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UPDATE:2014.8.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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原点となったアニメ体験の思い出を交えつつ、クリエイターが自身と自作を振り返るインタビュー。「アニメのツボ」は終了しましたが、この連載は続きます。 今回は最新作『アルドノア・ゼロ』でオリジナルのロボットアニメに挑戦する、あおきえい監督の登場です。『喰霊-零-』では驚愕のイントロと心理描写で話題を呼び、『劇場版 空の境界』『Fate/Zero』などTYPE-MOON原作、ufotable制作の伝奇アニメでは、濃密かつ色彩豊かな映像感覚とアクションを提示。『放浪息子』では逆に淡い水彩タッチを活かした繊細な描写を貫くなど、キャラクターの細やかな心情とそれに寄りそった映像づくりに定評のある演出家です。
あおき監督は、かつてアニメのどんな部分に惹かれたのか? 演出家として考える「リアル」とは何なのか? そして「ロボットアニメ」について、どのようなことを体験し、今回はどんなことにチャレンジしようとしているのか?
アルドノア・ゼロ』へと収斂していく、その発想と人脈と表現力の総合性を浮き彫りにしつつ、今月も「作品のツボ」を探っていきましょう!
大人びたOVAで知るアニメの面白さ
――子どものころは、アニメをよくご覧になられていた方ですか?
あおき
そうですね。アニメや漫画の好きな子どもでした。ただ業界に入ってから周囲と話すと「この爆発シーンの原画は誰々」なんて感じですから、レベルがぜんぜん違うなと思いました。僕は単純に「このキャラクターかわいい」「このシーン格好いい」と、作画にまでは詳しくない程度でした。
――心に残った作品というと、どの辺になりますか?
あおき
小学校から中学校になるぐらいだと思いますが、押井守監督の『ダロス』(83)を筆頭にOVAがブームになったんです。ハイティーン以上をターゲットにしたアニメ作品が登場し、その大人っぽさが非常に新鮮に感じました。特にAICとアートランドが手がけた『メガゾーン23』(85)は衝撃で、まず主人公とヒロインのベッドシーンがあるわけですよ。キスシーンでもドキドキする年齢なのに(笑)。
そして何と言ってもラストシーン。主人公は戦いに負けて渋谷の街を杖をついて歩く。やがてその杖を捨てて、自分の脚で歩き出す……。そもそも「どうせ最後は主人公が逆転するに違いない」と信じていたら、あっさり負けるのでビックリしたんですよ(笑)。そしてこの後はどう考えてもバッドエンドに続く道しかないのに、後味は悪くない。エンディング曲もすごく良くて、さわやかな感じがしたんですね。「こんなに面白いアニメがあるのか」と感動しました。
――なるほど、それが転機になった作品というわけですね。
あおき
これがきっかけでOVAをたくさん観るようになりましたし、OVAを多く制作していたAICというアニメスタジオにも興味をもち、その結果、将来そのAICに就職することになりましたから。
――その他に何か印象的な作品はありましたか?
あおき
同じAICの『冥王計画ゼオライマー』(88)も衝撃で、『アルドノア・ゼロ』でも参考にさせてもらっています。特に第2話(作画監督:菊池通隆)における照明のあて方やレイアウトのとり方など、ホントにすばらしい。当時としては珍しくロケハンもしていて、リアルな風景の中に立つ巨大ロボットがとにかく格好いい。遊園地で戦うシーンでカメラがゆっくり横移動するパノラマ的な演出もいいですし、怪獣映画にも通じる雰囲気がよくて、まさに傑作です。今回、あくまでも資料として見返したんですが、あまりの面白さに熱中してしまいました(笑)。
アニメの工程を学んだ制作進行時代
――でもAICに入社されたのは、かなり後のことですよね?
あおき
大学卒業後です。高校生ぐらいからはもっと大人っぽいものを望んで実写映画を観まくるようになり、しばらくはアニメから離れていました。でも就職するときに、「自分でもアニメーションをつくってみたい」という想いが強くなり、それでAICの募集を見つけて制作進行で入り、アニメを生業とする人生がスタートしました。
――学生時代に自主映画など、映像をつくった経験は?
あおき
いっさいなかったですね。AICスピリッツでゲームムービーの制作進行をしながら、アニメの工程を勉強していきました。
――ゲーム用だとすると、ドット絵かCGですか?
あおき
ゲーム自体は当然CGですが、まだRETASやAnimo(デジタルアニメ制作ツール)がない時代(90年代中盤)なので、工程はセルアニメと同じ。絵の具でセルを塗って撮影し、フィルムをとりこんでムービーにするという流れです。とにかく分からないことだらけで、撮出し(撮影用に素材を組む作業)で「ここにタップがないぞ」とダメ出しされたり。背景は紙なので取り扱いに神経をつかい、雨が降っているときは出前用の岡持ちで移動したりしていました。その時にアニメづくりで経験すべきことはすべて経験し、大変でしたが楽しかったですね。
――「撮出し」は演出作業の一部ですが、どんな感じでしたか?
あおき
パズルみたいな感覚があって、面白いんです。違う部署でつくられたバラバラの素材を組み、撮影でひとまとめにされて動くフィルムになる。最初はものすごく感動しました。
――そんな経験を経て演出をされるようになったわけですね。
あおき
その前にデジタル撮影を1~2年ほど経験したのも良かったです。デジタル制作へ移行した過渡期(2000年代初頭)で人手が足りなかったんでしょうね。もともと演出志望でしたが、「デジタル撮影を経験しておくといいぞ」と勧められて、興味もありました。そのとき初めてAfter Effects(合成ツール)を使い、撮影で可能な処理が多いと気づきましたし、撮影処理をきちんとすることで画面の品格があがることも分かりました。
――そのころ、各社でフィルムの撮影台では不可能だったことを、いろいろとチャレンジしていた時期ですね。
あおき
撮影台だと「クロス引き禁止」みたいに移動する方向にも制限があったし、セル重ねも限られてましたね。デジタルでレイヤーを何枚も重ねて空気感を足したり映り込みを入れたりして厚みを出すなど、自分の撮影に対するこだわりも、その時期に生まれたものだと思います。
TVシリーズで各話演出を手がける
――演出デビューはどの作品になるのでしょうか。
あおき
初演出はAICのアダルトアニメでしたが、TVシリーズは『おねがい☆ティーチャー』(02)が最初です。元請けは童夢さんで、AICのグロス回である第5話(「そんな先生に、ぼくは」)の絵コンテと演出を担当しました。
――手応えはいかがでしたか?
あおき
本格的に30分のTVアニメで絵コンテを切るのも初だったので、試行錯誤でしたね。ギリギリ追い詰められた状況で提出しないといけない状況になり、自分も不本意な部分があったんですが、井出安軌監督から2カットだけ修正指示をいただいて、「こちらで直してもいいのですが、とても良い絵コンテなので、あおきさんの方で修正してもらえますか?」とコメントがついていて、ものすごく感動して励みになりました。いまだにそのメモは保管しています。
――演出初期の作品で、他に思い入れのあるタイトルは?
あおき
『ぷちぷり*ユーシィ』(02)です。トリガーを設立された大塚雅彦さんが監督で、ガイナックスとAICの共同制作でした。監督の意向でアイキャッチを毎回変えることになり、「好きにやっていい」と言われてコンテと演出を全話担当しました。本編とはまた違ったキャラクターたちのかわいらしさを見せようと楽しく担当できましたし、監督やスタッフの評判も良かったようです。
――キャラクターを深く読み込んで演出をされる印象ですが、当初からそんな感じだったわけですね。
あおき
『ユーシィ』はキャラクターもストーリーも、何もかもが好きでした。自分の担当演出回でも、キャラクターを掘り下げられたのが嬉しかったです。みんなで楽しく作ってましたね。地上波では放映されていなかったんですが、とても良い作品なので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
大きく注目された『SHUFFLE!』の演出
――各話演出時代、『SHUFFLE!』(05)の第19話「忘れ得ぬ想い」の「空鍋(からなべ)」が大きな話題を呼びました
あおき
楓というキャラクターが壊れてしまう回ですね。もともと高山カツヒコさんの脚本もダークな感じで、話題になったのは楓とプリムラの会話シーンです。楓は稟が好きだけど、罪の意識があって気持ちを伝えられずにいる。プリムラが「このままで幸せなの?」と問いかけると、脚本では「こうすることしかできない」と楓が泣くんです。でも、それはもしかしたらずっと自問自答していて、何らか決着がついている問題かもしれない。改めて指摘されたぐらいでは泣かない気がしてきて、何か別の表現がないか考えていたときに、ちょっと奇妙な方向の演出もアリかなと思いついたんです。
――やはりキャラクターの心情を深く読みこまれていますね。
あおき
最初は「アルカイックスマイル」のように少しだけ微笑み、「これでいいの」と応えるだけにしてみました。でも「もうひと押ししたい」と思ったとき、たまたまそのシーンで楓が料理をしていたので、「鍋の中に具材が何にもなかったら、怖いかな?」とひらめいたわけです。
――ホントにゾッとしました。しかも「空っぽ」が意味深ですよね。
あおき
ただしシナリオから流れが変わってしまうので、最終的には細田直人監督のご判断です。面白いと採用していただけて、ありがたかったです。
監督デビュー作『GIRLSブラボー』の経験
――話が前後して恐縮ですが、監督デビュー作の『GIRLSブラボー』(04)についてもお聞かせください。
あおき
おねがい☆ティーチャー』の「水着回」が好評だった結果、女の子がたくさん登場する回を振られるようになっていきました(笑)。これも女の子がたくさん出てきて「ハーレム状態」になるので、きっとその流れでしょうね。初監督なので右も左も分からず、スケジュール管理もうまくできなかったし、シナリオをどう読み解いていったらいいかさえ不明で、すべて後手にまわってしまいました。今にして思うと「こうしたい、ああしたい」と自分から言うべきだったんですが、それが正しいかどうかすら自信がなかったんです。自分の意見を引っ込めて調整役にまわりがちだった反省がありますね。
――やはり「監督」とは、「演出」とはまったく違うものでしょうか。
あおき
違いますね。そもそも監督がすべての話数でコンテを切るのは、スケジュール的に無理がある。だから、監督は各スタッフに「こうして欲しい」と的確な指示を出すべきです。そのためには「やりたい方向性」をはっきり伝えなければならない。当時は、まだそれが分からなかったんです。結局、他の方にあげてもらったコンテが自分のイメージと違うので、直すことになる。でもそれは、僕の発注の仕方が悪かったせいなんです。コンテ修正に時間を使いすぎてスケジュールがなくなり、みなさんにご迷惑をかけてしまいました。そんな点も含めてとても勉強になり、以後の監督作品では自分でプロットやシノプシスを書くなど、やりたいこと、目指すべき方向性を先に示していくようにしました。
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あおきえい 関連作品

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