――さて、最新作『
マクロスΔ』(16)です。監督を担当されるきっかけは?
- 安田
- 「河森さんが新しく『マクロス』を始める」という時期、まだ方向性が決まっていないころに声をかけていただきました。最初は部活ものに近くて、飛行機を使った競技会をモチーフにしようと……。
――戦争ではなく?
- 安田
- ええ。でも、せっかくの『マクロス』ですから、プロデューサーの江口(浩平)くんといっしょに「敵がいたほうがいいですよね」みたいな話を仕掛けまして(笑)。『マクロスF』でバジュラという虫の敵をやった後なので、「今度は人間相手ですかね」みたいな話から「空中騎士団」が設定されました。新要素としては「敵にも歌い手がいたら面白いでしょうね」という話から、だんだんと今の形に近づいていって。キャラクターの雛形ができ始めたあたりでシリーズ構成の根元(歳三)さんに参加していただき、キャラクターの肉づけをしてから合宿で全体の構成をつくって、さらに細かく細かく具体化して、ようやくまとまった感じです。自分は原作ものを多く手がけてきたので、オリジナルのつくり方が学べて面白かったです。ただし河森さんのつくり方ですけどね。なかなか先を決めたがらないとか独特で(笑)。
――河森さんは、前の繰りかえしや予定調和がお嫌いですよね。
- 安田
- 自分は真逆で、ある程度予定が決まっていたほうが安心できるタイプなので、ドキドキしながらでした(笑)。大枠は決まっていても、そこに至る道があっちこっち行ったりで。「このキャラならこっち行くよね」と、キャラクターの活かし方を考えて変えていく。「こんなに拡げた風呂敷たためるかな?」みたいな緊張感もありましたが、そこは『マクロス』ならではの歌の力も借りながら力技で収めました(笑)。今までのシリーズとは、また違う終わり方になっていくはずです。
――前の『
F』がヒットしているので、プレッシャーもあったのでは?
- 安田
- それはありましたね。同じことを繰り返せば安定したところに行けるかもしれないけど、河森さんは絶対に同じことはしない。河森さん的には『AKB0048』(12)の経験もあったはずですが、5人グループになって楽曲のバリエーションが豊かになりました。コーラスワークや歌い分けも非常に面白いし、懐かしい曲調が入ったり、テクノ的な曲調もあったりで。評判も良いようですし、ホッと胸をなでおろしているところです。
――歌姫をユニットにするといったところが今回の挑戦ですか?
- 安田
- 敵も味方も集団で戦うため、「チームワーク」もひとつ大きなテーマになっています。『F』は宇宙空間で1対1の戦闘シーンが多かったんですが、今回は大気圏内の戦闘や集団戦で、1カットの密度感はすごく上がっていますね。それも長回しの1カット中で、出たり入ったりのアクションが2つ3つつながったりする。CG班は泣いていますけど(笑)、集団戦の雰囲気を出しています。それと「歌い手が戦場に立つ」という部分の見せ方で、これまでとは違ったものになっていると思いますね。
――音楽シーンやライブシーンで意識されていることはありますか?
- 安田
- 絵コンテ関連は河森さんと分業ですが、自分は基本的に日常パート担当で、河森さんがライブパート、戦闘シーンです。歌とのシンクロ感は「さすが『マクロス』だな」と感じます。単なるBGMが流れるのではなく、曲のテンションや歌詞にシンクロさせたカット割りが多くて、「ぎゅっとする」みたいな歌詞にキャラクターがぎゅっとする絵を持ってきたり……。歌詞、コーラスワークも複雑ですから、要素が多くてパズルになるんです。歌いながら戦闘という作品は他にもありますが、河森さんでないとできない群を抜いたレベルに達しているなと、間近で見て感じます。バルキリーをブロック玩具でつくれる頭脳の人間じゃないと、あのコンテは描けませんね。
――そのパズルがハマると、気持ち良いと。
- 安田
- ええ。非常に細かい絵コンテで、読むだけで時間かかる情報量ですが、編集時点で尺を決めて音をハメると、「なるほど、こうなるのか」と一気に手応えが感じられます。毎週新曲がどんどん出てくるし。『F』のTVシリーズだとライブシーン、戦闘シーンも印象ほど多くないんですが、劇場版ではあれだけ盛りだくさんにしてしまったし。その後、いろんな作品が出てきて、アイドルアニメも増えてきて、どんどんハードルが上がっていく中で、『マクロス』の新作としてのハードルも……。自分たちでハードル高めに設定したところもありますが、毎週手応えを実感しています。まだまだ現在進行形ですが。
――キャラクターの注目ポイントとしては、どういう部分でしょうか。
- 安田
- ハヤテ、フレイアは非常にストレートな少年少女ですから、さわやかに描きたいなと。悩むけど、あまりウジウジせず、生き生きとしたキャラにしたいです。ハヤテは企画当初、ふてくされたような若者でしたが、真っ直ぐな青年にしました。ひょうひょうとしているようでいて、ちゃんと見てるところは見ている。頼りがいもあって、友だちになりたいタイプを目指しています。カッコよさで「キャー!」と人気を獲得するよりも、男性視聴者にも受け入れられるようなキャラクターにしたいですね。かなり独創的でもあって、ヘルメットを被らないでバルキリーに乗ったりしますし。
――フレイアは、髪の毛の処理が面白いですね。
- 安田
- 劇中で「ルン」と呼ばれているもので、ウィンダミア人特有の感覚器官なんですね。男性はふたつ、女性はひとつ生えていて、感情によって色が変わったり光ったり。それによって興奮してきているとか、無表情だけど感情が昂ぶってるとか、とても面白い描写のできる便利アイテムです(笑)。
――この作品における新発明でしょうか。
- 安田
- やはりマクロスシリーズはライブが前提なので、会場でみんなルンをつけて振ってくれたら面白いな、とか。劇中では大人のたしなみとして、あまりピカピカさせるのは、はしたない、みたいなことも描いています。
――フレイアは、独特の口調でがんばっているのが新鮮ですね。あの方言はオリジナルですか?
- 安田
- 田舎出身で、アイドルに憧れて出て来た設定なので、キャラづけとして「なんちゃってなまり」をつくりました。いろんな方言を混ぜ合わせて面白いのができたなと思う一方で、新人声優さんには、だいぶハードル上げてしまいましたね。でも、鈴木みのりさんは非常に勘が良くて、「良い子が見つかったな」と思っています。
――メイキング映像を拝見したら、最初から度胸がすわっている感じでした。
- 安田
- 本放送直前に劇場で初ライブをやったんですけど、そのときものすごく緊張していました。でも、ステージに上がったら堂々としてお客さんをどんどんリードしていったので、すごかったです。「『F』のときは小学生でした」と言われてスタッフ一同、衝撃を受けたりもして(笑)。
――それぐらい時間経ってますね(笑)。今回の三角関係はどういう感じになりますか?
- 安田
- 基本はフレイアとハヤテとミラージュの3人ですが、昼メロのようにドロドロした部分のない、気持ちの良い三角関係を描きたいです。視聴者が「キャラクターを見守っていきたい」と思える恋愛ドラマにしたいですね。
――ミラージュの家系、マックス、ミリアの孫という設定は衝撃を与えたみたいです。
- 安田
- つくっている側としては、インパクトがそこまで大きいということで、逆に驚きました。『マクロス』も30年の歴史がありますが、代表するのは『マクロス7』にも出ているマックス、ミリアのジーナス家かな、みたいな発想なんです。
――他のキャラクター同士の対比も、非常に興味深い人間関係ですね。
- 安田
- 人数は多いですけど、みんな個性的なキャラクターになりました。ひとりひとり描くのは大変ですけど、埋もれてしまうキャラはいない形で描けているのかなと。