クリエイターズ・セレクション

UPDATE:2015.7.27

業界著名人がアニメ作品をオススメ!

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「山の向こう側」を発見した『マクロス』
――作品をつくるとき、当初の到着点を決めないで進めるということですか?
河森
「あの山の頂上に行こう」ではなく、「あの山の向こうへ行こう」というつくり方です。「向こう側に何が見えるか分からないから、それを発見しに行こう」というのが、自分の好きなつくり方ですね。
――そうしたときに、必ず見つかるものなのでしょうか?
河森
最初に見つけてセンスオブワンダーを実感できたのが、『超時空要塞マクロス』の「歌で戦闘解決」なんです。あれをつくっている最中に見つけた快感が忘れられなくて、ずっとつくり続けている感じもしますね。ストーリープランを自分で描いていたので(黒河影次名義)、どうしても「これって何かのSF小説でやってたな」とか「これだと『スター・ウォーズ』になる」「これだと『ガンダム』」みたいな感じで行き詰まってしまった。結局、兵器で戦って勝ってる限り何も変わらないということです。その時点で「文化を知らないゼントラーディがミンメイの歌にショックを受ける」というところまでできていたので、「そうか、歌で終わらせられるぞ!」とひらめいた。ところが「そんなので戦争終わるわけない」と、ものすごく反対されて(笑)。それで「全責任もつから、コンテからすべてやらせて欲しい」と言ってつくったのが「愛は流れる」(第27話)なんです。あれは最終回の予定でしたから。
――1回縮めた後、また続いたんですよね。
河森
ええ。ですからその後(3クール目)はガラッと変えて日常ものっぽくしました。そのとき、もう劇場版も決まっていましたし。
――でも、1983年3月に「愛は流れる」を放送しているのに、翌年の夏には劇場版公開ですから、今からすると超スピードですよ。
河森
実制作は半年かかってないですから、考えられないですよね。若かったということです(笑)。23歳でスタートして、やってる最中に24になったぐらいで、ものすごくありがたいチャンスでした。やはり「完全新作やっていい」と言われたのが大きくて、設定からキャラデザインすべて変えましたし、「愛は流れる」でこれだけ描けるなら、劇場の大画面だともっとやらないと、もたないなと。
――あの絵の緻密さは革新的でしたが、アニメーターも河森さんと近い世代の若手が多かったはずですよね。
河森
だいたい同じかちょっと下ぐらい。板野(一郎)さんがひとつ上で、庵野さんも同い歳の学年違いで、美樹本(晴彦)くんは同級生ですし。とにかく「愛は流れる」の時が、人生でいちばん睡眠削ったときで、最後追い込みの1週間は全部で3時間くらいでした(笑)。「1日でよくこんなに描けたな」と思ったら、1日じゃなく1睡眠の間だったとか(笑)。
――原画も描かれたし、セルにまで手を入れられていました。
河森
塗り上がったセルを観て、「足りないものを描けばいい」とレタッチしてました。若くて恐いもの知らずだったので、周囲には多大なご迷惑をおかけしたかと。でも、板野さん、美樹本をはじめ、みんなよく描いてますよね。業界全体が熱かったんですね。無謀な若者が、やっちゃいけないことばかりやってた。石黒昇さん(『超時空要塞マクロス』監督)も「何でも好きにやっていいよ」と野放しにしてくださって。
――先ほどからおっしゃってる「まだやられてないことをやろう」みたいな気持ちも、そうした雰囲気の中から出てきたものでしょうか。
河森
ええ。特にTVシリーズではその意識が強かったので、富野(由悠季)さんや出崎(統)さんが使った目立つ技法は基本禁止みたいな(笑)。でも禁止にしてみたら、効率的だから使われていたんだということが身にしみて分かりました。ただ、禁じ手にして試行錯誤した結果、大変にはなったんですが、失敗を通じてかなりノウハウが分かりました。さすがに劇場版は勢いだけで突っ走れないだろうと思ってハードルを下げましたし、TVシリーズでつかんだノウハウを凝縮しています。
――あれだけの描き込みは、どこから出た発想ですか?
河森
TVの「愛は流れる」でマクロス艦のセル画があがってきたとき、「これじゃ全然スケール出ないよな」と困ったんですね。「だったらイラストにすればいい」と思って、マジックや絵の具で描き足してレタッチしたんです。スタジオぬえでは加藤直之さんがイラストを描いてるのを見ていましたし。自分でディテールを描きこんで撮影したフィルムを観たら、ものすごく大きく見えて期待以上でした。だったら、劇場ではそれをやろうと。あれって、実はものすごく早く描けるんです。『愛おぼ』のレタッチは7~8割自分でやりましたが、2~3日で終わるくらい効率がいいんです。
――それは、ポイントを押さえているからですか?
河森
小さいのと、あえて適当だからですね(笑)。実制作に入る前に実験してみたんです。映画だからと240フレーム(通常の100フレームの紙に対し、240パーセント大きい)の大判セルに、ディテールを細かくキレイに丁寧に描いて撮影してみたんです。ところが、まったく効果が出ない。フィルムの被写界深度も関係していて、どうやら少しボケるのがいいんだなと分かりました。なので劇場版ではわざと小さいフレームにして、ものすごく細かく描くんですが、線をブラしてまっすぐ引かず、わざとデコボコに描いているんです。それで効果も出るし、早いんですね。
――なるほど、人間の目の認識を意識した効果ですね。
河森
あのディテールを最初から設定でやろうとすると大変ですが、レタッチだとそのカットごとに合わせて表現できますから、効率が全然違うんです。「ここさえ押さえておけば、後はラフでも構わない」と。
――それは、ご自身が演出意図を把握してやっているからこその判断ですね。
河森
今は現場も視聴者も「このカットとこのカットで辻褄が合っていない」なんてよく言いますが、「映像のマジックだからいいじゃない」と思います。実写映画だって、身長を合わせるために箱に乗ったりしますし、宮崎駿監督だってカットごとにわざとメカの形を変えていますよね。デフォルメを許さなくなっている風潮、絵で描いているからこそのメリットを見失い、正解か不正解を問う雰囲気が、先ほどから言っている「神話的な力」を失わせている原因かもしれませんね。
――やはりデジタル、インターネットのダークサイドでしょうか。
河森
マルバツ教育、マークシート方式、十字キーで選択できてしまうことなど、たくさんありますね。便利さとひきかえに、ファジーな良さがどんどん失われている気がします。それも社会的な集団催眠で、そこにものがあっても見えない状態になる危険があります。舞台劇だと、たとえ背景に何もなくても、演技だけでそこに世界を出現させられる、感じさせられるという力がありますよね。自分たちが描きこみをやり始めた世代ではありますが、それで得たもの、失ったものが明らかにあるなと感じます。デジタルキャラクターが、なかなか手描きに敵わないのも似たような理由でしょうね。
――線の強弱とか、CGでは難しいです。
河森
人間の目は不思議なもので、実際の人間に線の強弱があるわけないのに、そこから表情を読みとるんです。人の目もこんなに小さいのに、絵ではあれだけ大きくしないと表現できない。
――脳でいろいろ補正しているということですよね。
河森
その補正が、自分にとってはものすごく興味のある部分です。
――最初におっしゃっていた「認識への興味」でしょうか。
河森
「認識への興味」は本当に強いですね。そこを強調しすぎると、ついてこられない人も出るという(笑)。日本では「同じコンセンサスでつくる」という同調圧力が強いと感じます。そういう意味では自分の作品も、海外の方がけっこう浸透しやすいと思っています。「価値観の違うものがあって当たり前」というのが海外ですから。
準備中の『マクロス△(仮)』
――今は『マクロス△(仮)』を制作中だと思います。何かコメントをいただければと。
河森
歌パートのコンテで、なかなか難儀しているところです。
――『マクロスF』で得られた成果は、活かされていますか?
河森
今までと変えたくはある一方で、そこがなかなか難しいところですね。「歌と戦闘と三角関係」の三要素にせよ、今の時代に合わせて見直したいのですが……。特に少女漫画的に恋愛に特化した作品も増えているので、やりにくい部分も出ています。そういう意味では『AKB0048』は「恋愛禁止」にしたことでメンバーの友情ものにできたからやりやすかったし、個人的にもすごく好きな作品なんです。物語やキャラに集中して、その作品だけに特化したものがつくりたいですね。
――近年の歌もの、ライブものの大流行を見ると、『マクロスF』や『AKB0048』は先頭を走ってきた感じもします。
河森
そもそも最初の『マクロス』の時代だと、歌もの自体がとても珍しかったですからね。それでやってみて分かったことは、歌を描くのって、とにかく大変(笑)。みなさん、よくやっていると思います。ただ自分の場合は、アニメもマンガも小説も実写映画も、今ある媒体の中で「オリジナル」でありたいんです。「アニメでは初」とか「日本初」ということは、やりたくない。たとえば「普通のライブシーンなら、本物のライブ観に行けばいいじゃん」と、思ってしまうんです。他では観られないものにしたい。『マクロス』は歌で戦闘を解決させてみたし、『マクロスF』ではテーマ性のある特殊なライブをつくったりしました。『AKB0048』は、フローティングボードに乗って戦場で歌い続ける点ですね。
――歌のシーンは、演出していて楽しいですか?
河森
もちろん楽しいですが、それは物語を描く中で歌も演出するから楽しいということなんです。そうすると要素が多くなるから、ものすごく難しい。オープニングアニメだったらセリフもないし、物語もドラマもそんなにないから、ミュージック・クリップに近いつくり方ができる。音楽そのものに合わせればいいのですが、物語の中でピッタリ合わせすぎるとSE(効果音)のタイミングとサビのタイミングが重なって、どっちも聞こえなくなったりします。だからわざとズラさないといけない。そして本来は歌が盛り上げるところに、セリフを入れないといけない……。メチャクチャ大変ですが、変形を考えるのと同じようなパズル的面白さもあるんです。
――条件、ハードルが高いほうが燃えるわけですね。
河森
燃えるし、条件のハードルが低いと演出の根拠がなくなることもあるんです。「このタイミングでセリフがなくてもこっちで言わせればいい」と選択肢が増えると、逆に困る。ハードルが上がれば上がるほど、「これしかない1カット」が見つけやすくなる。そういうこともあるので、『マクロス』らしいシーンをやっていきたいですね。
――その辺に期待しています。また進化した新しいものが見られると。
河森
テイストは『マクロスF』にやや近くするにせよ、歌の描き方やメカ戦のつくり方は、時代に合うようにプラスアルファしたいです。現実はどんどん進歩していて、劇場版『マクロスF』の頃までは、プロジェクションマッピングもあまりポピュラーじゃなかったのに、今となっては当たり前になったのが悔しいですね。自分としてはマッピング描写は『マクロスプラス』のころからやっていましたから。ついに現実でやられてしまったかと。
――時代を先取りしていた感じです。現実の開発者にヒントを与えたりしている可能性も……。
河森
あるかもしれません。『マクロスプラス』のときにCG制作班と話し合ったときには、「(立体モデル用の)三面図が欲しい」と言われましたから。当時、マッピング技術自体は知らなかったんですが、「理屈上、立体物の上に平面絵を重ねれば、絶対うまくいくはずだから、投影してほしい」と言ったんです。それを応用して最後のシャロンのライブシーンや、街に映像を映すシーンをつくりました。
――シャロン・アップルのライブ自体も、今や初音ミクで現実化しています。
河森
バーチャルアイドルも、こんなに早くとは思ってなかったです(笑)。当時も「電子的な存在に、みんなが熱狂するなんてありえない」と言われましたが、実際に絵を観てもらったら納得してもらえました。それにしてもこんなに早く現実化するとは驚きですね。
――新作『マクロス△(仮)』では、また先を行くものが見られることを、楽しみにしています。ありがとうございました。


PROFILE
河森正治(かわもり しょうじ)
原作、アニメーション監督、脚本、メカデザイン等を手がけるビジョンクリエーター。若干二十歳でTVアニメーションシリーズ『超時空要塞マクロス』に登場する世界初の完全変形するロボット、“バルキリー”をデザインし、変形ロボットデザインの第一人者となる。演出分野においても才能を開花させ、24歳にして劇場作品『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で監督デビュー。 その他アニメーション作品においては、『創聖のアクエリオン』(2005)、『マクロスF』(2008)、『アクエリオンEVOL』(2012)、『AKB0048』(2012)、『ノブナガ・ザ・フール』(2014)の原作、総監督などを歴任。次回作として、マクロスシリーズの最新作『マクロス⊿(仮)』が控えている。 アニメーション以外でも、「アーマード・コア」(ゲーム)のメカデザインをはじめ、SONYロボットペット「AIBO (アイボ) (ERS-220)」、日産デュアリスのCMメカ「パワード・スーツ デュアリス」等のデザインがある。 近年においては、多次元プロジェクトと称したアクターと声優の芝居を融合させた舞台の演出や、ソニー・コンピュータエンタテインメントのヘッドマウントディスプレイ用デモ映像(360度全方向、リアルタイム体感型映像)の演出を手掛けるなど、ジャンルはアニメだけにとどまらず、常に変化し続け、幅広いクリエイティブな作品を現在も精力的に創り続けている。


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