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UPDATE:2015.8.28

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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日本での仕事は『ARIA』と『キスダム』でスタート
――2000年代中盤はデジタル制作が定着して、TVアニメでも画面密度が高まっていった時期ですね。他の取材でも「美術に対する要望が次第に高まっている」とうかがったりしましたから、タイミングの良いご決心だったかと。
ロマン
日本に来て経験もまだなかったんですけど、ものすごくやる気があって、最初の作品をがんばってつくれて良かったなと思います。そのころのスタッフとは今でもいっしょに仕事していますし、仲間がまだ周りにいるのでそれも嬉しいです。
――ロマンさんは最初からPhotoshopなどデジタルツールが基本ですか?
ロマン
はい。
――画集を見ると、落ちついた色使いが印象的ですね。
ロマン
彩度が高いのが、あまり好きじゃないんです。タッチは全然違いますが、自然を見せるところでは宮崎駿監督のジブリ作品の影響もあると思います。SF作品なのに田園風景があったりして、ハイテクな世界観にはしたくなかったんです。浮いてる遺跡も出てくるから、『天空の城ラピュタ』の影響がありますね。それと日本のRPGでは『ファイナルファンタジー』やセルシェーディングの『ゼルダの伝説 風のタクト』の影響も大きいです。『ゼルダ』自体、宮崎駿の『未来少年コナン』の影響がすごくあると思うので。
――宮崎監督もフランスのバンド・デシネ作家のメビウスと親交があったので、行ったり来たりしてるし価値観の近さがあるというのは興味深いです。それで日本作品のスタッフとしての初参加は?
ロマン
『ARIA』(『ARIA The ANIMATION』(05))に参加しています。ハルフィルムメーカー……今はTYOアニメーションズですが、『オーバン・スターレーサーズ』が終わったと同時に佐藤順一監督が『ARIA』をつくっていて、お手伝いとしてプロップデザインを何点か頼まれました。それが日本の作品に参加したきっかけです。メインスタッフとしては『ARIA』のOVA(『ARIA The OVA ~ARIETTA~』(07))にレイアウト作画監督として入っています。監督や制作プロデューサーたちがベネチアでロケーション・ハンティングした写真を参考にして、(背景)原図を細かく修正していました。
――『ARIA』も風景、建築を見せるアニメ的なところがありますし、緻密なお仕事でいいですね。手前と奥のパース感も独特で、視線の動きが意識されてる感じです。
ロマン
僕にとっては奥行き感がいちばん大事なので、パースのルールを守りながらそこに気をつけています。空間を大事にして絵をつくっていく。そういうタイプのクリエイターだと思います。
――サテライトでの初仕事はどの作品でしょうか?
ロマン
キスダム -ENGAGE planet-』(07)ですね。メインスタッフとして美術設定を担当したのも、初めてでした。経験が乏しくて、良い美術設定の描き方が今ひとつ分からず、やりながら勉強した作品です。特にSF的な基地の中や司令室といったメカっぽい設定が苦手で、どうすればカッコ良くなるか分からなくて。今は大丈夫ですけど(笑)。ディストピア的な世界観で壊れている街などを描くのは大変ですけれど、むしろ悩んだりはしないんです。それで最初は、参加していた他の日本人のデザイナーの真似をしながら描いていました。メカっぽい美術設定は、メカデザイナーさんに頼まれることも多いですし。
――業界全体がそういう傾向ですね。メカものの、どこが苦手だったんですか?
ロマン
パネルの描き方とか、後は配置やバランスですね。たとえば壁をまっすぐに描くとSF感が出なくなるけれど、ちょっとくぼみをつけるとそれっぽく見えるとか。サテライトはSF的な作品が多いので少しずつ慣れてきて、自分のクセや好きなギミックの発想も加えられるようになり、ようやく自分なりのメカ的な設定が描けるようになりました。
――荒廃した街は『AKIRA』っぽくも見えます。
ロマン
壊れているものは大好きですね。あとは時間の経った古いもの。廃墟の場合、最後に完成する瞬間を楽しみに描いています。終わったら「おー!」っていう感じで(笑)。周りは素晴らしいアニメーター、デザイナーばかりだったので、「僕は何ができるのかな?」と、よく考えました。まだそんなに忙しくなかったので、「ものすごく描きこめば、みんな驚くぞ」という作戦で、がんばって細かい絵を描き続けました。ただ一生懸命細かく描いたのに省略されたりして、それを背景に再現するのが難しいのも分かりました。もちろんスケジュールを考えると、仕方ないことですけど。だから次の『バスカッシュ!』(09)では美術監督として、省略されないような工夫、新しい描き方をいろいろ考えました。
企画段階から世界観を作った『バスカッシュ!』
――ロマン・トマさんが河森正治さんと共同で原作も担当された『バスカッシュ!』では、明らかに新しい何かが始まった感じを受けました。そのきっかけは?
ロマン
まず自分で考えた企画書をサテライトにみせたんです。河森さんは僕のキャラクターには興味がなかったようですが(笑)、イメージボードには「面白い!」と言ってくれて、そこからいっしょに世界観を考えました。「メカに乗りながらバスケットをするコンセプトにすればどう?」と河森さんらしいアイデアが来て、「それはきっと面白くなる。やりましょう」と。ものすごく嬉しかったですね。ただ河森さんが忙しくなったので、「メカはお任せします」みたいなことになってしまい……。
――クラシックカーに手足が生えたみたいな、独特のテイストのロボットでしたね。
ロマン
美術設定の話に似てますが、ロボットのデザインもやったことがなくて、ハイテク的なメカの描き方が分からなかったんです。それに日本には立派なメカデザイナーがたくさんいるから、古いアメ車みたいな形にして全然違うアプローチにしようと。ジャンク屋でパーツをひろい集めて自分でつくったような乗り物っぽい感じ。AIが付いてるわけでもなく、ハイテクなロボットよりもスチームパンク的な古い雰囲気にしてみました。街並みの世界観を南米のスラム的な雰囲気にしたかったこともあって、ストリートな感じにモータースポーツがうまくフィットするかなと。鳥山明さんのメカや森本晃司さんの街のイラストからの影響もあると思います。
――そのストリート感、街並みのゴチャゴチャした感じが良かったです。
ロマン
少しだけハイテクな部分もありますが、サビや汚れがあって、ものすごく生活感が出る古い場所。こういうのが大好きなんです。これはオーダーを受けて描く仕事ではなく、僕が出した企画ですから、せっかくのチャンスならホントに好きで描きたい世界観にしようと。ストーリーにも関わりたかったんですが、まだ日本語が難しくて、シナリオ打ち合わせも40パーセントぐらいしか分からなかった(笑)。なので、そこはお任せして、世界観とメカデザイン、絵づくりに集中することにしました。
――ビジュアル的なものは何から何まで関わられたんですね。
ロマン
キャラクターもそのままではありませんが、コスチュームはけっこう参照されていますね。世界観的なモブキャラクターも、僕がレイアウトのときに描き足しています。
――メカアクションはCGでした。
ロマン
手描きのデザインに沿って、サテライトのCG部のデザイナーさんがモデルをつくり、素晴らしいアニメーションをつけてくれました。CGディレクターの原田(丈)さんはスポーツ好きで、バスケットも大好きなんです。特にバスケットシューズは100足ぐらい持ってるそうで、「ロボットがバッシュを履いてバスケットをやるプロジェクト」と聞いた彼は「ホントですか!?」と大喜びしていましたね(笑)。ですからこの作品の見どころは、世界観とCGのバスケットのカッコいいアクションシーンだと思います。良い感じの曲もたくさん流れるので、アイドル系アニソン好きな人も楽しいでしょう。ただジョークもたくさん入っているので、決してシリアスなSF作品ではないです。
――メカがシューズをはいているルックも良かったです。
ロマン
最初はどうやれば速く走ったりできるのか分からなくて、デカいシューズを履かせるアイデアは河森さんからです。僕は「変じゃないかな?」と思いましたが(笑)。河森さんの良いところは、誰も考えたことないビジョン、発想です。すごいですよ。
――美術監督としてのお仕事は、どうだったでしょうか。
ロマン
最初は日本の美術会社にお願いしようとしましたが、断られてしまったので、このプロジェクトのためにフランス人を呼び、美術チームを1年間ぐらいサテライトの中につくったんです。6人から始まって、最後は8人。その後も日本で仕事したい人が残ったので、そこからサテライトフランスチームができました。
――おかげでいろんな作品でユニークな美術が楽しめました。日本のアニメの世界で存在感があると思います。
ロマン
今は4人で、もうすぐ5人に増えます。みんながんばって、いろんな作品の美術デザインを手がけ、クオリティの高い仕事をしていると思います。
――『バスカッシュ!』でご推薦の回は?
ロマン
僕が好きなのは、第1話から7話までのローリングタウン、街の部分ですね。背景の密度感と街の雰囲気が、すごく気に入っています。それとメカアクション。競技場なら難しくありませんが、街をグラウンドにしてメカが走りながらバスカッシュという新しいスポーツをやるコンセプトなので、ものすごくハードルが高いんです。TVシリーズでは、なかなか見られないクオリティだと思います。『バスカッシュ!』は美術監督、メカデザイン、原作として深く関わり、ほぼ3年間かけてつくった作品なので、思い出深いです。
河森正治監督との『アクエリオンEVOL』の仕事
――河森さんとのお仕事は『アクエリオンEVOL』で続きます。
ロマン
バスカッシュ!』では共同原作者だったので、河森さんからのリクエストはほとんどなく自由でした。『アクエリオンEVOL』は、原作の河森さんのイメージに合わせてデザイナーとして参加した作品です。企画書段階では敵ロボットのデザイン案も出しましたが、同時に描いていたブリュネ(・スタニスラス)さんが最終的に敵側を担当することになりました。僕のメカデザインはアブタクターという蜘蛛型メカぐらいで、主に世界観を担当しています。敵側の「アルテア界」のイメージとして、星の地表が金属で覆われて上から海みたいに見える「アイアンシー」というコンセプトを出したら、一発で「素晴らしい!」と決定し、そこからシナリオのアイデアが拡がりました。金属の板が真っ直ぐではなく波みたいな形で、見えないところまで続いている。その下に建物や街があるんです。
――対する地球側は、1万2千年後の地球です。
ロマン
最初は香港をイメージしていましたが、トルコのイメージが強くなりました。ヨーロッパとアジアの間にあるので、ものすごく面白いんです。ヨーロッパ的な建物に中東の雰囲気もあって、面白そうな街にできました。学園は最初のコンセプトだけ出して、地球側の設定は美峰という美術会社が担当しています。
――アルテア界側には、他にどんなオーダーがありましたか?
ロマン
ミカゲの神殿には、全部凍っていて、それが解けて花が咲くというコンセプトがありました。それでイスも植物にしようと。毎回、ある程度作品によって描き方を少しずつ変えていこうとしています。『アクエリオンEVOL』では三角形を多用しています。
――作品を通じて印象的だったことは?
ロマン
2010年に香港でロケハンしたことですね。前から行きたかったので、ものすごく嬉しくて。ただ、再現が難しいことも分かったので、第1話ぐらいしか使われていないです(笑)。河森さんの作品は、どれも面白くて良いデザインができるんですが、どの監督よりも大変です。彼自身もデザイナーだし、オーダーもすごく難しい。がんばって描いた絵に対しても、細かいところでいろんなコメントが出ます。だから大変は大変ですけど、できあがったデザインと作品はいちばん面白いんじゃないかと。誰も何も言わなかったら、もうちょっとシンプルなデザインに逃げて、あそこまでやらないでしょう。河森さんが言うなら、やるしかないと。
――ロマンさんができるからこそ、頼んでいる部分もあると思います。河森さんの取材では「普通だったらつまらない」という言葉もよく聞きますし。他国のアニメ作品では、美術でつくられた世界がここまで重要な役割を果たすことが少ないですよね。
ロマン
日常的な世界観をカートゥーンっぽく、絵本っぽくアレンジした作品が多いです。あえて世界観をつくりこむSFは、ほとんどない。フランスのバンド・デシネには、あると思いますが、フランスだったら僕も描く機会がなかったでしょう。もともと『スター・ウォーズ』のようなSFのジャンルが好きなので、日本でこういうSF的な作品に参加できて、すごく嬉しいです。僕とフランスチームのデザイナーたちは、主にSFかファンタジーの作品に参加しています。ただ『異国迷路のクロワーゼ The Animation』(11)だけはパリを舞台にした作品だったので、フランス人がやる意味があり、プロップ設定、美術設定、レイアウトも担当しました。そうでないと、街並みの雰囲気やお店の看板など、いろいろと間違ってしまったと思います(笑)。フランス人からも「パリの雰囲気がよく出ている」と評価されて、個人的にすごく気に入ってる作品です。
――ロマン・トマさんの推薦するみどころは?
ロマン
日本人の小さな女の子がパリにやってくる物語なので、異文化のコミュニケーションの問題と、文化の違い、細かい差がよく描かれていますね。
――この前、ツイッターで提示されていたアニメ美術の技法(平面図からPhotoshopの変形ツールで立体的なパースを起こす。)についても、うかがいたいです。
ロマン
デジタルツールを使う描き方に慣れてきたおかげで、どんどん手が速くなったと思います。作業がすごく楽になった分、デザインに集中できるのが嬉しいです。最初はパースなど技術面に集中していましたが、本当はデザイン、アイデアの発想がいちばん重要ですから。技術とアイデアの発想は、別のものだと思います。
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