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UPDATE:2017.4.7

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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ハードなモビルスーツ戦を手描きで追求
――松尾監督には数々の代表作がありますが、今回は最新作の『機動戦士ガンダム サンダーボルト』を中心にうかがいたいと思います。第2シーズンの制作は最初からの予定でしょうか?
松尾
いえいえ。もちろん「やるかもしれない」とは聞いていましたが、本決まりになるまで手をつけるつもりはなかったし、終わりでもいいと思っていたぐらいです。
――とはいえイベント上映された『DECEMBER SKY』では、第2シーズンへの布石が流れていますよね。
松尾
あれは小形(尚弘)プロデューサーの作戦ですね。「こういう映像をつけて、お客さんに『続きがあるのかな』と思っていただければ作れるんじゃないか。次にも使えるし、一挙両得だ」という話で、短いスケジュールで作ることになりました。ただ、本編の戦闘シーンにはあまり爽快感がないので、昔のガンダムを連想させる戦闘シーンを最後にくっつければ、お客さんも「ガンダム見たね!」という印象で終わってくれるかもと。
――そもそも監督にとって、最初のきっかけは何だったのでしょうか?
松尾
ここ(サンライズ 第1スタジオ)で『G-レコ』(『ガンダム Gのレコンギスタ』(14))をやっていて、最終回が大変なことになったので呼ばれたんです。それで会議室から出たとたん小形プロデューサーにつかまったら、それが『サンダーボルト』でした。大変失礼な話ですけど、ガンダム関係のコミックってほとんど読んだことがなかったので「読みます」と返事をして、そこからですね。
――太田垣康男さんのコミックの第一印象は?
松尾
「暗いな、これ」
――ですよね(笑)。
松尾
G-レコ』やってる最中だから、よけいそう思いましたね。ものすごく楽しかったんですよ。キャラクターもバリエーションがあるし、もちろん人が死んだりするけど、それほど鬱にならないし。それだけに、ちょっと悩みました。ただ最初から「コミックスの第3集までを60分で」と言われていましたし、「短いな」と思いつつ第3集まで読んだら、「1本のお話としてはまとまりやすいから、作りやすいな」と思ったんです。なんとなくの構成も大ラフですぐ頭に浮かんだので、「じゃあやりましょう」と。
――「暗い」と言われましたが、それはアニメにはなりそうにない題材で描いているからですよね。
松尾
ええ。僕も「そもそもこういうのは映像化できないでしょ。コミックスならこんなことができますよ」って、そういうアプローチに違いないと思ったんですね。そうしたら太田垣さんが「アニメになるのが夢でした。デザインしたのが動くのは嬉しい」みたいに言うんですよ。「だったら線は減らしておいてね」って思いますよ(笑)。
――しかもCGではなく手描きですから、大変ではないかと。
松尾
でも手描きの方がむしろ楽だし、スケジュールにハマるだろうという判断でした。『機動戦士ガンダムUC』で少しCGをやっていますが、広範囲でやるには考えなければいけないことがたくさんあり過ぎるし、『G-レコ』でメカの得意なアニメーターたちがたくさん集まっていたので、スタジオワークで考えるなら手描きのほうが効率はいいと。
――そのCGの大変さが分かりづらいと思うので、もう少しご説明いただけますか。
松尾
モデルまでは心配ないんですが、問題は動きですね。これはずっと昔から思っていたことですが、ガンダムは大河原邦男さんのオリジナルデザインにせよ、カトキハジメさんのリファインにせよ、四角いブロック体を、関節を軸にくっつけて構成したものなんです。そのまま動かすと、みんなの記憶にある安彦良和さんの動きのスタイルにはならないんですよ。弧を描くように動いたり、身体をひねったりするのが難しい。ユニコーンガンダムなどにCGがマッチしたのは、キャラクターよりも兵器、物体としてとらえているからでしょう。だったら『サンダーボルト』も向いていると思われるかもしれませんが、そうすると手足のついている意味が薄れると。
――そこは今回、ストーリーに絡んで大事なところですね。
松尾
そもそも僕の考えるアクション演出では、ガンダムでCG使うのは難しいなと思うんです。アニメならメカ作画監督の実力はだいたい前の仕事で分かるんですが、CGの場合だと完成形が良くても、どの部分の成果か分かりづらいんです。前に『革命機ヴァルヴレイヴ』(13)をやった経験で、CGアニメーターの動きにも個性があって、ポーズの善し悪しもクセがあると分かったんです。「このアクションならもうひとつ関節を足そう」と、そこまでやる人もいますが、そうしたことが事前になかなか分からないんですね。なので、なかなか60分全編にわたってのCG化はできないなと思いました。
――結果的に、手描きでやったのは作品にとってプラスになったのでは?
松尾
アニメーターは誰一人として幸せになってませんけどね(笑)。あれでも線を減らしたけど、もっと割りきりが必要だったかなと。最初、80年代のメカアニメみたいにBLカゲ(ブラック彩色で暗部を潰す技法)にしようかって言ってみたんです。でも、今の作画は潰れる部分もマジメに線を描いてしまう。そうしないと次のポーズとシルエットにつながらないと。すると手間は変わらなくなってしまうんです。
――原画集を拝見したらバズーカに隠れる部分まで作画してありましたが、そういうことだったんですね。
松尾
ええ。胸なら胸で、ある線がまっすぐかカーブしてるか、延長線を引いておかないと描けないし、このパーツがここにあると分からないと中割りもできないと。昔は動画の人がBLカゲの中からいきなり丸いパーツを出したりしてくれたんですけどね(笑)。
富野由悠季監督と組んだ劇場版『Zガンダム』
――ガンダムを監督する上では、かつて三部作の映画『機動戦士Zガンダム A New Translation』(05)で演出を担当された経験は大きいですか。
松尾
あのときは、こんなにガンダムを続けるとは思わなかったですね。『』に参加したのはガンダムだからというよりも、富野由悠季という人と仕事したかったからなんです。マッドハウスではりんたろう監督、川尻善昭監督と仕事をしたので、サンライズで想い出づくりにぜひと思ってたら、えらい大変なことになりました(笑)。でも、おかげで演出の武器をたくさん手に入れた気がしています。
――たとえばどんなことでしょうか?
松尾
マッドハウスはシートをゆったり目に作りますが、富野さんはタイムシート上であらかじめ切ってある状態で作っていくんです。最初は「よくこれが読めるな」と思ってましたが、さすがに3年ぐらい経つと「ああ、そういうことか」って分かるようになりました。そういう武器はガンダムをやる場合、よりガンダムらしく見えますし。
――そう言えば20年くらい前、「アクションカット(動き同士をつなぐ編集技法)は動き始めと終わりを切るから、その数コマ分、無駄な作画するな」と、そんな富野監督の談話を拝見しました。
松尾
ええ、カット頭とカット尻です。特に「頭は原画でゼロスタートするな」って言うんです。たとえば画面の外から声をかけられて「えっ!」と振り向くカットがあると、アニメーターは気づかない状態の原画を始めに描くんです。次に中割りで振り向き始め、振り向き終わって止まる。ところがこの原画って絶対に編集で切らないと、つながらないんです。たまにミスで残ったりするので、あらかじめタイムシート上で1番を使わないよう工夫するんですね。でも、そうすると原画のいい絵がなくなる。だったら中割りに相当する絵から描かせたほうがいいに決まってる。だから、そもそも止まった絵をゼロスタートで描くなというのが、富野さんの考え方です。
――富野監督は「フィルムはずっと流れ続けるもの」という考え方が強いですね。
松尾
普通は戦闘シーンでしゃべったり言い合ったりすると流れが止まるんですが、あの人のは止まらないんですね。だからたくさんやってる感じに見えるし、いろんなエピソードが詰め込める。そう思いました。
――カットイン(モビルスーツの映像にキャラクターの映像が三角形や四角形のサブフレームで割り込んでくる技法)も、そんな考え方からの発明でしょう。
松尾
アニメーターは大変になりますけど、『』のときにはキャラクター作画監督の恩田(尚之)さんとメカニカル作画監督の仲(盛文)さんで、きっちり分担してましたね。『』ではジャブローの核爆発からキスシーンにつなぐみたいな編集がすごくて、「ここから新しくシーンが始まります」というのを、いっさいやらないんです。前にある映画で何人かで分担している絵コンテを見せてもらったら、全員BGオンリー(背景のみで見せるカット)で始めてるんです。前の担当者がどう終わるか分からないから、
――「こういう場所」という全景から始めると、説明くさくなりますよね。
松尾
これでいいのかなと、そういうことを感じてた直後が『』なんです。TVシリーズの映像と新作が混じるので、1本目は自分の理解のために絵コンテ撮をつくってつないでみたら、「こんなことをやるんだ」ってものすごくビックリしたんです。これを絵コンテで読んで想像するのは難しい。その後、それを見た富野さんがさらにカットの中ヌキも含めてツメツメに切っていくことになり、僕が編集ソフトの使い方を教えなければならなくなりましたけどね(笑)。
――富野監督のすごさは、どの辺に感じられましたか?
松尾
タイミングやいろんな間や流れのつくり方ですね。カットインもホントにいい方法なので、みんな使えばいいのにと思います。エイゼンシュタインのモンタージュ理論やオーソン・ウェルズのパンフォーカスも、発明されたころは使うと「マネした」って感覚があったはずです。カットインも次第にみんなが慣れていった手法のひとつだと思うし、その開発者が間近にいて、「こういうときに使うといいんだよね」って話が聞けたのが良かったです。あの三角の頂点を、なるべくコックピットにしたりして。
――ああ、吹き出しみたいに。
松尾
そうそう。ここからしゃべってんだよと。メカが動いたら、頂点も動かしてほしいと。そんな話でも直接聞くと理解が早いですし。
色の変化で雰囲気や心情を伝える
――『サンダーボルト』で一年戦争を描くことに対して、ハードル高く感じたりしませんか?
松尾
ファーストガンダムが一番好きだし一番見てるので、逆ですね。すごくやりやすいし、スタッフも細かいことを実によく知っているのでいろいろ教えてもらえるし、あらかじめ指摘もしてもらえるんですね。
――そこには太田垣さんならではの解釈も入ってくると思いますが、重視しているのはどんな点ですか。
松尾
生活感ですね。ファーストガンダムではシビアな戦争の中に、食事やお風呂のシーンがあるんです。富野さんは「人の住んでる場所」「人がここで活躍するなら使いやすく」「つらくないようにする」とよく言うので、太田垣さんと共通点があります。「こういう部分は汚れる」「ここに分かりやすい色を塗っておく」みたいな部分はなるべく拾いたいなと。お互いの観点をくっつけることもできたので、そういう意味でもやりやすかったです。
――具体的にはどんなシーンですか?
松尾
ひとつは植物ですね。ジオン側でカーラがトマトに水をやるシーンがありますが、『』のとき富野さんが「いつも無機質な部屋にいたら、人はおかしくなる。だから観葉植物をおく。ウソでも映像ではそういうのを見せておくものだ」と、そんな話をしていました。その後の『ゼロ・グラビティ』でも同じようなものが出てきたので、ああいうシーンを作り、なおかつあの子(カーラ)が原始的な存在に頼ろうとするように描きました。クローディアの部屋にも観葉植物を置き、ああいうところに逃げたくなるという表現にしています。そういう執着を手短に描けるので、お得じゃないかと。
――間接的に「人」を描くのは映画的な表現ですよね。
松尾
無機質なカーラの部屋にも暖色があって灯りがあります。そしてそこには水がある。そこも『サンダーボルト』という題名と合ってて、いいなって。昔の人は「雷」は恐ろしいだけでなく、その後に雨を降らせてくれるから、農作物がとれる水の知らせだと捉えてます。でも、宇宙だと雷が鳴っても雨が降らない。これがイヤミっぽくていいなと。だから船内では「水」を執拗に描いています。宇宙で水は御法度なんですけど、
――御法度というのは、無重力で球になって浮くからですか?
松尾
実際の宇宙ステーションの食事でも、ふっと浮いたら急いで取ってました。機械に入ったらまずいからでしょう。カーラがおかしくなったときに、「どうしてこの雷は水を運んでくれないの?」というセリフも用意しましたが、カットしました。短い尺でスピーディーに見せたいとき、いろんなところに考えが及びすぎると邪魔になるので、絵の情報だけ入れておく。そういう部分がたくさんあるから、繰り返し観ているうちに、いつか気づいてくれればいいと。
――水の描写には、人体から出る涙や血も含まれていますよね。
松尾
浮いている血の球も、なるべく描くようにしました。本来ならバキュームで吸うはずですが、あえてそうしない。トイレで吐くところも、すごくいいなと思ってます。
――同じ液体でも、血なら血とすぐ分かるのもアニメならではの表現ですね。
松尾
色だけを強調することができる。それは絵でつくるメリットです。実写でもこの部屋のこの辺だけオレンジっぽくとライティングできますが、「ここだけ真っ赤」は少し難しい。でもアニメならできます。クローディアのいるブリッジもブルートーンで、みんな死人みたいな色合いですよね。あんなところにいたら、おかしくなっちゃう。だから艦長室は木目で温かい色で、「あそこに逃げたい」という場所は、自分が居心地いいようにするはずなんですね。
――その色味は登場人物の主観も含めての色ということですよね。
松尾
まさにそうです。この人がいるからここはこういう色にすると。音も地球連邦軍側の作動音は非常にクリーンだけど、ジオン公国軍側はノイズっぽくてガタピシしてる(笑)。同じ戦艦内部でも環境音が全然違います。すぐに気づかなくても、シーンが変わって音が出た瞬間に感じてはくれるだろうと。色や音でうまくコントラストが作れれば、あまりセリフをつけなくても、「気持ち悪いな」みたいに伝わってくれるんじゃないかって。それがアニメで作れるメリットだと思っています。
――宇宙空(宇宙の背景)にもキーカラーがありますね。
松尾
シーンによって変えています。美術監督の中村豪希さんにグラデーションでブルー系、グリーン系、レッド系と3種類の宇宙を作ってもらったらどれも良かったので、最終的にはパープル系入れて4種類にして、シーンによって使い分けて雰囲気を伝えています。連邦側はわりとクールな宇宙が多く、ジオン側は温かい色と、キーになる色を変えていて、戦闘シーンは優位に立っているほうの色にしているので、「今は連邦目線でやってる」みたいなことを感じてもらえればと。
――それを積みかさねていくと、全体で大きな力になるでしょうね。
松尾
……と思ってやっています。この予算と尺でと言われたとき、カットをたくさん作らなくても有効にはたらいてくれるはずです。とは言え、尺があったらもっと話を詰めこんでますけどね(笑)。イベント上映されたディレクターズカット版が最終的に70分弱ですが、もし90分ならもっと間をつくって休むところを入れつつ、人の生活感を増やしたでしょう。
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