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UPDATE:2014.12.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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新たな観客のために変えようとした『攻殻機動隊 ARISE』
――バンダイチャンネルで配信している「サイバー特捜もの」についても、うかがっていきたいです。まず『攻殻機動隊 ARISE』(13)ですが……。
冲方
最初は『K4(ケイフォー)』というプロジェクト名で、「第4の攻殻機動隊」という意味でした。Production I.Gの石川(光久)社長に呼び出され、断れないようなシチュエーションをつくられた中で依頼され、「マジですか!?」と思いつつ、受け入れました。まるで違うものにし続けないと作品はどんどん古典化しますし、そうなるとお金を出して買うものではなく、図書館で観るみたいな扱いになりかねない。ならば『攻殻』をまったく新しくして、過去の作品にも改めて若いお客さんを導きたいと思ったんですね。
――歴史に残るビッグタイトルへの挑戦は、いかがでしたか。
冲方
単に『攻殻機動隊』と言っても、スタッフやプロデューサーのみなさんそれぞれのイメージがあって、半年ぐらいは膠着状態が続きました。そこで「ゼロをつくろう」と。ちょうど士郎正宗さんから「新しいことをやるなら、実はこんなことも考えてた」という設定資料が出てきて、その中には昔と全然違う設定があったりして。原作者も常に前に進み続けてる人なんだと勇気をいただき、思いきって変えようとなりました。黄瀬さんから出てきた前髪をバッサリ断ち切った素子のデザインにも勇気をいただき、全部を若返らせようと。まったく新しいチームの物語を書くぞという意気込みで、ようやくキックオフになりました。時間的にはかなりギリギリで、よくぞ間に合ったなという感じです。
――1時間もの4本という構成は最初からですか?
冲方
読みきりスタイルのアンソロジーにしてほしいけど、シリーズ通して観られるようにもしてほしいと、ものすごい要求を出されるんです(笑)。次の劇場版も過去4話すべての伏線をぜんぶ回収しようとか言いつつ、その4話を観てない人でも独立して楽しめるようにしてください、みたいな(笑)。
――ものすごく欲張りですね(笑)。
冲方
ええ。みんな欲望大全開になり、やりたいことをすべてブチこもうとする作品なんでしょう。自分は「総受け状態」でした。結果的にガラッと変えたことで、非常に面白いものができたなと。それまでの禁じ手を全部やりましたし。素子が痛がる、素子に恋人がいる……従来のファンにとっての聖域に突っこんでいきました。おかげさまで観客層も若がえり、その層が『GHOST IN THE SHELL』や『STAND ALONE COMPLEX』に流れたのも、狙いどおりでした。素子の恋人が登場する第3話で舞台挨拶に行ったら、女性ファンがズラリといて、ホセ役の鈴木達央さんファンと坂本真綾さんファンなんですね。ああいう新しい感じにできたのは、すごく良かったです。まず自分が抱いているイメージを壊すところからのスタートでしたから、けっこうしんどい面も感じましたね。
ジャンル拡大をめざした『PSYCHO-PASS サイコパス 2』
――そして『PSYCHO-PASS サイコパス 2』(14)は第2期からの参加です。
冲方
ARISE』が一段落したところで、WIT STUDIOの和田(丈嗣)社長さんに呼び出されて飲んだんです。「『PSYCHO-PASS サイコパス』という企画があって」と振られて、「面白そうですね、機会があったら参加したいです」と、酔っぱらった僕がどうやらうっかり言ったらしく、自宅に戻ったらカバンの中にDVDがたくさん入っていたんですよ(笑)。それがきっかけです。
――記憶のないところから始まるあたり、ミステリアスな作風でいいですね(笑)。
冲方
もちろん、僕も共感したわけです、「SFディテクティブもの」というジャンルは非常に強力で、世界中にファンもいるし日本のアニメーションが得意としています。ところが作品数は意外に少ない。そこに『PSYCHO-PASS』が成功例として出てきて、特に女性ファンも多いので、『攻殻機動隊 ARISE』と両方のファンをひとつのSFディテクティブファンに育てようと。だったら『PSYCHO-PASS』の2期はお前が適任だ。そんな話なんです。ジャンルの行く末や日本の立ち位置をきちんと見すえていることに非常に感心し、担当することになりました。結果的にニトロプラスさん、塩谷(直義)監督とフジテレビのプロデューサー陣も面白いアイデアの持ち主ばかりで、作品の世界観も非常に興味深かったので、やりがいのある仕事になりました。『ARISE』、『ファフナー』と全部カブって時間がなくなり、直接書けなかったので、熊谷(純)さんという若手ライターが入ったことも育成になり、非常に有意義でした。
――内容に関して、冲方さんなりの注目ポイントは?
冲方
「警察もの」は、基本的に正義を語らないといけないジャンルなんです。しかし先のリアリティの話と同じで、時代が共通概念としての正義感を形成する部分があるんです。だからそこが少しでもズレると、不愉快なものになりかねない。そこを逆手にとっていて、本来の気分の良い正義感と不愉快なものとを巧妙にシャッフルする物語づくり、世界設定がなされていて、実にうまいんです。正義であるはずのものが非常に不愉快に見えたり、非常に不愉快な悪だったはずのものが本来の人間性を言い合てていたりする。このシャッフルで、先が読めなくなるんです。通常のプロットなら、正義感を体現している人は作品を象徴していると予想しますが、そこが二転三転していくので先が見えなくなり、その息がつけないスリリングな緊張感を、お客さんと共有できるのがいいところです。キャラクターも魅力的なのに、そうであればあるほど不安になったりする。そんな緊張感を楽しんでほしいですね。
――やはり、現在という時代性を反映したような部分があるんですね。
冲方
「ディテクティブもの」の王道って、やはり緊張感だろうと。そして「不都合な真実と対面すること」というテーゼがあります。お客さんも成熟してきているし、10代の若い人もふくめて、ぜひ男女問わずこのジャンルを愛してほしいです。日本が誇るものを世界に発信していくためには、お客さんとつくり手が一体となることが必要ですから、そこは今後ともよろしくお願いします。
幅広いものを受け止められる日本製アニメの可能性
――最後に捜査官もの以外の作品についてもコメントをいただきたいです。
冲方
シュヴァリエ』(06)は最初漫画原作としてスタートしました。シュヴァリエ・デオンという実在の人物でどうエンタメに仕立てるかというときに思いついたのが、「ベルサイユ宮殿で仮面ライダーをやる」というコンセプトでした(笑)。外交官にして竜騎士のシュヴァリエが、バッタバッタと得体の知れない怪人を倒していく。それくらいシンプルなコンセプトにしておかないと、複数の人間が関わるときにはブレてしまうんです。ちょうどメディアミックス展開が見直され、いろんな方向性や方式が模索されていた時期で、その部分含めてうまい形に落ち着けることができました。古橋(一浩)監督のつよい要望で、当時のフランスの風俗や史実を調べぬいてアニメーションをつくるという、非常に手間のかかる画づくりもしていただきましたし。
――『機動戦士ガンダムUC』にも通じる古橋監督らしい、緻密で誠実な作風ですね。
冲方
制作に時間と手間をかけていただいた結果、すばらしいものができました。僕はシリーズ構成に特化し、脚本家のむとうやすゆきさんと菅正太郎さんと喧々諤々、脚本上でのチーム戦ができたのも良かったです。超常現象を扱っていても空想ではない部分が圧倒的に多い、史実重視のルイ15世期のフランスをアニメで描いてしまったという、非常に見応えある作品になっていると思います。
――『ヒロイック・エイジ』(07)はどうでしょうか。
冲方
これも大月プロデューサーが突然電話をかけてきて、やはり「枠があるからつくって」とあっさり言われ(笑)。これもシリーズ構成中心で、脚本はいろんな方にやっていただくスタイルでした。総監督の能戸さん、中西さん、僕とでコンセプトを話し合い、「宇宙でターザン」という『シュヴァリエ』同様のシンプルなコンセプトで作品をまとめることで、スタッフの共通了解を強固にするというやり方をとりました。僕の方は「では、ターザンをどう描こうか」ということに集中し、「文明社会から隔絶されたヒーロー像」を古代から持ってくるならヘラクレスがいいと考え、宇宙っぽい部分のあるギリシア神話のイメージを足しました。結果的に、これまた大変なことになり……。「全宇宙を股にかけた話にしよう」と言うのは簡単なんですけどね(笑)。
――冲方さんの一連のアニメ作品の中では、ひときわ壮大なスケール感ですよね。
冲方
これまでで最大になりました。そもそも「人類と異なる連中のほうが多い」という設定にしたものの、焦点がグラグラするのを避けるため、ひとつの船、共同体にしましょうと。それで「お姫さまとターザンの話」という方向に落ち着いていきました。途中からはターザンは眠ってしまい、お姫さまの方が主人公になっていく。当時って、悪役っぽい男の子の作品が売れていたんですよね。
――確かに『コードギアス 反逆のルルーシュ』(06)がヒットしてました。
冲方
あるいは『DEATH NOTE』(TVアニメは2006年)のように反社会的な人格をもつ主人公が多かったので、そことは真逆に、こちらはこちらで「信じたものをつくる」という感じでした。
――改めてご覧になる方、新たな観客に楽しんでほしい部分はどこでしょうか?
冲方
やはりまず「壮大な世界観」ですし、その中で「迷子にならない工夫」をたくさんしている部分ですね。ジェットコースター的なつくりにしているので、壮大さを安心して味わえるいと思います。スケール感に加えてロマン的な要素を多く入れているので、そこもポイントです。神話的イメージを背景にしたロマンティック・スペースオペラを、ぜひ楽しんでください。Blu-ray BOX(2015年1月28日発売予定)も待機中です。
――今後、ご自身でこういうジャンルを書かれたいという希望はありますか?
冲方
これまでいろんなバリエーションを取りそろえたつもりなので、まずひとつずつじっくり味わっていただきたいですね。『シュヴァリエ』や『ヒロイック・エイジ』のような多彩な作品が成立できたのも、日本のアニメーションがジャンル問わずに何でも実現可能な業界だからです。問答無用で全部受け入れてしまうのって、他にはハリウッド映画ぐらいでしょう。「ビジュアル化できるデザイナー」がいる限り、形にできるのが日本のアニメーションの強みです。たとえ他の国の文化だろうが歴史だろうが受け入れてしまう。ヨーロッパで講演したときに『シュヴァリエ』を観たフランス人のプロデューサーから「なぜ日本人がフランスの歴史ものをつくろうと思ったのか?」と訊かれましたが、「だって面白いじゃないか」と言い返しました(笑)。ポンパドール夫人の死に方を史実どおり再現できるくらい歴史を詳細に調べてましたから、「日本人がなぜそこまでやるのか?」と疑問だったようですね。でも日本のアニメーションは、それが可能なすごいものだということなんです。であれば、発信していくと同時に、僕も新しいものを吸収していきたい。だからジャンルを問わずですね。歴史もの、壮大な宇宙の物語、あるいは現実を敷衍したような近未来ディテクティブもの、人間ドラマに特化したもの……今後もとにかく何でもやっていきたいです。ひとつひとつは今すぐやらないといけないものばかりなので、死にものぐるいですけど(笑)。
――非常に心強く感じます。今日はどうもありがとうございました。


PROFILE
冲方丁(うぶかた・ とう)
1977年、岐阜県生まれ。1996年、早稲田大学在学中に小説『黒い季節』(角川書店)で第1回スニーカー大賞の金賞を受賞し、デビュー。2003年に『マルドゥック・スクランブル』(早川書房)で第24回日本SF大賞を受賞。2006年の『天地明察』では第7回本屋大賞、第31回吉川英治文学新人賞を受賞。ゲームや漫画原作など幅広く活動し、アニメ作品では2004年の『蒼穹のファフナー』で文芸統括、シリーズ構成、脚本を手がける。以後、『蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT』(05)と『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』(10)では脚本、2015年の最新作『蒼穹のファフナー EXODUS』ではシリーズ構成と脚本を担当している。他のアニメ代表作は『シュヴァリエ』(06年/原作・シリーズ構成・脚本)、『ヒロイック・エイジ』(07年/ストーリー原案・シリーズ構成・脚本)、『攻殻機動隊 ARISE』(13年/シリーズ構成・脚本)、『PSYCHO-PASS サイコパス 2』(14年/シリーズ構成)など。


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