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UPDATE:2015.9.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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12年後の『劇場版 TRIGUN Badlands Rumble』で映画に初挑戦
――そしてTVシリーズから12年を経て、『劇場版 TRIGUN Badlands Rumble』(10)が公開されます。これはアメリカからのリクエストだと聞きました。海外ファンからの反応は、どう受け止められましたか?
西村
アメリカのコンベンション(ファン大会)に呼ばれ、何度かファンと接する機会がありましたが、ビックリするぐらい反応が良いんですね。「あ、ウケてくれてる」と嬉しかったです。映画のオファーがあったときはそれを思い出し、「これはちゃんとリクエストに応えるべきだ」という判断です。今のファンを大事にすれば、次の世代の人たちが観てくれる可能性も高まる、「これはムゲにするわけにはいかないぞ」と。
――映画はまた別の難しさがあると思いますが、どのようなアプローチを?
西村
TVシリーズから時間が経っていましたが、最初に「音関係はできるだけ変えずにオリジナルメンバーでいこう」と決めました。キャストはもちろん、音楽から音響監督までなるべく変えない。物語は、どの時間軸にするかがポイントでした。人気キャラクターのウルフッドはTVシリーズで死んでしまいますが、「やっぱり出てきて欲しいよね」と。TVシリーズの時間軸に収まる外伝的なストーリーにする大枠が決まっていき、原作者の内藤(泰弘)さんがストーリー原案を書いてくださり、小林靖子さんが脚本に見事にまとめてくれました。それとアメリカからのリクエストですから、やはりウケる要素を入れようと、親子の葛藤・和解をテーマに織り込んでいます。ハリウッド映画の定番ですから。
――バカバカしいスケール感みたいなものがあって、よかったです。
西村
そう思ってもらえたなら何よりです(笑)。プラントを強奪するネタは初期からありましたが、具体的にどうするか、なかなかアイデアが出てこなくて。最終的に、あんなバカバカしさにうまく落としこむことができて良かったです。
――映画は初だと思いますが、どうでしたか?
西村
TVシリーズとは全然違いましたね。映画なので、もう少しアクションを増やして爽快感を出すなど、生理的な快楽を出せたら良かったなと。事情があって、もっと長い尺で考えていたものを、ギュッと圧縮したところもあるので。
――また映画にチャレンジしたいですか?
西村
ええ、いつかやりたいですね。ただ映画はカロリーが必要で、アクションのうまいアニメーターさんも引き入れないとならないので、何かと大変です。
常にトップギアで走り続ける最新作『うしおととら』
――最新作は放送中の『うしおととら』です。どんなきっかけだったでしょうか。
西村
MAPPAの丸山(正雄)プロデューサーから「『うしおととら』をアニメ化しようと思っててね」という話を聞いて、「ついにやるんですか」と他人ごとだったんですが、それがオファーだったという(笑)。2011年か2012年ぐらいのことです。
――だいぶ前から動いていたんですね。
西村
形になりそうなところまで話は進んでいたようですが、結果このタイミングに落ち着きました。
――もともと原作は読まれていたのでしょうか?
西村
連載当時から面白いとは聞いていて、連載後に単行本で通して読んだこともあります。アニメ化にあたってあらためて読み直しましたが、まず「これはカロリー高そうだな」という(笑)。
――絵もお話も密度感のある原作ですから、大変な感じはよく分かります。
西村
常に高値安定ですよね。「そこからさらに、どう持ち上げるか?」という世界で、トップギアで走り続けてる感じです。
――分割3クールと聞いています。その長丁場をどう構成されましたか?
西村
長いとは言え原作は33巻もありますから、さすがに全部網羅するのは不可能です。とは言え、ストーリーは最後まで描きたいですから、主軸となる話に絞ろうと。原作者の藤田(和日郎)さんと井上敏樹さんにシリーズ構成として入ってもらい、いっしょにストーリーを練っていきました。藤田さんからの提案に「こうした方がいいのでは?」と調節をするのが、主に僕の作業になりました。結果、エピソードの取捨選択はベストになっていると思っています。原作ファンの熱心な方からは、「あのエピソードは入ってないのか」という声はどうしてもあがるでしょうから、申し訳ないと思いつつ、選んだエピソードでベストなものをつくりますので、みなさん楽しんでいただけると幸いです。
――もともと原作は90年代初頭の作品ですが、その点はどうでしょうか。
西村
「90年代っぽいですね」と言われることもありますが、原作は現代でも充分通用する作品なので、特にそういう意識はなくて意外に思っています。原作の内容をきちんと拾い上げていくと、そうなるのではないでしょうか。
――うしお中心に描かれていて、主人公がお話を引っぱっている感じもします。
西村
ええ、うしおと周りのキャラクターの関係性がより明確に伝わるかと。連載当時、キャラクター人気投票で麻子が毎回真由子に負けていたそうですが、アニメではストーリーを圧縮したことで、「最終的なヒロインは麻子」と重要度を増しています。
――原作の力強い筆致や荒々しい感じが、うまく再現されています。
西村
キャラクターデザイン・総作画監督の森智子さんのおかげで、キャラクターのニュアンスなど実にうまく汲みとってくれました。特に「荒々しく」なんてリクエストした覚えはないんですが、スタッフ間で「着地点はここだ」と共通認識があったのでしょう。
――それは、この原作ならではだと思いますね。
西村
たとえば10話の座敷わらしの回にしても、僕からは「こっちだよ」と方向性を強く指示した記憶がないのに、「これならこうだよね」とみんな同じ方向を向いてくれて、それが物語や映像にギュッと集約されて出ていました。長くアニメーションをやっているのに、「こんなことが起きるんだ!」というぐらい、驚きの仕上がりになりました。
「人」と「妖怪」に生まれる絆が魅力
――うしおととらの関係性も面白いですね。相容れないはずなのに、どこかで認め合ってるみたいな。
西村
少年マンガって、かつてのライバルがいつの間にか仲間になり、やがてゲスト的に登場するパターンがよくありますよね。『うしおととら』もある意味ライバル関係なんですが、常にいっしょにいるのが画期的だったなと。いつもぶつかり合ってますが、それはお互いに譲れない部分があるからで、その部分が「あいつなら絶対にブレない」という信頼にまで高まっていく。そういう面白さは感じています。
――しかも、慣れ合いにはならない。そこがいいですよね。
西村
人間同士なら結局は慣れ合いに流れ込んでしまいそうですが、そうはならない。それは、とらが妖怪だからでしょうね。藤田さんは連載時、編集さんから「絶対に慣れ合いにしないでくれ」と言われていたそうで、原作でそれを最後まで貫き通したなら、アニメもそこはブレなくやろうと。セリフ選びなど、細部でいつも気をつけています。
――うしおのまっすぐな性格も、魅力のひとつだと思います。
西村
藤田さん曰く、「そのとき正しいと思ったことをやる。そして起きた結果から逃げない。それがうしおなんだ」と。なるほどなと思いました。藤田さんご自身の性格とも、見事に合致している。張りめぐらせた伏線をすべて誠実に回収するところも、まさにそうですよね。
――キャスト陣については、いかがでしょう。
西村
一度OVAになっているので、そのイメージの強さは意識しました。特にとらは難しくて、大妖怪の貫禄を見せつつ、一方でおバカなところもある。大きく恐く見せる演技だけでなく、コミカルな面をあわせもつ方はそうそういないので。
――たしかにOVA版のとらは、『ガンバの冒険』のノロイと『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男の両方を演じられた故・大塚周夫さんでした。
西村
ですから、小山力也さんはベストだったと思います。いわゆる「良い声」の方は多くなりましたが、存在感があって不思議なニュアンスを出せるとなると意外と少ない。これから声優を目指される方には、「この人でなければこのニュアンスは出せない」みたいなあたりが狙い目だなと。
――女性キャラはいかがでしょうか。
西村
麻子役の小松未可子さんもすばらしく、オーディションでは全員一致で決まりました。実は麻子って難しいキャラクターでして、うしおとのカラミではツッコミ役なんですが、下手するとキャンキャン言うだけの「ウザイ女」になりかねない。音響監督の三間雅文さんが「麻子は愛があってほしいんだよね」とおっしゃっていて、そのとおりなんです。それは作画でも気をつけていて、麻子はいわゆる「ツンデレ」的な立ち位置のキャラクターとは言え、眉間にシワを寄せたりみたいな記号的な表現は避けるようにしてて、ちゃんと可愛げが伝わるように作画してもらっています。
――最後に、今後のみどころを教えていただけますか。
西村
そうですね……。「ずっとみどころが続きます」と言いたいところです(笑)。ストーリーについては詳しく説明できませんが、中国にわたって「獣の槍」の誕生秘話が明かされたりなど、今度も盛りあがる展開がいくつもあります。藤田さんに構成していただいたおかげで「白面の者といかに対峙してきたか」という時間軸の長さも、ちゃんと感じられるようになっているかと。
――アニメには実時間があるので、より広がりが出ているとすると楽しみですね。
西村
ええ。原作は長期連載だったので、記憶があいまいになって流されがちなところも、ギュッと圧縮されたアニメでは、より伝わりやすくできたかなと思います。
――それは期待が高まります。本日はありがとうございました。


PROFILE
西村聡(にしむら さとし)
アニメーション監督、演出家。東京デザイナー学院を経てスタジオ・ライブに入社。アニメーターから演出となり、『魔神英雄伝ワタル2』(90)、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』(91)、『みどりのマキバオー』(96)、『少女革命ウテナ』(97)などTVアニメの各話演出を多く手がける。監督デビュー作『TRIGUN』(98)は国内のみならずアメリカでも高い評価を得た。その後、TVシリーズ『はじめの一歩』(03)、『はじめの一歩 TVスペシャル ~Champion Road~』(03)、OVA『はじめの一歩 間柴vs木村 死刑執行』(03)で監督を担当。2010年にはアメリカからの強いリクエストによって『劇場版 TRIGUN Badlands Rumble』(10)が12年を経て実現し、初の劇場用監督作となる。現在放送中の監督作『うしおととら』(15)は、漫画の原作者・藤田和日郎をシリーズ構成に迎えたTVアニメ化として注目を集めている。


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