。茉莉香が船長たり得ること、人の上に立つということに関し、どう育てられて育っていくかは真剣に考えました。優秀な大人の中で育てられればスキルはあがる。だけど、いざ自分が人の上に立って人を使うとなれば、関係がガラッと変わるわけです。上の人に受けがよくても下の人間がついてこないことって、多々ありますよね。シリーズ構成上では、弁天丸のクルーに育てられた茉莉香が終盤でヨット部の連中を使うことになり、いかにみんなを掌握して動いてもらうかという部分で、それを意図的に描きました。笹本さんの原作でさらっと描かれている女子高部分を膨らませてもらったわけで、原作とアニメの幸せな関係を築けたと思っています。
――非常に気持ちのいい主人公像で、好感がもてます。
- 佐藤
-
僕としては、女の子をハンサムに描けないかなと。どうしてもアニメの女の子は男性視点で描かれがちなため、みんな似てくるんですね。それは僕も嫌いじゃないですけど(笑)、もっと別の切り口があってもいいんじゃないかと。「主人公が主人公になる条件」はあると思いますし、それをきっちり満たした作品にしたかったんです。
ちょうどそういうものが求められている世の中になってきましたよね。それをきちんと受け止めて観てくださる方が多いというのは、嬉しいことです。
――それをふまえて、劇場版に関してもう一度お願いします。
- 佐藤
-
TVでは努力する茉莉香を描き、最終的に船長としてタンカをきれるまでに成長しました。そんな茉莉香が海賊として日々を送ることを、外の人はどう見ているのか。そんな新たな視点を入れています。僕としては『宝島』にしたいなと。茉莉香はシルバー船長たり得るのか、それを問うためのオリジナル展開とキャラクターを用意しています。さっきも言いましたが、僕は現状のまま続ける性分ではないので、必ずぶっ壊します。その後に何が来るのかですね。固定ファンがつかない理由もそこだろうと思ってますけど(笑)。ビジュアル面では、ロマン・トマさん率いるフランスの美術デザインチームが日本人の発想と違っていて、すごいことになっています。弁天丸のブリッジも狭くして密度感を出して潜水艦に近くなっていますし、『宇宙戦艦ヤマト』とは違う宇宙船描写も楽しみにしてください。
――それでは最後にまとめの一言を。
- 佐藤
-
僕の作品は「人と人のつながり」を描くことがメインです。群像劇が多いのも、そのためです。それは最初にやっていたのがキャラクターがたくさん出てくる『ちびまる子ちゃん』ということが大きいですね(笑)。スタッフワークも「人のつながり」に助けられて仕事を続けてますので、劇場版『モーレツ宇宙海賊』も、ぜひ楽しみに劇場へ足を運んでください。