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UPDATE:2017.12.25

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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緻密な作品にあこがれたファン時代
――最後に業界に入る前に好きだったアニメや、お仕事にされたきっかけなど、そうしたことをお聞きできればと。
鈴木
子どものころは、みんな観るようなアニメばかりでしたね。少年ジャンプ自体は読んでなかったんですけど、『(Dr.スランプ)アラレちゃん』(81)や『ドラゴンボール』(86)あたりを普通に観てました。オタク的な見方で最初に好きになったのは、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(87)になります。たぶんギリギリ中学生ぐらいで、何十回も劇場にも観に行ったほどでした。その後、深夜放送で録画して繰り返し観ましたね。
――アニメを作品として踏み込んで観たのは、それが最初になりますか?
鈴木
そうですね。並行して普通にテレビアニメも観てましたが、クオリティが高いアニメというとOVAの時代だったので、その後はバンダイビジュアル、エモーションの作品を観てました。ガンダム系のOVAとか。
鈴木
まさにそうです。深夜アニメはもうちょっと後ですか?
――90年代後半になりますね。
鈴木
深夜アニメのころはたぶん大学で、完全にオタクだったんで1週間に放送されるアニメ全部観るチャレンジとかしてました。でも、最初に好きになったのは『オネアミス』です。
――それはどの辺が良かったんですか?
鈴木
ものすごい緻密感です。テレビアニメの世界とはやっぱり全然違うなと。劇場アニメでアニメを観た記憶も、りんたろう監督版の『銀河鉄道999』(79)などだったので。美術や動きの緻密感もそうですし、演技があまりアニメっぽくないのも良かったです。主役も森本レオさんで、周囲も生っぽい演技が多く、「こういうアニメもあるんだ」と。そこから数年で『ふしぎの海のナディア』(90)なので、最初のガイナックス世代になるかもしれないですね。
――庵野秀明監督の『トップをねらえ!』(88)は?
鈴木
トップ』はちょっと遅れて観ましたが、すごかったですね。それで大学生のころに『新世紀エヴァンゲリオン』(95)という流れです。
――それで業界を目指すきっかけは何だったのでしょうか?
鈴木
アニメ業界入りは、あまりはっきり意識してませんでした。誰でもある感じで「漫画家になりたいな」と漠然とは思ってましたが、これをやりたいというのがなく、学校も「芸術系だと何かできるかな」と思って日芸(日本大学芸術学部)受けたら、たまたま通ってしまったんです。アニメ専門大学というわけではないので、普通にビデオ映像やフィルム撮影をやり、並行してずっとアニメは観続けていたので、「アニメで何かできればいいな」とは思い始めました。いまと違ってその時期はあまり情報がなく、絵描き以外のアニメの職業は、全然わからなかったんですよね。
――たしかに専門性の高い情報が出るのは、21世紀からかもしれないですね。
鈴木
制作進行をやると演出やプロデューサーになったりできる、クリエイターなら監督を最終的に目指すものだみたいな、なんとなくの情報しかないんですよ(笑)。「一番上は監督だ」ということなら、映像の監督がどういうことかは学校で分かってたんで、じゃあ監督目指すならまず制作かなと、いろいろな会社を受けました。でもあまり景気も良くなくて、東映(アニメーション)は募集すらしてなかったりして全然通らないんです。それで芦田(豊雄)さんのところに持ち込みしたら、「作画で雇いたいけど席がないから、この阿部って人に電話して」って。それが弊社の社長(阿部倫久)だったんです。「とにかく面接に来てくれたら入れてやる」と言われ、てっきり進行かと思ってたら「君は今日から撮影部だ」と(笑)。
――選択の余地がないんですか(笑)。
鈴木
学校も芸術系ですし、潜り込んじゃえば何とかなるみたいな考えもあったので入社し、撮影から始まりました。うちの会社もちょうどデジタルを始めたところで、「パソコンは少しできます」と言ったら、「じゃあ」みたいな感じです(笑)。だから、フィルムの撮影は経験していません。それにデジタルと言ってもほとんど何もなくて、RETAS(アニメ制作アプリ)も出始めですから、「ソフトとパソコンあるから、勝手にマニュアル読んで勝手に覚えろ」みたいな。人がいないから撮影監督になれたみたいな感じですね。
撮影と演出の深い関係
――そこから演出にはどんな感じで?
鈴木
監督になりたい野望はあったので、フリーランスの監督に勝手に話しかけて「演出の弟子にしてください」と言ったらOKだったんです。それが木村真一郎さんで、どこかの会社に連れてってくれるのかと思ったら、裏でしっかりウチの松倉(友二)と話が通っていて、「社員のまま演出をやりなさい」と(笑)。それも別にイヤじゃなかったので、そのまんま現在に至ります。
――演出として最初に担当された作品は?
鈴木
最初は『まほらば~Heartful days』(05)です(第4話)。木村監督がウチでやった作品の演出から始まり、長井龍雪さんもいっしょにやってました。私自身はフリーランスになったことがないので、普通に演出になる人、監督になった人のルートがイマイチよく知らないんですよ。サラリーマンではありますが、特に作品をやる上で会社から「絶対にこうしろ」みたいに言われるわけでもないから、わりと自由にやらせてもらってはいます。もちろんコスト的なものなどの意識はしますけど。
――傾向として、社員演出は増えるのではないでしょうか。CGとのハイブリッドの配分も増える一方ですし、継続性重視でノウハウ溜めて生産性向上という方向性になる気がしてならないです。
鈴木
フリーランス的な荒っぽさとか無頼的な感じにも憧れはしますけどね。最近の流れだと、演助(演出助手)をやるより撮影をやったほうが分かりやすいかもしれないですね。撮出し(フィルム撮影に出すためのチェック工程で、演出がセルと背景を仮組みして検証していた)がなくなりましたし。
――その話もよく聞きます。アナログ時代は素材をどうやって最終画面にするか、撮出しで押さえていたのが、デジタルでは事実上撮影がその一部をやってるところがありますよね。
鈴木
だとすると、偶然撮影という部署に突っ込まれたのは良かったのかもしれないですね(笑)。ただデジタルになったせいで、演出的にはあまり指示を入れてないのに、勝手に凝って勝手に内容を重くして……みたいなこともあるので、撮影に凝りだして帰れなくなったこともありましたね。それはそれで勉強になりました。今でも「このカットは自分でコンポジットするよ」っていう場合がありますが、劇場やOVAのスケジュールとコストでないと難しいですよね。いまはAfter Effects(映像の加工・合成ソフト)を扱えるアマチュアの方もいっぱいいますし、コストを度外視すればすごいのは誰でも作れるんです。でも、それを時間内で8割ぐらいのクオリティまでもっていくのが、撮影のプロだと思うんです。だから本当に「このカットだけは」と思うところ以外は、テレビだと手を出しづらいです。
撮影出身としてこだわった作品
鈴木
そういえば大事なものが抜けてると思って……。『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(15)という作品なんですが。
――失礼しました。見放題ではなかったので優先度を落としましたが、配信はしているので、コメントがあればぜひお願いします。
鈴木
あのときは比較的時間があったので、自分でAfter Effectsを直接いじってるんです。確実に良くはなるんですよ。ただ、これをやればやるほど時間、お金、体力、すべてが削られていくということも、身をもって体験しました(笑)。自分で1日20カット、30カット、撮影やり直して……と始めると、自己満足的にものすごい充足感が生まれるんです。だけど困ったことに、本当はやるはずだった絵コンテとかは進まないわけです。結果、目に見えないマネーが消えてくという、ちょっと難しい部分がありますね。
――撮影監督出身として、特に密着した作品だったということですね。
鈴木
そんなに難しくないので、いまは撮影出身でなくても誰でもできると思うんです。作画の方でも、ひと通り自分で組んでくる方もいますからね。
――タブレット作画が普及することで、その辺の分担やプロセスが変わるかもしれないと言われてますね。
鈴木
自分も昔のQAR(クイック・アクション・レコーダー)みたいな作画チェッカーの代わりにスマホやタブレットのコマ撮りアプリを使ってますからね。その辺はバランスで、あくまでテレビアニメでやれる範囲になるでしょうね。
――劇場をやる予定はないんですか?
鈴木
いまのところ監修的なことだけで、ガッツリはないですね。もしやるとしたら、ハーフHDくらいでいいかな。ピン(ト)を厳しく合わせない優しい感じの画面で(笑)。
――(笑)。いま緻密になる一方なので、お気持ちはよく分かります。今後の展望があれば、それで締めくくりにしたいと思います。
鈴木
1年間で3本やらせていただいたのは、いい経験になりましたね。それぞれ課題もあって、うまく反映しきれなかったところもあり……1年に3本やるということが一生にそうあるとも思えないですし。
――全体見渡しても、そうそうないですよ。
鈴木
1年に多くて2本でしょうね。そうした体験を、ぜひ次に活かしていけたらと思います。スケジュールのしんどさを思い出にしながら(笑)。
――ありがとうございました。


PROFILE
鈴木洋平(すずき・ようへい)
神奈川県出身。J.C.STAFF所属のアニメーション演出家。日本大学芸術学部を卒業後、同社へ入社。撮影としてキャリアをスタートし、『魔法戦士リウイ』(01)、『ちっちゃな雪使いシュガー』(01)、『一騎当千』(03)などで撮影監督を担当。『まほらば~Heartful days』(05)から演出に転向し、『のだめカンタービレ』(08)や『とらドラ!』(08)など数々の作品の演出を担当する。2013年、『変態王子と笑わない猫。』で監督デビュー。TVシリーズの監督作は『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(15)、『うらら迷路帖』(17)、『ソード・オラトリア ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝』(17)、『UQ HOLDER! ~魔法先生ネギま!2~』(17)。他に文化庁若手アニメーター等育成事業(アニメミライ2015)の短編映画『アキの奏で』を監督している。


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