業界著名人がアニメ作品をオススメ!
冷や汗タラリ、回転して変身する魔法少女、流れ続ける幸せな音楽。業界標準的ツールの多くの創始者で、サトジュンの愛称で知られる佐藤順一監督。その作品歴からアニメ演出の奥深さが語られます。
監督:佐藤 順一 インタビュー
取材・構成:氷川竜介
クリエイター感覚で、アニメのツボを徹底的に刺激!自作にまつわる貴重なエピソードから、
子どもの頃に大好きだったアニメ、プロを目指すきっかけとなった衝撃の作品などなど、
魅力的なガイダンスを聞きだします!
パズルと物語の融合が難しかった『ファイ・ブレイン』
――最近作『ファイ・ブレイン 神のパズル』(11)は、NHK放送でパズルが題材という、やはり新規へのチャレンジですね。オリジナル作品ですが3シーズン続きました。
- 佐藤
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「パズルのアニメをやる」と聞いたときは驚きましたが、そういうハードルの高い頼みごとは断れないので、「やります!」と即答です。難しいものを振られると、断ってはいけない気がするので、いつも引き受けてから考える感じですね。中でもパズルは難しくて、ホントに大変でした。
――それはパズルの映像化に関してでしょうか?
- 佐藤
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むしろお話ですね。アニメと分離してはいけないので、アニメが盛り上がるときにはパズルも盛りあがり、パズルで苦戦して何かを乗りこえ、パズルを解いて解決したときにお話も終わる。そんな基本的なフォーマットにしたいわけです。ところが「迷路を解きます」という場合、「何が起きれば迷路ではピンチなのか?」が問題なんです。行き止まりくらいでは、ピンチでも何でもないですから(笑)。ものすごい困難を主人公ならではのアイデアで切り抜ける。そうしたいのに、行き止まりから戻るくらいじゃ足りないんです(笑)。その組み立てが、毎度毎度大変でした。
――なるほど、物語とのリンクは確かに難しそうですね。
- 佐藤
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パズルデザインの郷内(邦義)さんがお話をつくるのもお好きで、うまくピンチを仕込んでくれたので助かりました。普通の進め方だと、プロットが出て打ち合わせてのシナリオへGO! となりますが、『ファイ・ブレイン』ではプロットのときにパズルのアイデアをもらい、シナリオになった段階でドラマに合うようパズルの方も変えてもらいつつ、パズルとシナリオの変更を平行して進め、それでコンテでなんとか着地できる。そんな感じなので、ものすごく手間がかかったんです。
――お話の開発自体が、まるでパズル解いてるみたいですね(笑)。
- 佐藤
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まさしくそんな感じで(笑)。しかもパズルに興味がない子も見るわけですから、そのとき「つまんない」って思われないようにしなければならない。それでキャラクターを濃くしたり、ドラマも熱め熱めにつくっているんです。シリーズ構成も最初とはまるで違う方向へ行ってしまい、1期目ではカイトの両親の設定が大きく変わりました。それはオリジナルならではの良さなんですが、同時に「どう畳もうか」という苦労も背負い込みます。もちろん後で畳めなくなるような伏線は入れませんが、後で活きて拡がりそうなものは積極的に入れていくようにしたので、終わりなき戦いになっていきましたね。
――他に何か想い出深いことはありますか?
- 佐藤
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井藤ノノハが印象深いキャラになりました。アニメチックなヒロインではなく、軸足はあくまでも普通の女子高生にある。清水香里さんの存在感のある演技も良くて、ちょっとコミカルだけどポイントポイントを押さえるのにすごく動かしやすく、「さて、ここでノノハに何をさせようかな」と考えること自体が楽しくやれました。
新境地をめざす最新作『M3~ソノ黒キ鋼~』
――さて最新作の『M3~ソノ黒キ鋼~』(14)は、本格的なロボットアニメという、またしてもハードルの高い挑戦です。
- 佐藤
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高いですね(笑)。ロボットアニメは絵コンテでお手伝いしたこともありましたが、基本はメカシーンのないところの担当でしたから。
――甚目喜一名義で絵コンテに参加したロボットアニメの代表作には、『機動戦士Zガンダム』(85)や『新世紀エヴァンゲリオン』(95)があります。
- 佐藤
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エヴァは男の子が家出して帰ってくるだけの話ですし、基本的にメカがあまり出ない回ばかりです。自分でもあえて「メカは苦手です」と言ってきました。ところが今度は思いきりロボットアニメで、やはりいろいろなものに挑戦した方がいいかなと。『ARIA』から『たまゆら』に至る流れの「事件のない中で感動に持っていく」というお話づくりは難しく、ストレスがあるんです。もちろんやってるときは面白いんですが、心が疲れてくる。なのでドロッとした感情が動いたり、大きな事件のあるお話を思いっきりやってみたいなということです。
――しかもダークな方向性だったので、陽性の印象のある佐藤順一監督作品としては意外でした。
- 佐藤
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ロボットよりも、むしろ主人公たちの恨みつらみ、因縁とか、裏切りとか怨念とか、そういうことが重要な作品になりましたね。シリーズ構成の岡田(麿里)さんから、出せる限りの黒いものを出してもらおうと努力しています(笑)。音楽は、のこぎり奏者のサキタハヂメさんにお願いしていますが、これも「とにかく絶望的な音楽にしてください」という依頼で……。
――なるほど、つまり『ARIA』の反転というわけですね(笑)。
- 佐藤
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まさにあの世界になかったものを全部入れるという感じで、裏返しです(笑)。登場人物は今度も素直で正直ではあるんですが、方向が違うんですよ。「その殺意はまっすぐ過ぎるから、ちょっとは隠せよ!」みたいに(笑)。そんなやんちゃなキャラクターは岡田さんに自由に造形してもらい、心情を一度描いたらそのふたつ裏側まで描いてくれとか、ストーリーも「あっ、そっちに行くのか」という方へ向かうようにとか、そういうオーダーの仕方をしています。「えっ、主人公なのにそんな風な気持ちになっちゃうんだ」とか、一筋縄でいかない不思議な面白さがあるんですよ。ジェットコースター的な物語ではなく、むしろ落とし穴がいっぱいある。そんな作品ですね。
――特に心理的な起伏が重要な感じですね。
- 佐藤
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何話か前の絵コンテチェックをしているときに、改めてシナリオの意図が見えたりするんです。「あっ、このときこのキャラ、もうここまで考えていたんだ。リンクしたリンクした」って満足したりする。キャラクターの心情やドラマづくりに興味ある人なら、かなり面白いと思います。それとホラー的な演出も、あまりやる機会がなかったので。
――PVは、よく見えなくて真っ黒でした。
- 佐藤
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夜のシーンに黒いロボットが立ってて、何だか分からないくらい暗い(笑)。とにかく普通とは違うところに行きたくて、みなさんにもいつもやってないものを出してもらっています。河森さんには「ロボットものにカワイイのって求められないんだよね」と言われたので、変形途中で卵形になるとか、むしろそういうものを入れてもらいました。結果的に今期はロボットアニメが多かったので、普通にしなくて良かったなと。
――食い合ってしまうのは、良くないですね。
- 佐藤
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メディアが成長していくとノウハウが生まれてきて、「うまく行くのはこれだ」という型が生まれていくものなんです。淘汰されて整理されていった結果、同じものが多くなる。でも、そこじゃない新しいものにも興味をもってもらえればと。
――これもまた、ひとつの深夜のあり方として興味深いです。
- 佐藤
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今回はみんながセーブしてきたものを全部出してもらい、行けるところまで行きます。「いい加減にしろ!」と世の中に怒られるまでやる(笑)。アフレコも全員先が分からない状態で演じていますから、みんな自分がいつ死ぬか、気にしています。「主人公だからと言って例外はないぞ」みたいな(笑)。どこに着地するか、今時点で僕自身も分かっていませんし。
――当面のみどころは、8人の群像劇でしょうか。
- 佐藤
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スタートは確かに8人ですが、人数は絞りこまれていきます。しかも死ぬとは限らない(笑)。シナリオでキャラクターがはっきり色分けされていてアニメ的な演出の仕掛けはしていないので、その点はリアルに感じられるはずです。行動は突飛かもしれませんが、「確かにこういうときって、こうだよね」と感情移入してもらえれば。
――ロボットバトル的には、いかがでしょうか。
- 佐藤
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ベーシックな妖怪退治ですね。出てくるものが怨念を背負っていたりしますが、怪談ではありません。車輪で走り空は飛ばず、基本は地上から離れない戦闘です。ロボットシーンの演出は自分だと弱い気がしたので、副監督の安田賢司さんに見てもらっています。3DCGをこれだけ大量に使うのも初めてで、その都度聞きながら進めています。
――最後に今後注目のポイントなどありましたら。
- 佐藤
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やはりキャラクターの動向ですね。そこに注目して入っていただければ、キャラを軸にいろんな事件が起きますので。アニメーション業界自体でできること、できないことも分かってきたので、いろいろ変わったことができればいいかなと。スキあらば新しく面白いことをやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
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