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<月刊>アニメのツボ

UPDATE:2014.5.25

クリエイターズ・セレクション「監督:佐藤 順一 インタビュー」公開中!

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業界著名人がアニメ作品をオススメ!

冷や汗タラリ、回転して変身する魔法少女、流れ続ける幸せな音楽。業界標準的ツールの多くの創始者で、サトジュンの愛称で知られる佐藤順一監督。その作品歴からアニメ演出の奥深さが語られます。

監督:佐藤 順一 インタビュー

取材・構成:氷川竜介

クリエイター感覚で、アニメのツボを徹底的に刺激!自作にまつわる貴重なエピソードから、
子どもの頃に大好きだったアニメ、プロを目指すきっかけとなった衝撃の作品などなど、
魅力的なガイダンスを聞きだします!
現場のノリが作品に反映していった『カレイドスター』
――次は10周年でBlu-rayも発売の人気作『カレイドスター』(03)です。
佐藤
ゴンゾで『ゲートキーパーズ』(00)のアシスタントプロデューサーだった池田東陽氏に、「またいっしょにやろう」ということで出した企画です。金曜の夕方放送でキッズ向け、ファミリーものとして始まったので、組み立てはかなり東映的です。最初に「主人公はこれをやりたい人です」とはっきり言ってから話が始まるタイプ。スターになるまでの過程で「恋愛あり挫折あり」みたいに考えて進めました。ところがオンエアの反応を見るとどうやら年齢層が高いようなので、そこでお話も思いきり変えることで、次第に濃くなっていったんです。
――「観客に見せることとは」というテーマが非常に面白かったです。
佐藤
それも実は進めるうちに出てきたテーマでして、自分たちの状況とリンクしてしまった結果です。「ショーマンとは! エンターテイナーとは!」というセリフは、切羽つまっている現場で「コンテが上がらないって言ってます!」と聞くと、「なんだって! 客に見せる、楽しんでもらうってことはなっ!」みたいなスイッチが入ってしまい、そのまま切れなくなったってことなんですよ(笑)。みんなでいっしょに徹夜してるうちに、そのスイッチが全員に入ってしまい……。
――まるで日記帳ですね。そんな変化を取りこめることも、オリジナルの良さです。そしてそれが観客に響くところが面白いです。
佐藤
役者さんも演じながら「そうそう、そうなのよ!」なんて言いながらアフレコするものだから、もう全員でどんどん思ってることを吐き出した感じです。しんどかったですが、面白かったですよ。
――魔法ではなく、肉体を使ったところも良かったです。
佐藤
企画時は子ども向けでしたから、「存在は知ってるけど、良く知らないもの」が舞台として良さそうだなと。サーカスって誰でも知ってるのに、現物をあまり見たことがない。今は昔の暗いイメージもなくて華やかでエロティックだったりしますから、題材としていいかなと。構造的にはスポ根(スポーツ根性)もの、つまり未熟だった人が努力することで何かを成し遂げていくようにしたくて、この組み合わせは新しいかなと。
――しかし、サーカスをアニメで描くのは大変だったのでは?
佐藤
まさに大変でした。シルク・ドゥ・ソレイユを取材すると、ありえないようなことばかり次々に演じていて、なまなかなことではアニメは負けてしまうなと。僕が楽しかったのは、パフォーマーのトメのポーズをコンテで描くことですね。絵を描くこと自体は好きなので、次々と変なポーズをたくさん出せて良かったです。直前に『プリンセスチュチュ』(02)をやっていて、バレエを取材して「アラベスクのポーズ」など描いたり、マイムの意味やきれいなポーズを勉強していたことも、大きく影響しています。
『ARIA』のユニークな世界観と物語づくり
――深夜アニメの『ARIA The ANIMATION』(05)も、実に画期的な作品だと思います。
佐藤
これ以後、「癒やし系演出家」と呼ばれるようになってしまいました(笑)。最初に原作読んだときに「『魔法使いTai!』に近いな」と思ったんです。やはり「ウィンディーネになる!」みたいに目的を宣言しています。ゴールが決まっているほうが、お話が寄り道できて自由になれるんです。「おいしいパン屋さんができました」とか「アイドルにスカウトされました」という話でも大丈夫。バラエティに富んだことができるので、これは自分に合っているなと。
――ポジティブなものだけで構成されている点も、合っていたように思います。
佐藤
世界観が独特ですよね。何ら濁りのない清水の中で物語が進んでいく。おそらく読者は「世の中には汚い裏側があるぞ、もっとそこを見たい」という中高校生ではなく、年齢的にもっと上の世代だろうと。そこそこ汚いもの見て疲れたから、「きっとどこかに綺麗な世界があるはずだ」というものを見たい人たち。だったら悪意のない世界を見て感動するだけでなく、感動する自分に少し酔うところまでが楽しみのはずだと。そんな独特の世界観を再現するためにどうするかというとき、一番大事にしたのは音楽でした。とにかく音楽を流し続けるという手法です。
――そこが画期的だったことのひとつでした。
佐藤
普通のアニメーションなら事件が起きたところに音楽を流すわけですが、頭からずっと事件のない部分に流しています。事件が起きたら音楽を切る。そういう作り方です。音楽の発注のときにお願いしたのは、「とにかく泣きたくなるほど幸せな音楽にしてほしい」と(笑)。音楽を聴くだけでスイッチが入るようにする。音楽ふくめて一枚の絵にしたいというのが出発点でした。
――それと深夜帯の時間帯は意識しましたか?
佐藤
寝たとしても残念に思わない、「寝ちゃったよ!」っていうこと含めて満足なアニメにしたいなと。寝ないような努力をしてもムダだと思ったので、「ちくしょう、また最後まで観られなかったな!」って言ってもらいたいなと。
――今日はそれが聞けて嬉しいです。以前勝手に「寝オチOKなアニメ」と語ったことがあったので(笑)。最後まで観た人も、一日の疲れをサッパリと洗い流して「明日もがんばろう!」となれる。「おやすみタイムの意識」も画期的だったと思ってます。
佐藤
それは『あずまんが大王』からつながってきた流れもあるので、受容する側の心の準備が『ARIA』のころにはすっかりできていたということでしょうね。
――その後、「音楽流しっぱなしアニメ」が増えたと思います。
佐藤
ただし、流しっぱなしにするのはかなりハードルが高いはずです。普通にシナリオ書いてコンテを発注すると、優しいシーンの次に3カットほどギャグがはいって、また優しいシーンになったりするので、意外とひとつの音楽で通せないものなんです。
――なるほど。物語の展開の仕方にも、連なっているわけですね。
佐藤
まず決めになるワード、「このチョコって美味しいね」という「ちょっとすてきな事件」を設定するところがスタートなんです。そこまでどうやって持っていくか。そう逆算してお話をつくってると原作者の天野こずえさんに聞いて、確かにそうだなと思ったわけです。それでオリジナル回やドラマCDをこの方法を真似してやってみたら、そう言われたからってできるものじゃないんですね(笑)。「こんな大変なこと、ずっとやってたんだ」ってビックリしました。これもすごく勉強になった作品ですね。
子どもの心を象徴した『ケロロ軍曹』
――やはり『佐藤順一監督スタンダード』みたいなものがあり、アニメ界全体のシリーズディレクター的なお仕事でリードしてきたと感じます。
佐藤
ありがとうございます。誰でも使えるツールや手法しか使っていないですけど。
――長年のファンとしては「詠み人知らず」になってほしくないんですね。
佐藤
自分では、そういうものだと思ってますね。たとえばアニメで雨を表現するのに「セルに傷をつけて置き換える」というのも大発明で、みんなそれでやってましたが、やはり始めた人がいるわけですし。
――そして東映で長期人気作品の第1シリーズを複数手がけてきた監督が、『ケロロ軍曹』(04)という、またも長寿の作品を立ち上げているという点も、実に興味深いんです。
佐藤
ケロロはなんで僕のところに来たのか、事情はよく知らないんですよ(笑)。ガンプラとか詳しいマニア的な作品なのに、「ファミリーアニメにする!」というのが企画意図だと聞いて驚きました。でも、「この原作を、こう料理せよ!」というオーダーが来れば、「承知しました!」ってやるわけです。長寿になったのは『ケロロ』自体のパワーだとは思いますが。
――その「料理」は、どんな風に考えられましたか?
佐藤
たいていの人は原作のパロディを面白がりますが、よく読むとケロロ軍曹自体が子どもの深く共感できるキャラに描かれているんです。1日中遊びたおして美味しいもの食べて、適当な理屈を言ってはまた遊びに行って、「良かった、良かった」って帰ってくる。特に感心したのがお手伝いをしてお小遣いもらうときで、「いくら入っているのかな、少なくてもいいんだいいんだ、働いた証なんだから」って心の保険をかけつつ開ける。これはものすごく子どもの意識を正確にとらえていると思ったんです。「なるほど、ケロロって子どもの心の象徴なんだ。これならイケるぞ」って思いました。
――やはり「子ども向けアニメ」が原点ならではですね。そしてアニメはアニメなりのノリも出てきたと思います。
佐藤
ケロロのときに「みんなが使えるツール」として用意したのは、文字でした。「ゲロゲロゲロ」って擬音が踊ったり、「宇宙」「最強」「伝説」みたいにでっかく出したり。結局、作画に負担をかけずに迫力を出すツールなんですね(笑)。ちょうどアニメ業界もデジタル化が進んだころでしたし。ただし『きんぎょ注意報!』以後のこうしたツールって、実際にやればすぐ分かると思いますが、星や汗を出す絵だけではダメなんです。「ピョッ!」「ポン!」「ペロペロ」みたいな効果音がいっしょに入ることで、テンポ感が出たり子どもがリアクションしたりする。短い音楽含めて音をいっぱい入れるのが重要だと思っています。
――そして各シーズンに最終回があるのも驚きでした。
佐藤
最初は1年の予定でしたから、原作を使いきってしまったんです。「2年目どうするか」というときに時間変更もあったので、「このシーズンは始まって終わり。次のシーズンも始まって終わり」という風にしたわけですね。シーズンごとの最終回は意地でも盛り上げて終わる。このフォーマットはケロロ的にしっくりハマって美味かったですね。
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