――残念ながら配信はしていませんが、最大級の代表作である『獣兵衛忍風帖』(93)にも触れたいです。こちらは「忍者もの」の時代劇です。
- 川尻
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そろそろ自分のスタイルや評価が確立してきた時期でした。「今なら好きな企画も通せるかも」ということで、大好きな「忍者」をテーマにした企画を自分から出したのが出発点でした。
――これまでのお話ではプロットを瞬時に書かれてましたが、本作はいかがでしたか?
- 川尻
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これは好きなだけに苦労しましたね。まず、山田風太郎の作品をやりたいと思ったんですが、アニメーションではそれが難しいんですよ。というのも、ほとんどが歴史上で有名な事件のパロディなんですね。アニメーションのお客さんには、背景が分からなかったりする。現代人とは価値観のギャップがありますから、登場人物に感情移入してもらえないリスクもありました。そこで歴史を知らなくても楽しめ、なおかつキャラクターに共感できるような物語や設定を、オリジナルでつくることになったわけです。
――そうしたオリジナルを作りあげるとき、手がかりになったのは?
- 川尻
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まず史実から切り離すために「フリーランスの元忍者」を主人公にして、とにかく大勢の忍者と戦わせようと。「醍醐味は忍法ウォーズ」と決めてましたから。それから具体的なキャラクター配置や状況設定を煮詰めるのに、けっこう時間がかかってしまって。まず、フリーランスの忍者が逃げられなくなる状況をいかにつくるか。これが武士道精神の男なら不条理な状況にも立ち向えますが、自由気ままな男ですから、「俺はやっかいごとはゴメンだぜ」とか言って、おさらばしそうなわけです(笑)。もうひとつは時代劇とはいえアニメーションですから、グローバルに理解してもらえる対立の構図をいかに設定するか。結果として隠密たちは「CIA」、悪党連中は政府転覆を目論む「テロリスト」と、そういう構図にしました。
――なるほど。現実を投影したわけですね。
- 川尻
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腕利きだけどケチなフリーの探偵がいて、CIAが彼をいかに引きこむか。そこで「毒」というアイデアがひらめいて、これにヒロインを絡ませばいいと。そんな感じで上手い具合にパズルのピースがハマっていきました。あとはもう「忍法ウォーズ」をいかに見せるかだけです。忍法のアイデアは山田風太郎の「忍法帖」をほとんど読んでいたので、ずっと頭の中にあったストックをアレンジして出していって。
――個性的な忍者が次々と登場しますが、対戦の組み立てなどは工夫されましたか?
- 川尻
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そこはハマープロのモンスター映画と同じで、「この強敵をこうやって倒すのか!」という意外性こそが魅力だろうと。特殊能力は両刃の剣ですからね。プラスになればマイナスにもなる……それをふまえて、忍者同士の組み合わせを決めていくわけですが、「次は誰と誰をどう対戦させよう?」といろんなアイデアがふくらみ、そこは楽しかったですね。そんな「遊び」の部分も面白がってもらえたら嬉しいです。
- 川尻
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これはもう「すごい!」の一言です。観客の面白がり方が尋常ではないんですよ。もう面白がっている自分自身が楽しくなっているんでしょうね。
――著名な映画人にも川尻ファンが多いです。たとえばキアヌ・リーブスやウォシャウスキー監督など……。
- 川尻
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そういう話はよく聞きますね。ウォシャウスキーには『アニマトリックス』(川尻監督は「Program」と「World Record」を担当)のときにお会いしました。
――続いては『バンパイアハンターD』(00)で、配信も決定しました。菊地秀行さん原作ですし、ここに監督の山場がひとつある感じです。
- 川尻
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『獣兵衛忍風帖』の次に丸山さんから「次は劇場でやりたいね」と打診されたので、「劇場なら『D』です」と迷いなく答えました。菊地作品の中では『D』が一番好きですし、前々からやりたくて。ゴシックロマンの雰囲気、華麗なアクション、西部劇のエッセンス……。自分の大好きな要素がたくさん詰まっている。そして優秀なスタッフが揃ってくれたことで、想像以上のビジュアルにできました。キャラクターデザイン・作画監督の箕輪くんも天野喜孝キャラの雰囲気を上手く汲んでくれたし、美術の池畑祐治くんも格調高い魅力的な背景を描いてくれました。
――英語版もありますが、これは最初から海外も視野に入れていたのでしょうか?
- 川尻
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プロデューサーに「吸血鬼ものは海外で通用します」と口説いて実現した作品ですから、当然意識しています。ただ、残念ながら日本での劇場公開は英語版のみだったんですね。日本語版はソフトのみで。
――小説から映像にしていくとき、工夫したところは?
- 川尻
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まずはムードです。実は原作小説には設定上、城と十字架は登場していません。でも吸血鬼ものを描くうえでは城で決着を付けたかったし、十字架が出てこないと、いまひとつ雰囲気も出ない。「好きにアレンジしていい」とも言われていたので、勝手に入れてしまいました(笑)。
――物語のエンディングには、グッときました。
- 川尻
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やはりあの切なさは吸血鬼ものならではのもので、不可欠だろうと。スタンダードな要素を取り入れる中で、あのまとめ方になりました。
――これから観る方に対して、何かみどころは?
- 川尻
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難しいですね……。西部劇好きとしてお気に入りなのは、馬小屋のシーンです。
――配信中の監督作品を中心にお聞きしましたが、「他にこんな作品も」という部分も紹介したいです。たとえば『あずきちゃん』(95)のキャラクターデザインは柔らかいタッチで、川尻さんのハードなイメージと比べて新鮮に感じます。
- 川尻
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もともとアニメーターですから、「どんなキャラでも描けなければならない」と教えこまれて育ってきました。なので、特に抵抗はないんです。
――近年のマッドハウスのテレビシリーズでは、絵コンテとして多数参加されています。たとえば『
逆境無頼カイジ 破戒録篇』(11)はいかがですか?
- 川尻
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『カイジ』は漫画連載しているころから好きな作品でした。だから、マッドでアニメ化すると聞いてとても嬉しかったんです。フィルムの出来も、すごくよかったですしね。
――『カイジ』に感じた魅力とは?
- 川尻
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テンションの高いところですね。アニメでは立木文彦さんのナレーションも、テンション高くて良かったです。『アカギ』(05)や『カイジ』の他にも、福本伸行さんの面白い漫画はまだまだたくさんあるので、もっとアニメ化してほしいです。
――時代劇好きということでは、『シグルイ』(07)は?
- 川尻
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ちょうど『HIGHLANDER』(07)を制作しているころ、浜崎(博嗣)くんが監督するということで手伝いたいなと。やっぱり原作が面白いと演出も楽しいですね。後は『ちはやふる』(2011年,2期は2013年)も面白かった。原作を読んで感動しましたから。
――どんなところに惹かれましたか?
- 川尻
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リリカルなところと、キャラクターが活き活きしているところですね。それと台詞がよくできてる。キャラの起て方もうまくて、登場人物がみんなどんどん魅力的になっていくんです。60過ぎの自分でもジーンと来ちゃうぐらいですから(笑)、もうノリノリでコンテ切っていました。ぜひ第3シーズンをやってほしいです。
――今後はどのような作品をつくっていきたいですか?
- 川尻
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やはり監督としては、一貫してヒーローもの、それも大人向けの作品をつくり続けていきたいです。いろんなスタイルに手を出すよりも、やはり自分の得意分野を極めた方がいいでしょうし、それにこの手の大人が楽しめる娯楽作品は他にあまりないですから。「獣兵衛忍風帖2」はもちろん他にもアイデアはたくさんあります。チャンスがあれば、どんどんつくっていきたいです。
――では、今後にご期待ということでしょうか。
- 川尻
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ええ、やる気満々です。
――本日はどうもありがとうございました。