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UPDATE:2016.5.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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音楽演出法を学んだ『異国迷路のクロワーゼ The Animation』
――その中でも監督作品の『異国迷路のクロワーゼ The Animation』(11)には、独特の雰囲気がありますね。
安田
たまゆら ~hitotose~』(10)でごいっしょした佐藤順一さんがシリーズ構成と音響監督を兼任された作品です。自分は個性的な監督さんと組ませていただくことが多くて、ありがたいですね。選曲の仕方や曲を流すタイミング、特に非常にゆったりとしたテンポの中で音楽を効果的に使うやり方を勉強させてもらいました。原作のストックが足りなくてオリジナル回が必要となったとき、どんなテーマ、モチーフを使えばいいのか、貴重なアイデアをいただきました。
――具体的には、どんな題材でしたか?
安田
19世紀のヨーロッパですから、幻灯機、映写機、写真などその時代を象徴するようなアイテムを使い、作品世界にマッチしたかたちで膨らませるんです(第10話「魔術幻燈(ファンタスマゴリー)」)。オリジナルと言うと、事件をつくってキャラクターがどう絡むか、みたいな発想になりがちですが、新しい要素を提示してキャラがどんな反応や興味を示すのかというアプローチなんです。非常に面白く刺激的な経験をしました。
――佐藤順一さんらしい音楽の使い方は、どんな特徴があったのでしょうか?
安田
音楽はko-ko-ya(コーコーヤ)さんというギター、クラリネット、フルートと3人のユニットで、ゆったりとしたテンポの楽曲なんですが、ドンピシャのタイミングには入れないんです。前にズラして予感させたり、事件が起きた後にじわっと入れて強調させたりする。あえて外した使い方なんですね。Mラインという本編中のどこからどこまで、どんなタイプの音楽を流すという指定も、教えていただきました。
――新たに『クロワーゼ』をご覧になる方に観てほしいところは?
安田
ていねいに時間をかけてつくられた作品です。アフレコも3話ぐらいまでオールカラーでしたし、ダビングに関しては最終話までほぼオールカラーでした。キャラクターデザインに井上英紀さん、作画監督として伊藤郁子さんに入ってもらってますし、美術設定はフランスから来たデザイナーのロマン・トマさんにお願いして、現実に沿って看板ひとつひとつの文字など細部までつくりこんでもらったので、スキのない画面にできたと思います。フランスの方が観ても、問題ないと思いますよ(笑)。
歴史的作品に新たな挑戦をする『マクロスΔ』
――さて、最新作『マクロスΔ』(16)です。監督を担当されるきっかけは?
安田
「河森さんが新しく『マクロス』を始める」という時期、まだ方向性が決まっていないころに声をかけていただきました。最初は部活ものに近くて、飛行機を使った競技会をモチーフにしようと……。
――戦争ではなく?
安田
ええ。でも、せっかくの『マクロス』ですから、プロデューサーの江口(浩平)くんといっしょに「敵がいたほうがいいですよね」みたいな話を仕掛けまして(笑)。『マクロスF』でバジュラという虫の敵をやった後なので、「今度は人間相手ですかね」みたいな話から「空中騎士団」が設定されました。新要素としては「敵にも歌い手がいたら面白いでしょうね」という話から、だんだんと今の形に近づいていって。キャラクターの雛形ができ始めたあたりでシリーズ構成の根元(歳三)さんに参加していただき、キャラクターの肉づけをしてから合宿で全体の構成をつくって、さらに細かく細かく具体化して、ようやくまとまった感じです。自分は原作ものを多く手がけてきたので、オリジナルのつくり方が学べて面白かったです。ただし河森さんのつくり方ですけどね。なかなか先を決めたがらないとか独特で(笑)。
――河森さんは、前の繰りかえしや予定調和がお嫌いですよね。
安田
自分は真逆で、ある程度予定が決まっていたほうが安心できるタイプなので、ドキドキしながらでした(笑)。大枠は決まっていても、そこに至る道があっちこっち行ったりで。「このキャラならこっち行くよね」と、キャラクターの活かし方を考えて変えていく。「こんなに拡げた風呂敷たためるかな?」みたいな緊張感もありましたが、そこは『マクロス』ならではの歌の力も借りながら力技で収めました(笑)。今までのシリーズとは、また違う終わり方になっていくはずです。
――前の『F』がヒットしているので、プレッシャーもあったのでは?
安田
それはありましたね。同じことを繰り返せば安定したところに行けるかもしれないけど、河森さんは絶対に同じことはしない。河森さん的には『AKB0048』(12)の経験もあったはずですが、5人グループになって楽曲のバリエーションが豊かになりました。コーラスワークや歌い分けも非常に面白いし、懐かしい曲調が入ったり、テクノ的な曲調もあったりで。評判も良いようですし、ホッと胸をなでおろしているところです。
――歌姫をユニットにするといったところが今回の挑戦ですか?
安田
敵も味方も集団で戦うため、「チームワーク」もひとつ大きなテーマになっています。『F』は宇宙空間で1対1の戦闘シーンが多かったんですが、今回は大気圏内の戦闘や集団戦で、1カットの密度感はすごく上がっていますね。それも長回しの1カット中で、出たり入ったりのアクションが2つ3つつながったりする。CG班は泣いていますけど(笑)、集団戦の雰囲気を出しています。それと「歌い手が戦場に立つ」という部分の見せ方で、これまでとは違ったものになっていると思いますね。
――音楽シーンやライブシーンで意識されていることはありますか?
安田
絵コンテ関連は河森さんと分業ですが、自分は基本的に日常パート担当で、河森さんがライブパート、戦闘シーンです。歌とのシンクロ感は「さすが『マクロス』だな」と感じます。単なるBGMが流れるのではなく、曲のテンションや歌詞にシンクロさせたカット割りが多くて、「ぎゅっとする」みたいな歌詞にキャラクターがぎゅっとする絵を持ってきたり……。歌詞、コーラスワークも複雑ですから、要素が多くてパズルになるんです。歌いながら戦闘という作品は他にもありますが、河森さんでないとできない群を抜いたレベルに達しているなと、間近で見て感じます。バルキリーをブロック玩具でつくれる頭脳の人間じゃないと、あのコンテは描けませんね。
――そのパズルがハマると、気持ち良いと。
安田
ええ。非常に細かい絵コンテで、読むだけで時間かかる情報量ですが、編集時点で尺を決めて音をハメると、「なるほど、こうなるのか」と一気に手応えが感じられます。毎週新曲がどんどん出てくるし。『F』のTVシリーズだとライブシーン、戦闘シーンも印象ほど多くないんですが、劇場版ではあれだけ盛りだくさんにしてしまったし。その後、いろんな作品が出てきて、アイドルアニメも増えてきて、どんどんハードルが上がっていく中で、『マクロス』の新作としてのハードルも……。自分たちでハードル高めに設定したところもありますが、毎週手応えを実感しています。まだまだ現在進行形ですが。
「光るルン」は『マクロスΔ』の新発明
――キャラクターの注目ポイントとしては、どういう部分でしょうか。
安田
ハヤテ、フレイアは非常にストレートな少年少女ですから、さわやかに描きたいなと。悩むけど、あまりウジウジせず、生き生きとしたキャラにしたいです。ハヤテは企画当初、ふてくされたような若者でしたが、真っ直ぐな青年にしました。ひょうひょうとしているようでいて、ちゃんと見てるところは見ている。頼りがいもあって、友だちになりたいタイプを目指しています。カッコよさで「キャー!」と人気を獲得するよりも、男性視聴者にも受け入れられるようなキャラクターにしたいですね。かなり独創的でもあって、ヘルメットを被らないでバルキリーに乗ったりしますし。
――フレイアは、髪の毛の処理が面白いですね。
安田
劇中で「ルン」と呼ばれているもので、ウィンダミア人特有の感覚器官なんですね。男性はふたつ、女性はひとつ生えていて、感情によって色が変わったり光ったり。それによって興奮してきているとか、無表情だけど感情が昂ぶってるとか、とても面白い描写のできる便利アイテムです(笑)。
――この作品における新発明でしょうか。
安田
やはりマクロスシリーズはライブが前提なので、会場でみんなルンをつけて振ってくれたら面白いな、とか。劇中では大人のたしなみとして、あまりピカピカさせるのは、はしたない、みたいなことも描いています。
――フレイアは、独特の口調でがんばっているのが新鮮ですね。あの方言はオリジナルですか?
安田
田舎出身で、アイドルに憧れて出て来た設定なので、キャラづけとして「なんちゃってなまり」をつくりました。いろんな方言を混ぜ合わせて面白いのができたなと思う一方で、新人声優さんには、だいぶハードル上げてしまいましたね。でも、鈴木みのりさんは非常に勘が良くて、「良い子が見つかったな」と思っています。
――メイキング映像を拝見したら、最初から度胸がすわっている感じでした。
安田
本放送直前に劇場で初ライブをやったんですけど、そのときものすごく緊張していました。でも、ステージに上がったら堂々としてお客さんをどんどんリードしていったので、すごかったです。「『F』のときは小学生でした」と言われてスタッフ一同、衝撃を受けたりもして(笑)。
――それぐらい時間経ってますね(笑)。今回の三角関係はどういう感じになりますか?
安田
基本はフレイアとハヤテとミラージュの3人ですが、昼メロのようにドロドロした部分のない、気持ちの良い三角関係を描きたいです。視聴者が「キャラクターを見守っていきたい」と思える恋愛ドラマにしたいですね。
――ミラージュの家系、マックス、ミリアの孫という設定は衝撃を与えたみたいです。
安田
つくっている側としては、インパクトがそこまで大きいということで、逆に驚きました。『マクロス』も30年の歴史がありますが、代表するのは『マクロス7』にも出ているマックス、ミリアのジーナス家かな、みたいな発想なんです。
――他のキャラクター同士の対比も、非常に興味深い人間関係ですね。
安田
人数は多いですけど、みんな個性的なキャラクターになりました。ひとりひとり描くのは大変ですけど、埋もれてしまうキャラはいない形で描けているのかなと。
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