――さて最新作『
アルドノア・ゼロ』(14)は、監督として初のオリジナル作品になります。ストーリー原案は虚淵玄さん、シリーズ構成は高山カツヒコさん、キャラクター原案は志村貴子さんと、これまでの作品歴からの「流れ」を感じます。
- あおき
-
結果的にそうなった感じですね。最初は僕と岩上さんと虚淵さんでストーリーづくりを進めていきましたが、虚淵さんのスケジュールの都合もあり、僕から高山さんを推薦して原案をもとにした物語づくりを引き継いでもらったという経緯です。志村さんも岩上さんから先に提案があり、大ファンの僕としては断る理由がまったくなかった(笑)。ちょうど『放浪息子』や『青い花』といった長期連載にひと区切りついた時期だったのも、タイミングが良かったです。
――やはり縁があるということですね。仮題は「火星のプリンセス」で、エドガー・ライス・バローズによるスペースオペラの古典小説と同じです。
- あおき
-
当初から「火星のお姫さまが登場する話」と決まっていたので、あくまで仮タイトルでした。地球と戦う相手をオリジナルの異星にする案もありましたが、そうするとかなりファンタジー寄りになってしまう。僕としてはリアルに寄せたいので、テラフォーミングの可能な実在の星としての火星にしました。「火星と地球の戦い」は、ありとあらゆる媒体で何度も語られてきたという危惧もありましたが、「骨格は王道でいこう」という想いも強くて。
――ロボットアニメも初監督になりますよね。
- あおき
-
岩上さんのオーダーが「ロボットありき」で、僕自身も今までやったことがなかったので、興味をつよく覚えました。ガンダム以降、スーパーロボットとリアルロボットにジャンルが二分化して、かつては明快な区分けがあったと思います。でも、近年はその境界が曖昧になりつつある気もして。『アルドノア・ゼロ』では、「リアルロボット路線でいま一度、物語をつくるとどうなるか」を試してみたいと思っています。
――地球側と火星側で、ロボットのデザインコンセプトがまったく違うのも、その一貫でしょうか。
- あおき
-
そうですね。地球側は工業ロボット的な直線主体でゴツゴツしたラインなのに対し、火星側は古代文明から得た超テクノロジーを入れることで、曲線を主体にしたデザインラインとしています。
――『
ゼオライマー』を参考にされたとのことでしたが、他にはどんなロボットアニメがお好きですか?
- あおき
-
『機動戦士ガンダム』は当然として、『超時空要塞マクロス』や『機動警察パトレイバー』のように、ロボットの存在感や表現がリアルな作品が好みです。『ゼオライマー』もロボットの存在はスーパーロボットなんですが、描き方をリアル寄りにしたところに惹かれましたし。
――敵側、味方側にそれぞれ主人公がいるという構造も、興味深いです。
- あおき
-
合わせ鏡のような2人のキャラクターが戦い、ときには呉越同舟的に協力して、やがて決別していく……そんなタイプの話に惹かれる傾向があります。『喰霊-零-』では黄泉と神楽、『Fate/Zero』では最終的に切嗣と綺礼、2人のキャラクターに物語が集約されていきます。なので本作でも地球側と火星側にそれぞれ主人公がいて、2人の中心にお姫様がいる。そんな三角関係をベースとした物語構造にしています。
これは高山さんの提案なんですが、「火星側のスーパーロボットをどうやって地球側のリアルロボットが倒していくか」を全体のコンセプトにしています。ロケットパンチを打ち、剣で斬り、バリアを展開する。そういうスーパーロボット的な強力な武器を火星側のロボットに再定義する。地球側は「この強力な武器には、特性上きっとこういう弱点があるはずだ」と知恵を使い、リアルに対処する。この対立構造を物語にいれています。
――それで主人公の伊奈帆は「熱血タイプ」ではなく、冷静沈着なキャラクターになっているんですね。
- あおき
-
僕は荒木飛呂彦さんの『ジョジョの奇妙な冒険』が大好きで、それは主人公が相手の戦術を観察し、それに対処を考えて勝っていく話になっているからです。理屈に納得できるかどうか。そこが自分にとっては物語をつくるうえで大事なポイントです。ですから、「根性で勝つ」というのが、あまり理解できないんです。『天元突破グレンラガン』のように、あらかじめそう宣言している作品はともかくとして、リアル路線だったはずなのに、ピンチになると「ウォー!」と雄叫びをあげ、謎のエネルギーがビーンと出て一気に逆転する。そんなケースだと、物語の構造上で必要なのは理解できても、矛盾に感じてしまうんですね。
『アルドノア・ゼロ』は、持たざる者が持つ者に対し、知恵と勇気で戦いぬく物語です。それゆえひとつひとつの物事に対し、冷静沈着に対処できる主人公にしたいと。そうして生まれたのが、界塚伊奈帆というキャラクターです。たしかにロボットアニメの主人公では、比較的珍しいタイプかもしれませんね。
――映像の描写としてのこだわりは?
- あおき
-
ロボットの実在感ですね。そんなときに参考にしているのが、やはり『ゼオライマー』です。ロケーションをしっかり決めて低い位置にカメラを設定し、フットライトの照明でロボットの巨大感と「そこにいる感じ」をうまく出している。『アルドノア・ゼロ』も、あの雰囲気を出すためにロケハンで写真を撮り、それをもとにレイアウトを組んでいます。メカと風景の対比をしっかり描くことで、巨大感もきちんと出るんです。現場には負担を強いてしまって恐縮ですが、絵空事の世界ではなく、「本当にロボットがいる世界で戦っている」という感じを楽しんでいただけると、嬉しいです。
――この先の見どころは?
- あおき
-
1クール目の最終回に向けて、さらに大きなバトルシーンがあります。「ロケットパンチ」に続き、最後の敵にも「これぞまさしくスーパーロボット」という特殊能力を持たせましたので、どうやってそれを倒すのか、ご期待いただければ。
――2クール目の構想は?
- あおき
-
後編は、いま懸命にシナリオを開発しているところです(笑)。とはいえ1クール目もキリの良いところで終わりますので、お楽しみに。
――前編のクライマックスを楽しみにしつつ、後編もご期待ということですね。あおき監督にとって、本作は「ゼロ」のつく3本目のタイトルとなりました。
- あおき
-
不思議とそうなりましたね(笑)。
――「ゼロの監督」というイメージも定着しつつあるかもしれません。
- あおき
-
本作で「ゼロ」をつけたのは、A-1 Picturesの林(健一)さんです。タイトルを決めるとき、一番おさまりが良かったからです。
――その「ゼロ」に、こめられた意味は?
- あおき
-
2クール目の物語で、そこが浮き彫りになる予定です。
――では、「ゼロ」の謎を含めてお楽しみにということで、本日はありがとうございました。