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UPDATE:2016.8.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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未来の才能が結集していた専門学校時代
――今回は10周年を迎えてイベントが開催され、10月には劇場公開が予定されている『ゼーガペイン』(07)を中心にうかがいたいと思います。この連載ではデビュー前のお話もうかがっているので、まずアニメに興味をいだかれたころから、お話いただけますか。
下田
北海道にいたときは、普通の視聴者としてアニメや特撮を楽しんでました。富良野は後に『北の国』が放送されて観光地化されましたが、それまでは本当に何もない田舎なので、そこから出たい一心で上京したんです。だから別にアニメ志望ではなく、「東京なら絵を描いて暮らしていけるだろう」ぐらいの軽い気持ちです。ところが専門学校(東京デザイナー学院)の寮の同期が『ゼーガペイン』の原作者である伊東岳彦くん、『遊☆戯☆王』の漫画を描いてる高橋和希くん、『機動戦士ガンダムZZ』のキャラクターをデザインした北爪宏幸くん、『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之くんなどなど、今でも現役で活躍してる方がいっぱいいたんです。
――ものすごい精鋭メンバーに思えます。
下田
ええ。僕の方は漫画家のアシスタントをしたり合作漫画を描いたりでしたが、彼らと話していくうちに刺激を受けて、その辺から「アニメーションやろうかな」と思うようになりました。ただ、最初から絵が上手くて才能ある人ばっかりに囲まれていたので、自分から何ができるかなんて全然考えてなかったです。演出もやりたかったものの機会がなく、アニメーターを10年やってようやくなれた感じです。
――専門学校時代に観た作品で、印象深かったものはありますか。
下田
夜中に部屋に集まってはビデオを観たりして、「この作画がいい」だの「この演出がいい」だの、みんなで話をしながらましたね。繰り返し観たものとしては『ルパン三世 カリオストロの城』(79)とか『銀河鉄道999』(79)とか。TVアニメもいっぱい見ていましたが、そっちは人によってかなり嗜好が違いますよね。自分にはピンと来なかった作品でも、好きな人から見るとここが良いんだっていう見方を学びました。演出家ではやはり出崎(統)監督がダントツの人気でしたね。作画の方で印象に残ったのは、『とんでも戦士ムテキング』(80)のなかむらたかしさんの回です(第17話、第27話/中村孝名義)です。ディズニーのフルアニメーションにはまったく興味なかったんですけど、「TVアニメのリミテッドでこんなに滑らかな動きを実現できるアニメーターがいるんだ」と興味をもちました。
――アニメーターから演出になったきっかけは?
下田
動画の仕事をいただいてる間に、同期で今はメカデザインをやっている石津泰志くんに「お前コンテ切れるよな」って言われ、『科学救助隊テクノボイジャー』(82)という作品が打ち切りになった後の海外向け話数で一本切ったことがあるんです。見てくれた石黒昇監督には「僕ならこんなコンテ怖くて切れないよ」と言われてしまい。ど素人のコンテですから、枚数や手間がどれだけかかるかまるで考えてなかったんですね。これはもう少し勉強したほうがいいなと思い、コンテの仕事をいただきつつ、ぴえろに移ってアニメーターを10年ぐらいやっていました。演出としてはずっと鴫野(彰)さんが見ておられたんですが、ある種の放任主義なので、押さえるところは押さえつつ軽めの演出チェックのまま作監(作画監督)の僕に回してくるんです。なので演出チェック的なことも考えなければチェックできない。それで勉強させてもらった感じです。だから10年目に『幽☆遊☆白書』(92)で演出になったとき、「あっ、この後は絵を描かなくて済むんだ」って、ものすごく楽に感じた覚えがあります(笑)。
――それは面白いですね。演出になられて実際どんな感じでしたか。
下田
楽しくて楽しくて仕方なかったですね。特に『幽☆遊☆白書』では音楽ものの楽しさを知りました。声優さんの歌に合わせてキャラクターの映像を集めてひとつのフィルムにするPVみたいなもので、既存の素材が音楽にピタリと合ったときの気持ちよさは、たとえがたいものがありました。
音楽と声と画があいまって生まれる感動
――初監督作品は何になるのでしょうか。
下田
劇場版の『マクロス7(銀河がオレを呼んでいる!)』(95)の演出を経て、『セイバーマリオネットJ』(96)で監督にしていただきました。
――演出と監督との違いは、どういう部分でしょうか。
下田
監督は全体を見なければいけないんです。各話の演出さんの気持ちは分かりますから、自分のときと同じように「暴走はOK」という感じで放任しつつ、作品が破綻しないように押さえるところは押さえます。「あっ、こんな考え方をする演出がいるんだ」と、いろんな人に出会えてすごく楽しかったです。
――『セイバーマリオネットJ』で思い出深い話数は?
下田
最終回近くでエンディング分の尺を使い、挿入歌を流して終らせた回があるんです。歌と作画、役者さんの演技が全部相まって、うまくいったと思います。あれは子どものころに見ていた芹川(有吾)さんや勝間田(具治)さんの『ゲッターロボ』や『(UFOロボ)グレンダイザー』などの挿入歌の使い方に影響されていますね(笑)。
――印象的な回はそうでしたね。それで下田監督にとっての『ゼーガペイン』は、どんな発端で始まったのでしょうか。
下田
原作の伊東からは監督として指名があったわけではなく、友人として原型になる企画書を見せられたりしていました。その時は本格的なハードSFでしたが、夕方に放送することが決まり、「学園ものの要素を入れる」というときに、監督候補の何人かとしてお声がかかったんです。内田(健二)プロデューサーと原作者で話し合って決めたと思いますが、「青春物の良さ」が期待されたみたいです。原作者とは17、8のころから知り合いですから、自分たちがプロではなかった時代の青臭さみたいな気持ちを思い出して、主人公の(ソゴル・)キョウや他の登場人物に重ねていきたいということは一発でわかりました。そんな思惑通りにできたかどうか、そこは微妙なところですけどね(笑)。
――青春の何か本質を言い当ててる気がします。もしかしたら青春の誰もが感じるような想いが描かれてるような。みなさん忘れ難い想いを抱いているようですし。
下田
だとしたら嬉しいです。つい先ごろ(7月16日)も10周年記念イベントがあったんですが、ホントにそのイベントで喜んでいただいたようで。青春の共通項もそうですが、いろんなことを散りばめているのがいいのかもしれませんね。SF設定なども含め、自分はここに共感できるみたいなのが、いっぱいあるのかも。
綿密な設定「バイブル」を物語に展開
――そうした多彩な要素は、どうやってまとめていかれたのでしょうか?
下田
その場その場の感覚や思いつき、昔見た作品で自分がこういうところが面白かったなっていうのを今のお客さんにも見せてあげたいという気持ち、いろんなものを全部パズルのように組み合わせていると思います。シリーズ構成の関島(眞頼)さんに「こういうことやりたい、ああいうことやりたい」と言うと、「それだと破綻しますよ。こうしたらどうですか」って代案を山のように出してくれるんです。そこから選んでパズルに組み込んでいく感じですね。原作者は「バイブル」と呼ばれる徹底的に綿密な設定を作っていたので、関島さんにはそれをストーリーと言う形に置き換えていただきました。後は各話のライターが「これならバイブルのこれが使える」みたいな形で30分のストーリーにする。その上で、ホン読み(脚本打ち合わせ)では「それならこの要素を足したい」「こっちの要素はいらないんじゃないか」と全員で話し合うんです。小説や漫画の原作ではないので、各自なりに「自分はこう思う」というのが出てくる。そこから僕が選んでまとめさせていただいた感じですね。
――なるほど。巨大なものがある一部を各自の視点で切りとっている感じが、作品的にも良かったんじゃないでしょうか。当時話題になりましたけれど、第6話ぐらいまで大ネタを伏せていますし。
下田
僕は経緯をまるで覚えていないんですよ(笑)。当初は4話でバラすはずだったのに、なぜ2週延びて6話になったのか。当時は浸透してからでないと危険だという判断だったんでしょうね。おかげでスロースターターの烙印を押されてしまいました(笑)。「ゼーガペインは6話から面白くなる」と、よく言われましたね。
――私も言ってました(笑)。フルCGのロボットも話題になりましたし。
下田
手描きでコントロールできないと言う歯がゆさがあって、かなり厄介だったなという記憶があります。4年ぐらい前にパチスロ用にリメイクさせてもらったら、うってかわって作りやすくなっていました。今は『ゼーガペインADP』用に新作を作っていますが、原画が不要になり、絵コンテを渡すだけで、思った通りに上がってきます。こっそり当時実現できなかった絵コンテを入れてみたらきれいに上がってきて「10年間の進歩ってすごいなあ」と(笑)。
――当時はラフ原画に合わせてCGをつくっていく手法でしたか?
下田
普通に原画マンを立てて、アクションを作っています。CG独特の1コマ打ちのヌルヌルした動きが嫌いだったので、「ゼーガシート」というものも用意しました。パンチを繰り出すにしてもスルッと流れるのではなく、「ここで止めて、こう素早く」というタメツメ的な動きをシート上で操作できるプログラムを開発したんです。シートを打てば、コンピュータが自動的に計算してくれる。それでも手描きにはなかなか近づかなくて。
(※当時無償でゼーガシートのプログラムを開発してくれた古橋さんは、現在 遊技 機以降のゼーガの編集及び撮影監督を担当して下さっています)
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