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UPDATE:2017.1.30

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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新作『ひるね姫』の直前に変わった心境
――まず最新作の『ひるね姫』について詳しくうかがいたいです。企画のきっかけは?
神山
009 RE:CYBORG』(12)が終わった直後に、日本テレビの奥田誠治プロデューサーから「いっしょに何か作ろうよ」と声をかけていただいたのが最初でした。
――それは神山監督が原作も考える企画という意味ですか。
神山
ええ。オリジナルで劇場作品を作ろうと。でもそのころは、僕自身が「今後どういう作品を作っていけばいいのか」という点で悩んでいた時期でもありました。東日本大震災が起きたとき、直後に仙台へ『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』(11)を持って上映に行ったのですが「被災地に映画を持ってきてくれてありがとうございます」と言っていただいたものの、「本当に映画を楽しんでもらえただろうか」と、大変座り心地が悪い思いがしました。『009』が完成したときも、石巻が故郷の石ノ森章太郎先生原作ですから仙台でプレミア上映をさせていただきましたが、「復興のために」という雰囲気になる一方で、「地震前に書いていた脚本」なのになと、どこか嘘をついているような気分になった。震災の前と後とで、自分の、作品に対する気持ちが大きく変わってしまった感じがしたわけです。
――出口が見えない感じですか。
神山
現実でみんな辛い思いをしている時期ですから、何を書いても自分の中でなかなかしっくりしなくて。結局、脚本に入るまで1年かかった。その間、『シン・ゴジラ』のプロットも書かせていただいたのですが、今思うと自分の中に「災害に立ち向かう物語に希望を見出せるのか?」という感覚があったように思います。他にもいくつか、実写の企画を進めていたのですが、そちらもしっくりしないままペンディングにしてしまった。そんな時、再度奥田さんから「自分の娘に見せるような作品を作ってはどうか」という意見をいただき、そういうアプローチもあっていいのか、と気分を切り替えることができたのです。
――そこは作品の成り立ちで、とても大きなポイントですよね。
神山
「そういう作り方もあるのか」と、肩に入っていた力が抜けた感じがしました。今までは「世界を救うようなスケール」の物語ばかり書いてきましたが、震災を経て現実が苦しい時に、社会問題を扱う作品を望む人が少なくなっている。今回はもっと個人の想いに寄った、ミニマムなスケールからスタートしようと思い立った訳です。
――それと主人公を高校三年生の女の子にしたのは、どう結びつきますか。
神山
最初は描きたいストーリーとキャラクターが、なかなかフィットしなかった。年齢設定も最初は小学生からはじめて、中学生にもしてみた。それもしっくりこなくて最終的には高校生になっていきました。現実とファンタジー世界の二重構造があるので、現実側がある程度大人でないと物語が走らないなあと。若い観客にとっては自分の年齢に近いキャラクターの方がいいとも思いまして。自分が子どものころのことを思い出してみても、自分より年齢が下の子供が作品に出てくると、興味減退した記憶もありますしね。
――その「夢と現実」という構造は、かなり最初から決められていたのでしょうか。
神山
明るい物語にしようとは思いましたが、浮かれすぎていてもいけないなという気持ちもありまして。ですからファンタジーと言いつつも、わりと現実的な物語を想定していました。一方で何か大きく現実から飛躍する部分もないと、どうしても映画たりえない。10年前に企画した『東のエデン』(09)のころは、「ニートの大学生たちの青春群像劇を描きたい」という案を出しましたが、「アニメは非現実的な事件がないといけない」と言われて苦しみましたが(笑)。今はファンタジー要素がだんだん縮小して、自分に近く共感できるお話が多いですよね。若い人がハリウッドの大作映画に共感できない理由も、あまりにも自分たちと遠すぎるからだそうで。「世界を救う」と言われても、「別に日本から出たことないし」みたいな。
――言われてみると、そういう傾向が出てますね。
神山
身近な物語にしたい、でも飛躍する部分も欲しい。そんなジレンマでした。それで議論の中から出てきたのが、「夢の世界に行くというよりも、夢が現実だ」みたいな構造です。最初はたとえ話で、お父さんが娘の小さいころ寝物語で読み聞かせた絵本は、その子にとってはそれがすべてなので、現実とほぼイコールな世界であると。それが大きくなったとき実際に現実になっていく……。そんな風に、身近にあったものが大きく飛躍していく仕掛けを入れたらどうかという発想でした。最初は比喩として話していたアイデアだったんですが、夢だと思っているものにも、実はそこに向かうべき理由がある。現実と夢を交錯させていこうと具体的になっていった。
――そこが「夢をみるのには、理由がある」というキャッチコピーにつながるんですね。親子三代という家族の問題も関わってくる。
神山
最初は主人公のお話だけで考えていました。でも、母親がいない娘と父親ってなかなか大変って、そんな話を進めていこうと。でも、表だって描かれないにせよ「お母さんはどう考えていたのか」という部分を掘り下げていかないと、ストーリーはつながったとしても飛躍していかない。そんなとき、「そうか、人間関係ってずっとつながっているものなんだ」ということに自然と気づいていった感じでした。今の自分がいるのも、お父さんとお母さんがいたからだ。その両親にもこういう話があった。そんな「つながり」が実はこの物語の本質ではないか。書いていく中で、そこが見えてくるようになった。
三世代を描く女子高生の冒険物語
――オリジナルを作るときの醍醐味は、そうした発見にもあるということですね。
神山
震災以前は、肝になる部分は何の迷いもなくポンと出てきていた。先ほど言ったとおり『東のエデン』の場合はあの時代の「青春群像劇を描きたい」が出発点でしたが、そこから「そもそも描きたかったのは何か」と自分に問う中で「世代間抗争」というテーマが自然と出てきたんです。そのころ「今の若い人はけしからんですよね」って話をよく聞いてて、同意するものの、「待て待て。前はけしからん側に自分がいて、その違和感と戦っていたはずだ。なぜそこが逆転したのか」と、その疑問が一番の動機になったんです。
 でも『ひるね姫』を作る直前は、自分の中で何もわき上がらない状態になっていました。前は社会に対して感じる怒りや疑問がテーマに直結していたので、それを物語の中で解決していってみよう、と。そうすると必然的に世界を救う主人公になっていったんです。でも、世界が実際に混沌としている今はもはやそうではないと。最初は自分が高校生だった時にどんな想いだったのか、それを手掛かりに始めましたが、これもフィットしなくて。でも、「父親が語っていた夢の物語にヒントがある」という部分を思いつくことで、次第につかまえることができました。入れ物が先にできて、中身は一番最後。僕の中では初めてのパターンです。「そういうことを描きたいと思ったから、こういうガジェットや設定を組んではバラしを繰りかえしていたのか」って、最後に気がついた。そういうタイプの作品は新しい体験だったし、ものすごく楽しかったです。
――その監督の体験自体も、お話の内容に重なっているように感じます。
神山
作り手の精神状態は、どうしても作品に反映されてしまう部分がありますね。『東のエデン』の時には、もし記憶がなくなったら映画を作る2年間の苦しみを知らないまま、初監督のときの新鮮な気持ちで取り組めるのになあと思ったので、主人公も記憶がなくなったところから始めたわけです。今回も、これって僕自身もこのパターンは初めての冒険をしているんだなと。
 最近は作り手の想いはどうでもよくて、作品だけを楽しみたいという傾向を強く感じますが、結局それも含めて作品なんです。内心を押し殺してでも作るのがプロなのかもしれませんが、なかなかそこからは逃れられない。もちろんそのうえで、エンターテイメントとして組みなおしていくわけで、そこも新しい経験になりました。
――ロードムービー的な部分は最初から決まっていたのでしょうか。
神山
描こうとする内容からロードムービー的になるとは思いましたが、アメリカのように広大な国でないと本来ロードムービーは描けないものなんですよね。去年たまたまアイダホまで車で行く経験をしたら、東京から九州くらいの距離の間ずっと砂漠しかなくて、ひたすら道がまっすぐなんです。車が故障したら携帯もつながらないようなところです。そんな旅をして初めて「こういう国だからロードムービーが生まれるのか」と実感しました。日本は何かと便利ですから、道中人に会わないことなんてないですしね。日本なりの冒険であれば、どういうことが起きるのか。それもこの作品の見どころにはなってると思います。
――神山監督の作品にはテクノロジー関係が多く出てきます。車の自動運転を描いた点についてはいかがですか。
神山
世代のお話になったとき、どうしてもテクノロジーは外せないですよね。娘と父とおじいさんの三代に渡るお話ですから、今回はそれを描いていくためのひとつのガジェット(仕掛け)として位置づけています。そこはネタバレになるので詳しく説明しづらい部分もありますが、脚本に取りかかったときより、格段に早く現実が追いついていますね。取材もしましたが、技術よりも法整備だなとか、ここまでは行かないと思ってたことが実現できてたり、逆にこんなことでつまづくのかってことがあったり。それも面白かったですね。
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