――この取材では業界を目指すきっかけや、子どもの頃に見ていたアニメをうかがってますが、監督の場合はアニメ好きで入ったという感じではないですよね。
- アミノ
- 僕の場合は小学校2年生の時が『鉄腕アトム』(63)なんです。ただ、当時ってアニメを見る家庭は、そんなになかったですよ。あまり記憶がないんです。
――では、どういう少年時代を過ごされましたか。
- アミノ
- マンガも読んでいましたが、中学ぐらいに『男一匹ガキ大将』のあたりで卒業しているんです。『ハレンチ学園』を知りませんから。
――マンガに代わるご趣味は、何だったのでしょうか。
- アミノ
- 中学ぐらいに映画に目覚めたんです。もちろんテレビの洋画劇場が多いですが、ハリウッド映画や西部劇、マカロニウェスタンや戦争映画を見て「面白いなあ」と。あとは海外のテレビシリーズです。『スパイのライセンス』という、泥棒がスパイをやる番組などを見て育ちました。「中二病」という言葉がありますが、「中学2年ぐらいに感化を受ける」って、けっこう真理をついているなと。だから、子ども向けとは言え中2の感性に受けて喜ばれなかったら、作品としてダメだと思うわけです。「中二病患者向け作品」という意味ではないですよ(笑)。
- アミノ
- キッズものでも企画によっては「子どもから大人まで」みたいな考え方で作りますよね。でも「大人が見ても面白い」って、大嫌いな言い方で。そうじゃないよと。どんな子ども作品だって、よくできていれば大人が見ても面白いんですよ。単純にそういうことなんです。子どもが「おおっ!」と喜んでいたら、大人も「おおっ!」って喜んで観ればいいだけの話です。『レッツ&ゴー』にしても……ほら、「少年ジャンプ」が三つのスローガンを出しているでしょ?
――有名な「友情、努力、勝利」のことですか?
- アミノ
- そうそう、それに真っ向から対抗した作品です(笑)。時流には呑まれるものですけど、「でも、君たちは呑まれるなよ!」っていうことがどうしても言いたくて、それで作った作品です。
――これはミニ四駆の全盛期ですよね。
- アミノ
- そうです。すでに商品が売れているので、何やっても許されるという(笑)。
――やはり玩具スポンサーが太っ腹だった時代なんですね(笑)。
――監督が一番ハマった映画というと、何になるのでしょうか。
- アミノ
- 知ってる人は少ないと思いますが、『脱走山脈』(68)という映画です。「アルプスのハンニバル越え」というトロイ戦争の物語があるんですけど、イギリス兵のブルックスという男が第二次世界大戦中にドイツ軍の捕虜になり、動物園の管理を任される。空襲を受けて動物が散り散りバラバラになったとき、主人公が脱走し、象を連れてアルプス越えをする話なんです。リアリティのある戦争おとぎ話なんですけど、映画って楽しいものであればいい、感銘を受ける部分があればそれでいいじゃないかって。そういう感覚が伝わってきました。今でも目標にしているのは、それにつきますね。
――そんなアミノさんがどうしてアニメ業界を?
- アミノ
- 高校時代に日本史の先生が「手塚治虫の『火の鳥』を読め、石生大古墳のことが書いてあるから」と。それで「ヤマト編」を読んだら、ハマっちゃいました。改めて、こんなすごい漫画家だったんだと。それからいろんなマンガを読み始めました。アニメはもうすこし大人になってからアニメが好きな人と知りあい、『アルプスの少女ハイジ』や『未来少年コナン』や『ガンバの冒険』とか見せられてからですね。
――この一連の取材でも、『ガンバ』は何度出たか分からないくらいの名作です。
- アミノ
- だって、あんな作品は他にないでしょう。マネしようったってできないし。
――ワンアンドオンリー、奇跡の作品と思ってます。
- アミノ
- 演出、作画、美術などなど、すべてが結集した瞬間があったんでしょうね。ホントにあれは奇跡の作品ですね。それで「アニメもいいな」と。あとは『樫の木モック』とか。さっきの話と違うこと言うけど、「泣けるねー」なんて(笑)。僕は映画業界に入りたかったんですが、就職するころは日本映画が衰退の極みで。アニメならいくらでも就職できると、そんな経緯でアニメ業界に入りました。その前には実写でエキストラをやってて、僕の自慢のひとつは、円谷プロの特撮『猿の軍団』で猿をやってたという(笑)。
――猿の中に入っていたんですか?
- アミノ
- エキストラですから、目の周りをドーランで黒く塗って、穴の開いた猿の仮面をかぶるだけです。軍服着るんで、夏は地獄でした(笑)。冬は暖かかったですけど。実はエキストラって、自分の顔が出るのが楽しくてやってる人が多いんです。だけど僕はそんなの関係ない。猿はみんなやりたがらないから、ほとんどレギュラーでした(笑)。盆踊りをする猿の回は、アフレコもやってます。
――今度気をつけて観てみます。では、そろそろ、まとめをお願いします。
- アミノ
- 僕としては、「面白い」と思って観てもらえればそれでいいんです。突っ込んでくれても構わないし、複雑なことを考える必要はないなと。僕の中ではそれが作品の見方だと思っています。
――いろいろ納得するお話ばかりでした。本日はありがとうございました。