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UPDATE:2014.8.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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『空の境界』で劇場アニメを初監督
――そして『劇場版 空の境界シリーズ』(07)の第一章「俯瞰風景」で、銀幕デビューを飾ります。これはどのような経緯でしょうか?
あおき
ufotableの『コヨーテラグタイムショー』(06)で絵コンテ・演出を担当したとき、プロデューサーの近藤(光)さんが気に入ってくれて、誘ってくれました。でも、第一章を担当したからといって自分だけでいろんなことを決めたわけではなく、後からはいった事情もあって「各話演出」に近い認識でした。たとえばキャラクターデザインは野中卓也さんや須藤友徳くんが主導してまとめたものですし、美術も全話で出てくるレギュラーに関しては、他の章の監督たちと相談しながらつくっていきました。撮影も基本はufotable社内ですから、空気感などは撮影監督の寺尾優一くんが決めています。僕がシリーズの方向性を決めたわけではないんです。
――奈須きのこさんの原作小説を読まれた感想は?
あおき
正直、「よく分からないな」と思う部分がありました(笑)。もちろん面白いという前提ですが、奈須さんご自身が「俯瞰風景は意図的に分かりにくくした」とおっしゃっているように、時系列を混乱させて叙述トリックも仕掛けてあるなど、そんな部分ですね。もっと分かりやすい方向性を想定した、奈須さん自身による劇場用プロットもありました。でも最終的には、原作の分かりにくさも含めて映像化した方が、きっと良い結果になると思ったんです。もちろん難解さが観客のストレスになるといけないので、バランスに気を配りつつ再構成しています。
――結果的に、原作ファンからも大好評となりました。
あおき
僕にとっても意外でしたね。シーンも入れ替え時系列も直しているし、オリジナルのシーンも入れているから、原作とはかなり変えたはずなんです。たとえば屋上のアクションシーンは原作にはないものですが、その方が引きしまると判断して入れたんです。公開の1週間前、イベントではなく純粋に映画の感想をアンケートで書いていただく試写会が開催され、僕も後ろから見てました。上映後に明るくなったとたん、お客さんが誰とも話さず、鉛筆の音をカリカリ響かせて必死にアンケートを書き始めたんです。あまりにその状態が長かったので、「もしかして、やっちまったのかな……」と、思いきり不安になりました(笑)。ところがアンケートを見たら「すごく面白かったです」という熱のこもった意見ばかりで、あのときはホッとしましたね。
劇場アニメの方向性を変えた作品
――劇場用ということは、どのように意識されましたか?
あおき
「なるべくリッチにしたい」というのが近藤さんの希望だったので、背景や撮影処理などには相当凝りました。それでも世間の大作アニメ映画と比べれば予算も人員もそこそこですから、なんとかして劇場っぽく見せようという点では試行錯誤もしています。
――あおき監督にとっての「劇場っぽさ」とは、具体的には?
あおき
押井(守)監督はよく「映画とは?」という話をしていますよね。僕も『Methods(―押井守「パトレイバー2」演出ノート)』を読んだものの、正直ピンとこなくて(笑)。押井さんの青春時代にはビデオがないから、劇場を逃したらもう観られない。ものすごい集中力でたくさんご覧になった結果、つくられた映画観でしょう。でも僕は中学生のころにレンタルビデオが全盛期となったこともあり、映画は必ずしも映画館で観るものではなかったんです。押井さんの映画観の上澄みをすくっても仕方ありませんしね。結局、今も「劇場っぽさ」の正体はよくわからないです。
――とはいえ、この作品の大ヒットでアニメ映画の流れも大きく変わり、小規模の連作上映形式が増えました。
あおき
それは近藤さんやアニプレックスの岩上(敦宏)プロデューサーたちのねらいが、うまく当たったということです。
――濃厚なつくりで「約50分」という短めの尺も、良い感じでした。
あおき
僕も集中して観るには、ちょうど良い長さだと。「俯瞰風景」が去年3Dで再上映されたのでひさびさに観直しましたが、コンパクトで観やすいなと感じました。
埋没しない工夫を凝らした『喰霊-零-』
――続いてTVシリーズ『喰霊-零-』(08)を監督されます。
あおき
空の境界』と平行してシナリオ打ち(脚本会議)が進んでいました。『SHUFFLE!』の脚本がすごく良かったので高山カツヒコさんにシリーズ構成をお願いし、角川のプロデューサーの伊藤(敦)さんと3人で話しあってストーリーを練った作品です。
――原作漫画の前日譚というのは、最初から決まっていた方向性ですか?
あおき
原作は連載中で、ストーリーの着地点は分からない。最初はキリのいい所で1~2巻をアニメ化することも考えましたが、放映する頃には今さら感があるかもしれない。そこで「思いきって前日譚にしたらどうか?」と提案したら「面白そうだね」と、みんな乗ってくれたんです。
――第1話でまるまる別設定を用意した仕掛けも、当時かなりの反響を呼びました。
あおき
今は人気漫画家の瀬川はじめさんも『喰霊』は連載一本目、しかも毎クール大量の新作アニメが放映されるようになっていたので、“ふつう”だと埋もれてしまうと思いました。「大きなフックが必要だ」となったときに、フェイクの第1話をつくり、ラストで黄泉が「無双」して全員を斬りたおしていけば、彼女のキャラクターもすごく印象づけられるし、映像的にもインパクトが出るのではないかと。
――自分もリアルタイムで観ていて、パニックに陥りました(笑)。
あおき
氷川さんが話題にされていたのを僕も知り、ありがたかったです。あのフックは反響が大きかったようで、なおかつ物語も気に入っていただけて、嬉しかったです。
――そこが大事なとこなんです。単なるビックリ箱に終わらず、黄泉と神楽のキャラクターと悲劇に至る関係性がきちんと描かれてました。
あおき
「黄泉と神楽が仲良くなり、やがて対決していく」という悲劇の物語がつくりたいねと、高山さんとはずっと話していました。水原(薫)さんや茅原(実里)さんも思い入れたっぷりに演じくださり、すべてが良い方向にいきましたね。
念願の志村貴子作品『放浪息子』をアニメ化
――『アルドノア・ゼロ』にも絡みますが、“ノイタミナ枠”の『放浪息子』(11)は志村貴子先生の原作でした。
あおき
以前から「『放浪息子』をやりたい」とAICの三浦(亨)社長にずっと言っていたら、本当にアニメ化のお話が取得できたというのが経緯です。志村貴子先生の作品は大好きなので、本当に嬉しかったです。
――どういった部分に惹かれているのでしょうか?
あおき
なんと言いましょうか、不思議な魅力なんですよ。セリフが多くないのに、キャラクターがきちんと分かる。特に『放浪息子』は、本来重い話なのに、実にさらっと描かれている。やはりギャップですよね。キャラクターは非常に可愛らしいのに、エグいことを平気でやる。しかもエグさには、ユーモアを含ませてクスッとさせてくれる。あとはなんと言っても、独特の水彩タッチ。あの絵柄を活かしつつ、アニメとしても新しい表現に挑んでみました。
――あのふわっと濃淡のある色使いは、衝撃でした。
あおき
アルドノア・ゼロ』にも参加している大内(綾)さんに色彩設定をお願いしています。ところが撮影フィルタで水彩風にすると、セルの綺麗な塗り色と画面に出る色が変わることがあるんです。もし撮影処理で変わったら、大内さんにまた塗り直してもらう。その繰りかえしで、理想型になるまで追い込むのが大変でした。ただ、いったんコツを掴んだらリテイクもなくなりましたし、伊藤(聖)さんの美術もマッチして素晴らしい画面になりましたね。最終話はノイタミナ枠の「全11本」に合わせてニコイチで放送しましたが、ソフト化や配信では当初予定どおりの全12本構成となっています。
『空の境界』の劇場クオリティをTVシリーズで『Fate/Zero』
――続いての代表作は『Fate/Zero』(11)です。『空の境界』のヒットを受け、満を持してというイメージがありました。
あおき
僕も「ぜひやってみたい」という想いで参加しましたし、ufotableにとってもひさびさのTVシリーズで、全員が「『空の境界』のクオリティでTVシリーズをつくろう」と、そんなやる気に満ちた現場でした。
――『アルドノア・ゼロ』に関連することとして、虚淵玄さんの小説の映像化というのはいかがでしたか。
あおき
映像化を前提にしたときに、『空の境界』では構成に手を加えた部分がありましたが、『Fate/Zero』はプロジェクトの方向性として「そのままで」となりました。虚淵さんの小説を「原作のまま」アニメ化する、と。
――映像も見応えたっぷり、驚くべき濃密なつくりこみです。
あおき
空の境界』で培った技術を全投入し、スタッフ全員でがんばった結果です。ufotableのCG班が成長していたので、CGカットを随所に投入できましたし、誰からも止められることなく思う存分やれた結果、ものすごく贅沢なつくりの作品になりました。
――やはりキャラクターの読みこみがすごいなと感じました。
あおき
虚淵さんは文章が端的で読みやすく、キャラクターにものすごい魅力を感じられるんです。僕はそのまま映像化すれば充分にキャラクターの魅力を伝えられると確信していましたし、須藤くんのキャラクターデザインも非常によかったので、やはり原作の力とスタッフの力が大きいですね。僕としてはみんなでつくりあげた作品という印象が強いです。僕も含めてTYPE-MOONの作品が好きな人ばかりだったのも、良かったと思います。
――中でも印象深い回はありますか?
あおき
いちばん思い入れがあるというと、第21話(「双輪の騎士」)になります。自分で絵コンテを切り、Aパートのバイクのチェイスも楽しかったですし、Bパートの雁屋が崩れていくさまも、描いていて非常に楽しかったです。
――舞台の冬木市は神戸がモデルですが、ロケハンは?
あおき
僕は神戸に行けなかったのですが、副監督の恒松(圭)さんたちが行って、良い写真をたくさん撮ってくれました。古い街並みもある中に最新の設備もあって、良い街ですよね。僕は街を描くのも好きなんですが、そうすると美術の負担が増すんです。デジタル化で貼りこみも使えるようになったとはいえ、市街戦は大変ですから、やり過ぎないように気をつけています。
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