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UPDATE:2015.2.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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ジオン・ダイクンから始まる壮大な成り立ち
――過去編は、シャアとセイラを中心にしてガンダム世界の成り立ちをとらえようというスタンスですよね。
安彦
ええ。それはふたりの生い立ちが、そのままシャアの体現するネガティブな部分の裏打ちになるというか……「解析」につながるんじゃないかと。これも再三言ってるんだけど、シャアの本来ネガティブな部分が、いつの間にかポジティブにとらえられてしまったのは、誤発信された感じがしている。ネガティブヒーローで人気をとったら、これはしめたもんだと、我々は言うんです。ただし難しいところだと思うんですけど、ネガティブとポジティブがひっくり返って逆のメッセージが行ってしまうと、それは危険だと思う。それはジオニズムだったりニュータイプ論だったり、その部分に関してですね。
――そのシャアの父親、ジオン・ダイクンの生前から話は始まります。
安彦
あれはライターの隈沢くんの機転です。やはりつくり手に新たなスタッフが加わってくると、違うテイストを持ちこんでくれる。そこに大きな良い要素がある場合は、ぜひ進んでもらうべきだと。僕としても感覚は研ぎ澄ませて、何を出してくるのかというのを見ているんだけど、出だしをシャアの父親のシーンからというのは、非常に正しかったと思います。「あ、そう来たか」という感じで、なるほどなと。
――作品全体にとっても象徴的なものになったと感じました。
安彦
そう思います。
――ジオン・ダイクンは大きい存在のわりに、どういう人かわからなかったですから。
安彦
核心的な部分だと思うんですよね。「ジオン・ダイクンとは何者か?」というのは。そこは絶対に押さえないといけない。
――歴史上の人物として誰か近しい人は意識されましたか?
安彦
彼自身もセリフで語っているけど、自分をイエス・キリストと重ねているんです。僕が「イエス」という漫画を描いたときに資料を読んで、自分なりにどういう存在かを考えたこともあったので、それで完璧にイエスに重ねて描いてみたんですけどね。彼自身がそのようなふるまい、言動をしているというわかりやすい形にした。で、後世の誤解もそのとおりだったと。
――たしかに早くに不在となったがゆえに……。
安彦
教祖というのは、そういう宿命となる気がするんです。様々なイエス、様々なダイクン像みたいなものが、死後に一人歩きをし始める。
――これまで英雄伝説的に点描されてきましたが、演説前夜の苦悩している姿は人間らしさが見えて印象的でした。
安彦
そこですでに「自分は普通のサイズの人を超えた何かだ」という戸惑いも抱いている。人間的な苦しみを彼自身も超えてしまって、もう戻れないわけです。ただガンダムストーリーは、過去の思わせぶりも含めてそこまでは語っていない。「かつてダイクンという偉大な指導者が……」だけで終わっている。だから「偉大」というのが前提になり過ぎると、まずいと思うわけですよ。
――彼の死を利用して権力を拡大していくザビ家の描写にもウエイトがおかれています。
安彦
どこまでが富野氏が企んでいたカラクリで、どこからが企みを超えたところか。彼自身があまり語りたがらないし、こっちも聞くと野暮かなと思うから、わからない。ダイクンのイメージにしてもね。でも、かなりの部分、すでに35年前の彼には見えてたんじゃないのかなと思っています。その表に見えてなかった部分もふくめて、レアなつくりものになったんだろうと。
――今回、ザビ家の兄弟たちの内紛と確執もたっぷり描かれていますね。
安彦
本編は最後にキシリアがギレンを殺し、そのキシリアをシャアが殺して終わりになりますよね。あの持っていき方にしても、どこまで意図的だったのか。長いものつくってると、つくり手自身が「あれ、こうなるんだっけ?」ということがよく起きるんです。物語や人物が勝手に動き出すみたいな。そういうことも含め、どこまで見えていたのか。ただ、落ち着いたところがまるっきり見当違いなところではなく、見事に着地していると思えるのは間違いないことで。読みきっていたなら見事だし、読みきっていなかったとしても、とてもレアな奇跡だしね。いずれにしても、すばらしいことだなと。だから、どこまで意図していたのか彼が語らない以上、こっちもなるべく聞きたくないんです。
――今回は前日譚ですから、「こうだったかもしれない」という部分を掘り下げていますね。たとえばサスロが暗殺されてしまう部分とか。
安彦
サスロ・ザビという兄弟がもう一人いて、どうやら暗殺されたらしいぞと。そういう非常に無責任な断片が、あちこちに散りばめられている。それが結果的に、非常にミステリアスな仕掛けになっている。
――もう一人兄弟がいたという設定は、1979年当時からあったんですか?
安彦
誰が考えたのか知らないけど、いくつか裏設定が資料集に載ってるんです。たとえば「モビルスーツは工作機械と称して開発された」とかね。僕はそういうのに対して疎い方だから、ブレストのとき編集さんや僕よりもガンダムに詳しい息子に「裏設定があったら出してよ」って言ったら、「えっ、そんなことあったの?」と驚くことがけっこう多かった。もちろん、無視できるのは無視する。たとえば「宇宙世紀には年表が存在します」と言われても、「意味なし」と思ったら捨てるとかね。だいたい後づけの中でもさらに後づけのものが多いから。逆にバンダイさんがプラモデルの解説書につけた裏設定や造型的なものが、けっこう良かったりする。これは媚びてるわけじゃないですよ(笑)。そんなの昔なかったから、「すばらしい足の裏だな。これはぜひアップで描かなければ」とかね。よく漫画化を引き受けたもんだなという、危なっかしい仕事をしてきました。
――でも安彦さんを通じて再構成されていることに大きな意味があると思います。
安彦
徐々に気がついたり、目に入ってきたから結果良かったのかもしれない。最初に「このように膨大な裏設定がありまして、続編はこうなってて」とか言われてたら、めんどくさくなってたかもしれない(笑)。僕からもある程度シグナル送ってたから、「これは言っても野暮だな」というのは、むしろ周りが控えてくれたりして、それも良かった。だから10年続いたのかなという気もしてます。
スタッフの成熟が支える世界観づくりと映像化
――今回、漫画と映像ではだいぶ違う感じがしましたか?
安彦
ええ。漫画は基本しくじらなかったと思うので、それを映像だからというので無軌道に改変されても、という想いは最初にあるんです。何のための映像化なんだと。ただ漫画どおり忠実に進めるとか、「漫画をうまく移しかえてますね」みたいに思われると、骨を折ってくれる膨大な人たちに失礼になってしまう。だからさらに良くしないといけない。そのためにライターをはじめ、新たなクリエイターたちに入ってもらったわけで。それで良いものを出してくれたら、それをどんどん吸収してさらにブラッシュアップさせないといけない。最初はアニメ化に距離をおこうかなと思っていたのが、結局やっぱりいなければダメかなと思い始めた。そんなところはありますね。
――アニメとしての世界観を安彦さんの手でまたつくっていくと。
安彦
たとえば「それはやめて」とか「あ、それいただき」とか、最終的に決める人がいる。それは僕でしょうと。最初はむしろ「漫画で描くべきものは描いたし、骨も折ったわけだから、おまかせかな」と思ってたんだけど、でもやっぱりそうじゃないなと。けっこうデリケートなもので。
――そのジャッジは、デザインや美術設定もふくめてですか?
安彦
デザインに関しては、昔に比べてものすごく成熟してきたから、あまりそれはないですね。それとカトキハジメという、実に類まれで豊かな分別をもったメカデザイナーがいる。彼は何でもわかってる男で、シャレもわかるしビジネスもわかるし、造形的なこともわかる。かつてなかったし、これからもないであろう仕事をしていて、周りもそれだけ成熟しきったということでしょうね。
――ガンダム35周年を過ぎたいま、決定版にもなっていると思いました。
安彦
そうでしょうね。「総監督」なんて肩書きがあるから、設定チェックはすべて来る。メカも人物もBG(背景美術設定)も「こんなものまで」というのも来る。でも、ほとんど「いいんじゃないですか」って即OKですよ(笑)。美術だけは、若干のこだわりはあるけど。CGに関しては今西監督以下にまかせっきり。それとなんと言っても、今回は手描きの部分、アニメーティングがいいですね。
――作画はどれぐらいチェックされているんですか?
安彦
基本的に最初の原画で見ます。業界的には第一原画と呼んでるやつ。
――レイアウトは?
安彦
コンテをフレーム大に拡大して「原画にはこれがレイアウトだと言って渡しなさい」って言っていて。有無を言わせず「これをレイアウトと呼べと」(笑)。でもなかなかそれが浸透しない。「レイアウトあがりました」と言うから「僕のコンテをコピーしたでしょ、あれがレイアウトだ!」って(笑)。しまいには「進行だろうがプロデューサーであろうが、レイアウトと口にしたヤツは10円罰金だ。スタジオのここに豚の貯金箱置け!」と。そこまで言いました。こんな作り方は、かつてないと思います。
――コンテ拡大は、あまり事例がないですよね。
安彦
生意気なことは重々承知でやってるんですけど、うまくいってると思います。特に若手の人たちにそれが浸透しなくて、口を酸っぱくして「レイアウトどおりに描け!」って。「たかがコンテのコピーだと思うな」と。
――映像に他に類をみない独特の統一感があって感心したんですが、そうやって生まれたものだからなんですね。
安彦
はっきり言ってそうだと思いますよ。統一感、あるでしょ? それは俺様な言い方に聞こえるかもしれないけど、一人の人間が全部のレイアウトをやったから。だからめんどくさいです。コンテだって本当はもうちょっと描き飛ばしてもいいのに、色々細かいことをね。自分の絵だから苦痛じゃないだけで。
――コンテ段階で、かなり緻密に描かれてると?
安彦
ふだんよりはね。ふだんと言っても25年ぶりですけどね。でも「ふつうコンテマンはここまで描かないだろう」というぐらいは描いてるつもりです。そのコンテを拡大したレイアウトをもとに上がってきた原画を見せてもらう。第一だか第二だか知らんけど原画なので、チェックしたら後は作画監督におまかせして。僕がサインを入れたものはもう見ない。それで映像になったのを見ると、「うまく伝わってるな」と僕は非常に満足しています。作画監督の西村(博之)さんに感謝、と言ってるんです。よくぞやっていただけましたと。さっきの板野くんのアバンも今西くんのCGもそうなんだけど、信用しておまかせという部分は、徹底しないとダメだと思うんですよね。
――漫画の印象との統一感も不思議なくらいのレベルでしたが、安彦さんのコンテを経由して全部の画面での統一感がとれてると聞いて納得です。
安彦
統一感って大事だと思うんですよ。どこを押さえたらそうなるかを僕なりに考えたとき、絵コンテから原画までだろうと。そこで大きな破綻がなければ、観た人は統一感があると受けとめてくれるのではないか。それに近い発想は、ガンダムの映画シリーズで自分が全部の第一原画を描いたときにあったんですけど。それを絵コンテまで延長してやってみて、自分的には上手くいったかなと。変な言い方をすれば「丸投げ」なんですけどね(笑)。アバンにしても、丸投げの快感がある。ハズれたら悲惨だけど、当たったらこんなに美味しいものはない(笑)。というぐらい、今のところ嬉しい仕上がりです。
――驚きと喜び、両方あるみたいな。
安彦
そうですね、いい意味の驚きがある。丸投げしてみたら、思っていたより良くなった。こんな幸せなことはないです。
――そういう意味では、統一という言葉を使いましたが、30数年前のガンダムから安彦さんには通じて、連綿と連なって統一されているものがある。それが嬉しいです。
安彦
アニメーターを現役で20年ほどやっていて、自分がメインの作品も何本かつくれたけど、ファーストガンダム含めて「やりきった」とか「納得いくな」みたいなものは、結局一本もつくれてなくて……。それは当然、力が足りないからだけど、自分の力が足りない部分がそのまま全体の至らなさ、不出来になってる感じがあったんですね。自分の力不足はしょうがないとしても、それがそのまま作品の不出来になるようじゃ困る。だからなんとかバックアップしてくれよ、というのが心の底で現役時代にもあったんだけど。今回初めてそれをやっていただいた。自分の後ろに非常に分厚いスタッフがいる。能力的にも非常に高いスタッフがいてくれる。たぶん自分の至らない部分が多々あったと思うんだけど、その分厚いスタッフのパワーがそれをカバーしてくれてるな。そういうのって、初めての経験でしたね。それは僕が現役のときに比べて絶対量が違う。いろんな面で違う。特にCGチームなんて、昔は影も形もないですから(笑)。しっかりまかせられる作監がフォローしてくれる。作監がいて、作監補がいてとか分厚いですしね。原画にしても多種様々、スタジオの流派の垣根を越えて集まってきたし、プロデューサーも集めてきてくれて、いろんなところで非常に恵まれている。それが実際、形になって出てくれた感じがものすごくする。
――安彦さんに惹かれて集まってきた方たちも多いと思います。
安彦
魅力だけだったら集まらないと思うので、色々思うところがあって来てくれたんだと思うけど。だから、せっかく来てくれた人にあまり邪魔になったり、やる気を削ぐようになったりしないようにしようと。まかせるというのもそういうことだし。やはりそれは信頼関係だろうと。
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