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UPDATE:2014.11.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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大人のための娯楽作品を目指した『妖獣都市』と
ジュブナイル作の『魔界都市<新宿>』
――その菊地秀行さん原作の『妖獣都市』(87)は、川尻監督の名を一躍世に知らしめた画期的な作品でした。
川尻
何より自分がいちばん意外に思ってますから(笑)。
――定番の質問ですが、まずきっかけは?
川尻
走る男』を観たプロデューサーが持ち込んできた企画で、最初は今の80分ではなく、35分のOVAでという話でした。ところが何か行き違いがあったらしく、35分版のコンテを描き上げた後に、丸山(正雄)さん(当時マッドハウスのプロデューサー)から「これ80分にするってさ。どうする?」と聞かされたというわけで(笑)。
――その経緯は衝撃ですね(笑)。でも結果的に長編化は良かったと思います。長さはどう対処されたんですか?。
川尻
自分としては何としてでもこの作品を完成させたかったので、一晩ぐらいで一気呵成に増量分のプロットを書き上げました。セリフだけを書きつづったようなメモ書きでしたが、それでプロデューサーからのOKが出たので、そのままシナリオなしでいきなりコンテ作業に入ったというわけです。
――どんな手段で長くされたのでしょうか?
川尻
書きあげてあった35分のコンテはそのまま活かしたかったので、主に前後や途中を書き足す感じです。当初は空港から始まり、教会のシーンで終わる構想でしたから、冒頭の蜘蛛女のシーンなどは丸ごと足した部分です。結果的にその水増しが、映画のリズムを生んでくれました。
――菊地さんの原作を読まれたときの感想は?
川尻
自分と同じ山田風太郎ファンがいて、あの世界観を現代風にアレンジして面白い小説を書いていることに感動し、これは絶対面白くなるぞと思いました。なので映像化の目標としては、原作の面白さと世界観をきちんと伝えること。この「伝える」という部分が最優先で、まずは観客の目線を大切にしました。それで独りよがりにならず、バランスのとれた作品にできたと思います。
――大人向けのハードボイルドな作品ということで、異色な驚きがありました。
川尻
これを手がけたのは36歳のときですが、たしかに当時そういう作品はほとんどなかったですね。大人が楽しめるアニメーションをつくる。それは確かに目標でした。
――ブルーを基調とした色の使い方も、全体的にクールです。
川尻
ホラー・伝奇ものですから、冷たい空気感を描きたかったのと、フィルム感度による発色も理由ですね。ブルー系のセル絵の具はうまく配置することで、撮影後の色の表現を豊かにできるという確信があったんです。「限られた選択肢の中でベストは何か」を突き詰めていった結果、必然的にブルー調になりました。
――その硬質なイメージの表現と、男女のロマンスという叙情的な部分のバランスも魅力的でした。
川尻
僕としては、もともとロバート・アルドリッチ監督の『北国の帝王』(73)のような“骨太な男の映画”が大好きなんです。でも、悪党とおっさんしか出てこない企画をアニメで通すのは極めて難しい(笑)。そしてエロとグロとバイオレンスだけでは、後味が悪くなってしまうんです。ロマンスや叙情性といった要素は、あくまでも商品としての必要条件として入れたものですが、映画に良いコントラストが生まれたと思います。それは『獣兵衛忍風帖』にしても同じですね。
――海外でも非常に評価が高い作品です。何か意識されたことは?
川尻
どの国のどんな人が観ても、理解できるストーリーや構図ですね。それはこれに限らず、どの作品でも意識していることです。特にこれは原作の良さを「伝えたい」という気持ちが大きかったですから、客観的目線がすごく養われました。
――続く監督作品も、菊地秀行原作の『魔界都市<新宿>』(88)です。ただし、ジュブナイルですね。
川尻
ええ。『妖獣都市』の成功を受けての企画なので、主人公の少年をややハードボイルド的に描いてしまいました(笑)。
――壊滅した新宿という廃墟のリアリティと不気味さが印象的でした。
川尻
現実の東京を舞台にした『妖獣都市』は、日常的な風景を「妖美の世界」として切りとるとき、難しい部分も出てきました。その点では、街が崩壊している『魔界都市』の方がやり易かったですね。
寺沢武一のヒーローもの『MIDNIGHT EYE ゴクウ』
――『MIDNIGHT EYE ゴクウ』(89)は寺沢武一さんの原作で、主人公ゴクウのヒーロー性が際だつ作品です。
川尻
寺沢さんは一貫してヒーローを描き続けている漫画化で、そこがすごいと思います。中でも『ゴクウ』は、非常に面白い作品だと思いました。左目に世界中のコンピュータへアクセス可能な端末が埋め込まれているという設定は、現実世界でもコンタクトレンズ型コンピュータが開発されてますから、まさに先駆けで。
――たしかに情報戦を組み込んだアクションは新しかったです。
川尻
ただそのコンピュータ画面が問題で、今ならデジタル処理で簡単なことも、手描きでは苦労しました。メカに詳しい岡村天斎くん(岡村豊名義・『七つの大罪』監督)ががんばって透過光処理で描いてくれて、助かりました。今、リメイクすれば、もっと面白くできますよ。ただし、寺沢キャラは軽口叩いて決め台詞の多い男なので、実写の俳優さんだと聞いてて恥ずかしくなるでしょうね(笑)。あんなキザな台詞でも平気で決められるのは、アニメーションならではの武器だと思います。
――伸縮する棒を駆使したアクションも、縦方向に移動する動きがあって面白かったです。川尻監督作品では高さの表現がよく出てきますね。
川尻
ええ。演出家としては当然空間の使い方は意識しますし、ショットとショットでアクションを割って重ねていく感覚が自分には心地よいんです。これは誰に影響を受けたというわけではなくて、おそらく原画の経験が下敷きになったことだと思います。まず百何十枚というラフ原画をバーッと描き、ブワーッとめくって一気にチェックするんです。それで「この動きはここまででいいけど、ここが足りない」「次のショットは、ここからだな」と、本来は編集段階にならないと分からないようなことが先に見えて来るんです。そうした感覚が養われていたから、アクションが小気味よく見えるんだと思います。
――この作品を振り返ってみて、いかがですか?
川尻
ものすごく面白い原作ですから、演出家としては格好いいコミックの絵を映像のリズムに変換することだけに専念できた作品です。タケカワユキヒデさんの音楽(KAZZ TOYAMAと共同)も良かったですし、原作者の寺沢さんにも、気に入ってもらえて、ものすごく光栄に思いました。
サイバーパンクな捕物帖『CYBER CITY OEDO 808』
――『CYBER CITY OEDO 808』(90)には『ゴクウ』と同じサイバーパンクな雰囲気があります。
川尻
影響はありますね。ただこれはメディアミックス展開で、僕が参加したときにはすでに原案のプロットとタイトルが決まっていて、丸山さんから「キャラを描いてくれない?」というお話だったんです。ゲームと小説をアニメと同時進行させる予定でしたが、シナリオが進むにつれて設定を自分なりに変えていきました。犯罪者が主人公で「警察に加担すれば、服役年数を引いてやる」という前提ですが、それだけでは腕利きの連中が警察の手先になるはずない。それで「首輪」の設定を付け足したわけです。苦労したのはオープニングですね。機動刑事の首輪がふたつの「O」に分かれ、「OEDO」に変化していく動きが手動の撮影だと、何度やってもズレてしまう。今ならものすごく簡単にできることですけど(笑)。
――各キャラクターにスポットを当てた全3本は、当初からの予定ですか?
川尻
あれは打ち切りなので(笑)。とにかく最初にキャラを起たせたくて、僕の好みでそれぞれスポットが当たる群像劇につくり変えています。面白い作品だと思いますよ。個人的には2本目の話が好きですが、それはおっさんが主人公なので(笑)。江戸を未来に投影した世界観はものすごく面白くて、ハードなSFよりなじみやすかったですね。刑事が十手持ってるのも良かったし(笑)。
個性的な原作を、幅広く監督した作品群
――監督は、松本零士原作の『THE COCKPIT 成層圏気流』(93)と、ゆうきまさみ原作の『鉄腕バーディー』(96)と、漫画家のカラーが強い作品も手がけられています。
川尻
鉄腕バーディー』は「何で自分にオファーが来たのかな?」と不思議に思いましたが、面白い原作ですよね。アダルトな作風だけでなく、正統派の少年漫画にも挑戦したくてお引き受けしました。
――原作で面白いと思ったところは?
川尻
まずは魅力的なキャラクターですね。それから“異世界”と“お茶の間”のコントラスト。僕は「お茶の間」を描いた経験がなかったので、カメラをどこに置けばいいか悩んだりしました。バトル・アクションの方は違和感なく自然にできました。迫力よりもテンポ感重視で、これまでの作品とは違う感覚を大事にした作品です。
――『THE COCKPIT』は、オムニバス作品の第1話です。
川尻
もともと松本零士ファンでして、特に戦記ものは大好きなんです。3作品ともスタジオと監督を別々にする企画だったので、自分らしいカラーが最も出せるネタとして「成層圏気流」を選びました。
――縦横に飛び回る空中戦も見応えがあります。
川尻
これも手描きですから、ドッグファイトは苦労しました。メカ作監は後に『蟲師』を監督する長濱(博史)くんで、他にも上手いアニメーターが参加してくれたので、お任せでした。僕はキャラクターデザインと作監(作画監督)も兼任していますが、上手い原画ばかりで。ことに箕輪(豊)くん(『獣兵衛忍風帖』キャラクターデザイン・作画監督、CG映画『キャプテンハーロック』コンセプト・キャラクター・デザイン)は松本零士作品の大ファンだったので、作監の自分より上手く描いていて感心しました(笑)。
――松本零士さんのGペンを多用した描線など、苦労されたのでは?
川尻
いや、むしろ特徴があるだけに真似しやすい絵だと思ったぐらいで、気負わずに取りくんでます。スタッフも少数精鋭で、背景は青木(勝志)さん1人だけ。あっという間に完成したので、あと5本ぐらいやらせてもらいたいなと思ったほどでした(笑)。特にレシプロ機が大好きなので、楽しかったですね。
――宮崎駿さんを筆頭に、アニメ関係者にはレシプロ機好きが多い印象です。
川尻
もう少し下の世代になるとジェット機の時代になりますが、僕たちぐらいまではもっぱらレシプロ機でしょうね。松本零士さんの、あの“曖昧な描線”と言いますか、定規などでカッチリ描かない感じが、レシプロ機にぴったりなんですよ。強い愛着と美意識を感じます。
――確かに実機を見ると、装甲板がウネウネしていて平滑じゃないんですよね。
川尻
そうそう。実物の飛行機って案外ボコボコしていて、レシプロ機だとそれが顕著ですよね。その辺含めて、「うわー、いい絵だな」とずっと思ってました。
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川尻善昭 関連作品
 バンパイアハンターD
 インターナショナルバージョン
 2015年1月1日正午より配信開始


妖獣都市
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魔界都市<新宿>
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迷宮物語
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MIDNIGHT EYE ゴクウ
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鉄腕バーディー
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MEMORIES
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風の名はアムネジア
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ジャングル大帝(1989)
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ユニコ
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ユニコ魔法の島へ
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あずきちゃん (第1期)
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THE COCKPIT
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CYBER CITY OEDO 808
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